COLUMN2018.05.23

京都文芸

瓜生山の蝸牛と陸の貝たち -瓜生山歳時記 #21

edited by
  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 図鑑で見るとわかるように、陸の貝にはずいぶんたくさんの種類がある。貝は軟体動物の典型である。烏賊や蛸や海牛は軟体動物の仲間で、貝殻を脱ぎ捨ててしまった生き物と考えることができる。

 瓜生山にもたくさんの貝類がいる。蝸牛は「マイマイ」という腹足類で、巻貝や海牛の仲間である。殻は5から6層の螺旋形で、一部の例外はあるがほとんどが右巻きである。蝸牛には目があり、長い方の触角の先端に付いている。視力はほとんどなくて、明暗を判断する程度の能力だという。他の貝類と決定的にちがう特徴があり、軟体動物の多くが鰓で呼吸するのに対して、蝸牛は陸で進化したために肺で呼吸している。でんでんむしむし蝸牛というが、「でんでんむし」は京都地方の方言なのだと聞いた。

 陸貝は卵生であり、基本的に雌雄同体で、複数飼育すると卵を産んで繁殖する。雑食で野菜くずも食べる。種類によって環境に依存するものがあり、標高や岩層、湿った苔などの環境を求めるものがいる。

いまの世にあはぬ男や蝸牛     田中裕明

 煙管貝は、キセルガイ科の陸産巻貝の総称で、日本100種以上いる。日本産の殻はすべて左巻きである。紡錘形で殻口は卵形で横向いており、煙管にそっくりである。オオタギセルガイは、日本最大種で高さ4.7cmに達するという。多くは褐色で殻口と殻内が白、上板、下板、下軸板などのひだがあり、口内にスプーン形の閉弁があって、体を殻内に退縮するとき蓋になる。

 食用の陸貝に「エスカルゴ」がある。リンゴマイマイの仲間の陸貝である。リンゴマイマイなどは繁殖力が低く、絶滅危惧種となっている。食用カタツムリは今、ほとんどが飼料を与えて養殖したものである。野生のものを食べるときには、数日間絶食させて消化管に残っている物を排泄させる処理が重要である。三重県松阪市の株式会社三重エスカルゴ開発研究所では、世界的にも珍しいエスカルゴの大規模な養殖を行っている。エスカルゴブルギニョンを、2時間じっくり煮込んだ料理をワインで愉しむこともできる。

葉がくれにまだ粒ほどの蝸牛     和夫

 

三重エスカルゴ開発研究所の運営する「エスカルゴ牧場」にはレストランを備える
約40年をかけてエスカルゴの養殖に取り組む高瀬俊英さん
リンゴマイマイの原産地であるフランスの森を再現した養殖場
エスカルゴの飼料を入れる食器は清潔に洗われ天日干しされる
リンゴマイマイ(ブルゴーニュ種)の養殖に成功したのは世界で初めて
伝統的なフランス料理「エスカルゴブルギニョン」に使われるソースも高瀬さんのお手製

[文:尾池和夫・写真:高橋保世(メインカット:2018年5月23日瓜生山キャンパスにて撮影/本文カット2018年5月22日三重エスカルゴ開発研究所にて撮影)・撮影協力:高瀬俊英(三重エスカルゴ開発研究所)]

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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