REPORT2025.07.10

教育

収穫祭レポート「つながる学び、ひろがる実践」収穫祭in東京都美術館

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  • 京都芸術大学 広報課

美術館は展覧会を見るところ、だけではありません。年齢も職業も異なる人たちが集い、自分について語り、人の話に耳を傾ける──。そんな「対話」の時間が、東京都美術館で開催された収穫祭のなかで実現しました。

2025年6月14日に収穫祭in東京都美術館(台東区)が開催されました。今回は、本学修了生や在学生も関わりのある「とびらプロジェクト」との共同開催が実現し、美術館と来館者、アートと社会をつなぐアートコミュニケーターの活動実践について、全国から集まった在学生・卒業生ら39名が、体験的に学ぶ濃密な一日となりました。

聞く力に注目|アート・コミュニケーターの第一歩

前半のレクチャーでは、東京都美術館学芸員の熊谷香寿美さんと、美術家でとびらプロジェクト・マネージャーの小牟田悠介さんが登壇し、プロジェクトの趣旨や、全国に広がるアート・コミュニケーター制度について紹介がありました。レクチャー後の振り返りでは、参加者から「アート・コミュニケーターとしてのスタートが“聞く力”を磨くことだという点がとても興味深かった」「キャッチーな言動が耳目を集める昨今の情勢と対照的に、聞く力という地味にも捉えられがちな力の重要性を学ぶことができました。」といった感想が寄せられました。

 

 

聞くを起点に生まれる企画

続く体験ワークショップ「とびラボ」では、小牟田さん進行のもと「すきなこと、あきないこと、いつかしてみたいこと」を起点に3人組で対話し、「このメンバーで美術館でやってみたいこと」を短時間で企画しました。誰かがアイデアを出さなくてはいけない、誰かがリーダーシップを取らなくてはいけない、のではなく、まずは相手の話に耳を傾けることから始める。この“とびラールール”に「いいアイデアを出さなきゃと身構えていたけど、聞くことが起点になることで自然と関係が生まれた」「聞くことが、つながりの第一歩だと実感した」など、無理せず楽しく取り組めることへの安堵の声が聞かれました。

 

また用意されたワークシートやタイムスケジュールには「本音と建て前を使い分けるのに疲れたら、このワークを家でもやってみたい」「“世界一周旅行”という夢を3人のうち2人が偶然書いていて、びっくりすると同時に、うれしさ込み上げてきた」などの感想が寄せられ、短時間でも深い共感と気づきが得られる仕掛けが各所にちりばめられていました。

 

 

修了生・在学生が語る、学びと現在地

後半では、本学大学院修了生の野嵜辰巳さん、科目等履修修了生の朴咲輝さんが登壇。とびラーとしての活動、大学での学び、そして現在の活動とのつながりについてお話をされました。お二人の率直な語りを聞いた参加者からは「アートを通して子どもや障害のある方との関係性を考える視点を深めたい」「卒業後の実践のイメージが一気に現実味を帯びてきた」といった前向きな声も聞かれました。

 

 

芸術教養学科の学生からも「対話型のプロジェクトを体感できたことで、コラボレーションの面白さが実感できた」「編入後初めて大学の人と対面できて、新しい世界が開けた」などのコメントがあり、本学の多様な学びが交差する場ともなったようです。
イベント終了後には、「初対面でも、アートを介して深い話ができると実感した」「オンライン生活に慣れてしまった今、リアルな人の優しさや対話の温度が心にしみた」「申込みに勇気がいったけど、本当に参加してよかった」といった声が寄せられました。

アートと社会をつなぐ、収穫祭が残した体験の場

今回の収穫祭は交流の場であると同時に、アートを通じて社会とつながる感覚を得るまたとない体験の機会になりました。学科や立場を越えて集まった一人ひとりの学びが、今後どのように広がっていくのか──その広がりが今後どのように展開していくのか、ますます楽しみです。
 

(文=博物館学芸員課程教員 田中梨枝子

 

 

参加学生レポート

変貌する美術館と混沌から生まれる発見

東京都美術館は上野の森の落ち着きに包まれている。シンプルでモダンな外観と迷路のような館内の落差には、近寄りがたい高貴さを持ちつつ何か誘うような魅力がある。そんな場所で行われた今回の収穫祭は、二つの点で衝撃的だった。
一つ目は、役割と活動が大幅に進化した美術館の姿を目のあたりにしたことだ。2010年代、都美術館は従来のミッションに加えて、「多様な人々が参加し、つながりを生む仕組みを提供する」役割を自らに課した。その一翼を担うのが、「とびらプロジェクト」から生まれた、年間100以上ものユニークなプロジェクトだ。美術館はもはや象牙の塔とは対極の存在となりつつある。
もう一つは、ある「とびラー」修了者の言葉だ。複数人で行うプロジェクト運営にあたり、年代や職業、価値観がバラバラのメンバーの意見がすんなりまとまることはない。ビジネス経験が長い彼は、効率性が低いこの状況に何度も違和感を感じたという。そのうえで、こう述べている。
「ですが、混沌の中で得た発見や他者を認める経験こそが、『とびラボ』の真髄なのです」
日常生活で自分と同質な人や環境にいることの心地よさに溺れていた私は、ハッとさせられた。
とびラーには例年、定員の8〜10倍ほどの応募があり、かなりの狭き門。ただ、同様の活動は全国に広がりつつある。

(蓑輪美帆 芸術学科アートライティングコース 2024年度生)

 

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