INTERVIEW2025.06.09
「食」を通して未来をデザインする — 大阪・関西万博「EARTH MART」パビリオンに学生たちの考えたデザインを原案とした模型が展示されています!
- 上村 裕香

2025年4月、ついに開幕した2025年日本国際博覧会(通称:大阪・関西万博)。世界中から150を超える国や地域が参加し、未来の社会を共に考えるこの大規模なイベントでは、様々な展示やパビリオンが来場者を迎えています。
大阪・関西万博のテーマ事業のひとつとして小山薫堂副学長がプロデューサーを務めるシグネチャーパビリオン「EARTH MART」では、「食を通じて、いのちを考える」というテーマで、来場者が食文化や未来の食について深く考えるきっかけを提供する展示が行われています。
同じく「EARTH MART」に展示されているもうひとつの学生作品「いのちのカート」については、こちらの記事でご紹介しています。ぜひご覧ください!(https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1364)
本記事では、小山氏が提唱する「EARTH FOODS 25」を世界に発信するため「EARTH MART」で展示するパッケージデザインを考案するプロジェクトに参加し、公募で採択された学生にお話をうかがいました!

日本の食材の魅力を発信する
「EARTH FOODS 25」は、日本が培った食材、食品、食の知恵・技術の中から25品目を選定し、その魅力や価値を国内外に発信することで、地球の食の未来をより良くするためのアイデアを共有するためのリストです。
「EARTH FOODS 25」のパッケージデザイン公募に向けたプロジェクトは2025年4月から8月にかけて行われ、プロダクトデザイン学科の学生20名ほどが参加しました。学生たちはリストに掲載されている梅干しやかんぴょう、こんにゃく、わさび、昆布などの食材・食品の中からひとつ選び、その食材・食品の魅力を伝えるパッケージデザインを考えました。公募で選ばれた学生のアイデアは(展示として成り立つように一部デザインを変更して)模型が制作され、大阪・関西万博会場の中心に位置する「EARTH MART」に展示されています。
EARTH FOODS 25
日本の食文化は、「地球との共生」と「食の知恵・技術」の集積です。豊かな海洋国家(海の面積は世界第6位)として、昔から受け継がれてきた「海藻文化」と「発酵文化」があり、そこには多くの知恵や技術の集積があり、菜食・発酵・健康が結びついた食の自然観をもっています。 この日本がもつ食の価値・本質を再定義し、世界に共有することで、食文化発展や環境問題解決への貢献につながることを目指しています。
「EARTH MART」について、詳しくはこちら(https://expo2025earthmart.jp/)
「新鮮」×「驚き」で生まれたアイデア

今回お話をうかがったのは、公募でアイデアが採択された下岡玲音さん(プロダクトデザイン学科 プロダクトデザインコース 2年)と吉田和佳奈さん(プロダクトデザイン学科 プロダクトデザインコース 2年)です。制作過程も含めて、下岡さんと吉田さんのアイデアを見ていきましょう。

下岡さんが提案したのはこちらの「こんにゃくヨーヨー」です。こんにゃくが水につけられた状態で売られているという点に着目し、日本の伝統的な遊び道具であるヨーヨーをイメージしてデザインしました。
アイデアを考えるときに使用したのが、こちらのカード。

プロダクトデザイン学科のクリエイティブシンキングⅡ(応用)という授業でも使われているこちらのカードは、時岡英互先生(プロダクトデザイン学科 教授)が考案した「人間が持っている根源的な価値観を組み合わせ、四則演算の要領で新たな価値を足したり、要素を引いたり、なにかに見立てたりすることで、新しい発想を生む」ためのカードなのだそう。「驚き」「安心」「没頭」「不思議」など、様々な感情や価値観を連想させるワードが並んでいます。今回のパッケージデザインを考えていく過程では、2枚のカードをランダムに引いて、カードに書かれた価値観をもとに要素を足し、新たな発想を考えていきました。

下岡さんが引いたのは「新鮮」と「驚き」のカード。学生たちとアイデアをいくつも出し、練っていく中で、ヨーヨーのアイデアが深まっていきました。
下岡さんは制作過程について「『驚き』はわりとすぐに思いつきました。風船をパーンと割るようなイメージが浮かんで、デザインの中に遊びの要素をいれたら驚きがあるんじゃないかと思いました。はじめはこんにゃくが水風船の中に入っているデザインだったんですが、日本文化を発信するという要素を加え、『ヨーヨーの中に入っているのはどうだろう?』と思いついて、この形になりました。こんにゃくの形も、最初は普通の四角いこんにゃくをイメージしていたんですが、ヨーヨーの形に合わせて丸い玉こんにゃくを入れよう、と学生や先生とディスカッションする中で徐々に決まっていきました」と語ります。
採択されたときの気持ちをうかがうと、「公募の結果を受け取ったときは、学科で行われていた企画展を見ていて、すぐに先生に報告しました。本当に自分が選ばれたのかと驚いて、素直にうれしかったです」と笑顔で話してくれました。

