REPORT2022.01.12

教育

描く悦びを現在に伝える ― 石正美術館を訪ねて[収穫祭 in 島根]

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  • 京都芸術大学 広報課

 通信教育課程では全国津々浦々に在学生や卒業生がいることを生かして、2000年度より在学生・卒業生・教員の交流と学びを目的とした「秋の収穫祭」という催しを開いています。その名のとおり、2018年度までは実りの秋に各地より厳選した4会場において実施されてきましたが、2019年度からは秋だけでなく1年を通して8会場で開催しています。

 収穫祭では、全国様々な地域の特色ある芸術文化をワークショップや特別講義を通して紹介することや、公立私設を問わず美術館や博物館の社会への取り組みや発信、また開催中の展覧会を鑑賞することなどを行っています。

 11月6日に島根県浜田市で行われた収穫祭について、担当した日本画コース・後藤吉晃教員からの現地報告をご紹介します。
 

  • 2018年度「秋の収穫祭」リーフレット(表面)
  • 2018年度「秋の収穫祭」リーフレット(裏面)


 今回は島根県浜田市における地域の芸術文化発展、全国の画家育成のための活動も続けてこられた浜田市立石正美術館を訪ねてきました。

 浜田市立石正美術館は日本画家・石本正(1920-2015) 先生が故郷に絵画をすべて寄贈したいという想いからできた美術館です。石本先生は現在の島根県浜田市三隅町にお生まれになり、後に京都を拠点に日本画壇を牽引されただけでなく教員としても多くの後進作家を育ててこられた方です。本学においても前身である京都芸術短期大学時分より長きに渡り教鞭をとられました。実は私もその教え子の一人です。

 本学は今年開学30周年を迎えました。この機会に大学開学にもご尽力いただいた石本先生に改めて焦点を当てることで、京都や東京のキャンパスでだけではなく、少しだけ離れたここ島根県においても本学との繋がりを感じていただきたい、そのような想いで企画したこの度の収穫祭でした。

 

石正美術館と石本正

 浜田市立石正美術館には石本作品の約14,000点と、石本先生ご自身が確かな感動を覚えた他作家の作品が収蔵されています。それだけでなく建物自体も石本先生が愛された中世ロマネスクの教会をモデルに設計されており、アーチ状の柱が並ぶ回廊や中庭、塔をはじめ見どころが多くあります。美術館が完成された際には石本先生も大変お喜びになられたそうです。

 

美術館の中庭
枝垂れ桜は美術館のシンボルツリー
アーチ状の柱が並ぶ回廊


 主任学芸員の横山由美子氏による特別講義では、浜田市立石正美術館の活動について、石本先生の画家としての歩みについてなど、石本先生の生前の様々なエピソードを交えてお話いただきました。どのエピソードからも石本先生の制作に対する直向きな姿勢や、絵を描くことへの悦びが伝わってくる大変興味深いお話ばかりでしたが、収穫祭に参加されたみなさんが一番印象に残っているのはヨーロッパへの研修旅行のエピソードではないでしょうか。

 学生を引き連れてスケッチをしながらの81日間にもおよぶ旅だったそうですが、当時参加された方々から良き思い出としてお話を伺う機会は現在でもありますし、参加されていなくとも当時の旅のしおりの複製は持っているという方も多くおられるようです。それほど石本先生の取り組みが画壇に与えてきた影響は大きなものなのです。

 

お話をしてくださった横山氏
石本先生がお好きだったロマネスク美術

 

育み、守る、美術館の活動

 この収穫祭では、普段非公開となっているものも多く見学させていただきました。ひとつは美術館入り口の塔の最上階にある天井画。石本先生による原画を基に描かれたものなのですが、この天井画は地域住民とともに本学の教員や卒業生、当時の学生も多く参加し制作されました。浜田市内外の子どもから大人まで約900名が制作に関わったそうですが、完成は本学にとっても大切な思い出のひとつです。

 

塔の最上階までは螺旋階段で
大麻神社で取材した藤棚の絵が基となった天井画
学芸員・上田優里氏による詳しい解説
ここ岩見地方の石州瓦が美しい塔からの眺望


 天井画の他には非公開の作品収蔵庫も拝見することができました。温度と湿度がしっかりと管理された杉造りの収蔵庫内。このようにして作品は守られていくのですね。大小様々な本画、写生の数々がゆったりと収められた空間は居心地の良いものでした。

 

厚い扉の中へ
杉は吸湿・保湿の役割も
大作がズラリと並ぶ1階
小作や箱に収められた写生が整然と並ぶ2階


 石本先生の本画もそうですが、写生のファンという方も画家の中にも多くおられます。石本先生が生前にアトリエに積み重ねられていた膨大な量の写生が美術館には収められており、その一部を拝見しました。代表的な人物の写生から旅先での写生までどれも魅力的で、画面に小さく書かれたメモなどからも描かれた当時の様子が伺え、大変貴重な機会となりました。

