寒中に製造する紅の品質は高い。薬用にもなる。初夏に摘んだ紅花から紅花餅を作って保存する。それを寒中に取り出して紅を作り、あるいは紅花染めを行う。山形の特産品であり、京都に送られる。江戸後期から明治にかけて、寒中の丑の日に売り出される紅が最高級品であると言われ、丑紅の名が付いた。
この紅花のことをしっかりと学生たちに伝えてもらうために、東北芸術工科大学美術科テキスタイルコースの辻けい先生に京都へ来ていただき、京都造形芸術大学の「自然と芸術」の講義の中で詳しく話していただいた。辻先生は、東北芸術工科大学の水上能楽堂「伝統館」において、詩劇『花はくれない』の公演を行った。この詩劇の企画と監修を続けておられるが、これを京都でも上演する機会ができるといいなと、講義の後で話した。
寒紅や鏡の中に火の如し 野見山朱鳥
2017年7月に紹介したように、山形市にある東北芸術工科大学と京都造形芸術大学とは姉妹校である。この大学の美術科テキスタイルコースでは、毎年4月中旬に紅花の種蒔を大学の畑で行う。種を蒔いて5月下旬から6月頭に「間引き」をする。間引いた葉でパーティーを開催するという。七夕の頃、朝から最初の収穫祭で花を摘む。摘み取った花を発酵させ、紅花餅として保存して、寒中に染液にして「寒中染」をする。
いよいよその寒中染の季節が来て、高橋保世さんが準備万端、撮影に出かけた。その写真から寒中染を体験してほしいと思う。この日の行事は、まず修験道の場で知られる出羽三山に祈りを捧げる場面から始まり、たくさんの学生が参加した。地元の市民も、それを見学したり、経験豊かな方が学生たちにアドバイスしたりという1日であった。
また、紅花にまつわるさまざまな視点から議論するシンポジウムも開催され、京都からは吉岡幸雄さんが参加した。京都で江戸時代から続く染屋「染司よしおか」の五代目当主である。
東洋古来の植物染めの美しい仕上がりを雪の上に広げながら、寒中の参加者の熱気が伝わる写真をじっくりとご覧いただきたい。
寒中染の手を月山へ合はせたる 和夫
[文:尾池和夫・写真:高橋保世(1月13日、東北芸術工科大学にて撮影)]
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尾池 和夫Kazuo Oike
1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。