仲秋の名月とは旧暦8月15日の月を指す。「仲秋」は旧暦では葉月のことである。歳時記では、仲秋を二十四節気の白露(9月8日頃)から寒露(10月8日頃)の前日までとしている。「中秋」というのは秋の真ん中のことである。旧暦8月15夜の月を「仲秋の名月」や「中秋の名月」と言うが、意味が違っても、いずれも旧暦8月15夜の月を指す。
この日、月下に酒宴を張り、詩歌を詠じ、すすきを飾り、月見団子、里芋、枝豆、栗などを盛り、神酒を供え、月を眺めて楽しむ。このように、仲秋の名月を鑑賞する風習は、中国では唐の時代からあった。日本には平安時代の貴族の間に取り入れられ、桂離宮が月の鑑賞をふまえて設計された。その後、武士や町民へと次第に広まった。日本では仲秋の名月は「芋名月」とも呼ばれる。
二十四節気は、中国の戦国時代の頃、季節を春夏秋冬の4等分するものとして考案された。1年を12節気と12中気に分けて名前がつけられた。中気である夏至・冬至の二至、春分・秋分の二分は併せて二至二分と言う。節気である立春・立夏・立秋・立冬を四立(しりゅう)という。二至二分と四立を併せて八節という。二十四節気は中国の中原を中心とする気候で名付けられており、日本で体感する気候と合わない名称や時期もある。例えば夏至、梅雨の真っ只中にある。大暑は「最も暑い時候」と説明されるが、日本の盛夏は立秋の前後になる。日本では、土用、八十八夜、入梅、半夏生、二百十日などの雑節を季節の区分けに設けている。明治5年に太陽暦をもとにしたグレゴリオ暦(新暦)を採用したため、二十四節気の日付は毎年ほぼ一定となった。
月今宵野分の雲の中走る 辻 桃子
今年の仲秋の名月は10月1日だった。今年10月の月は特別で、国立天文台の解説には次のように書いてある。「今年の中秋の名月は10月1日で、翌2日が満月となります。6日には真夜中の空で存在感を放っている火星が地球に最接近となります。14日頃にはくじら座の変光星ミラが明るさの極大を迎えます。22日、23日には日の入り後の南の空に見えている木星、土星に月が近づきます。31日は10月2回目の満月です。31日の満月は、今年、地球から最も遠い満月です。」
今年、10月1日には月見だんごを食べ、2日には満月だからと杯を上げ、31日にはまた満月を祝うという人もいるかもしれない。明月を見た人は旧暦9月13日の月(後の月)も同じ場所で見なければいけない言って、また月見を楽しむ習慣が日本にはある。
ユネスコの代表来たる月見かな 和夫
(文:尾池和夫、撮影:高橋保世)
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尾池 和夫Kazuo Oike
1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。