REPORT2023.01.10

飛騨高山の美しい街並みや伝統的な木造建築物を体感する[収穫祭 in 岐阜]

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

通信教育課程では全国津々浦々に在学生や卒業生がいることを生かして、2000年度より在学生・卒業生・教員の交流と学びを目的とした「秋の収穫祭」という催しを開いています。その名のとおり、2018年度までは実りの秋に各地より厳選した4会場において実施されてきましたが、2019年度からは秋だけでなく1年を通して8会場で開催しています。

収穫祭では、全国様々な地域の特色ある芸術文化をワークショップや特別講義を通して紹介することや、公立私設を問わず美術館や博物館の社会への取り組みや発信、また開催中の展覧会を鑑賞することなどを行っています。

今回、10月29日に岐阜県高山市で行われた収穫祭について、担当した建築コース・殿井環教員からの現地報告をご紹介します。

  • 2018年度「秋の収穫祭」リーフレット(表面)
  • 2018年度「秋の収穫祭」リーフレット(裏面)

 

10月29日に飛騨高山での収穫祭「飛騨高山街歩き」が開催されました。

昨今、建築の世界ではさまざまな街歩きが催されています。新しい建築が今後も建ち続けると言うよりは、これまでのストックを生かす必要に迫られる時代に入ったことを背景に、街を知り、ストックされた建築を使いこなすユーザーを育てようという社会的な風潮があるように思います。

飛騨高山は、古くからの美しい街並みや建築を居住や観光のために使いながら維持、保存してきている地域です。見て歩く街歩きというよりは、建築物の中に入って買い物をしたり、お茶や食事をしたり、実際に街を使ってもらいながら街歩きをしてもらいたいと企画した収穫祭でした。気の効いたレポートができるとよいのですが、仕事柄どうしても建築目線になります。ご笑覧ください。

 

木工の街 飛騨高山

はじめに降り立った高山駅は、高知の牧野富太郎記念館や安曇野の岩崎ちひろ美術館などの設計で知られる建築家 内藤廣さんの設計です。駅舎の壁や天井、待合の椅子やベンチなど、内装に地元の木材がふんだんに使われ、コンコースの郷土展示とも相まって飛騨高山にやって来たことを実感しました。

高山祭の屋台が展示される高山駅のコンコース
木工道具の展示

 

町屋建築が並ぶ通りを歩く

駅から20分ほど歩いた豊明台組保存区域にある日下部民芸館(日下部家住宅)と吉島家住宅が始めの見学先です。2つの建築物が面する通りは、街並みと一緒にそこでの生活の様子が感じられて非常に美しかったですね。この2つの建築物は、どちらも商家のための町屋建築です。京都の町屋との類似点も多く見られますが、冬の積雪や建築用の木材が豊富にある立地を背景に、木材が太く堅牢であったり、京都では漆喰で仕上げられている箇所が木材であったりと、木の街の固有性が町屋にも現れていました。また、通りに面した庇である裳階(もこし)が前に出る京町家に比べて、積雪に備えた上段の大屋根が前にせり出すつくりは、飛騨高山の町屋や街並みの特徴になっていました。

日下部民藝館と吉島家住宅が並ぶ通り(以下より引用)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Shimoninomachi_Takahaya_Gifu_pref01s3s3870.jpg
日下部民芸館前では街並みについて簡単に解説


その内部には、木そのものの存在感がある13mにもおよぶ梁と、その上に組まれたジャングルジムのような立体的な小屋組が見られ、思わず上を見上げてしまいます。高窓からの自然光によって明暗の同居する印象的な空間でしたね。この架構の空間は多くの建築関係者に愛されているもので、私も学生の時に写真で魅せられて訪問しました。

それぞれの建物を管理されている日下部さん、吉島さんとのお話の中で、若手から巨匠まで多くの建築家が飛騨高山に定期的に訪れていることもお聞きし、今なお建築文化と親密な関係にある地域であることも感じられました。何よりおふたりとも街と建築に対する愛情が溢れた建築通でした。

架構の説明をきく
自然光に照らされた架構

 

