REPORT2025.06.18

京都アート

これからのICA京都が担う新しいアジアのアート交流拠点 「リ・ポジショニング:京都、アジア、世界~現代アートのエコシステムを考える」

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  • 京都芸術大学 広報課

サムネイル画像:ICA Kyoto TALK 055「リ・ポジショニング:京都、アジア、世界~現代アートのエコシステムを考える」(2025年4月3日)QUESTION(クエスチョン)

※ なお、本記事は、ICA京都の記事『アジアのアートシーンを渡る「鳥の眼」と「けもの道」の中継地 これからのICA京都』と連動しているためそちらも参照されたい。(近日ICA京都のHPで公開予定)

 

グローバル・ゼミからICA京都へ

2025年4月3日、京都市役所のはす向かいにあるQUESTION(クエスチョン)で、新体制となるICA京都*1のメンバーによるトークセッション「リ・ポジショニング:京都、アジア、世界~現代アートのエコシステムを考える」が開催された。

もともとICA京都は、ロンドンにある現代芸術複合センター、Institute of Contemporary Arts(ICA)*2をモデルに、浅田彰(大学院芸術研究科教授、ICA京都顧問)を所長に据えて2020年に立ち上げられた京都芸術大学の教育研究機関である*3。ICAは、ギャラリー、劇場、映画館、書店などが設置された複合施設で、戦後のイギリスのさまざまな現代芸術を牽引する拠点となり、海外の先進的な芸術シーンを紹介したり交流する場にもなってきた。ICAに類する機関を日本でつくるとしたら京都がふさわしいというのが浅田らの見解であった。これまで多くのアーティストやキュレーターの講演や研究員を受け入れ、国際的な交流を行ってきたが、ちょうどコロナ禍と重なったため制限もあった。

いっぽうで今回、新所長に就任した片岡真実(森美術館館長、国立アートリサーチセンター長、大学院教授)は、2015年当時副学長であった宮島達男に、大学院の美術教育改革について相談を受け、2018年から「グローバル・ゼミ」を設立した*4。海外から第一線で活躍するキュレーターやアーティストを招聘し、2週間ごとの集中的なプログラムを組み、実践的な教育を牽引してきた。そこでは英語による授業が行われ、海外からの学生も受け入れた国際交流の場にもなっていた。キュレトリアル・プログラム「デ・アペル」の創設者、国際的キュレーターであるサスキア・ボスが特別講師を務めるなど、世界レベルの教育が行われていたといってよい。

今回、組織再編によりICA京都はグローバル・ゼミ含め、その他の研究機関とともに、大学院で3つの実践的なプロジェクト授業を実施することになった。その結果、大学院生は誰でもグローバル・ゼミの授業を受けられることになったという。そして、10年越しの今、片岡が満を持して所長に就任することになったのだ。

ICA京都が新体制になるに際し、片岡は新たなヴィジョンに基づいて、メンバーを招聘した。それが堤拓也(ICA京都プログラム・ディレクター、キュレーター)、金澤韻(ICA京都特別プロジェクト・ディレクター、インディペンデント・キュレーター)、桐惇史(ICA京都エディトリアル・ディレクター、編集者)、清水千帆(ICA京都マネージング・ディレクター)である。アーティストの中山和也はICA京都副所長の留任となる。今回のトークセッションでは、副所長の中山がコーディネーターとなり、片岡、堤、金澤、桐の4名でトークセッションが進められた。

 

多極化する世界のアートシーンのアジア・日本・京都のポジション

まずは副所長・中山和也の紹介からスタートし、作品「入れ替わり/さっきまでいたパリを離れ、あなたの場所に来ています。」(2019)の話で会場に和やかな雰囲気が生まれ、そこからトークが始まった。

片岡真実は、ICA京都の必要性やヴィジョンを示す前に、80年代までの現代アートの分布を示す世界地図をスクリーンに写し出した。それらによると、当時はヨーロッパやアメリカの東海岸・西海岸がメインで、それらがアートの歴史をつくっていた。日本も明治以降は、それらの地域を追いかけてきたといってよい。しかし1990年代以降、現代アートはいっきにグローバル化する。アジアでは日本が先行して美術館政策を進めたが、今やアートシーンはアジア全域に拡大を続けている。片岡は、今日ではもはやそれらをすべて追いかけることはできないし、誰を目標とすればいいのかもわからず「うろたえる」状況になっていると指摘する。

