COLUMN2018.08.25

送り火と大文字の法要 -瓜生山歳時記 #24 

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  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 京都市の東山にある如意ケ岳の山腹に、8月16日に焚かれる送り火が「大文字」で、松の割木を井桁に組んで大の字を作り、20時に一斉に点火され、忽然と大の字が浮かぶ。大文字の形になったのは寛永年間だという。如意ケ岳の「大文字」に続いて松ケ崎の「妙法」、西賀茂の「船形」、衣笠大北山の「左大文字」、奥嵯峨の「鳥居形」が次つぎと点火される。これらが五山の送り火である。

 東山は数億年前には海底にあって堆積した地層が隆起した山である。かつてマグマが貫入して両側の岩盤を焼いた。そこだけが硬くなって浸食されにくく、高いまま残っている。それが比叡山と大文字のある如意ケ岳である。貫入した部分は花崗岩となって浸食が進み、低くなって峠ができた。その麓に北白川扇状地が発達した。扇状地の尾根から峠を越えて、都から近江へ向かう志賀越道ができた。志賀越道が今出川通りを切るあたりに花折断層が通っている。そこには子安観世音が祀られている。その道を歩いて白川女が花を運んだ。かつては志賀越道の街道筋に農家が並び、農家と北白川山の間の丘陵地帯に花畑が広がっていた。

 第四紀後期の活断層運動で隆起と沈降が起こって、浸食による土砂が沈降した京都盆地の堆積層を厚く発達させた。盆地には豊かな地下水が蓄えられ、都が生まれ都市が発達した。

 

燃えさかり筆太となる大文字    山口誓子

 

 京都造形芸術大学では、瓜生山の能舞台近くから大文字を間近に見ることができて壮観である。その日、大学では近隣の有縁無縁の霊を送る法要が執り行われる。

 京都地名研究会編集『京都の地名 検証 風土・歴史・文化をよむ』(2005年、勉誠出版株式会社)の吉田金彦による「はしがき」によると、北白川の地名は、縄文早期の竪穴住居址が発見されて白川に縄文人が住んでいたことがわかったので、「白」は縄文語の中にあるsirという縄張りを表し、瓜生山はurという丘を意味しているのではないかという。

 大文字法要で送られる無縁の霊にはこの地域に住んでいた先史時代の人たちも含まれるのかもしれない。

 

大文字朱杯にうつし飲みほせり     和夫

 

8月16日に行われた法要の様子

多くの関係者及び教職員が法要に参加

[文:尾池和夫・写真:高橋保世]

※五山の送り火当日の、一般の方の大学への立ち入りは制限されております。ご了承ください。

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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