REPORT2025.06.17

教育

収穫祭レポート 新宿末廣亭で寄席演芸の魅力に触れる【収穫祭in東京都新宿区】

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  • 京都芸術大学 広報課

2025年5月18日(日)、今年度最初の収穫祭が開かれました。

収穫祭とは、全国にいる通信教育部の在校生・卒業生と教職員との交流・学修を目的としたものです。2018年からスタートして、年々規模が大きくなり、現在では全国8会場で開催しています。
全国各地の特色ある芸術文化ついて、ワークショップや特別講義を通して紹介することや、美術館や博物館の社会への取り組みや発信について知ること、また開催中の展覧会を鑑賞することなど、さまざまな企画を実施しています。

今回の収穫祭の開催場所は東京都新宿区にある新宿末廣亭。都内に4軒残る落語定席のなかでも唯一の木造建築の寄席です。

それでは、今回の収穫祭を担当した芸術教養学科の宮信明が、現地より報告します。

伝統芸能の魅力に触れる一日

当日は、まず新宿末廣亭にほど近い会議室に集合しました。参加者は、ここで特別講義を受けます。この特別講義こそ、収穫祭でしか体験することのできない、収穫祭ならではの特典です。講義開始前には前学長の吉川左紀子先生のご挨拶もあり、「ここで吉川先生にお会いできるなんて!」と驚いている参加者の方も少なくありませんでした。

ご挨拶される吉川左紀子先生

特別講義の講師は担当教員の宮信明と落語家の十代目入船亭扇橋。

扇橋さんは、前橋若手落語家選手権優勝、北とぴあ若手落語家競演会大賞、国立演芸場「花形演芸大賞」大賞など優勝歴・受賞歴多数、将来の名人候補との呼び声も高い古典の本格派です。2022年9月には真打に昇進し、大師匠の名跡「入船亭扇橋」を十代目として襲名しました。十代目ですよ、十代目。それだけ聞くと、なんだかとても偉そうですが、実際は方向音痴で、雨でも傘をささないヘンな人です。

特別講義の様子(左:宮信明、右:十代目入船亭扇橋)

講義では、新宿末廣亭の魅力から寄席という空間の特徴(寄席とホール落語のちがい)、落語家の階級(前座、二ツ目、真打)、新作落語と古典落語、寄席の色物(漫才、漫談、奇術、太神楽、紙切りなど)、寄席の楽しみ方、さらに当日の出演者に対する一言コメントまで、笑いを交えながら扇橋さんに楽しくお話しいただきました。

なぜか記念撮影タイムも

特別講義が終わると新宿末廣亭に移動。新宿三丁目の交差点から新宿通りを東に進んで北へ折れ、末広通りを進んでいくと、いくつもの提灯と看板がところ狭しと並ぶ、まるでそこだけタイムスリップでもしたかのような建物があらわれます。「これぞ寄席!」と思わせるような佇まい。それが新宿末廣亭です。

新宿末廣亭
新宿末廣亭の看板

元々は堀江亭という名で興行していた寄席を、1910年に浪曲師の末広亭清風が買い取って末広亭と改称したものの、戦災で焼失。1946年3月、建築業を営んでいた北村銀太郎が再建し、「新宿末廣亭」として開業することになりました。近代和風建築ならではの伝統意匠が細部にまで凝らされた新宿区地域文化財の第一号です。
なお、寄席の内部は撮影不可のため、残念ながら、ここに写真を載せることはできませんが、当日の出演者と演目を記しておきます。

三遊亭東村山「牛ほめ」
三遊亭ふう丈「ゲセワセワ」
入船亭扇橋「初天神」
寒空はだか 漫談
古今亭駒治「車内販売の女」
金原亭馬治「鮑のし」
笑組 漫才
鈴々舎馬るこ「東北の宿」
古今亭菊春「替わり目」
アサダ二世 奇術
林家錦平「紀州」
柳家小団治「雑俳」
中入り
三遊亭志う歌「洒落番頭」
立花家あまね 三味線漫談
林家木久扇「明るい選挙」
春風亭百栄「夫婦でドライブ」
柳亭左龍「馬のす」
ストレート松浦 ジャグリング
柳家小ゑん「ぐつぐつ・昭和版」

2025年5月18日の番組表 日曜日のため代演が多い
終演後、参加者が外に出てきたところ

古典あり新作あり。また漫談や漫才、奇術やジャグリングといった色物あり。まさに伝統が息づく空間といってよいのではないでしょうか。落語や講談などの寄席演芸は、伝統芸能でありながらも、同時に現代を生きる大衆芸能にほかなりません。寄席という空間では、日々新たな伝統が生み出されているのです。
今回の収穫祭に参加された方も、あるいは参加されなかった方も、一度寄席に足を運んでみてはいかがでしょうか。きっと「いまを生きる伝統芸能」の面白さに魅了される筈です。ぜひご自身の体でその空気を感じてみてください。


(文=宮信明)
(写真=宮信明、柴田ミユキ)

 

参加学生のレポート

「笑いに揺すぶられながら記憶と感覚をひらく場所」

今回の収穫祭で、宮信明先生と入船亭扇橋さんのレクチャーを聴き、新宿末廣亭を訪れ、改めて感じたのは寄席演芸というものは、舞台芸術の形態の一つとしてすんなりとは収まらないということだった。客席が暗く集中を要求する演劇に比べると、客席が明るくリラックスした状態から始まる演芸は、何かを得ようとするといなされてしまう。
レクチャーでは、その「寄席」という場や時間の、言語化しづらいリレーを見る眼を持つよう提案される。中席昼の部のトリの柳家小ゑんさんは、新作(創作)落語の人なので、全体の演目の古典と新作のバランスや、長短、動と静などの構成はわかりやすいけれど、キーワードやイメージ、そして出典元や師弟関係からの繋がりとなると難易度が少し上がっていくよう。
当日のプログラムは、出演者の変更があちこちにあるが、それも寄席の楽しみだと初めて知った。代わりに誰が出るか、何をやるか、偶然の出会いも醍醐味の一つ。
最後の最後、小ゑんさんの落語『ぐつぐつ』のオチに、少し前に木久扇さんが話した「談志の犬」のイメージが重なった時、えもいわれぬ面白さが押し寄せ、「こういうこと?」と思う。答え合わせをするように、これからも足を運び続けてしまうのだろう。

(南もえ子 アートライティングコース 2020年度生)

 

 

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