ICA京都 所長|片岡真実

次に片岡は、美術の担い手の視点に目を向け、大きく美術館、国際芸術祭、アートフェアという三極を中心として、無数のプレイヤーによってエコシステムが形成されていると説明した。片岡によると、ICA京都も美術系大学の付属機関としてそれらに接する位置にあり、より複雑化したアートシーンのどこを目指せばいいのか難しい状況の中で、アーティストを輩出することになるという。特に、すでに世界で300以上開催されているという国際芸術祭とアートフェアの拡大は顕著である。

その中でヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタを中心とした著名な国際展からトレンドが見えてくるが、片岡は前回のヴェネツィア・ビエンナーレ(第60回、2024年)を顕著な事例として紹介した。総合ディレクター、アドリアーノ・ペドロサ(Adriano Pedrosa)によって掲げられたテーマは「Foreigners Everywhere(どこにでもいる外国人)」であった。*5アウトサイダー、クィア、先住民のアーティストを取り上げた非西洋中心主義的な内容で、特にオーストラリア館ではアボリジナルのアーティストであるアーチー・ムーア(Archie Moore)が、先住民族の家系図をチョークで丹念に描いた作品《kith and kin》(2024)で金獅子賞を受賞。いっぽうエコロジーの視点では、日本館では毛利悠子が、日本の地下鉄の漏水対策に着想を得て、浸水に悩むヴェネツィアを題材に「Compose」という即興的でサステナブルな展示を行った。*6

このようにトレンドもプレイヤーも急速に変化するグローバルなアートシーンで活躍するためにどのようにすればいいか?

片岡は、いったんはアートシーンを俯瞰し、全体の中で自分をどこに位置付けるか考えなければらないという。そして、もう1つの視点として、欧米に追随するという時代はすでになく、大きく成長するアジアの中で改めて日本がどう位置付けられるのか、つまりリ・ポジショニングするかが、今まで以上に重要になると指摘する。

そのためにICA京都では、グローバル・ゼミを踏襲したグローバル・スタディーズに加えて、アジア・スタディーズやアジア美術史などのプロジェクト科目を提供するという。また、著名なアーティスト・キュレーターなどを招いた「ICA Kyoto TALK」*7や「国際シンポジウム」の実施を堤が担当、アジア美術系大学の学生を集めてアジアの学生同士を繋げ、これからのアジアを生きていくためのヒントを探る会議「KYOTO Gathering for Asian Art Students」を金澤が担当する。さらにICA京都の活動を記録・発信し、言論を通してアジアや世界を考えることがますます重要になるため、批評・レポートなどの言論の場を「ICA Kyoto Journal」として桐が担当する。片岡は10年後にはアジアにたくさんのネットワークがあって友人がたくさんいる状況になってほしい、という。そのことで自分たちで進んでいく道が見えてくるのではないかと語る。

ここで特筆すべきは、アジアの再認識だろう。それはかつて岡倉天心が『東洋の思想』で述べた「アジアはひとつ」というものではない。植民地主義、帝国主義の台頭以降、浸食され歪んでいた多様なアジアの文化、価値観、相互交流をもう一度編み直すものといってよい。
 

オルタナティブシーンから見た京都

次にICA京都プログラム・ディレクターの堤拓也から、「オルタナティブシーンから眺めたときのマッピング(リ)ポジショニング」と題して、自身のキャリアと現在の活動を通して見た、アジアの都市のアートシーンのダイアグラムが紹介された。

堤は京都芸術大学を卒業後、附属のギャラリー「ARTZONE」(2019年3月閉廊)のキュレーターを務め、その後、東欧の一般大学で修士課程を取得して帰国し、インディペンデント・キュレーターとして活動してきた。同時に、滋賀にある共同スタジオ、「山中suplex」*8のプログラムディレクターも務めている。また近年は、日本全国とアジアのオルタナティブ・スペースやコレクティブを集め、彼らが抱える問題やそれに向き合う活動を共有する機会として「シェアミーティング」を山中suplexで開催している。

ICA京都プログラム・ディレクター|堤拓也

堤は片岡とは異なる角度で三極を提示する。それが民間セクター、公的セクター、市民セクターで、それぞれ営利性、制度性、実験性の特徴があるという。美術館や芸術祭の多くは公的セクターに分類されるが、アートフェアは民間セクターとなる。堤によると、京都の場合は美術館などの公的セクターが強く、アートフェアも京都府がイニシアティブをとっているという一面もあるという。ただし、民間セクターもマーケットは脆弱ではあるが、私立の美術大学も集積しており、ある程度の厚みもあると紹介された。また、山中suplexを含めて、急速に市民セクターの広がりが出てきたのも近年の特徴だろうと。

