SPECIAL TOPIC2024.09.13

アート

omnium-gatherum (ごちゃ混ぜ)の中の出会いから生まれるクリエイティビティ「DOUBLE ANNUAL 2025」キックオフミーティング

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  • 京都芸術大学 広報課

進化し続けるキュレータ―指導型の学生選抜展「DOUBLE ANNUAL」

2024年7月24日、京都芸術大学ウルトラファクトリー4F(至誠館4F)と、東北芸術工科大学をZOOMで中継して、「DOUBLE ANNUAL 2025」のキックオフミーティングが開始された。今年は応募数89組106名の中から、11組16名のアーティストが選抜された。

「DOUBLE ANNUAL」は、京都芸術大学と姉妹校である東北芸術工科大学の全学部生と院生を対象とした学生選抜展あり、第一線で活躍するキュレーターを招聘し、キュレーターが提示したテーマに応答する形で、学生がプランを提出して選抜。キュレーターの制作指導を受けながら共に展覧会をつくり上げるユニークな芸術教育プログラムでもある。

このプログラムは2017年度から片岡真実(森美術館館長、京都芸術大学大学院教授、初代国立美術館国立アートリサーチセンター長)をキュレーターに迎え、京都芸術大学単独で3年間開催された。それを服部浩之(キュレーター、東京藝術大学大学院映像研究科准教授、東北芸術工科大学客員教授、青森公立大学 国際芸術センター青森 [ACAC]館長)が継承する。2022年度から東北芸術工科大学との合同展となり、総合ディレクターに片岡が就任(2023年度は監修)。服部が東北芸術工科大学、金澤韻(現代美術キュレーター、京都芸術大学客員教授)が京都芸術大学のディレクションを担当し、各大学でプレビュー展が行われ、最終的に国立新美術館で開催される展覧会として成長してきた。

そして、今年から体制を一新。京都芸術大学のディレクターに、京都芸術大学の卒業生で、インディペンデント・キュレーターとして活躍している堤拓也が就任した。東北芸術工科大学側のディレクターは、青森公立大学 国際芸術センター青森[ACAC] の主任学芸員である慶野結香が担当。片岡真実が引き続き監修として就任することになった。

堤は、片岡が芸術監督を務めた、国際芸術祭「あいち2022」でもキュレーターを担当したほか、京都芸術大学出身のアーティストが立ち上げた共同スタジオ、山中suplexの共同プログラム・ディレクターでもある。堤は山中suplexを舞台に、ドライブイン展覧会「類比の鏡/The Analogical Mirrors」を企画するなど、画期的なキュレーションで知られている。山中suplexは、共同スタジオでもあるが、それ自体がコミュニティやコレクティブ的な働きをして注目されている。堤も、山中suplexで制作しているわけではないが、入居しているメンバーと一緒に、さまざまな展覧会やイベント、レジデンス事業などを行ってきた。

グローバリズムの裂け目から見る合わせ鏡 ― ドライブイン展覧会「類比の鏡/The Analogical Mirrors」 | 瓜生通信
 

いっぽう、慶野結香もユニークな経歴である。東京大学総合研究博物館で修士課程を終えた後、秋田公立美術大学の助手として大学主催展覧会や、レジデンス事業を企画運営。その後サモア国立博物館にJICA(国際協力機構)の青年海外協力隊(学芸員)として赴任。現地の博物館やアーティストと協働事業を行い、帰国後は国際芸術センター青森[ACAC] でレジデンスや展覧会などをキュレーションしている。

アートにとってキュレーションするモノとは何か?慶野結香×堤拓也「“ARTIFACT”から考える ― 場所とモノに対するキュラトリアルな実践」 | 瓜生通信

以前、堤と慶野は、山中suplexらのメンバーを招聘し、京都府域展開アートフェスティバル「ALTERNATIVE KYOTO もうひとつの京都 想像力という〈資本〉」の一環として、福知山の旧銀鈴ビルで「余の光/Light of My World」展の共同キュレーションを行っている。ともに、アーティストと協働したり、滞在制作をオーガナイズしたりすることを得意としており、美術館という美術制度に守られた空間だけではなく、個性的な空間での展示をディレクションすることが可能だ。そして、まだあまり知られてない若いアーティストと協働して、飛躍させるという現場に立ち会ってきた。