今も使われる伝統建築物

次は、南に向かって移動しながら三町の伝統建築物保存地区を散策しました。三町は伝統建築物保存地区ではありますが、住居や土産物、酒屋、カフェ、レストランなどとしてどれも現役の建物として使われ、伝統建築物保存地区になっています。みなさん、どのように過ごされたのでしょうか?私はお土産をいくつか購入しましたが、お店の奥に中庭があって意外と深くまで建物が続いているつくりに、奥へ奥へと散策してしまいました。

三町伝統建築物保存地区への道中
住居と店舗が入りまじる三町伝統建築物保存地区


三町を通り抜けると、3つめの見学先である高山陣屋がみえてきます。高山陣屋は、幕末には60数カ所あったと言われている幕府の代官・郡代所の一つですが、当時の主要建物が残っているのは高山陣屋のみということでした。驚きだったのは、昭和44年まで県の事務所として使われていたことです。時代劇のような室内空間に蛍光灯がぶら下がり、現在と変わらないシャツ姿の方が仕事をしている様子が写真で残っていました。

 

高山陣屋では10人ずつのグループに分かれて見学
かつての執務スペース。部屋によって建具や畳表等の設えが少しずつ異なる
入ってすぐの正面にある青海波文様の大床


建築的な見所は多くありますが、ひとつあげると屋根が全て木でできている!ことです。熨斗(のし)葺き、柿(こけら)葺き、石置長榑(いしおきながくれ)葺きという、いずれも木の薄板で葺かれた屋根で、材料と一緒にその技術も残されていることが分かります。勿論、いわゆるメンテナンスは欠かせないもので、例えば長榑葺きの場合は5年単位で木の薄板の上下・表裏を返すことで20年間素材をもたせる昔からの工夫も絶えず行っているということです。今回は御蔵の屋根が手入れの最中でした。蔵の中には年貢の米俵の展示などがありました。

 

屋根が修繕中の御蔵
八室ある蔵の展示
蔵の年貢米の展示

 

飛騨で作られた家具に囲まれて

陣屋をあとにして、最後に訪れたのは飛騨産業のHIDA高山店 森と暮らしの編集室です。実は、陣屋のガイドツアーが予定時間を大幅に超える充実した内容だった結果、日本古建築特有の底冷えですっかり身体が冷えてしまい、まずはショップに併設されたカフェでコーヒーをいただきながら、店長の鈴木さんのお話をお聞きしました。

飛騨産業のHIDA高山店 森と暮らしの編集室にあるカフェでの店長さんによる説明
コーヒーで温まる
店内の様子
家具以外にも木を利用した雑貨などを多く扱っている


飛騨産業のつくる家具は伝統的なものから国内外のデザイナーの最新家具まで非常に幅広く、これまでに建築物を通してみてきた、木材を活かす技術が家具というかたちでもしっかりと継承されていることを知ることができました。山ほどある家具に触れて座ってみてと体験するには時間が足りませんでしたが、コーヒーを持ち歩きながら家具を見て歩けるのは贅沢でしたね。ご参加ありがとうございました。

グラフィックデザイナー原研哉デザインの座椅子
飛騨の木材の展示
木の特徴や木工での適性が紹介されている
コーヒーを飲みながら見ることのできるショップ
最後もカフェをお借りして収穫祭をしめさせていただきました。建築家 隈研吾デザインのカフェの内装には、越前和紙が貼られていました。

 

最後に、今回はアートライティングコースの学生さんが3名参加してくださり、収穫祭当日の感想を寄稿して下さいました。みなさんありがとうございました!

木造建築の美と技に出会う ―飛騨高山の旅― 

豊かな森林資源に恵まれ、江戸幕府の直轄地であった飛騨高山。まず訪れた「日下部民芸館(元・日下部家住宅)」「吉島家住宅」は、ともに明治時代の名工が手掛けた商家。玄関に入ると、豪快な梁と束柱(つかばしら)に圧倒される。吹き抜けの立体格子は、(構造計算ではなく)大工の経験と勘を頼りに施工されたというから驚きだ。

次に、通称「古い町並み」を経由して、江戸時代の役所と役宅、米蔵が残る「高山陣屋」へ。熨斗葺(のしぶき)や杮葺(こけらぶき)の屋根は、定期的に葺き替えられる。材料となる榑(くれ)板を前に、ここは木造建築の伝統技術が継承される現場なのだ、と感慨を覚える。