いっぽうで堤が直近訪れたインドのニューデリーでは、公的セクターは極めて弱く、民間セクターであるギャラリーや財団がアートセンターの代替となっているという現状があるという。また、インドネシアのジョグジャカルタでも公的セクターは弱く、民間セクターもそれほど強くないが、市民セクターのコレクティブやアートスペースなどが無数にあり、相互に観客になってアートシーンを形成しているという。

堤が紹介した中で、一番西洋的なモデルに近いのはソウルだろう。1995年の光州ビエンナーレを皮切りに、アジアの中でも国際シーンを担う重要な拠点になっていき、2000年代以降はフリーズ・ソウルの誘致に成功するなど、マーケットとしても成熟しつつある。また、アーツカウンシルなども整えられており、市民セクターを維持していくための場所代や人件費などの助成も積極的に行われているという。

堤は、国際交流をする目的として次のことを挙げた。国内での予算や発表機会は限られており、人口減によってこれからも増加することはないため積極的に表現の場を求めていく必要があること。アーティストを続けていくためには、多くのネットワークを持っていた方がいいこと。さまざまな地域の歴史や文化を知る機会となり、今まで見えなかった観客を想像することができるようになること。そして何より料理や工芸品、音楽、ファッションといった異文化に触れられることは楽しいことだという。そのためにも、多様な人々が交わる場所が京都にも必要となってくるが、それらを実現可能にするようなオルタナティブスペースはまだまだ少ないと堤は言う。

堤の話を受けて片岡は、日本はアートが制度化されているので、制度の中で動く考え方が身についているが、東南アジアは制度化されておらず、だからアートに関係している人が、個人で動いていることが面白いと指摘する。アーティストが発表や販売などの環境を築いていかなければならないので、このようなマッピングを頭に入れておく必要はあると。

堤はまた、京都には美大・芸大が多く、毎年2000人以上が卒業しているが、進路が不明であり、アートの地図の中にどのように入っていくのかわからない現状もあり、それらの人々にきちんと手を差し伸べる必要があるのではと述べた。これに対し金澤は、京都から出る人が多いのはもったいないことだが、いっぽうで戻って来たり、移住してくる動きやコマーシャルギャラリーができる動きもあるので新しい時代が到来しているのではないかと語る。桐は京都は、卒業生がチームを組んで展覧会をしたり、スペースを立ち上げるなど、アーティストによるゆるやかな連帯やオルタナティブな精神があると指摘する。

片岡が、仲間が多いが故に海外に打って出ようと思いにくいのではないかと観客に投げかけると、それに回答したアーティストのひとりは、自身が活動し始めた2010年代前後は、京都では作品が売れないということで、コマーシャルギャラリーが撤退したため閉塞感があり、台湾のオルタナティブ・スペースにレジデンスの場を求めたと語る。それに対し片岡は、例えばソウルでは、今のように美術館やアートフェア、制度がない90年代後半にオルタナティブ・スペースが萌芽したと述べ、海外のオルタナティブシーンとの接続の重要性について述べた。

また堤は、日本は微妙に制度化されているが、助成金などのパイも少なく、気軽に海外に行けないと思って諦めている人もいるかもしれないが、例えばジョグジャカルタのオルタナティブ・スペースは、明日にでも受け入れてくれる状況があり、それらとのネットワークは変化のきっかけになると指摘する。それに加えて片岡は、もはや京都と東京を比較する必要はなく、京都からジョグジャカルタ、京都からチェンマイに直接行ってほしいということ、アジア全体の中に自分たちを位置付けることによって、未来が開けるということ、大きなインスティテーション(教育・研究機関)に行くことはなく、同じような市民セクターがつながることによって世界が開けるのではないかと語った。

 

若者の“わからなさ”を集める会議へ

次に特別プロジェクトのディレクターを担当する金澤韻が、自身のキャリアとICA京都でのプロジェクトを紹介した。金澤は、2001年に美術館学芸員としてキャリアをスタートし、2013年にインディペンデント・キュレーターになった。2015年にはロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士課程を修了し、2016年から2022年までの間、上海を拠点にしながら台頭する中国のアートシーンにコミットしつつ、2017年から2020年まで十和田市現代美術館の学芸統括も務めた。2018年からはパートナーの増井辰一郎と、コマーシャルベースのアート&デザインプログラムを提供する「コダマシーン」*9でも活動している。

