EXTRA2016.08.05

京都

はじめてのお中元 ―びーどろ玉(とらや)、すいか飴(祇園小石)[京の和菓子探訪 #3]

edited by
  • 田村 七美
  • 高橋 保世
  • 瓜生通信編集部

毎回、知る人ぞ知る京の和菓子をご紹介する連載企画「京の和菓子探訪」。

第3回目は、京都の「お中元」にスポットをあて、学生編集部員が京都の和菓子を選んで包み、お父さん、お母さんに贈る、人生はじめての「お中元」に挑戦します。

8月に「お中元」の話題? と思われる方のために、まずは「お中元」の起源についてから。

日本文芸社発行の『日本の暦と年中行事 和のしきたり』(監修=国立歴史民俗博物館教授 新谷尚紀)によると、お中元はもともと古代中国で生まれた道教の三元節のひとつに端緒があるとのこと。すなわち、「上元」(旧暦の1月15日)、「中元」(同7月15日)、「下元」(同10月15日)に神様にお供えをする風習で、中でも「中元」は贖罪の意味が強かったそうです。これが日本に伝わり、お盆行事と時期を同じにすることから、先祖への供養の意味もこめて、親戚や知人などお世話になっている人に品物を贈る「お中元」が定着したとのこと。

 

重要文化財杉本家住宅

もともと旧暦7月に行っていたお盆は、新暦になってから7月に行う地域と、旧暦の時期に合わせて8月に行う地域があるわけですが、京都のお盆は8月。これに合わせてお中元も7月下旬から準備を始め、8月上旬にかけて行われてきました。というわけで、京都の「お中元」は、本来今がまさにその時期にあたるのです。

お話を伺った杉本千代子さん

それでは、もともと京都で行われてきたお中元とはどのようなものだったのでしょうか。

公益財団法人 奈良屋記念杉本家保存会代表理事の杉本千代子さんをお訪ねし、お話を伺いました。

杉本家でも、お中元はおおむね祇園祭がおわった時期、土用に入ってから準備し、8月初旬頃までにしておられたそうです。ただ、東京など7月を基準にしている地域にあわせることが一般化してきて、今日では京都でも徐々に時期が早まってきているようです。

また、杉本家に伝わる『天保十二年丑年改 歳中覚(さいちゅうおぼえ)』のお中元について書かれている箇所を拝見させていただきました。

 

『天保十二年丑年改 歳中覚』

『歳中覚』は、江戸時代中期の1743年に創業された呉服商「奈良屋」の杉本家に伝えられてきた暮らしのしきたりや年中行事などの記録。天保十二年(1841)に書かれ、その後も代々の当主が書き加えてきたものです。

その中の「仲元」の記述がある箇所について、京都造形芸術大学 通信教育部歴史遺産コースの栗本徳子教授に解説してもらいました。

 

『天保十二年丑年改 歳中覚』

『歳中覚』の7月(旧暦)の冒頭は、6月18日頃から7月15日付の「仲元状」をしたため始めることとして、その書状の文例が載せられ、常々お世話なっている方々への気遣いとお礼が記されています。周到に時間をかけて書状を用意し、お中元をされていたことが伝わってきます。

また杉本家では、西本願寺の門徒として信仰を生活の中心に据えておられるのが『歳中覚』の随所に現れていますが、檀那寺である順照寺には、ご家族や寺で働く人々にまでお中元を届けられていることが知れます。そして7月15日の中元当日には、仏壇を様々な金襴などで荘厳(しょうごん)することが記されています。 
お盆の行事と結びついたこうした中元の風習が、京都の「お中元」の元々のあり方だったことがよくわかりますね。

 

 

さて、瓜生通信編集部員で情報デザイン学科4年生の田村七美さんが、今回両親に贈る「人生はじめてのお中元」として選んだ和菓子は、8月1日から15日まで期間限定販売のとらやの生菓子「びーどろ玉」と祇園小石の「すいか飴」。包装は、京染和紙浅井長楽園製 波頭文の型染紙に水引を結びました。

 

京染和紙浅井長楽園の型染紙
箱の中にも水色の和紙を敷いて

 

