REPORT2025.07.25

京都教育

京都で紡ぐ国際交流、日本語でつながる世界 ― 京都文化日本語学校の発表会

edited by
  • 上村 裕香

7月15日(火)、京都文化日本語学校の学びの集大成となる演習授業である「 発表会」が京都芸術大学 顕心館、京都芸術劇場 春秋座で開催されました。

この発表会は京都文化日本語学校が年2回実施しているイベントです。

「日本を知る、世界を知る」をテーマに、留学生から見た日本や世界について感じたことや考えたことを日本語で発表します。

京都文化日本語学校には初級、中級、上級レベルがあり、留学生は日本語能力に見合ったレベルのクラスで学んでいます。今回の発表会でもレベルごとに選抜された学生が、多岐にわたる内容の発表を行いました。

 

春秋座でのプレゼンテーション発表 ― 留学生ならではのユニークな発想の発表

春秋座でのプレゼンテーションでは、初級から上級までの学生9名が、自国の文化や京都で訪れたことのある場所についての紹介、日本の文化や慣習についての発表を行いました。
「どうして日本人はお茶をよく飲むのか」「京都発見・京都の有名な怖い場所」など、留学生ならではの視点で日本や京都を観察したり、タイの食材が買える学校周辺の店を紹介したり、学生の出身であるカザフスタンについて語ったりと、みなさん興味深いテーマに取り組んでいました。

発表者だけでなく、司会もそれぞれのレベルに所属する学生が務めました。

ジョークを交えたユーモアのある進行に、会場も大盛り上がり。観客席の学生たちも、同じクラスの仲間が発表するときには、歓声をあげたり手を振ったりしてエールを送っていました。「発表会」と聞いて想像する淡々とした雰囲気とは違うアットホームな空気に、日本語学校で学ぶみなさんの一体感を感じることができました。

今回、インタビューにも答えてくれた上級2レベルの李采蓁(リ・サイシン)さんの発表テーマは「可愛いとは?」。

李さんは日本のインフルエンサーの動画を視聴する中で「なぜ日本人の中で、可愛いという言葉がよく使われているのか?」という疑問を持ち、可愛いという言葉の語源やその変遷について調べ、10代〜20代の日本人男女が「可愛い」をどう捉えているのかについてのインタビュー結果を発表しました。

李さんはインタビュー結果から「可愛い」について、昔から今までの共通点と相違点をまとめ、「可愛い」とは見た目に関係なく、”元気いっぱいで、いつも笑顔で周りを自然に幸せにする人”なのではないかと話してくれました。細部まで作り込まれたスライドで、観客席の学生たちへの呼びかけもあり、終始活気のある発表でした。

最後に村田晶子校長より閉会のことばが贈られ、発表会は幕を閉じました。

村田校長は「いまは世界各国どこにいてもオンラインで日本語を勉強できる時代ですが、日本の京都で学ぶからこそ、得られるものがあると思います。今日のみなさんの発表を聞いて、調べたことや考えたことを『日本語でみなさんに伝えたい』という思いを感じました。言葉というのは『伝えたい、知りたい』という思いがあるから上手になるのだと思います。毎日、文法や熟語をたくさん勉強していますよね。今後、日本語を学ぶ上で、大事にしてほしいことは、ひとつずつ積み重ねること、そして、いろんなことに興味を持つことです。なにかを伝えたい、知りたいという思いを大切に、日本語を学んでいってください」と学生にエールを送りました。


顕心館での展示発表 ― 京都や日本を「発見」する

午前中に顕心館で行われていた展示発表にも潜入してきました。「青い空」と書かれた習字作品が飾られた教室や、日本語学校で行われるイベント・行事写真をスライドショーで紹介する教室、「京都発見」をテーマに京都で訪れたお気に入りの喫茶店やラーメン店などを紹介するポスター展示が行われている教室など、展示内容は多岐にわたります。

驚いたのが、どの教室も文化祭のような活気があること! 学生たちは積極的に「ぜひ発表を聞いてください」と来場者に話しかけ、展示内容について紹介し、来場者も興味深そうに発表を聞いていました。