ICA京都特別プロジェクト・ディレクター|金澤韻

フリーランスになって以降は、榎忠のヨーロッパの初個展、インターネットアーティストの草分け的存在、ラファエル・ローゼンダールの美術館初個展、毛利悠子の美術館初個展、AKI INOMATAの日本での美術館初個展、「地域アート」を大々的に取り上げた展覧会など様々な企画を手掛けてきた。近年ではディスレクシア(読字障害)などのさまざまなスペクトラムと環世界の豊かさを取り上げた展覧会や現在企画している発達障害研究起点の展覧会など、周縁や弱さ、わかっていなさなど本来、ハンディと思われているものを、強さに変えることをテーマにして展覧会の企画をしている。その点では、今回の役割は適任だといえるだろう。

金澤が担当するアジア美術系⼤学学⽣会議「KYOTO Gathering for Asian Art Students」は、欧⽶中⼼の美術潮流の再評価を通じ、アジアの学⽣がアートの世界での⾃⼰理解と地域理解を深めることを目的に、キャリア形成や世界事情などについて集中的に議論を行うというものだ。東南アジア、東アジアなどの地域から美術系大学の学生、院生を15名、国内からも15名ほどを招聘し、隔年で会議を開催する。また、国際的なアーティストやキュレーターもゲストとして呼び、国際シンポジウムとも連動したりして、開催後のコミュニケーション・プラットフォームを構築する予定だ。

のほか、トークでは、金澤が『美術手帖 ウェブ版』で連載していた「中国現代美術館のいま」*10にも話が及び、金澤が上海在住時に感じた中国のアートシーンの特徴や問題などが語られ、片岡も自身の体験を元に中国を語った。片岡は、自身が初めて中国に行った2001年の活発なアートシーンの動向と、2009年に森美術館でアイ・ウェイウェイの展覧会を開催した際のことと現代中国を比較し、話を深めた。

特にコロナ以降は、厳しい検閲の中でサバイブするアートシーンが今現在もあり、そのような検閲がある国の状況自体をまずは知らなければならないと片岡は言う。いっぽうでアート業界では長らく「表現の自由」は最優先されるべきだと考えられてきたが、「あいちトリエンナーレ」や「ドクメンタ」、さらにガザを巡る昨今の問題にも見られるように、アート・インスティテーションももはや「セーフプレイス」ではなく、どのように権威主義国家や政治的圧力と向き合っていくかを考える必要があると語った。

 

他者と自己、アジアと京都を言説でつなぐ

ICA京都では、これまで「REALKYOTO FORUM」*11を独自のメディアとして、小崎哲哉が編集長を務めていたが、今回の組織改変に伴い、それを引き継ぐ形で新たに「ICA Kyoto Journal」を設立。編集者の桐惇史がメディアディレクションを担当することになった。桐は、京都外国語大学出身で、大学時代は旧ソ連圏を中心とした国際協力活動を経験。卒業後はそれらの経験を活かしながら学習塾の運営やNGOで社会人経験を積んできた。またルーマニアでジャーナリズムを学び、編集者・ライターとしての経験を積み、現在は公益財団法人西枝財団のアートメディア「+5(plus five)」*12の編集長として、アートを下支えする人々を取り上げるインタビュー記事の配信を行っている。また、積極的にアート領域と異なる領域の人々との対話や共創空間を創出するプロジェクト(dialogue point)を企画したり、地域密着型のアートライターを育てるLAWS(Local Art Writer’s School)など、編集者としてさまざまな活動を行っているが、一貫したテーマは、自己と他者、「人と人はどのように分かりあうことができるのか」だという。

ICA京都エディトリアル・ディレクター|桐惇史

トークの中で桐は、京都という都市を俯瞰して見たとき、長らく「日本の文化の中心地」であり、多くの伝統文化を継承しているが、その自負や重みが逆に新しさを失い、停滞や閉塞感を生む要因にもなっていると分析する。京都市は1978年に打ち出した「世界文化自由都市宣言」*13の中で、「広く世界と文化的に交わることによって、優れた文化を創造し続ける永久に新しい文化都市でなければならない」と述べており、それに呼応するように多くの文化・アートスペースが誕生してきている。桐は、片岡が以前「アートは社会を映す鏡の役割がある」と述べていたことを引用し、同時代の社会、地域を写してきたアート活動の集積が今の京都のアートシーンになっていると語る。あわせてアートは、大きなものだけではなく一人の人間、個を言及するものでもあり、それを伝えるためにも言説化が必要だと指摘する。さらに言説化することによって、自分の居場所やあり方が見えてくるが、そのポジショニングが適切か否かを考える際には、常に新しい視点を取り入れることが必要ではないかという。それはまさに、アジアや近い人たちの隣人的な視点によって見えてくるし、その眼差しを相互に伝えるのがメディアの力だと語る。

