
2025年5月18日(日)〜21日(水)の4日間、京都市内の各会場で「CEIPA × TOYOTA GROUP “MUSIC WAY PROJECT” Global Co-writing Camp - SONG BRIDGE 2025 -(通称:コライト・キャンプ)」が行われました。「コライト(co-write)」とは、複数の作曲家やアーティストが集い、アイデアを出し合いながら楽曲を共同制作する手法のこと。欧米を中心とした音楽制作の現場では一般的で、異なるバックグラウンドを持つクリエイターたちが化学反応を起こすことで、ひとりでは生まれ得ない新たなサウンドが生まれることもあります。2001年に京都芸術大学内に開設された京都芸術劇場・studio21でも、国内外からトップクリエイター・アーティストや気鋭の若手が集い、楽曲制作に取り組みました。



今回のコライト・キャンプは、日本の文化芸術産業の持続的な成長とグローバル展開を目指し、一般社団法人CEIPA(*1)とTOYOTA GROUPが共催する「MUSIC WAY PROJECT」の一環として開催されました。「MUSIC WAY PROJECT」は、「日本の音楽が世界をドライブする」を合言葉に日本のコンテンツをもっと世界に発信すべく、日本音楽の未来を切り開いていく若者たちが進む「道」を共創し、本質的な日本音楽のグローバル化・持続的な成長を推進するプロジェクトです。国内外のアーティスト、作家、サウンドプロデューサーが一堂に集い、国やジャンルを超えた共同制作に挑戦しました。
(*1)CEIPAは音楽業界の主要5団体である日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、コンサートプロモーターズ協会が、団体の垣根を越え設立された団体です。日本の文化芸術産業が対応すべきグローバル化とデジタル化を実現すべく、文化芸術産業の活性化を促す事業を推進するとともに、人材育成や文化普及活動を展開し、日本の文化芸術産業の持続的な成長に寄与することを目的として設立されました。
今回のインタビューでは、19日(月)に京都芸術劇場・studio21で制作に取り組まれた作曲家の宅見将典さんにコライト・キャンプでの制作や、楽曲制作のやりがい、これから音楽に挑戦したい若い世代に向けたメッセージについてうかがいました!

宅見将典
グラミー賞受賞アーティスト/2001年、ロックバンド"siren"でBMG JAPANよりメジャーデビュー。
脱退後、作編曲家として活動。
2023年、第65回グラミー賞にて、ソロアルバム"SAKURA"(Masa Takumi名義)が最優秀グローバル・ミュージック・アルバムを受賞。
2024年、第67回グラミー賞にて、ソロシングル"Kashira"(Masa Takumi名義)がグローバル・ミュージック・パフォーマンスにノミネート。
代表的な提供作品はEXILE『愛すべき未来へ』('09)、AAA「CALL」('11)(第53回日本レコード大賞 優秀作品賞)、DA PUMP『P.A.R.T.Y.~ユニバース・フェスティバル~』(19)(第61回日本レコード大賞 優秀作品賞)。
特殊な環境での共同制作
4日間のコライト・キャンプ期間中、参加クリエイターとアーティストは京都市内の4つの施設・7つの会場を回り、1日ごとに異なるチームでコライト・セッションに取り組みます。会場は平安神宮、本山興正寺などの神社仏閣、studio21のような小劇場、扇子屋の奥座敷の京町屋など、京都ならではであり、普段は音楽制作に使用しないような刺激的な場所で行われ、20日(火)には、コライト・キャンプで制作した楽曲のリスニングパーティも行われました。
宅見さんは、1日目は平安神宮、2日目はstudio21で制作されたんですね。いつもと違う環境での制作はいかがでしたか。
宅見さん「作曲する際、周囲の環境が音楽家に与える影響って本当に大きいんだなと感じました。ぼくは大阪出身なので、京都には昔から何度か来ているんですが、平安神宮で曲を作るなんて、人生で最初で最後かもしれません。平安神宮では、大きな池の見える尚美館(貴賓館)で、みんな畳に座って車座になってセッションしました」

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宅見さん「普通、作曲やレコーディングを行うスタジオは音の反射や響きが緻密に計算されているんです。楽曲の音量やバランスを調整して、楽曲として完成させる『ミックス』の段階は、きちんと調整された場所でしかできない。今回はその前の『作曲』の段階だから、厳密な音響設備がない寺社仏閣や学内の小劇場のような開放的な場所でもできたんだと思います。2日目のstudio21のような環境での制作も珍しいです。壁が遠いので、いつもと音の感覚は違いました。いつもと違う環境での制作では、その空間において適切な音楽を作ることや、環境から汲み取って作ることを意識しています」
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2日目はグラミー賞にノミネートされた経験を持つロサンゼルス出身のプロデューサー・Seann Boweさんと、タイの人気ロックバンド・Slot Machineのおふたりと共同制作されました。どんな曲を作られたんですか?
宅見さん「Slot Machineと一緒にやるので、R&Bではないなと感じて、ロックをベースにした楽曲を作りました。彼らのスタイルを尊重しつつ、日本特有のエッセンスを入れたらどうなるのか考えていたら、彼らも『ギター入れなくていいよ』って言ったりして、みんな自分たちのスタイルに新しいエッセンスがほしいんだなと感じました。やっぱり、自分の音楽に飽きてくるんですよね。ぼくは30代になってコライトをやってみて、はじめは人と曲を作る意味がわからなかったんです。日本には『楽曲を共同制作する』という文化が浸透していなかったので。でも、アメリカに行ってコライトを学んで『人と楽曲を作るってこういうことなんだ』と知りました。15年ほど続けて、いまは若い作曲家を応援したいなと思っています」
コミュニケーションによる変化を楽しむ

