INTERVIEW2025.07.22

文芸教育

芸大生がつくる商業文芸誌「301」第5号が完成! — 「文芸誌って意外とやわらかい」を届けたい

edited by
  • 上村 裕香

文芸誌「301」は、本学の文芸表現学科が2020年に創設した出版レーベル「301文庫」から創刊された、芸大生がつくる商業文芸誌です。東北芸術工科大学の学生が制作している「文芸ラジオ」などと同様に、現役大学生である本学の文芸表現学科の学生と教員で構成された編集部で企画から取材、執筆、編集までを行っています。年一回発刊し、大学内のADストアや京都市内を中心に他都市の書店、オンラインストアで販売しています。

本学には、学科での学びを活かして社会課題の解決に取り組む社会実装科目という授業があり、編集長や副編集長を担う教員の指導のもとで文芸表現学科の学生が文芸誌「301」を編集・制作するのも、この一環です。

このたび発刊された文芸誌「301」第5号の制作を行ったのは、文芸表現学科3年の学生13名。今回は、第5号の編集委員を務めた千葉美沙希さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)、山田紗来さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)、北村美結さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)の3名に、制作の舞台裏を明かしてもらいました!

第5号の見どころ 学生たちが挑んだ特集と企画

第5号の表紙には本学の卒業生でもある写真家の片山達貴さんの作品を使用しています。表紙デザインを手掛けたのは、デザイナーの北原和規さん。

千葉さんは「文芸誌って、どこか渋くて落ち着いたイメージがあると思うんです。でも今回は『手に取りやすさ』を第一に考えました。ピンクの色味やQRコードを大きく配置したのも、ぱっと目に留まるようにしたかったからです」と話します。

背表紙のQRコードを読み込むと、PR映像を視聴できるだけでなく、読者アンケートにもアクセスできる仕組みになっているそう。表紙に詰め込まれた遊び心にも、学生たちの文芸誌への想いが伺えますね。ぜひ第5号を手に取って読み込んでみてください!

 

PR映像はこちらからもご覧いただけます。

 

特集「はじめての文芸誌」

 

第5号の大きな特集テーマは「はじめての文芸誌」。編集委員たちの「文芸誌をもっと身近に感じてほしい」という思いが込められた特集です。

「120人に聞きました 文芸誌をどう思ってますか?」というアンケート企画や、編集委員の学生たちが実際に文芸誌を読んでみる「文芸誌ちょっと手に取ってみた。読んでみた。」、出版社で日々文芸誌の制作に携わる文芸誌編集者へのインタビュー企画など、文芸誌を読んでみたくなる企画が盛りだくさん。

山田さんは「わたしたち自身、文芸誌って読んだことがなかったんです。だから『読む人にとっての初めて』であると同時に、『作るわたしたちにとっての初めて』でもある企画にしたいと思いました」と振り返ります。

特集の中でも、特に山田さんがこだわったのが「もしかして、教科書って文芸誌?」という企画。目次にビジュアルがあり、作品のテーマに沿ったイラストがかかれ、小説作品以外にも詩や短歌、コラムが掲載されている……「あれ、もしかして、教科書って文芸誌なんじゃない?」という山田さんの純粋な発見から生まれたのだそう。

小学校から高校までの国語教科書を集めて調査し、教科書で読んだ文学作品について振り返ることで、初めて文学に触れた原点を探っていきます。

山田紗来さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)

企画「阪神淡路大震災から三十年——あの日の神戸を知らない私たちは」

編集委員の千葉さんが手がけたのは、阪神淡路大震災から30年を迎える2025年に合わせて企画した特集「阪神淡路大震災から三十年——あの日の神戸を知らない私たちは」。神戸出身の千葉さんの強い思いから始まった企画です。

千葉美沙希さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)
千葉さんが企画した特集

「正直、最初はこういう企画は通りにくいのかなと思い込んでいたんです。京都の大学なので京都に関連する企画や、もっと文学に関連の強い企画じゃないとダメかなと。でも、『地元のことをやってみたい』って気持ちだけで押し切ったら通って、『文芸誌って、こんなに自由でいいんだ!』と驚きました」と千葉さん。

誌面では、文芸表現学科卒業生の土橋知菜美さんの神戸を舞台にした小説『神戸空白域』を掲載するとともに、小説の舞台となった神戸の土地を実際に訪れ、その様子を写真と一緒に紹介しています。