ヤノベケンジの龍がつくる新たな伝説と福知山の光のネットワーク「ALTERNATIVE KYOTO もうひとつの京都」 | 瓜生通信

今回、堤と慶野が募集のために立てたテーマが、「omnium-gatherum (オムニアム・ギャザラム)」だ。それは「ごちゃ混ぜ」を意味する。そこで期待されるのは、すでに絵画や彫刻、版画、写真といった定まったフォーマットやジャンルを超えたり、異なるスキルや多様なバックグラウンドをもった人々がコレクティブなどを組んで協働したりすることを期待したものだ。

 

地域性と民俗性を特徴とする、東北芸術工科大学の新たなメンバー

キックオフミーティングには、堤や慶野、京都芸術大学、東北芸術工科大学の両方のアーティスト、担当教員、スタッフが一堂に集まり、ZOOMで対面しながらそれぞれ自己紹介やプランの紹介が行われた。

結果的に選ばれた学生のプランは、すでに一線で活躍するアーティストのプロポーザルと遜色ないというレベルの物が集まったと慶野は語る。さらに、個々のプランだけではなく、展覧会を一緒につくりあげていくために、選ばれたアーティスト同士の意見交換や協働を期待し、「何を、いかに、今、見せるべきか」実践するプロとして伝えていきたいと抱負を語った。

実は、今年から初の試みとして、京都芸術大学と東北芸術工科大学の選抜者が東京に集まる東京合宿がある。昨年までは国立新美術館での設営と展示の期間だけが互いの交流機会であったが、今年は1つの展覧会としてより協働性を高める形になる。また、服部が設置したアシスタント・キュレーター、アート・メディエーターの制度をアップデートし、志望者の得意分野・専門分野を考慮した実務者として、アート・プラクティショナーという役割を設けたのも特徴だろう。

さらに、制作に対するウルトラファクトリーのような技術支援や、テキストや映像記録、デザインといったさまざまなジャンルの教員、広報、事務などの手厚いバックアップ体制が改めて示された。

 

自己紹介・プラン紹介は、東北芸術工科大学側から始まった。山形県米沢市の山間地域の鈴木藤成(東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻 複合芸術領域 M2)は、2年前に自身の家が代々管理する神社を自身が引き継ぐことの葛藤をテーマにし、ブルーシートをメディムにした巨大な絵画を制作した。

2回目の選抜となる今回は、その視野を広げ、急速に高齢化していく地元の村落の将来を見据えた地域計画に対して、別の観点から介入し、地域住民との対話や調査を元にブルーシートを素材にして制作することを計画している。また、今回からアート・プラクティショナーとともに、リサーチをすることも検討しているという。調査から制作にいたるまで、個人的な問題から始まり、周囲の人々や社会に開いていくことは大きな成長といえるだろう。

慶野は、「鈴木が唯一の山形県の地元出身者になるが、半分客観的な視点を持っており、アート・プラクティショナーとフィールドワークをしながら、それらの成果をブルーシートに出力するという非常によいプロジェクトで、プロセスなどの見せ方について一緒に考えられるのではないか」と評した。また、堤は、「一般的に画家は街にあまり出なくても作品制作できるが、外部に開いていって自身の地域の問題に着目して、絵画に結び付けようとしている点を評価した」と語った。

 

篠優輝(東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻 絵画領域M1)は、幼少期から東北地方につくられてきた伝統こけしの研究を行い、こけしをモチーフにした絵画を制作してきた。篠によると、2010年頃から伝統こけしは、東北文化への再注目や東日本大震災の復興のためのシンボルとして取り上げられたり、SNS(Instagram)によってさまざまなタイプのかわいいこけしが共有されたりして人気が出ており、第3次ブームが来ているという。しかし、「伝統こけし」という、実は明治時代以降につくられた伝統は、伝統主義者によって狭義に解釈され、研究者や蒐集家の独占物となり、新しいこけしへのアプローチを抑圧するような傾向が生まれきた経緯もある。

かつて伝統こけし研究家の土橋慶三は『こけしの旅』(未来社、1983)において、「こけし界」の問題として、①こけし工人、②販売員、③蒐集家、④研究者、⑤コンクールの審査員を挙げたという。それはさながら、分析哲学者アーサー・ダントーのいう「アートワールド」のプレイヤーの定義のようであるが、 篠はさらにSNSのようなメディアの登場で、それらを結んでいく6番目の役割も現れてきているのではないかと指摘する。