両親への感謝の気持ちを込めて、「びーどろ玉」と「すいか飴」をはじめてのお中元として贈ることにしました。

梱包で一番考えたのは“涼しさ”。

この暑い夏を乗り切れるようにと、波頭文の型紙で染めた和紙で包み、箱の中にも水色の和紙を敷くことで水の流れを感じられるように工夫しました。

とらや製「びーどろ玉」

とらやの「びーどろ玉」は、透き通った琥珀羹の中に煉切でできたビー玉が浮かんで、とても可愛らしい和菓子です。光に透かすと、琥珀羹 *1の中のビー玉が、小さい頃に出かけた夏祭りを彷彿とさせて、まるでタイムカプセルのよう。口の中に入れると、口の中で溶ける上品な甘さの琥珀羹の中から、しっかりした煉切 *2がコロリと現れて、楽しくなる食感でした。

祇園小石製「すいか飴」

一方、祇園小石製の「すいか飴」は、姿かたちが可愛いすいかそのもの。しかも、見た目だけではなく、口に入れると本当にすいかの味がしました。そのすいかの味が消えて無くなると、すいかの種に見立てたゴマが出てくるのですが、そのゴマの塩っ気と、すいかの甘さが絶妙で、塩分が不足しがちな夏にぴったりな「飴ちゃん」だなと思いました。

さて、私の「はじめてのお中元」ですが、受け取った母から「記念に写真を撮ったよ。美味しかったよ。」と、とっても喜んでもらうことができました。

最近はお中元のやりとりが少なくなってきていますが、今回の私のささやかなお中元の包みの総予算は2000円と、学生でもなんとか手が届く金額。京都の和菓子を使って、身近な相手に日ごろの感謝の気持ちを込めてお中元を贈ってみてはいかがでしょうか。

 

*1 琥珀羹(こはくかん):寒天を煮溶かし、甘く味付けをして固めたもの

*2 煉切(ねりきり):白あんに求肥(ぎゅうひ)や小麦粉、つくね芋などをつなぎに混ぜた和菓子の材料


<文:田村 七美>

公益財団法人 奈良屋記念杉本家保存会

なお、8月1日から10日まで、『京町家の日常風景 一般公開』と題し、町家の日常の様子を公開しています。京都市内最大の京町家 重要文化財杉本家住宅をこの機会に訪れてみてはいかがでしょうか。公開される時間は12:00から17:00まで。事前申し込み不要で、入場料金は大人ひとり1000円、高校生以下ひとり800円です。

住所 京都市下京区綾小路通新町西入矢田町116

http://www.sugimotoke.or.jp

とらや 京都一条店「琥珀製 びーどろ玉」

住所 京都市上京区烏丸通一条角広橋殿町415
電話番号 075-441-3111
営業時間 9:00〜19:00(平日)/9:00〜18:00(土曜・日曜・祝日)
販売期間 8月1日〜8月15日
価格 「琥珀製 びーどろ玉」1個 519円(税込)(日持ち:2日)

ホームページ:https://www.toraya-group.co.jp

 

※なお、今回はとらや製の和菓子を学生の感性で、お中元の包みに再構成させていただいています。とらやのお店にお持ち込み依頼などはできませんので、ご了解ください。

祇園小石「すいか飴」

テキストが入ります。テキストが入ります。テキストが入ります。テキストが入ります。テキストが入ります。

住所 京都市東山区祇園町北側286-2
電話番号 075-531-0331
営業時間 10:30~19:00
価格 「すいか飴」80g 432円(税込)

ホームページ:http://www.g-koisi.com/

京染和紙浅井長楽園

住所 京都市左京区田中大堰町104
価格 型刷り和紙 1枚 350円(税別)

ホームページ:http://www.yoshihiro.asai.name/

<文:瓜生通信編集部・田村 七美、写真:高橋 保世>

 

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  • 田村 七美Nanami Tamura

    1994年大阪府生まれ。京都造形芸術大学 情報デザイン学科2013年度入学、同学科2016年度卒業。タイポグラフィ や エディトリアルデザインを学ぶ。男女問わず同年代のアイドルが好き。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

  • 瓜生通信編集部URYUTSUSHIN Editorial Team

    京都造形芸術大学 広報誌『瓜生通信』編集部。学生編集部員24名、京都造形芸術大学教職員からなる。

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