COLUMN2017.07.12

染織

紅花の咲く東北芸術工科大学  ―瓜生山歳時記 #11

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  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 紅花は、紅藍花ともまた紅粉花とも書き、末摘花(すゑつむはな)という雅称でも呼ばれる。キク科の1年草または越年草で、6月の終わりごろから7月の初めに紅黄色の頭状花を開く。朝露の乾かない間に花を摘んで紅の原料とする。食用油の原料としても知られている。エジプト原産といわれており、古くから世界各地で栽培されている。纒向(まきむく)遺跡で、弥生時代後期〜古墳時代初めの溝跡から採取した土に、紅花の花粉が大量に含まれていたことから、日本には3世紀には渡来していたと考えられる。
 紅花は今、山形県の県花で、河北町には紅花資料館がある。

みちのくに来てゐる証紅の花  森田 峠

 山形市にある東北芸術工科大学と京都造形芸術大学とは姉妹校で、同じ黒御影石の「藝術立国之碑」が建学の理念を伝える。この大学の美術科テキスタイルコースでは、毎年4月中旬に紅花の種蒔を大学の畑で行う。「すじまき」で種を蒔き、5月下旬から6月頭に「おるぬき」と呼ばれる「間引き」をして花が咲きやすくする。間引いた葉を、天ぷら、お浸し、漬物などにしてパーティーを開催する。七夕の頃、朝から最初の収穫祭で花を摘む。
 山形の紅花が昔から京都の紅の原料に使われてきたのだから、紅花は両大学の連携のシンボルのような花である。花びらに1パーセント含まれる色素で紅が作られる。江戸時代には「紅一匁金一匁」と言われたほど高価なものであり、紅花を摘む農家の娘たちとは無縁であった。摘み取った花弁を発酵させ、紅餅といわれる「染料」として保存、寒い季節になってから紅餅を染液にして「寒中染」することで鮮やかな紅が得られる。古くは中国晋代の『博物誌』に見られる伝統的な技法である。
 東北芸術工科大学の水上能楽堂「伝統館」において、7月15日、詩劇『花はくれない』の公演がある。この詩劇の企画と監修は、紅花の伝統を伝える東北芸術工科大学美術科テキスタイルコースの辻けい教授である。

紅花を摘む早晨の笑顔かな  和夫

 

7月7日、東北芸術工科大学の紅花畑では「紅花収穫祭」が開催された
収穫された紅花はその日のうちに臼ときねでつかれ、一晩寝かせた後に「紅餅」へ姿を変える

<文:尾池和夫、写真:高橋保世(2017年7月7日 東北芸術工科大学にて撮影)>

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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