篠は、それらのプレイヤーをモンタージュを使った群像にして、6枚の巨大な絵を描くという。それはこけしを取り巻く、こけしワールドの絵画であるし、メタ的なある種の制度批評といってもよいだろう。

慶野は、「宮城県出身であり、こけしの伝統に関する問題から、現在起きているメディアの問題まで取り上げるのはすごい挑戦だし、絵画でどのようなことができるか、インスタレーション的な展示などを一緒に考えることができると作品が深まる」と評した。堤は、「1枚で完結するような絵画ではなく、巨大なパノラマのようなことを考えているのが面白い」と語った。

 

栗原巳侑(東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻 複合芸術領域M2)は、幽霊や霊魂に関する表現を研究しているという。そして、「omnium-gatherum」に類似した言葉として、人類学者のレヴィ=ストロースが提唱した「ブリコラージュ」を挙げ、幽霊や霊魂のような認知不可能なものを認識するために、交換可能な概念や物質に置き換えることを人間はしてきたと指摘する。なかでも、土地がその場所で起きた出来事を記録し、再現するとした霊障の理論である「ストーンテープセオリー」では、古来より霊障と関連の深い石と現代の磁気テープを、記録媒体の観点から結びつけたものだと提示する。

そこで「地霊」とも呼べる、東京展が開催される、国立新美術館の土地の歴史に着目した。実はもともと国立美術館の場所には、1928年に建設されたコンクリート造の近代建築である陸軍第一師団歩兵第三連隊兵舎があった。関東大震災後の震災復興建築として扱われ、戦後は2001年まで東大生産技術研究所として使用されていた歴史がある。そのような土地の記憶を再生すべく、砂鉄や電子記録に多用される磁気を使って、陸軍第一師団歩兵第三連隊兵舎の幽霊を、国立新美術館内に顕現させるプランを提示した。

慶野は、「今回の提案の中で唯一、国立新美術館の場所や歴史を扱ったものであり、土や砂鉄などをどう使うのかは議論になるがぜひクリアして実現してほしい」と語った。堤は、「制度批判として美術館をテーマにすることはあったが、国立新美術館やその前身となる建築にまで着目し、主題とする作品はこれまでなかったと思うので意義がある」と評した。

 

越川諒子(東北芸術工科大学美術科 洋画コース 3年)は、これまで同じ登場人物(役者)を、設定を変えながら絵画に登場させてきた。しかし、絵画という同一平面にとどまった表現では、そこに込められたストーリーがどのようなものか十分に伝わらず、観客とのコミュニケーションに限界があると感じていたという。そこで今回は、絵画に描いてきた登場人物を粘土でつくり、クレイアニメーションと朗読劇、歌劇を融合させた約20分の映像作品をつくり、舞台セットとして絵画を描くことで、一つの劇場をつくるプランを提示した。そのためのストーリーとして、神聖視の内面化、過去のカミングアウトなどの要素をもとに脚本したという。

慶野は、「世界観がしっかりしており、ストーリーテリングの方法論自体が独自性をもっているが、古代から物語がどうして続いてきたか、物語の役割とは何かという批評性、現代において物語をどう考えればいいかという真摯な問いも含んでいる」と評する。堤は、「ストップモーションという、今ではNHKとかで見られるようなアニメーションの方法を使って、20分の映像作品にするのは面白い」と語った。

 

Modern Angelsは、榮村莉玖(東北芸術工科大学美術科 洋画コース 3年)、荒井佳能(東北芸術工科大学美術科洋画コース 3年)、早坂至温(東北芸術工科大学美術科彫刻コース 4年)によるコレクティブである。「DOUBLE ANNUAL 2023」をきっかけに結成し、2回応募をしてきたが、両方最終選考で落選し、今回が3度目となるという。「いきること・さまざまなものにあたること・ばったりとでくわすこと」というコンセプトと「いき あたり ばったり」をテーマに、活動を続けてきた。

榮村をリーダーに2024年、7人体制から現在の3人体制になった。今までのキュレーターには選ばれなかったが、今年選ばれたというのは、それだけキュレーターによって選考基準が異なるということでもあり、定期的に体制を変える意味があるといえるだろう。