中級3レベルでは、「夏休みに行こう!」をテーマに、日本各地のおすすめスポットを観光大使になったつもりで紹介するポスターを作成しました。

写真左から 張さん、SORAPOLさん

長野県の信州そば、松本城、上高知について説明してくれた張 愛伶(チョウ・アイレイ)さんとSORAPOL(ソーラポン)さんは、それぞれ台湾とタイの出身。張さんは、芸術大学の中で日本語を学べること、京都という伝統文化に触れることのできる街で学べることに魅力を感じて、京都文化日本語学校に入学したそうです。SORAPOLさんはタイでゲーム開発の仕事をしている中で、「日本のゲーム開発技術は世界の中でもとても高いレベル」だと感じ、日本へ。現在は、日本で働くことを目指し、日本語を学んでいると話してくれました。

顕心館1階の教室には、学生たちが普段取り組んでいる制作の作品が展示されていました。「二本の弦しか持たない楽器、二胡」の実物・映像作品展示や「一瞬一日、四季一冊 One year in Kyoto.」の写真展示など、日本語学校で学ぶ学生たちの作品に触れ、作者に話を聞くことのできる貴重な機会でした。

二胡の演奏
写真展示を見る学生たち

こちらは京都芸術大学と京都文化日本語学校の学生をつなぐことを目的として創設された「国際交流サークル」の展示です。これまでに開催してきたイベントのポスターをコメントとともに掲示したり、サークルに所属する学生のプロフィールカード、普段の作品を展示したりと、楽しげなサークル活動の様子がうかがえる教室でした。

サークル長の舞台芸術学科演技・演出コース 河口千寛さん

国際交流サークルは昨年度創設され、毎月のランチ会、ハロウィン・クリスマスパーティーなどのイベントを季節ごとに開催し、世界各地から集まった学生同士で楽しく交流しています。いろいろな国の文化を肌で感じたり、国を超えて友達を作ったりといった、国際交流に興味のある学生はぜひ公式SNSをチェックしてみてください!
https://www.instagram.com/kua_kokusai

 

さまざまな立場から発表会を作り上げる

左から ENZOさん、李さん、MADEEさん、何敬謙さん

発表会終了後には、今回の発表会にさまざまな形で携わった4名の学生にお話をうかがいました。

李さんは春秋座でのプレゼンテーション発表を「わたしは日本での生活が2年目で、カジュアルな言い方に慣れてきたので、全体発表で敬語を使って丁寧な言い方で発表することが難しかったです」と振り返りました。普段、クラスメイトと話すときにはカジュアルな言葉で会話をする一方で、発表や面接の場ではフォーマルな言葉を使う必要がある、そうした場面の切り替えが難しかったそう。

午後の演習発表で司会を務めたフランス出身のENZO(エンゾ)さんも「敬語で話すと、距離感が遠くなるし、カジュアルすぎると失礼になる、そのバランスを取るのが大変でした」と話してくれました。ENZOさんは先生から渡された進行表を見て、「ここにユーモアを入れていいですか」とユーモアのある寸劇を加えるなど、観客を楽しませるための工夫をして、発表会を盛り上げました。

タイからの留学生であるMADEE(マーディー)さんは今回の「京都文化日本語学校発表会」のポスター作成を担当し、中級3レベルの「夏休みに行こう!〜中級3 都道府県観光大使がおすすめします〜」や、美術進学クラスの「美術作品の展示〜創造の世界に飛び込もう〜」でも作品を展示しました。

MADEEさんがデザインしたポスターがこちら。京都の風景や食べ物が細かく書き込まれた、ポップで目を惹くデザインですね。MADEEさんはポスターのコンセプトについて「日本の、特に京都に住んでいるからこそ感じられる、身近な京都らしさが伝わるように、叡山電車やバスなどを書き込みました。以前ポスターデザインをしたときのフィードバックを活かして、真ん中の人物を女性か男性か特定しないキャラクターにして、しぐさで『もっと知りたい』という気持ちを表現しました」と説明します。