食材の特徴を活かして
続いて、吉田さんが提案した「風鈴柑橘」を見ていきましょう。ゆず、橙、かぼす、すだちの香りのちがいに着目し、香りを感じられるよう、部屋に吊るせる形状のパッケージを提案しました。柑橘類の爽やかさや涼し気な雰囲気を表現するため、風鈴をモチーフにしています。
ゆず、橙、かぼす、すだちのそれぞれの特徴についてリサーチを重ね、様々なパッケージのラフを描いていく中で、この形に辿りつきました。

吉田さんは「ゆず、橙、かぼす、すだちの4種類の柑橘の魅力を1つのパッケージで伝える必要があったので、最初は風呂敷をモチーフにしたデザインを考えていました。日本文化のひとつですし、『1つにまとめる』という要素から思いついて。でも、『柑橘の魅力ってなんだろう』と考え直して調べてみると、一番特徴的なのは香りなんじゃないかという結論になり、モビールの形に変更しました。最初のラフスケッチでは四つが連なっている形で。時岡先生に『ちゃんと包まれていたほうが、パッケージデザインとしてはいいんじゃないか』とアドバイスをいただき、いまの風鈴の形になりました」と制作の経緯を語ります。
吉田さんのアイデアをもとに、企業の方が作ってくださった模型がこちら。

模型を作るにあたっては、企業の方が制作したモックアップをもとに、オンラインで打ち合わせさせていただく機会があったそう。吉田さんは模型の制作について「企業の方からは『風鈴上部の竹かごの部分は、すべて同じ大きさに統一しませんか』というご提案もいただいたんですが、わたしは『それぞれの柑橘の重さや大きさを変えることで、本物に近い形にしてほしい』という思いがあったので、話し合っていまの形にしていただきました」と思いを話してくれました。自分のアイデアがプロの手で模型になるというのは、得難い経験ですね。


実際に展示された模型の写真を見て、吉田さんは「すごくうれしかったですね。家族が万博に行ったときに写真を撮ってきてくれて、わたしの名前が書かれているのを見て『名前書いてあるじゃん』と連絡をくれました。世界中の人が集まる万博で、自分の作品を展示してもらえるってすごいことだなと思います」と頬を緩ませます。
ほかにも、高野環さん(プロダクトデザイン学科 プロダクトデザインコース 3年)の加工工場のジオラマに見立てて「すり身」の魅力を伝えるパッケージデザインも審査での作品の素材感や表現方法が高く評価され、アイデアが採択されました。会場に模型が展示されています。


挑戦することの価値
なんと、下岡さんと吉田さんはデザインの公募にチャレンジするのは初めてだったといいます。プロジェクト期間中には、学生や先生と集まり、アイデアを1日に10案以上出し、グループで話し合いながらブラッシュアップすることを繰り返しました。

今回選定された3作品の背景には、このように多数の有志学生が集まり何度もアイデア出しをした無数のひらめきがベースにあります。惜しくも選定されなかった他の応募作品にも、多数のユニークな佳作があったとのこと。
時岡先生は「100のアイデアから1つでも良いアイデアが出れば十分だと学生達に話してます。その1つの原石を磨いていけばいいんです。」と話します。

いままでは自信がなく、公募やコンペに応募するという一歩を踏み出せずにいたという下岡さん。今回、パッケージデザインの公募に参加して「挑戦しないとダメだと思うようになった」といいます。「挑戦しないといけない場面がいっぱいあるなと感じました。自分の伝えたいことや、自分が考えたアイデアをプロの方に評価してもらえる場に、これからも立てたらうれしいなと思います。次のコンペもがんばりたいです」と次の挑戦への意欲を燃やします。
吉田さんは「自分が考えた平面のデザインが、プロの方の協力で模型になり、素晴らしい形で具現化されたことがすごくうれしかったです。たくさんのことを学ばせてもらって、パッケージデザインっておもしろいなと思いました。すごくいい経験だったので、学生のみなさんも同じような機会があればぜひ公募やコンペに挑戦してほしいなと思います」と学生に向けてのメッセージを話してくれました。
2025年4月13日から始まった大阪・関西万博。この感動は、2025年10月13日まで続きます。ぜひ会場で学生たちのアイデアが採用されたパッケージデザインをご覧になって、日本の伝統的な食材・食品の魅力に触れてみてください!


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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。