
15年ほど前に思いがけない出会いから「作詞」を始めることになったが、一昨年から新たに「子どものうた」の歌詞を書く機会をいただいている。
普段はいわゆる「歌詞コンペ」に参加し、すでに曲があるものに対して歌詞をつける「曲先」での作詞機会が中心である。与えられたテーマや楽曲の世界観に自分の言葉を寄り添わせていくことは、何度取り組んでも困難なものだが、自分ではたどり着かなかった場所へと連れていってくれるような面白さがある。一方で、子どものうたの作詞では、先に詞を書く「詞先」の手法で進める。まっさらなところから歌の世界をつくるという点で、創作の醍醐味を味わえているような感覚がある。
「子どものうた」の場合、テーマ設定から始める。私自身、三児の父ということもあり、子どもたちとのかかわりが起点となることが多い。数あるエピソードの中からテーマを選ぶとき、「この瞬間の感情や心象風景を、いつかまた色鮮やかに呼び起こしたい」と思う気持ちの濃さを、一つのよりどころにしている。最近は「かたぐるま」をテーマにした詞を書いた。三人それぞれに肩車をして幼稚園まで通った日々がある。そしてそれはごくごく限られた期間のものである。だからこそ、その感情を歌というかたちで収めておきたいと思った。
それから歌詞としての「詞」を書く。基本的には実体験に基づいた情景やストーリーが存在するので、使いたい言葉も自然といくつか思い浮かぶ。パズルのように組み合わせながら、リズムや響きなども意識して言葉を選んでいく。言葉数を整えたり、韻を踏んだり。ほんの少し表現を変えるだけで、見える景色や湧き上がる感情ががらりと変わる——その瞬間がとても楽しい。
「作詞」というかたちで、日々の暮らしと地続きのところにあるさまざまな瞬間を言葉にしようとする時間。それが、私にとっての芸術時間だ。誰のためでもなく、ただ「この感情や情景を残しておきたい」と願いながら紡ぐこと自体が、かけがえのないひとときなのである。
出典:『雲母』芸術時間 2025年夏号
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