「ICA Kyoto Journal」は、多様な書き手のプラットフォームとなり、言論を通して世代や国境を超えて人と人をつないでいく予定だ。京都とアジアを繋ぎながら、常に自分の立っている世界とは何かを知り、他者との対話を通してリ・ポジショニングをする。そのようなスロウメディアこそ、今のアートシーンに必要ではないかと桐は述べた。

会場からは、桐をよく知るアート関係者から、桐がビジネスの経験値も持っていること、アートとまだまだ近くて遠い京都のビジネス業界との連携に一役担うことへの期待も寄せられた。桐はアートとビジネスは、それぞれ使用する言語が異なるだけで、そこを翻訳する必要と自身がつなげる活動もしていきたいと回答し、ビジネスパーソンとアート関係者とのコレクティブの可能性などを示唆した。それに対して片岡も、世界をどう見るのかどこに価値を置くのかビジネス界の人たちの意識改革が必要であるが、アート界も霞を食って生きるという時代ではなく、ビジネス業界との関係を持たないといけない。ただ短絡的な結び付きだとズレてしまうので、本質的なところで結び付く必要があると述べた。

また片岡は、現在ソーシャルメディアによって、先鋭的だが断片的な文章が拡散しており、際限のない言論の分断化が進み、全体像が見えなくなっていると指摘する。自分のポジションを探して位置付けるためには、歴史的な経緯、少なくとも90年代はどのようなことが起きていたのか、もっと言えば、戦後はどうだったのか、20世紀はどうだったのかなど、時間的にも空間的にも長いスパンで物事を捉えることが重要だと語る。それを文脈付けるために文章が必要であるし、そのためのプラットフォームを続けることが重要であると述べた。

 

新しいアジアの文化的ネットワーク、リ・ポジショニングのハブを目指して

会場からは京都芸術大学にて椿昇が牽引する「アルトテック」*14の活動との関係性はどうなっているか、またICAはどのような観客をイメージし、育成していくのかなどについての質問が出た。

片岡は、ICA京都は卒業後にアーティストやキュレーターが海外で活躍するための支援を目指して設立されており、複雑化するアートシーンに対応するためにアルトテックとICA京都の両方がその役割を担っていると回答した。

観客に関して堤は、ICA京都はアーティストやキュレーターを育成する目的で、直接観客の育成をすることはないが、大学の教育機関は結果的にプロフェッションナルな人材ではなくても、結果的にアートの観客も同時に育てていることにもなっているのではないかと回答した。また、観客という視点で片岡は、日本の人口の中で10%もアーティストにならない事実をあげ、見て楽しむことを学ぶ鑑賞教育が座学よりも重要であり、アートを通して複雑な世界の在り様を教育できる先生が、特に小中学校では必要だと語った。

片岡は、ICA京都は制度としてつくったが、ポジショニングをゆるやかなままにしておきたいと言う。定義もできないくらいにして、いろんなことを拾っていき、いろんなイベントに多くの人が参加し、様々な意見交換がなされ、関わる人みんなで京都から世界に活躍する人を輩出していきたいと抱負を語った。

最後にゲストとして聴講していたヤノベケンジ(美術工芸学科教授、ウルトラファクトリー・ディレクター)は、国際的なアート業界で信頼を得ている片岡が、ICA京都で本気になってアジアのシーンと向き合うのは画期的なことであり、伝統文化を含めてポテンシャルのある京都が、アジアの新しい価値観の中でどのように存在感を放つために重要な拠点になるのではないかと期待を込めた。

ポスト・コロニアリズム以後のアートシーンにおいて、日本・京都がアジアの中の伝統と革新をもたらすネットワーク、リ・ポジショニングのハブになりえるか。ICA京都はその重要な使命を担っているといえるのではないか。

終了後の交流会の様子。

 

*1…ICA京都
*2…Institute of Contemporary Arts(ICA)
*3…瓜生通信では過去、ICA京都設立発表会のレポートを掲載している。
『世界と京都をつなぐ「蔦の壁」を目指して ― 「ICA京都」設立発表会レポート』
*4…グローバルゼミ
*5…Biennale Arte 2024: Stranieri Ovunque - Foreigners Everywhere
*6…毛利裕子の展示の詳細については以下にレポート記事があがっている。
ヴェネチア・ビエンナーレ2024日本館、毛利悠子「Compose」を現地から速報レポート!
*7…2024年度までの「GLOBAL ART TALKS (GAT)」が名称変更した
*8…山中suplex
*9…コダマシーン
*10…美術手帖 ウェブ版「中国現代美術館のいま」
*11…REALKYOTO FORUM
*12…+5(plus five)
*13…世界文化自由都市宣言
*14…アルトテック

 

(文=三木 学)

 

 

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