2023年8月20〜23日の2泊4日、山形から箱根まで「行き当たりばったりキャンプ vol.1」を実施し、その成果を今年の5月に「行き当たりばったりキャンプ」展として開催した。体験的なインスタレーション作品として展示し、そこでもキャンプをはり、作品内で2泊3日過ごした。その他にも、標高1000mに登ってキャンプをする「標高約千メートルで千の風になって」や、学生主体、予算0の芸術祭「山形トリエンナーレ」を主宰するなど、実践とコミュニケーションをテーマにした制作を続けている。もともと個々でも絵画や彫刻などの作品を制作しながら、それらに収まらない表現を、コレクティブを組んで表現しているのは、「具体」や「ハイレッド・センター」、「THE PLAY」など日本の前衛グループと重なり興味深い。

今回、「国立新美術館を中継地点として山形-東京-京都を旅しながら滞在制作する」ことを提案しており、土地の文化や生活を感じながら制作をするため、「現地調達したもので作品をつくること」「旅の最中は緊急時以外、スマホ禁止」「京都芸術大学の学生と交流し、合作するまで帰れません」というルールを決めて、今日の通信手段からあえて距離をとり、地域や人の特性を交わろうとしている。

慶野は、「今回の「omnium-gatherum」のテーマを体現するようなコレクティブに参加してほしかった。「行き当たりばったりキャンプ」は素朴でどうなるかわからないが、記録行為とのせめぎあいが面白いと思う。京都のメンバーともごちゃごちゃするのも是非やってほしい」と語った。堤は、「3回目の応募でようやくテーマに合致して選ばれたと思うが、エネルギーが凄そうなのがいいと思った。プランから構築をして建築的につくるのが一般的だが、滞留しがちなプロセスをかき回してくれることを期待している」と述べた。

 

国際性と工芸的技巧を更新する京都芸術大学の新たなメンバー

いっぽう京都芸術大学からは6組のアーティストが選出された。北海道出身の菱木晴大(京都芸術大学美術工芸学科3年)は染織テキスタイルコースに所属している。今まで作品として、ファイバーアートやテキスタイル、アパレルなどを制作しており、マンデイプロジェクトのねぶた制作時のリーダーなども務めてきた。

今回は、奈良から和歌山に向かう熊野古道を旅行したときに、熊野本宮大社で見た、プリミティブな織ともいえる、巨大な注連縄に感銘を受けことがきっかけになっている。注連縄は、「現世」と「常世」、「この世」と「あの世」を分けるものだが、かつてその素材は主食であるコメを入れるための藁でできていた。しかし、今日ではコメ以外に生活に欠かせない素材がたくさんあるので、インフラなど使われている廃材などを利用して巨大な注連縄を制作するという。予定最低サイズを横約 6〜7m、縦4〜5mという破格の注連縄を想定しており、素材的にも構造的にも、搬入・搬出にも相当な計算が必要となる。

堤は、「単に大きなソフトスカルプチャーをつくるのではなく、高校時代に国際教養科でファストファッションの工場を見たり、社会問題を学んできたりした経歴と絡められそうだなと思った」と評した。慶野は、「素材が集まるのか、どうやって集めるのかも含めて面白いと思うのと、現在のインフラに関わる部材で境界をつくるので、展示自体も境界性を持つ在り方ができればもっとパワーアップする」と指摘した。
 

Viola Niklas(京都芸術大学大学院芸術専攻美術工芸領域 M1)はドイツでビジュアル・ジャーナリズムとドキュメンタリー写真を学んできた。この20年の中でもっとも激しい変化を遂げたのは、ジャーナリズムと写真といえるだろう。もちろんそれはデジタル化やネットワーク化がもたらしたものだ。フィルム写真のときのような、光と物質による痕跡としての写真はなく、あらゆるビジュアル表現が最終的には数値に還元される。急速に進展するAIは、その数値の配列を学習することで、この世にない写真をつくることも可能だ。そこにNiklasは失われた物質的な要素を取り入れようとしている。

