COLUMN2017.08.16

京都文芸教育

原爆忌と芸術平和学 -瓜生山歳時記#12

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  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 原爆忌の傍題に原爆の日、広島忌、長崎忌がある。1945(昭和20)年8月6日、世界で初めて市街地の市民に向けて原子爆弾が投下された。最初の4か月間で13万人以上の人命が失われたと言われる。さらに8月9日、長崎の街の市民に向けて原子爆弾が投下され、6~7万人の人命が失われた。これら両日を原爆忌という。立秋が8月7日ごろだから、広島忌は夏の季語、長崎忌は秋の季語として詠む。広島忌には、広島市の平和記念公園で平和祈念式典が行われ、長崎忌には、長崎市を中心に全国的に平和祈願、核廃絶の呼びかけが行われる。
 原爆投下後72年の8月6日、平和祈念式典で松井一實広島市長が、7月に国連で採択された核兵器禁止条約に触れ、各国政府は「核兵器のない世界」に向けた取り組みをさらに前進させなければと述べた。日本はこの条約に不参加で、首相はこの日、この条約には触れなかった。

 

広島忌振るべき塩を探しをり  櫂 未知子
首上げて水光天に長崎忌  五島 高資

 

 東北芸術工科大学の建学の理念である「藝術立国」を柱として、芸術と平和、生命の尊さを学びつつ、人間としていかに生きるべきかを自ら考えるという「芸術平和学」が開講されている。この講義を創設した当時の宮島達男副学長は、大勢の人たちが芸術を学んだという誇りを胸に、地域社会のなかで文化と芸術がもつエッセンスを輝かせながら生きていくことができたら、平和で豊かな社会が生まれるだろうと言う。価値観も思想も違う人同士が、町内の盆踊で提灯の灯に集まってきて、一緒になって自然に踊りだすというのが文化と芸術の力であり、それが平和を生み出す原動力になり得ると彼は言う。
 同じ建学の理念を持つ京都造形芸術大学文明哲学研究所の田中勝准教授は、東北芸術工科大学での経験を活かしながら、瓜生山学園でも「芸術平和学」を展開しようとしている。彼は広島の被爆二世で、1973年に設立された日本平和学会の「平和と芸術分科会」の責任者である。平和の価値の創造のために芸術が果たす可能性は計り知れないと彼は言う。

 

草も木も空も大地も原爆忌  和夫

文明哲学研究所内のサークル「藝術平和山塾」メンバー、田中幸乃さん・八尋琴音さん・石山真帆さん。インドネシア芸術大学ジョグジャカルタ校・東北芸術工科大学の学生たちとコラボレーションしたTシャツを制作した(2017年8月14日瓜生山キャンパス能舞台にて撮影)
イラストは平和の象徴である折り鶴がモチーフになっている。描かれている「PEAK」の文字は「PEACE」「EARTH」「ART」「KUAD」の頭文字をとったもの。(2017年8月14日瓜生山キャンパス能舞台にて撮影)

 

[文:尾池和夫・写真:高橋保世・広報室(メインカット:2017年8月11日文明哲学研究所にて撮影 中央:松沢哲郎文明哲学研究所長・中央右:田中勝准教授)]

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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