COLUMN2017.09.12

京都舞台

秋の灯と「日輪の翼」京都公演-瓜生山歳時記#13

edited by
  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 「秋の灯」は三秋の季語で、秋灯(しうとう)、秋ともしの傍題がある。秋の日暮から家々にともる灯の、どことなく懐かしい静かな様子は帰宅の足を急がせ、一方、秋の夜を明るく照らし出す灯は、思索の世界へ、あるいは芸術活動へと人のこころを誘う。夏の高気圧は太平洋から来るので空中の水分が多いが、それと異なり秋は、大陸からの高気圧が移動して来て、空気中の水蒸気の量が少ない。それで空の透明度が高くなり、同じように晴れた空であっても秋は景色がきれいに見える。空のかすんでいる京都盆地でも、秋には星がたくさん見える夜がある。
 秋の灯は人工の明かりのことで、月の明かりなどのような自然光は言わない。「花物語」に始まる半世紀の文学活動で知られる吉屋信子の「秋灯(あきともし)机の上の幾山河」の自筆の句碑が、母校である栃木県立栃木女子高等学校の前庭にある。長い文学活動の象徴として秋灯の季語が詠まれている。夏の夕方は自然光で原稿が書けるが、秋になると夕方から灯をともして執筆したのである。

秋の灯のほつりほつりと京の端  日野草城

 やなぎみわ(京都造形芸術大学美術工芸学科教授)が演出と美術を手がける野外劇、「日輪の翼」京都公演が、2017年09月14日(木)から17日(日)まで、京都市の河原町十条、タイムズ鴨川西ランプ特設会場(野外)で、毎日18時から行われる。
 やなぎみわは、かつて台湾で出会ったステージトレーラーの魅力を、自らデザインした大きなトレーラーに活かして日本列島に持ち込んだ。2014年ヨコハマトリエンナーレ以来、中上健次の傑作『日輪の翼』の野外公演を各地で実施してきた。それがいよいよ京都に来た。俳優、タップダンサー、サーカスパフォーマー、ポールダンサーたちが、巻上公一によるオリジナル曲でギタリストや新内、多彩な出演者たちが、秋の灯に照らし出された京都の街に独創の世界を出現させる。この公演は、東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」の出展作品と位置づけられている。韓国からの演奏家たちも参加し、中上健次が愛したという朝鮮半島のナムサダンのリズムを響かせる。

洛中の座標系なり秋ともし      和夫

東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」の会場のひとつである二条城(京都市中京区)

[文:尾池和夫・写真:高橋保世・やなぎプロジェクト(メインカット:2017年9月に城崎国際アートセンターにて撮影 稽古風景]

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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