3つのプランでは、ポートレート写真に物質的な有限性を組み込んで欠損させたり、自身の顔を削除した写真をAIに学習させ、最終的にフィルム写真で現像できるようしたり、AIがイメージを生成した数値のコードを、自身の手で壁に手書きするといった提案がなされている。さらに「歯車」になると形容されるように、かつて機械に人間が使われる社会を、チャップリンが『モダン・タイムス』において鋭く表現したが、今日においては、身体レベルから知能レベルに高度化しており、AIに人間が使われる社会の批評といってもよいだろう。

堤は、「さまざまなアーティストがデジタルと身体、アナログとの関係性を問うてきたけど、3つ目の案が面白いと思う。二進数に還元される画像のプログラムを自ら書いて、その実態を身体を介して考え直す試みであり、かつパフォーマンスになっているのは発展の可能性がある」と指摘した。慶野は、「アナログ・デジタルの話は写真論やイメージ考古学で問われてきたことなので、そのような硬いテーマに、言葉ではなく展示でどう伝えることができるかというのは、一緒に考える余地がある」と語った。

 

台湾・台北出身の張子宜(京都芸術大学美術工芸学科4年)は、写真・映像コースに在籍しており、映像作品を制作すると同時にハプニングパフォーマンスを行っている。

「DOUBLE ANNUAL」で提案したプランの1つは、自身がパフォーマーとなって、20~40mのロープの内側を延々と歩く。同時に、ロープを移動する別のパフォーマー2人が、円形や楕円、あるいは凹凸のある形へと変化させながら、少しずつロープを動かして目的まで移動させるというものだ。

非常にシンプルな行為でありながら、空間を捉えるために極限まで切り詰められたパフォーマンスに思える。複雑な動作やパフォーマンスではないので、鑑賞者もある程度、自分を投影して見ることができる上、パフォーマーの運動性よりも、移動する中で発見される空間の変容に意識が向くようになっている。

堤は、「これまでパフォーマンス自体が作品になることはなかった。展覧会は静的になるのが一般的だが、オープンしてからどう動的にするのかが課題で、コレクティブもそうだし、張さんのパフォーマンスもその要素として取り上げた」と述べた。慶野は、「時空間の在り方をパフォーマーだけではなく、鑑賞者もインタラクティブに感じられる作品であり、同時に、スコアや空間の変容性をどう表せるか可能性がある」と指摘した。


小坂美鈴(京都芸術大学大学院芸術専攻美術工芸領域M2)は、さまざまな染織テキスタイルの作品を制作している。小坂の作品は、写真を2枚出力し、それを編みこむものだが、それは決して美しいものではない。もともと、小坂が一人暮らしをしている部屋が、片付けられなくて汚いということを客観視させるために、母親が写真を撮って提示したことから始まった作品であるという。

そのような決して綺麗とは言えない自分の部屋を撮影し、2枚出力して編み込む作品であるが、プライベートな情報だったり、見られたくなかったりする部分は、細かく編み込むことで隠している。そこでは「自分の部屋」という、ある種の自身の生活習慣や内面の反映とでもいえる空間や物質を公共の場に曝け出し、同時に自覚・無自覚的に隠したいという、もっとも心理的に負荷がかかる部分を制作することで見つけ出そうとしているともいえる。「DOUBLE ANNUAL」では、今まで制作した作品は、それぞれが独立していた状態だったのを、相互につながりをもって、全体として見せることを試みる。

堤は、「隠す、モザイク処理するためにこの表現が始まったというのは素直で面白いと思うし、スタイルとしては完成されているように見えるけど、パーツをつなげようとしているのでそれを見てみたい」と述べた。慶野は、「編んでいく作品によって部屋を再現するなどの新しいアプローチを試みることで、より強い表現になることを期待している」と語った。

 

Dbl. RT FWは、ZENG XIPENG(京都芸術大学大学院芸術専攻美術工芸領域M1)とHUANG ANQI(京都芸術大学大学院芸術専攻美術工芸領域M1)によるアートコレクティブである。Dbl. RT FW とは、「ファイアウォールを再構築する権利」(The right to rebuild the firewall)を意味するという。ここで指しているファイアウォールとは、ネットワーク情報ファイアウォールであり、仮想的な国境の壁であり、言い換えれば情報フィルタリングである。

