新年あけましておめでとうございます。
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さて、新年最初の[京の和菓子探訪]ですが、京都で新年の和菓子をご紹介するならば、葩餅(はなびらもち)をはずすことはできません。
葩餅は、丸く薄く延ばした白いお餅(お店によっては求肥)の真ん中に、薄紅く染められた菱餅と白味噌の甘い餡、そして甘く炊かれた牛蒡を載せて、半分に折ったもので、白いお餅から透けて見える薄っすらした紅の風情が、新春を寿ぐお菓子としてぴったり。それだからでしょう、京都では多くの方が新年の和菓子として楽しんでいるようです。
また幕末に、当時茶道裏千家のお家元11世玄々斎が、宮中に呼ばれて頂戴したことを機に、お初釜でいただくお菓子として許されたことから、明治以降裏千家のお初釜で欠かせないものとなり、茶道を嗜まれる人々を通じて広まって、日本各地の和菓子屋さんでも求められるようになりました。
しかし、その原形は、宮中で行われてきた「歯固め」の行事で食された菱葩(ひしはなびら)であり、葩餅として市中に出した元祖は、宮中への出入りを許された証「御粽司」の称号を持つ粽・餅菓子専門の老舗 川端道喜です。
『ものと人間の文化史89 もち(糯・餠)』<法政大学出版局>によると、「歯固め」は、「歯」には「齢(よわい)」の意味があり、正月に堅いものを食べて歯の根を強くし、延命長寿を願う行事で、古くは6世紀に中国の揚子江中流域の年中行事がまとめられたという『荊楚歳時記』に、正月に堅い飴の「膠牙餳(こうがとう)」をすすめたことが記されているそうです。
日本では、927年に完成した法令集『延喜式』や、土佐の国守として赴任していた紀貫之が、934年12月21日に土佐を出発し翌年2月16日に京都にもどるまでの日記『土佐日記』の中で、大湊で過ごす元旦の記述に「芋茎、荒布、歯がためもなし」と出てくるので、平安中期には正月の行事になっていたようです。『源氏物語』の第二十三帖「初音」にも、「歯固めの祝ひして、餅鏡をさへ取り混ぜて」と登場します。
それでは、この「歯固め」で食されたものは、どのようなものだったのでしょうか。この源氏物語の記述にもあるとおり、餅鏡(=鏡餅)は歯固めのアイテムのひとつだったようで、1146年頃に記されたという平安期の儀式・行事の調度の図『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』には、歯固めの品々を載せた台に鯛や鯉、鹿、押鮎などとが並んで鏡餅が描かれています。
私にとって「葩餅」をいただくのは、今回人生で初めての経験です。
梅の花びらを模ったという薄くて丸いお餅の中に、薄いピンクに染めた菱餅が忍ばせてあるのですが、白いお餅を通してほのかに透けて見えるその加減がとても上品です。優しい甘さで弾力のあるお餅の中に包まれているのは、とてもなめらかでトロリとした甘いお味噌の餡。そしてその中には、柔らかくホクッとした食感のごぼうが隠れていて、その豊かな香りが口に広がり、とても幸せな気持ちになりました。
ポイントは、トロリと流れ出てくる餡をいかに垂れないようにしていただくか。御懐紙に包み、その端を少し折り曲げて、餡が垂れないように気をつけながら食べてみてください。きっと宮中のお正月気分を味わえること請け合いです。
小池ひかり(情報デザイン学科1年生)
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なお、川端道喜製「御菱葩」をお求めになりたい方は、毎年12月1日より電話予約を受け付けているとのこと。当たってみてください。
<写真:高橋保世(美術工芸学科3年生)、描画:地田圭織(美術工芸学科3年生)>
【参考図書】
◇『和菓子の京都』(<川端道喜著/岩波新書119、1990年>
◇『ものと人間の文化史89 もち(糯・餠)』<渡部忠世, 深澤小百合著/法政大学出版局、1998年>
◇『日本庶民生活史料集成 第23巻「三條家奥向恒例年中行事」』<三一書房、1981年>
川端道喜(かわばたどうき)
住所 | 京都市左京区下鴨南野々神町2-12 |
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電話番号 | 075-781-8117 |
営業時間 | 9:30~17:30 |
定休日 | 水 |
価格 | 御菱葩 1,500円(税込) |
※ご購入の際は、事前の予約が必要になります。
※御菱葩は、毎年12月1日より予約を受け付けます。
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瓜生通信編集部URYUTSUSHIN Editorial Team
京都造形芸術大学 広報誌『瓜生通信』編集部。学生編集部員24名、京都造形芸術大学教職員からなる。
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小池 ひかりHikari Koike
1997年広島県生まれ。京都造形芸術大学情報デザイン学科2016年度入学。主にグラフィックデザイン全般を学んでいる。好きな事は週に1度の映画鑑賞。
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。
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地田 圭織Kaori Chida
1995年静岡県生まれ。京都造形芸術大学 美術工芸学科日本画コース2014年度入学。日本画専攻だけど西洋美術史を勉強するのが好き。