土橋さんの小説『神戸空白域』は、2021年度文芸表現学科卒業制作において優秀賞を受賞した、2011年の神戸を舞台にした小説です。主人公・茜は発話ができない高校一年生。高校の授業の一環で震災学習へ赴き、語り部の話に対して「大人の求める感想文」を書けるけれど、自身の感情と言葉は噛み合わない。そんな中、3月11日の東日本大震災が発生する——。

小説の魅力を千葉さんは「印象に残っているのが『なにか変わると思うけど、実際にはなにも変わっていない』ということです。なにか大きな出来事が起こるわけではなく、読者に託す終わり方にすることで、余韻を残したまま次の企画に読み進めてもらえるところがいいなと思います」と語ってくれました。

企画「焦がれ、鴨川」「ブランク・スペース」

北村さんが企画した「焦がれ、鴨川」は詩と散文、「ブランク・スペース」はエッセイと小説の寄稿ページです。

 

北村美結さん(クリエイティブ・ライティングコース3年)

詩と散文のページでは、文芸表現学科の出身生でもある現代詩の年間新人賞「ユリイカの新人24」に選出された詩人・山内優花さんの詩や、第一回西脇順三郎賞新人賞を受賞した詩人・今宿未悠さんの作品を掲載。

「ブランク・スペース」の目次には、小説「光のそこで白くねむる」で第61回文藝賞を受賞した待川匙さん、自費出版したエッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』が注目を集めた小原晩さん、小説「ダンス」で第56回新潮新人賞を受賞、同作で第172回芥川賞にノミネートされた竹中優子さんと、文芸誌ウォッチャーなら思わず手に取りたくなってしまう作家名がずらりと並んでいます。

北村さんが企画した特集

寄稿ページは主に北村さんがひとりで依頼、編集、校正を担当。依頼の際には、ひとりひとりの作家に「あなたの作品のこういう部分が好きだから、依頼したいです」とオリジナルの熱いメッセージを添えたといいます。
北村さんは「好きな作家さんに自分の言葉でお願いをして、作家さんの作品を自分が一番に読めるって、信じられない経験でした。メールで企画について説明してやりとりをしていく中で、『いい企画ですね』って褒めてもらえたり、実際にお会いしたいですと言ってくださる作家さんもいたりして、ほぼ『推し』だった作家さんと打ち合わせして、すごくうれしかったです」と振り返ります。

北村さんの推し作品① 白川烈「特別な夏っていうけど、夏はいつでも特別だよ」
北村さん「以前から白川さんがnoteなどのSNSで書かれているエッセイや日記を拝読していて、寄稿をお願いしました。京都に住んでいて、鴨川を見たことがある人ならちょっと共感できることが多いんじゃないかなと思います」

北村さんの推し作品② 竹中優子「700m先」
北村さん「竹中さんの小説も以前から『いいなあ』と思って読んでいました。大学生になって高校生のころよりも自由が増えて空白が多くなった感覚を企画にしたいなと思って、『ブランク・スペース』という企画が生まれたんですが、その感覚がまさに書かれていました。700m先という、1kmでも500mでもない中途半端な長さがすごく刺さっておすすめです」

制作を通して繋がりを深める

 

本年度の編集チームが動き出したのは2024年9月下旬。大学2年後期から3年前期までの1年間を通して行われる授業の中で、文芸表現学科で書籍や雑誌の編集について指導する教員のもと、取材・執筆を行ってきました。

発行元の「文芸表現学科301文庫」がクライアントとなり、編集委員の学生は「商業誌として社会に通用する雑誌をつくってほしい」という要望に応えるため、企画を立案し、12月には企画案をプレゼン。春休みから取材や原稿依頼に取りかかりました。

千葉さんは「大学の図書館にある文芸誌をみんなで読んで、何冊かの文芸誌から小説やコラムを選んで自分でオリジナルの文芸誌を編集してみるようなワークショップもやりました。文芸誌の中に特集企画もあれば、コラムもある、結構カテゴリーがあるよねというので、どのカテゴリーのどういう企画をやりたいか考えるのに役立ちました。ワークショップのあとはみんなで企画を出し合って、特集を決めていきました」と制作の日々を振り返ります。

春休み明けの4月からは台割表(雑誌を制作するとき、どのページにどのような企画や誌面がくるのかなどの構成をまとめた、設計図のようなもの)を制作したり、作家さんに依頼した原稿の校正をしたり。6月中旬の入稿に向けて、文章や誌面のデザインを詰めていきました。原稿がそろって終わりではなく、印刷所への入稿や校正作業、書店への納品、販促活動まで、文芸誌の編集・販売に関わることはすべて学生が行います。

