「紅葉」は代表的な秋の季語であり、晩秋には「紅葉かつ散る」という季語があって、立冬を過ぎて初冬に入ると「散紅葉」あるいは「紅葉散る」という季語が登場する。秋に瓜生山を美しく染めていた紅葉が、冬に入ると散るばかりで、散り敷いた紅葉も掃かずにおいて観察すると、また美しい大地の色となる。
ある日の最低気温が摂氏八度以下になるのが紅葉の色づく必要条件で、五度以下になると一気に紅葉が進む。色の違いは酵素の違いであり、紅色は生産されたアントシアン、黄色はカロテノイド、褐色はタンニンが多いというように異なる。
京都盆地はいくつもの活断層の運動で生まれた。京都盆地の夏は蒸し暑く冬は底冷えするが、その特有の気候が、楓や桜の紅葉の微妙な色合いの変化を美しく生み出してくれるのである。
楓の紅葉はとくに美しい。その楓の名の由来は「蛙手」だというが、手の指の数にあたる葉裂が、単純な場合は1つから、すべて奇数で、私の今までの記録では13まである。イロハモミジやヤマモミジでは5裂から9裂がよく見られる。
日本の楓属の植物は20種以上あると言われており、その中にはヒトツバカエデのような分かれないのもある。葉裂の数と深さにどのような意味があるかは、実のところまだ深くは理解されてはいない。
紅葉散る音立てて散る立てず散る 星野立子
瓜生山のキャンパスには、さまざまな地面がある。コンクリートもあるが、砂利の地面あり土あり石畳あり、さまざまの形の階段ありマンホールありで、それらの上に紅葉の葉が積もっていく。多様性の世界が散紅葉の姿にも見られて飽きることがない。
出勤して最初に、大階段の上の一番道路に近い角にある楓の葉を見ると9枚に別れている。その葉裂を見ながら、これが年によって変化するのか、毎年同じ数なのかというような疑問とともに数枚の散紅葉を拾って学長室に置いて眺める。散紅葉を掃かずに貯めてあるのを見ると風流のこころを感じる。散紅葉が妙に似合う場所というのがあるのだろう。
一橋徳川の地の散紅葉 和夫
[文:尾池和夫・写真:高橋保世(12月9日、瓜生山キャンパスにて撮影)]
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尾池 和夫Kazuo Oike
1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。