EXTRA2016.10.28

京都

京の都ではぐくまれた菊への愛 ―交錦(嘯月)[京の和菓子探訪 #5]

edited by
  • 小池 ひかり
  • 高橋 保世
  • 京都芸術大学 広報課

二十四節気「寒露」の次候「菊花開(きくかひらく)」(10月13日~17日)が巡ってきました。京都の和菓子屋さんの店頭にも、菊をモチーフにしたさまざまな和菓子が並びます。そこで、今月10月の「京の和菓子探訪」は、菊にスポットをあてます。

 

まずは、菊の由来から。

菊の起源については諸説がありますが、奈良時代に中国から日本に伝わったという説が有力のようです。文献に確かな形で現れるのが、菅原道真が編纂した歴史書『類聚国史(るいじゅこくし)』第七十五巻歳時部六の項。平安京遷都から3年がたった延暦16年10月11日(西暦797年11月4日)に、桓武天皇が宴席で詠んだという和歌の中で登場します。

己乃己呂乃志具礼乃阿米爾菊乃波奈知利曽之奴倍岐阿多良蘇乃香乎(このごろの しぐれのあめに きくのはな ちりぞしぬべき あたらそのかを)

京の都の始まりとともに、菊はこの地にあったのですね。

菊はもともと中国で薬としてもてはやされ、不老不死のシンボルとされ、旧暦9月9日に菊の花びらをお酒に浮かべた菊酒を飲んで長寿を祝う「重陽の節句」のしきたりとともに、平安時代に定着し、『源氏物語』や『枕草子』にも登場するように、貴族など上層階級の間で愛され、育てられました。

その後、菊花が文様として現れるのは鎌倉時代になってからで、皇室の紋章として使われる端緒となったのは、菊を愛した後鳥羽上皇(1180-1239)と言われています。

江戸時代に入り、宮廷貴族や武家の間で愛されてきた菊が庶民の手にもわたり、園芸書も多く出版されました。中でも元禄の頃の半世紀の間に空前の発達をとげ、菊大会(菊合わせ、闘花)が流行しました。菊大会は、1680年代の終わりの頃、京都の寺町四条にあった元湘という道場に、町人7~8人が自慢の菊を持ち寄ったのが始まりのようで、その時は、誰からも振り向かれなかったそうですが、1717年に東山で開かれた菊大会には248人から710もの花の出品があり、同年江戸でも835の出品があったそうです。その頃の菊大会で入賞すると、その新種の菊の苗1本に1両~3両3分の値がついたとか。菊への愛も極まれり、というところでしょうか。

その後、日本の菊の豊富なバリエーションに驚いたイギリスのプラントハンターのR. Fortuneが、1861年に日本の菊の苗をロンドンに送り、19世紀終わりには、ヨーロッパで「キク・ブーム」が起きて、ドガやルノアールなどの作品にも多く登場することになったのだそうです。

 

さて、上記は、『週刊朝日百科 植物の世界 第8号』(発行:朝日新聞社/1994年6月5日)、『花卉園芸大百科 8 キク』(発行:農山漁村文化協会/2002年3月20日)、『(図録)伝統の古典菊』(発行:国立歴史民俗博物館/2015年10月2日)を参考にしましたことをお伝えして、本題の和菓子です。

 

菊をモチーフにした和菓子がさまざまある中で、繊細なきんとんで定評のある嘯月(しょうげつ)製のきんとん生菓子「交錦(まぜにしき)」をご紹介いたします。

嘯月製「交錦」
(イメージ画像)ぽんぽん菊

 

紹介役を務めるのは、「瓜生通信」編集部の小池ひかりさんです。

きんとんは、元は小麦粉で作られた丸い団子に餡を入れた唐菓子の「こんとん」が起源といわれていますが、現在の和菓子のきんとんは、裏ごしした餡をまわりにまとわせた生菓子の事を指します。

裏ごしに使うざるの目の大きさによって、きんとんの細かさはまちまちですが、嘯月のきんとんは、他では見られないほど目が細かいのが特徴です。この細かさで、仮に餡が固すぎたなら、舌触りが気になるでしょうし、やわらか過ぎては、造形が成り立たないことでしょう。この絶妙な加減が、職人の揺るぎない技なのだと感じさせられます。

まるで菊のいくつもの花弁のように見えてくるこの細かいきんとんは、口に入れた瞬間、優しくほどけるような食感があり、また、そのほどけるきんとんの中に隠されているのは、小豆のひとつぶひとつぶがしっかりと炊かれた粒あんで、その計算された食感の差と、やさしい甘さに、とても感激しました。

ぜひお抹茶と一緒に、秋の菊を楽しみながら食べて頂きたいお味です。

小池ひかり(情報デザイン学科1年生)

ところで、現在の京都の菊事情はどのようになっているのでしょうか。

京都の旧家ご出身の京都造形芸術大学 通信教育部歴史遺産コースの栗本徳子教授に尋ねると、昭和の頃は、近所でも自慢の菊に丹精を込めるお家が何軒かあり、10月後半から11月の前半になると、小菊を懸崖に仕立てた鉢が玄関先に飾られたものだそうです。しかしながら、最近はめっきり見かけることが少なくなったとのこと。

そういえば、先に参考にした『週刊朝日百科 植物の世界 第8号』の中に、「このようにして発達したキクの趣味栽培は、ここ数十年、再びさかんになり、栽培家は10万人を超える」という記述がありましたが、それは同誌が出版された1994年のこと。その後22年の年月の間に、菊を育てる文化がどんどん衰退していっているのかもしれません。

そこで、菊文化の再興を願って、この記事のメインビジュアルに、懸崖仕立てにした小菊を玄関先に飾った様子をご用意しました。

また、今年開催50回を数える京都府立植物園の菊花展を、会期初日の10月20日に取材し、早咲きの菊の写真をスライドでお届けいたします。

この菊花展の一番の見ごろは11月上旬とのこと。京都の菊を和菓子とともに楽しまれてみてはいかがでしょうか。

 

<写真:高橋保世(美術工芸学科3年生)>

 

御菓子司 嘯月

住所 京都市北区紫野上柳町6
電話番号 075-491-2464
営業時間 9:00〜17:00
定休日 日曜・祝日
価格 「交錦」430円(税込)

※ご購入の際は、事前の予約が必要になります。

※「交錦」は10月のお菓子です。10月末までのお取り扱いになります。

 

京都府立植物園 第50回 菊花展

会期 2016年10月20日(木)~11月15日(火)
住所 京都市左京区下鴨半木町
電話番号 075-701-0141
開園時間 9:00~17:00(入園は16:00まで)
入園料 一般 200円 高校生 150円 小・中学生 無料
アクセス 地下鉄「北山駅」下車すぐ又は同「北大路駅」下車、徒歩約10分
市バス・京都バス「植物園前」下車、徒歩約5分

http://www.pref.kyoto.jp/plant/

 

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  • 小池 ひかりHikari Koike

    1997年広島県生まれ。京都造形芸術大学情報デザイン学科2016年度入学。主にグラフィックデザイン全般を学んでいる。好きな事は週に1度の映画鑑賞。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

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