最後に訪れた「HIDA ⾼⼭店 森と暮らしの編集室」には、一流の建築家・デザイナーと飛騨産業のコラボレーションによるプロダクトが並び、ワクワクと心が躍った。

飛騨高山では、江戸、明治、大正から令和に至るまで、匠の技によって建築や家具が造られ、維持・継承されるとともに、新たに生み出されてきた。日本の伝統的な木造建築の美しさと、それを支える匠の技術に思いを馳せる機会を与えてくれた「収穫祭」に感謝したい。

 

(綾仁千鶴子 芸術学科アートライティングコース 2019年度生)

自然と人が生きるまちを歩いて

名峰、槍ヶ岳や穂高岳など北アルプスを望む飛騨高山は、日本有数の風光明媚な山岳地域である。山々に抱かれ四季折々の姿を見せる当地域は、登山やウインタースポーツを嗜む私にとってはまさにメッカ。しかしそこでの営みは、豊富な自然の恵みを享受する一方で豪雪など過酷な自然環境と共に生きることなのだ。本収穫祭では、秋に色づく飛騨の小京都とも呼ばれる高山のまちを訪れ、殿井先生にご講義頂きながら山間地域で培われてきた住生活における「生きるための工夫」を発見し、本学がある京町屋との違いを中心に、飛騨高山地域の悠久からの営みに迫った。

飛騨高山地域の営みや文化の形成に最も影響を与えたのは、やはり自然環境と言える。木材など豊富な森林資源に恵まれた地域であることから、京町家には見られない太く逞しい梁や柱を見ることができる。こうした木材が、冬の豪雪から人々を守り、人を生かし発展させてきたのだろう。現代でも、山々から得られる恵みを生かした家具製造、酒や味噌の醸造など、盛んに人と自然が交わり共存し、伝統的文化と残しつつも、モダンな文化を生み出し独自の文化、芸術として発信し続けている。便利で豊かな生活を手にした現代の私たちが失念していた自然の偉大さと共生のあり方を再認識する風土を今も残しているのである。

収穫祭での旅をとおして講義後、地酒や名物の朴葉味噌などを楽しみ違った角度からも飛騨高山の文化を味わい尽くすことができた。まさに、実りの秋の収穫祭の名に相応しい貴重な学びとなったのではないだろうか。

 

(正木秀典 芸術学科アートライティングコース 2021年度生)

木の活用をたどる 高山の旅

高山駅に降り立ってまず驚いたのはその大きさだった。東京から富山を経由し、小さな無人駅や宮川の流れをずっと見ていたので余計にそう感じたのだろう。古くから高山は木材や金などの資源が豊富で、それゆえ城主は追い出され江戸幕府の天領になったと聞く。豊富な木材は町屋の作り方にも見てとることができた。一本の大きな木をそのまま梁に使えるのは木材の町ならではと、作りが繊細な京都の町屋との違いを語る殿井先生の話もとても興味深かった。

木の活用は現代にも引き継がれており、飛騨の家具と言えばひとつのブランドであるし、先述の高山駅舎も地元の木材が多用されている。新たな取り組みに目を見張る一方、日下部民藝館のような古いものも私は好きだ。年月が刻まれ黒光りしている柱やそこかしこに残る傷跡などを前にすると、そこに暮らしていた人々の声が聞こえてくるような気がするのだ。学友との会話の中からも気づきが生まれ、今後の学びの方向性にもつながる収穫祭であり、参加できたことを心から嬉しく思う。

 

(芝原祥子 芸術学科アートライティングコース 2022年度生)

最後の最後に宣伝になりますが、私が担当する冬期開催の藝術学舎「建築デザイン集中講義」では、建築のミカタについて話し続けるのですが、そのなかの1講時では京都の町屋についてその背景を参照しながら講義をする時間があります。

ゼロから触れる建築デザイン「建築デザイン集中講義」
https://air-u.kyoto-art.ac.jp/gakusha/learning/G2242325

今回の街歩きをきっかけに、ちょっと建築の成り立ちが気になったみなさんはぜひご参加ください。

 

(文:建築コース 教員 殿井環)

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?