COLUMN2017.06.14

京都文芸

梅雨茸と瓜生山の斜面 ―瓜生山歳時記 #10

edited by
  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 梅雨茸は、「つゆだけ」とも「つゆきのこ」とも読み、「つゆきのこ」は「梅雨菌」とも書く。茸は秋の季語だが、梅雨茸は梅雨時の朽木などに生える茸の総称で夏の季語である。
 茸は菌類のうちで比較的大型の子実体を形成するものをいう。また、子実体そのものをいう場合もある。植物とは明確に異なるが、茸は俗称であって明確な定義はない。比較的大型と言っても基準があるわけではないので、肉眼で存在が確認できる程度の大きさのものを茸と呼ぶのだと私は解釈している。
 英語では食用になるmushroomと、食用にならない、とくに毒のあるtoadstoolとを言い分けているが、mushroomが茸全体を指す場合もある。日本には数千種類の茸があり、約3分の1の1800種が命名されており、700種が食用といわれる。よく知られている椎茸と松茸は、英語ではshiitake mushroomとmatsutake mushroomという。林野庁によると、日本の毒茸は200種類ほどあるが、毎年実際に起こっている中毒事件は10種類以内のもので、ツキヨタケ、クサウラベニタケ、カキシメジの3種類がとくに多いという。

  梅雨茸といひて正体定らず  後藤比奈夫

 茸は「木の子」であり、植物やその遺骸を基質としている。動物の糞や死骸を基質とするものや他の茸を基質にするものもある。多くは地上に発生するが、トリュフのように地下にできるのもある。胞子を外に飛ばすためのしくみとして傘のある形態ができたのだろう。
 梅雨時になると瓜生山のあちこちに茸が現れる。毎日歩く道の横に、ある日突然、大きな茸を見つけることもある。学園の斜面に沿って山頂の農場へ行く土の道が続く。そこには大学1年生が授業で隠れ家を作っていたり、こども芸術大学の年中さんたちが蚯蚓を捕まえて、土と木の葉を集めて蚯蚓の家を作っていたり、筍を発見して叫んだり、農機具小屋の中に守宮を見つけたりしている。きっと大きな梅雨茸も見つけてくれることだろうと思う。

  梅雨茸の丈の限りを伸びにけり  和夫

雨後の瓜生山。今年は例年と同じく京都の梅雨入りは6月7日だった

<文:尾池和夫、写真:高橋保世(2017年6月7日 瓜生山にて撮影)>

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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