MADEEさんの制作したポスター

台湾出身の何敬謙(カ・ケイケン)さんは、生活している街や旅先で撮った写真作品「目で見て、心で撮る」を展示しました。

何さんは写真の風景に自分の想いや被写体の感情、感動を載せることにこだわって作品を制作しているそうです。来場者と発表を通じて会話する中で、「『どこの風景ですか?』『どんなカメラを使っていますか?』と写真を学ぶ学生に声をかけられ、自分とは違った色の使い方や撮り方について、学生と話すことができました」と、新たな発見があったことを話してくれました。


京都で日本語を学ぶからこそ得られるもの

インタビューした4名の学生は、出身も京都文化日本語学校に入学した理由もさまざまです。子どもの頃から日本のアニメや漫画に興味があり、日本で就職したいと入学した学生も、日本の芸術大学に入学したいと思い、日本語学校内の美術進学クラスに所属して日本語と美術の勉強をする学生も、みんな口を揃えて言うのは「日本の伝統的な文化が土地に根付いている、京都で学ぶことの素晴らしさ」についてでした。

京都文化日本語学校では、日本文化に触れる日として「文化デー」というイベントを学期ごとに開催しています。茶道、華道、清水焼、友禅染、和太鼓などを実際に体験し、日本の文化と日本語への興味を深めることができるイベントです。
何さんは文化デーで茶道を体験しました。「茶室はすごく静かでした。自分でやってみると作法などが難しかったけど、楽しかったです」と感想を話します。茶室は京都芸術大学のキャンパス(千秋堂)内にある茶室「颯々庵」を利用し、日本語学校と大学の教員が茶道についてのレクチャーを行いました。大学内にある学校だからこそ、大学に設置された劇場やギャラリーで日本の文化に日常的に触れ、大学生の様なキャンパスライフを送ることができるのも、京都文化日本語学校の魅力のひとつです。

また、MADEEさんが履修している「美術進学」の授業では、美術系大学の受験に必要な知識と技術を習得することができます。

MADEEさんは「デッサンや色づかい、立体構成などを学べます。コミュニケーション入試で自己PRとして使える作品をつくったり、入試のときの面接でプレゼンする練習をしたりします。わたしは制作した作品を学科の先生方や学生と合評する時間がとてもためになりました。学生同士で作品を見て、『自分はここが足りないな』と考えたり、自分の作品について日本語で説明したりするので、描く力と話す力がどちらも鍛えられました」と前期の授業を振り返りました。

最後に、京都文化日本語学校に入学してよかったこと、学びになったことを聞いてみました。

李さんは現在、日本の企業への就職を目指して活動しています。「接客とか営業とか、人とコミュニケーションを取る仕事がしたいです。京都文化日本語学校は、ほかの学校に通ったことのある学生から『ここは宿題が多くて大変』と言われることもありますが、わたしは逆にそれがすごくいいと思います。授業ではさまざまな国や地域の学生と国際的なテーマや社会問題について日本語でディスカッションをします。台湾、中国、アメリカ、フランスなど、いろいろなバックグラウンドの学生と話せるのはすごく貴重です。日本語で日本の文化を発表するのもほかの学校ではあまりない機会で、とても勉強になりました」と、今回の発表会での経験を今後に活かしたいと話してくれました。

ENZOさんは文化デーで茶道と華道を体験し、「日本の文化や日本人の考え方についてもっと学びたいと思いました。華道は一見簡単そうに見えるけど、実際にやってみるとルールもたくさんあるし、動作も難しい。京都のお寺の庭などもそうですよね。見た目はシンプルだけど、奥が深い。この京都文化日本語学校で学んで、日本語だけでなく、日本のマナーや文化についても学ぶことができました」と京都という土地で日本語を学んだからこその気づきを述べました。

今回の記事では、京都文化日本語学校の発表会に潜入し、4名の学生にお話をうかがいました。学生たちの発表を聞いていると、この発表会が単なる日本語学習の成果発表を超えて、異文化理解と国際交流の場として機能していることが印象的でした。京都という歴史ある街で、世界中の友達と一緒に学ぶ、特別な時間を過ごすみなさんは学ぶ喜びに満ち溢れているように感じました。京都文化日本語学校に興味を持った方は、ぜひ京都文化日本語学校のホームページも覗いてみてください!
https://www.kicl.ac.jp/jp/

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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