 

丁寧に保管されている写生はこれから調査と整理がなされるものも多いとのこと
現在のところ公開の予定はないそう
この量の調査はやりがいがありそう

 

ここでしかない展示

 通常公開されている展示室には、京都・等持院にあるアトリエを模した空間もあります。一度だけ実際のアトリエにお邪魔したことがあるのですが、クラシックがかかっている中で石本先生が描いている途中の作品を見せてくださいました。再現された展示室には愛用されていた品々の展示とともに、実際に制作中にお聴きになっていた音楽が同じように流れています。当時の情景を思い出し、懐かしい思いがしました。

 作品展示室では石本作品の世界観を存分に味わうことができます。中には背景の描き方の変遷を考察すべく、似た構図の異なる年代の作品を並べた展示もありました。一人の画家における膨大な収蔵あってこそ成せる見せ方ではないでしょうか。

 

アトリエが再現された展示室
制作中の様子を解説する上田氏
テーマごとに並べられた石本作品を鑑賞
背景の変遷が伺える制作年代の異なる三作


 島根県を訪れ、石本先生の原風景に触れて作品を拝見できる大変贅沢な時間でした。作品以外にも様々な施設を拝見しお話を伺うことができましたが、その中でご参加の皆さんから様々な方向からのご質問やご感想をいただくこともできました。ご自身の専門領域によって目の付け所や捉え方が異なる所が面白く、参加者も教員も一緒になって学ぶ、収穫祭ならではの良い機会となりました。

絵を描くよろこびにふれた収穫祭

 島根県の美術館で「収穫祭」を開催!このことをシラバスで知り、ドキドキしながら参加申し込みをしました。会場となった浜田市立石正美術館では、月に一度洋画教室が開催されており、そこに通う私には馴染み深い美術館です。また本年度から通信教育課程のデザイン科イラストレーションコースに入学した私にとって、地元で大学の先生から直接お話を聞く機会というのはとても貴重で、開催の日を心待ちにしていました。

 石正美術館は、日本画家・石本正先生の作品を展示・収蔵するために建てられた美術館で、デッサンなどを含めると約14,000点もの作品が収められています。当日はこの会場に全国から京都芸術大学の学生や卒業生が集まり、石本先生とご縁のある日本画コースの後藤先生のナビゲートで進められました。

 圧巻だったのは、特製の収蔵庫に納められたデッサンの数々です。美術館の収蔵作品数14,000点のうち、12,000点がデッサンや習作なのだそうです。現地講師の主任学芸員・横山さんから「石本先生は『努力はしない、絵は遊びだから』と言って、練習の過程や気に入らないデッサンは人に見せませんでした」というお話を伺い、石本先生の画家としての矜持を強く感じました。

 今まで「美術館は作品を展示する場所」だと思っていましたが、今回「収穫祭」に参加し「作品を守り、画家の人生を後世に伝えていく」という大きな役割があることを知りました。「絵を描くよろこびをふるさとに伝えたい」という石本先生の想いを強く感じた「収穫祭」でした。

(大野美与子 デザイン科イラストレーションコース 2021年度生)

「石正美術館」の収穫祭に参加して

 島根県浜田市にある美術館で「収穫祭」があると知りました。中世ヨーロッパの教会のような美術館。石本正氏の作品の寄贈による美術館です。

 スケジュールは昼に集合し、スライドトークや収蔵庫と天井画の見学、展覧会見学と盛りだくさんです。最初に美術館の学芸員・横山由美子氏によるお話がありました。スライドを見ながら石本先生のヨーロッパ旅行や作品に影響を及ぼしたヨーロッパ芸術のお話があり、普通の展覧会鑑賞では体験することのできない濃い内容でした。なかでも「感動こそわが命」を実現させた81日間のヨーロッパスケッチ旅行の話は心に残りました。古い文化を人々が大事にし土地に根差していると。自らも故郷のこの地に文化を根差すべく活躍されていたのだなと思います。通常は非公開の塔の天井画も解説付きで観覧し、こんな機会でしか見ることのできない収蔵庫を拝見し、残されたスケッチに画家の隠れた苦労が垣間見えました。

 夕方になり美しい回廊に灯が灯りました。充実した一日でした。

(岡崎裕子 美術科日本画コース 2019年度生)

 2020年は石本先生の生誕100年でしたが、世の中の状況を鑑みて開催できなかった記念の大きな回顧展が現在全国巡回中です。浜田市立石正美術館では2022年1月から4月まで開催されるようです。これをご覧いただいているみなさん、是非足を運んでみてください。

 

夕暮れの浜田漁港と日本海

 

(文:日本画コース 教員 後藤吉晃)

 

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