COLUMN2020.11.25

京都

京都盆地の桜紅葉と冬の虹 ― 瓜生山歳時記#51

edited by
  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 京都盆地の河川の多くは、北から南へと水が流れている。また標高も北から南へ低くなっており、東寺の五重塔の天辺が北山通のレベルになっている。東寺の五重塔は国宝で、東寺のみならず京都のシンボルの塔であり、54.8メートルの高さは木造の塔として、日本一の高さを誇る。

 瓜生山学園の本部がある上終の交差点と、映画学科のある高原校舎の間に、琵琶湖からの水が流れる疏水がある。この疏水は京都盆地の他の川と異なり、南から北へ流れている。また、上終交差点の前の白川通も、京都盆地の他の南北の道と異なり、南に向かってゆるやかに登っている。

 東山の比叡山と大文字山の間の部分は花崗岩で浸食されやすく、そこからの土砂が白砂となって盆地に流れ出てくる。その花崗岩部分は激しい浸食で低くなっている。比叡山と大文字山は、花崗岩の元となったマグマが貫入したとき焼かれて硬くなったので高いままである。花崗岩からの土砂は北白川扇状地を形成し、その扇状地の尾根に沿って滋賀越え道が低い峠へ向かってできた。北白川扇状地の尾根に向かって、学園前の白川通は、南へ登る傾斜になっているのである。

 白川疏水に沿って春の桜の名所がある。その桜の葉が秋にはみごとな桜紅葉になる。その仕組みは、京都盆地の堆積層に含まれる豊富な地下水によるものである。夏の蒸し暑さで葉に蓄えられた糖分が、北山時雨のもたらす底冷えとともに変化して真っ赤な紅葉を生み出す。


極上の虹や時雨の去り際に     尾池葉子


 時雨は、京都の冬の名物である。北山が時雨れていて、南の方が晴れていると、鴨川を跨いで真昼の虹が低く現れる。この句の虹は、京都大学での私の最終講義のときの虹を、今出川大橋で妻が詠んだものである。鴨川にかかる橋から北に見える京都の冬の虹は、昼の太陽のもと、世界遺産の下鴨糺の森をまたぐようにして低くかかるのが特徴である。

 京都盆地の地上を流れる川は細いが、盆地の地下にはたっぷりと水が含まれている。その地下水が茶の湯を生み、湯葉や豆腐、京料理や酒を育てた。変動帯の活断層運動が生み出した盆地の地下水であり、そこから生まれた文化をまとめて、私は「変動帯の文化」と呼んだ。


琵琶湖疏水桜紅葉の色となる     和夫

 

(文:尾池和夫、撮影:高橋保世)

琵琶湖疏水沿いの様子。2020年11月4日(水)撮影。
2020年11月6日(金)撮影。徐々に紅葉が進む。
2020年11月11日(水)撮影。
2020年11月14日(土)撮影。紅葉はほぼピークに。
2020年11月15日(日)撮影。

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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