EXTRA2017.04.17

京都

都の春を箱いっぱいに敷き詰めて ―京のよすが(亀末廣)[京の和菓子探訪 #11]

edited by
  • 瓜生通信編集部
  • 高橋 保世

今年の桜の開花は、全国的に遅めだったようですね。京都も4月になってからも寒い日が続き、桜の見ごろは4月の半ばまで待つ形となりました。そのおかげでしょうか、春爛漫の景色がいっぺんにやってきました。

4月の「京都の和菓子探訪」は、そんな春いっぱいの風情を京都の和菓子屋さんが飾り菓子でどのように表現をしているのか、その様子を見ていこうと思います。

まずは、瓜生通信編集部のフォトグラファー高橋保世さんに、キャンパス周辺の春の景色をとらえてきてもらいました。

さて、今回スポットをあてるのは、昨年9月のお月見の話題でも少し触れました、亀末廣の「京のよすが」。箱の仕切りの形から、別名「四帖半」と呼ばれて愛される飾り菓子の詰め合わせです。

『和菓子の辞典』(東京堂出版)によると、亀末廣は文化元年(1804年)創業の老舗で、3代目が今の飾り菓子を考案。「京のよすが」は、昭和の戦後の復興期を担った6代目の考案によるものだそうです。

亀末廣製「京のよすが」

お花見のお重のように、杉の木の良い香りがするおよそ16.5㎝四方の木の箱の蓋を開けると、そこには、京都の春の風情がびっちり敷き詰められていました。真ん中の半帖の部分に納まる金平糖や周りの桜の花びらから、サイズをイメージしてみてください。まるで、宝石箱を覗き込むような心地です。

それでは、ひとつひとつ中身をご紹介いたしましょう。

(左)すり琥珀 (右)そぼろ

(左)「すり琥珀」または「寒氷(かんごおり)」と呼ばれる技法の半生菓子。『和菓子の世界』(岩波書店)に よると、寒天を煮溶かし、砂糖を加えて煮詰め、熱い内に麺棒で乳白色になるまですり込み、枠に流して固め、金属の型で型抜きをしてつくるそうで、すり込み作業にかなりの手間暇がかかるのだとか。口に入れると、中の寒天の柔らかい感じと外側の砂糖が固まったような甘くて硬い感じのふたつの感触が、一瞬で幸せな気持ちにさせてくれます。

(右)お店で「そぼろ」と呼ばれる半生菓子。小さく丸めた黒あんを求肥で包み、周りを餡子で作った緑色のそぼろで覆って、春の「菜種」を表現しています。こんなに小さいのに、上生菓子のように完全無欠。職人さんの手わざに関心しきりです。

(右上)桜 (左下)押物

(右上)白あんを求肥でくるみ、焼印をあしらって「桜」を表現しています。求肥の柔らかさといい、中の餡の美味しさといい、絶品でした。半生菓子。

(左下)「押物(おしもの)」。「押物」とは、もち米粉に上白糖、和三盆糖を混ぜ、木型に入れて押し固めたものをさし、別名「落雁」と呼ばれることも。緑の部分には蓬が混ぜ込まれ、春の野を表しています。口に入れると、その何とも言えないかおりが広がって、野原のただ中にいるようです。半生菓子。

(右下)三色団子 (左上)種合わせ

(右下)「松露(しょうろ)」でお花見の三色団子を表現したもの。「松露」とは、小豆餡を小さく丸め、表面にすり蜜をからめて固めたもので、別名「石衣(いしごろも)」ともいうそうです。江戸期にはもう存在していたという説もありますが、明治以降に広く知られるようになりました。ここでは、中に白あんが使用されています。こんなにもちっちゃくて可愛らしいのに、口に入れると、表面の固まった蜜と中の白あんの二重奏が楽しめて、満足度がとても高い一品です。半生菓子。

(左上)「種合わせ(たねあわせ)」と呼ばれる一品。米粉を使った種せんべいを2枚に剥いで、間に「すはま」を挟みます。「すはま」とは、黄な粉と砂糖、水飴を合わせて作るものだそう。特に亀末廣のすはまは、口の中にとても香ばしい大豆の香りが広がります。表に浮かぶ桜の花びらも上品で可愛らしいですね。半生菓子。

(上)蝶々 (右下)筏・桜 (左下)岩 

(右下)「種合わせ」と同じように「すはま」を海苔で巻いて「筏」を表現しています。半生菓子。「筏」の上にのる桜と蝶々は、砂糖と片栗粉でできた「片栗」と呼ばれる干菓子。

(左下)砂糖と卵白を使い「岩」を表現したもの。軽くて上品な甘さです。干菓子。

 

(左下)たんぽぽ (右上)蝶々 (右下)金平糖

(左下)たんぽぽの花の部分は「有平糖(あるへいとう)」。「有平糖」は、南蛮伝来の干菓子で、ポルトガル語のアルフェロアalfeloa(砂糖菓子,糖みつ菓子)が語源とする説が有力なようです。現在の「有平糖」は、砂糖と飴に水を加えて煮詰め、冷やして細工します。干菓子。一方、たんぽぽの葉は、「生砂糖(きざとう)」、別名「雲平(うんぺい)」と呼ばれる技法によるもの。「生砂糖」は、砂糖に寒梅粉などを混ぜ、薄くのばして型で抜きます。干菓子。

(右下)「金平糖」は、ポルトガルから伝わった南蛮菓子で、その語源は「砂糖菓子」の意味のポルトガル語Confeitoだといいます。回転する釜を使い、芥子の実に砂糖蜜を何度もかけて結晶を作っていくのですが、ポルトガルでは5日間くらいで完成とするところ、日本では10日から2週間ほどかけ、きれいに角が立った形状にするのだそうです。ただし、もち米を芯にしているという「京のよすが」の金平糖は、一般的な金平糖と趣を異にしていて、中が空洞もしくは小さなゼリー状のものが潜んでいるような食感でした。干菓子。

数々の飾り菓子の世界、いかがでしたでしょうか?

なお、上記文中に「干菓子」とあるのは、水分が10%未満のものをさします。一方、「半生菓子」は、水分が10~30%未満の「生菓子」と「干菓子」の中間的なお菓子。干菓子は日持ちしますが、半生菓子の日持ちは数日以内までです。

今回は、16.5㎝四方の「京のよすが」をご紹介いたしましたが、18㎝四方、21㎝四方とバリエーションがあります。また、内容は時に応じてかわります。詰め合わせにも手間がかかりますので、お求めになる場合は、あらかじめお店にお電話でご相談ください。

 

<写真:高橋 保世(美術工芸学科4年生)>

 

【参考図書】

◇『和菓子の辞典』<編者:奥山益郎/東京堂出版>

◇『和菓子の世界』<中山圭子/岩波書店>

亀末廣

住所 京都市中京区姉小路車屋町東入ル車屋町251
電話番号 075-221-5110
営業時間 8:30~18:00
定休日 日曜・祝日
価格 「京のよすが」16.5㎝四方 3,600円/18㎝四方 4,400円/21㎝四方 5,700㎝四方(いずれも税込み)

※お求めの際は、あらかじめお電話でご相談ください

 

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  • 瓜生通信編集部URYUTSUSHIN Editorial Team

    京都造形芸術大学 広報誌『瓜生通信』編集部。学生編集部員24名、京都造形芸術大学教職員からなる。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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