ZENG XIPENGとHUANG ANQIは、中国出身であり、極度に情報統制された環境に生きており、日本の情報環境では同じ社会的な事件でも全く別の見方がなされていることに気付く。しかし、日本の情報環境が民主的で開かれたものかと言えば、そうでもない。別のフィルタリングがかかっているといえる。このような新たな「国境」ともいえる情報フィルタリングや情報環境という生態系を可視化する、AIやガジェットを使った動的なインスタレーションを行う。

堤は、「凄く技術が必要なので実現までには変化しそうだが、ウルトラファクトリーのような技術的な支援もあるので、そういう部分は頼って実現してほしい」と語った。慶野は、「作品のテーマは、トピックとして興味深いが、いい作品、強い作品には、どう組み合わせて一つの作品にするかが重要。アイディアは断片的に聞くと面白いので期待したい。」と述べた。
 

The Itsushi Groupは中国山東省出身のキュレーター、田英凡(京都芸術大学大学院芸術専攻 グローバル・ゼミ M2)、アメリカ・ニュージャージー出身のNico Wijangco(京都芸術大学大学院芸術専攻 グローバル・ゼミ M1)、rumuによるアートコレクティブである。グループ名は、十干・十二支からなる六十干支(ろくじっかんし)、いわゆる干支(えと)の中の42番目にある己巳(いつし、きのとみ)からとられている。己巳は来年、2025年の干支を表す。今回のプランでは、逆世界、あるいは夢のコンビニをつくるという。

rumuはアメリカのコンビニで売られているお菓子「シナモンベア」を食べたら、神経過敏や胃の不調の症状が改善する。そこで成分表を見たら、成分表にカルナウバロウとミネラルオイルが含まれていることに驚いたという。rumuはソワ・リグパ研究所で、チベット医学の実践コースを受講しており、コンビニの商品の中に多数の薬になる成分を発見することになる。

そこで今回のプランでは、MaruMartという新たな「コンビニ」をつくる。Maruとは、日本語の丸であり、円であり、巳(蛇)の口と尾がつながるような、チベット医学の水、火、土、風の四元素からなる輪廻的な世界観.を象徴する。彼らは日本のコンビニは日本の象徴であると同時に国際的レベルな文化現象であり、そこにチベット医学を取り入れることで新たな融合を目指している。そして、コンビニの商品の中の薬効のある成分からつくった「薬」やそれを解説する印刷物、映像、さらにコンビニを模したセットによるインタレーション、店員を模したパフォーマンスという大がかりなインスタレーションを構成する。Nicoは、ビデオ制作、インスタレーション、ZINE制作の経歴を持つという。

堤は、「今回の「omnium-gatherum」というテーマは、一時的なコレクティブを想定していたが、どういう経緯でコレクティブをしようということになったのかわからないが、偶然集まった3名がどういった展覧会をするのか興味がある」と語った。慶野は、「グローバル・ゼミによる3名による現代日本への社会批評性を持ったプロジェクトで大変面白いと思うが、国立新美術館の会場は11組でも個々に与えられるスペースが大きいので、展示の仕方は議論したい。」と語った。


さらに、アート・プラクティショナーとして、京都芸術大学から永山可奈子(芸術専攻 グローバル・ゼミ M1)、GUO WEIKE(芸術専攻 情報デザイン・プロダクトデザイン領域 M1)、鬼頭由衣(アートプロデュース学科 3年)、福井歩純(情報デザイン学科 クロステックデザインコース 3年)の4名、東北芸術工科大学から松本妃加(文化財保存修復学科 3年)、横田絢女(グラフィックデザイン学科 3年)、佐藤弘花(芸術文化専攻 保存修復領域 M2)、佐藤彩衣(工芸デザイン学科 2年)の4名、合計8名が紹介され、キュレーター志望者だけではない多様な人材が集まった。

 

今まで京都芸術大学と東北芸術工科大学の選抜アーティストは、国立新美術館の設営・展示期間中だけ出会っていた。それでもその期間中の出会いや情報交換について貴重であったという感想は多かった。今回、合同のキックオフミーティングや東京合宿、さらに両者をまたがって活動するコレクティブなどが行き来することで、全体が一つのコレクティブ、プロジェクトとして、さらに密度の高いコミュニケーションが発生するだろう。それらの交流が半年の間にどれだけ深化をし、展覧会として結実するのか期待が膨らむ。

(文=三木 学)

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