実際の台割表 一部抜粋

制作を通して、山田さんは編集委員の意外な一面に気づく場面が多く、それがとてもうれしかったと話します。「この授業で関わるようになった編集者志望の学生が、実は校閲の検定資格を持っていることを知って『コツコツ努力してたんや!』と驚きました。あまり関わったことがない学生の『普段は大人しいけど文学作品いっぱい知ってる』という一面を知ることもあって、楽しかったです。最初はちょっと遠慮し合ってたけど、だんだんだれかが『これ分からへんねんけど』ってつぶやいたら、自然と編集委員同士で助け合うようになってて。本ができていくと同時に、チームメンバー同士の繋がりも深まっていて、いい体験でした」

文芸誌って意外とやわらかい

そして、実際に製本された雑誌がこちら!

文芸誌301の創刊当時から、毎年ひっそりと完成を見守ってきましたが、やはりこうして手に取るとその厚みに編集委員の学生たちの奮闘を感じてグッときますね。

最後に、これから第5号を手に取る読者の方々に向けて、一言ずつコメントをもらいました。
千葉さん「文芸誌というと『誌』って言葉がつくだけで難しそうに感じちゃうけど、『誌』って言葉を取り除けばそれは『文芸』なんで、文芸は軽いので、もっと気軽に楽しんでほしいと思います。あと、文芸誌はお得だと思います!」

山田さん「目次の次に第5号をどこから読んだらいいかわかるようなフローチャートを用意しているので、気になっている人はまずここをチェックしてみてください。タイプ別でおすすめ企画をレコメンドしてくれます」

タイプ別おすすめ企画案内

北村さん「わたしは図書館でいろいろな文芸誌を読んだときに『あ、文芸誌って意外とやわらかいんや』と思ったのが印象的でした。文芸誌301はより一層、学生主体で作っている文芸誌なので、写真やフローチャートがあって、文章もミチミチしてなくて、『空気が入る』みたいに読みやすいものになっていると思います。文芸誌を手に取ったことがない人にも手に取ってほしいです。あと、QRコードを読み込んでみてください!」

試行錯誤を繰り返して、1年間歩きつづけ完成した文芸誌。大学内のADストア、京都市内を中心に他都市の書店で販売するほか、京都・出町座の1階にあるCAVA BOOKSのオンラインストア(https://cavabooks.thebase.in/items/113107526)でも予約を受け付けています。

ご興味のある方は、ぜひお手に取ってみてください!
 

301文庫「文芸誌301」第5号 (読み:サンマルイチ)

 

版元  :京都芸術大学 文芸表現学科 301文庫
発行人 :山田隆道
編集長 :竹内厚
副編集長:小島知世
編集委員:梅﨑和海、大杉晴輝、北村美結、柴田実優、竹場咲貴、千葉美沙希、十市美羽、牧田光結、正喜大和、水井朱音、宮本雄斗、村田羅来、山田紗来

デザイン:北原和規
印刷  :佐川印刷株式会社

価格  :1,000円(税込)
発行日 :2025年6月30日
判型  :A5判
ページ数:192ページ

「文芸誌301」Instagram:https://www.instagram.com/bungei_301/
「文芸誌301」X(旧Twitter):https://x.com/301bunko/


<販売店舗>
【関西】
〇京都府
・hoka books 京都府京都市下京区小泉町100−6
https://hokabooks.com/

・VOU 京都府京都市下京区筋屋町137
http://voukyoto.com/

・ホホホ座浄土寺店 京都府京都市左京区浄土寺馬場町71
http://hohohoza.com/

・無印良品 山科店 京都府京都市山科区竹鼻竹ノ街道町91 ラクト山科ショッピングセンター
https://shop.muji.com/jp/kyoto-yamasina/


〇大阪府
・Folk old book store 大阪府大阪市中央区平野町1−2−1
https://www.folkbookstore.com/

 

〇兵庫県
・1003 兵庫県神戸市中央区栄町通1丁目1−9 東方産業東方ビル 504号室
https://1003books.stores.jp/about

・本の栞 兵庫県神戸市中央区元町通4丁目6−26 元村ビル 1F北
https://honnosiori.buyshop.jp/

 

【関東】
〇東京都
・twililight 東京都世田谷区太子堂4-28-10鈴木ビル3F・屋上
https://twililight.com/


【四国】
〇香川県
・なタ書 香川県高松市瓦町2丁目9−7
https://natasyo.com/

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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