EXTRA2016.09.17

京都

小芋愛しき月見かな ―芋名月・小芋・小芋葉(亀末廣)[京の和菓子探訪 #4]

edited by
  • 高橋 保世
  • 瓜生通信編集部

毎月京都の和菓子を季節の話題とともにお伝えする「京の和菓子探訪」。第4回目となる9月は、中秋の名月とその時季の和菓子にスポットをあてます。

中秋の名月とは、旧暦の秋にあたる7・8・9月の真ん中の8月15日(十五夜)の月をさします。もとは、古く中国から伝わった慣わしで、日本文芸社発行の『日本の暦と年中行事 和のしきたり』(監修=国立歴史民俗博物館教授 新谷尚紀)によると、中国では、庭先の祭壇に、月の神やウサギを描いた紙製の灯火を立て、月餅や果物、枝豆、鶏頭の花などを供えて、月を祀ったそうです。

日本では、月見団子や里芋、果物、秋の七草など、お供えの仕方も地域によって多少バリエーションがあり、また、中秋の名月から約1ヶ月後の旧暦9月13日に、「十三夜」または「後の月(のちのつき)」を楽しむ日本オリジナルの風習もあるようです。

それでは、京都のお月見の定番の形はどのようなものなのでしょうか。

京都に代々住む京都造形芸術大学の関係者に尋ねると、中秋の名月の別名「芋名月」のとおり、小芋をお供えするところが多いようです。

文献でも、安政2年(1855年)に京都の公家 三条家の奥向きの年中行事がまとめられた『三條家奥向恒例年中行事』を紐解いてみると、8月15日の項に、「御月様へ御芋御備上る」の記述があります。

という次第で、京都の和菓子屋さんではこの時期に「小芋」を模ったお菓子が作られるのですが、中でも亀末廣製の小芋は、その格別に可愛いらしい姿かたちで、京都の人に愛されています。

生菓子「芋名月」

生菓子の「芋名月」は、漉し餡を白餡ベースのこなしで包み、焼き印で小芋の模様が入れられています。そして何と言っても、ちょこんとついたこぶの可愛いらしいこと。ここにも、きちんと焼きの手が入っていて、このこだわりこそが、京都のユーモア、諧謔の精神なのでしょう。

口に入れるとこなしの弾力が、硬すぎず、柔らかすぎず、そしてなめらかな餡とともにひかえめな甘さが広がります。このほどよい加減が老舗の技なのでしょうか。

 

また、亀末廣には干菓子にも小芋を模ったものがあります。この干菓子の「小芋」と、小芋の葉っぱを模った「小芋葉」は通常、月替わりの「京のよすが」という四畳半の形に仕切った干菓子の詰め合わせの中のひとつ。なので、サイズは2.5cmばかりで親指の先くらいなのですが、生菓子の「芋名月」と同じに、茶色の模様も小さなこぶもついていて、割ると中に餡まで忍ばせてあります。葉脈までひとつひとつ描かれた生砂糖(きざと)製の「小芋葉」を傍らに、このちっちゃな小宇宙の可愛らしさが、写真でお分かりいただけますでしょうか。

しかもです。この干菓子の「小芋」を口に入れると、お芋の香りまでするのです。そのことをお店の方にお尋ねすると、「よくお気づきになりました」と、周りの白い部分が砂糖、片栗粉、山の芋でできていることを教えてくれました。

「京のよすが」
「小芋」「小芋葉」ひとつの大きさが2.5cmほど
中に餡が忍ばせてありました

ところで、今年2016年の中秋の名月は新暦9月15日。

当日、旧家ご出身の京都造形芸術大学 通信教育部歴史遺産コースの栗本徳子教授の監修の下、お月見のお供えをしつらえ、美術工芸学科3年生の高橋保世さんに撮影してもらい、巻頭の写真にすることにしました。

小机に半紙を敷いた三方をのせ、ゆがいた小芋を積みます。数は十五夜に合わせて15個という説と1年の月数で12個という説があるようですが、今回は15個にしました。花は秋の七草を活けるとのことですが、今回はキャンパス内で育てた萩に薄、りんどう、吾亦紅(われもこう)、女郎花(おみなえし)。蝋燭に灯を入れて、東山に昇る月にお供えをすると、先人たちが継いできたその形の美しさに息をのみます。そして、月に照らされた小芋の可愛いらしいこと。

先人から継がれてきたお供えの美しき形
愛おしく感じてくる小芋のお供え

そこで、気づきました。この季節に作られる小芋の和菓子の可愛いらしさは、お月見のお供えをする風習があってこそ生まれた小芋に対する愛おしい気持ちがベース。この和菓子を真に楽しむことができるのは、このお月見の風情が分かってこそなのですね。

京の和菓子を真に理解するためには、京都に伝わる年中行事を日常に取り入れることが肝要なのかもしれません。

美しき東山の月(京都造形芸術大学キャンパス内にて)

そういえば、先にご紹介した『三條家奥向恒例年中行事』の9月13日の項には、「十三夜」についてのくだりもありました。

「今夕豆明月、さや豆御飯二て御祝上る。御月様へさやまめ御備。御かん酒御祝遊す事。」

早速、来月も「後の月」を楽しむことにしましょうか。枝豆御飯を炊いて、美味しい京都のお酒も燗にして。

 

 

 

 

 

 

 

<文:瓜生通信編集部、写真:高橋 保世>

亀末廣

住所 京都市中京区姉小路車屋町東入ル車屋町251
電話番号 075-221-5110
営業時間 8:30~18:00
定休日 日曜・祝日
価格 「芋名月」400円、「京のよすが」3,600円~(いずれも税込み)

 

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

  • 瓜生通信編集部URYUTSUSHIN Editorial Team

    京都造形芸術大学 広報誌『瓜生通信』編集部。学生編集部員24名、京都造形芸術大学教職員からなる。

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