当日は、studio21で行われているコライト・セッションの様子を見学させていただきました。英語でコミュニケーションを取りながら、それぞれの特技やスタイルを活かし、曲を形作っていきます。プロデューサー(トラックメーカー)を担当したSeannさんが口ずさんだメロディーを、すぐさまピアノで音にする宅見さん。その音を聞き、コメントするSlot Machineのおふたり。作曲家とアーティストがアイデアを出し合いながら曲を作っていくのも、コライト・セッションの醍醐味です。
2日目、実際に曲を作ってみて、いつもの制作と違う点はありましたか?
宅見さん「やはり、環境や組む相手次第で、毎回違うものができますね。ぼくはどちらかというと『自分はこうだ』と決めて制作に入るタイプではなく、状況にアジャストしていくタイプなんです。1日目はフレンチポップで、2日目はヘビメタと、制作した曲のジャンルもまったく違いました。それぞれの状況でアーティストのスタイルがあって、だれがイニシアチブを取るのか把握して、数時間で楽曲を仕上げていく。最短距離で、その日のメンバーにとって最善のジャンルにアジャストしていくのがぼくの持ち味なのかもしれません」
コミュニケーションを取りながら曲が変わっていくこともあるんでしょうか?
宅見さん「ありますよ。2日目の場合は、最初にぼくが『こんな曲やろうよ』と提案したら、『それいいね』となって、そのテンポでビートを作っていくうちにSeannさんが違うコードを弾き出して。ぼくが最初に提案したコードとは違うけど、『それもいいね』となって、テンポを調整したり、Slot Machineのふたりがまた新しいアイデアをくれたりして、どんどん変化していきました。ひとりで音楽を作るのとはまったく違う感覚ですね。作品を3人で作っていたとしたら、1/3は自分だけど、ぜんぶ自分のものではない。ソロと共同制作、両方に違う芸術性があると思います」
いつからでもはじめられる
今回のコライト・キャンプでは、国内外で活躍する若い才能と、ベテランの作曲家・アーティストが地域や世代を超えて交流し、共同制作をするというのも醍醐味のひとつ。1日目に宅見さんがコライト・セッションを行ったのはフランスを拠点に活動するシンガー・Gabi Hartmannさんと、幼少期を世界各地で過ごし、現在はソングライター・プロデューサーとして活躍するRyuji Yokoiさんでした。
1日目は違うジャンルの曲を2曲制作されたんですね。それぞれ、どのような曲になりましたか?
宅見さん「1曲目はぼくがイニシアチブを取って、コードやメロディを提案しました。ビートはYokoiくんが打ち込んでくれて、楽器はぼくがぜんぶ弾いて。2曲目は、ちょっと気を抜いたフレンチポップみたいな曲になりました。ジャジーなトラックをぼくが作って、ボーカルのラインと歌をYokoiくんとGabiさんにお願いしました。2曲目の方が、ちょうどいい配分ですね。Yokoiくんは英語も堪能で優秀で、コライトというシステムがとても合っていると感じました。彼はDTM(デスクトップミュージック)に長けていて楽器はあまり弾かないんですが、だからこそ、楽器を弾く人とマッチングしたり、ボーカリストが加わったりしたら、すごくいいチームになるんです。そういう、才能のある若い人にバトンを渡していきたいと思いました」
Yokoiさんのような得意分野がはっきりしている方も参加されている一方、宅見さんはピアノやギター、オーケストラから和楽器、EDMまで手がけるオールラウンダーです。どうやってその演奏技術を身につけたのか、と学生時代のことをうかがってみると、「ぼくは高校3年生の夏に突然『音大に行こう』と志したんです。家にピアノもなかったのに」と意外な言葉が。吹奏楽部やバンドで楽器に触れる機会はあったものの、ピアノを本格的に習ったことはなかったのだといいます。
宅見さん「結局、理論を学んだ経験がなくても作曲を学べる学科のある音楽大学に入学しました。でも、ぼくは『ショパンみたいな曲が作れない』って世界最高峰の作曲家と自分を比べて落ち込むような悪い癖があったんです。当時の先生には『ピアノも家になくて、音大に入ったばっかりの子が、ショパンみたいな曲をなんでいきなり作れると思うの』って怒られました。当然ですが、それぞれに環境も違えば、やってきたことも違う。だから、人と比べるんじゃなく、自分が楽しいと思うものを作って、そこから楽しむことをスタートにしてほしいですね。数学や語学は『学』ですけど、音楽は『楽』じゃないですか。音楽だけ違うんです。文字通り楽しんで、好きなようにやって、それから次の段階が来るんだと思います。いつはじめても遅くないってことを伝えたいですね」
経験や環境に左右されず、だれでも、いつからでもはじめられる。音楽を制作することに魅力を感じている方にとって、一歩踏み出す勇気をもらえるようなメッセージをいただきました。
今回、コライト・キャンプの会場のひとつとして作曲家・アーティストの交流の場を作り、MUSIC AWARDS JAPANのシルバーパートナーも務めた京都芸術大学は、2026年4月に国内で唯一、完全オンラインで「音楽」制作を学ぶことができる芸術学士課程「音楽コース」(正式名称:通信教育部芸術学部文化コンテンツ創造学科音楽コース)を開設します。楽器が弾けなくても、楽譜が読めなくても、DTMによって音楽を創りながら制作技術や理論を1から学べ、プロを目指す人から生涯、音楽制作を続けたい人まで、幅広く学ぶことができるコースです。
詳細はこちらのプレスリリースをご覧ください。
音楽を学びたいすべての人へ。7月には京都芸術大学「音楽コース」についての新たな情報も解禁予定です。ぜひ、続報をお待ちください!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。