COLUMN2020.09.25

京都

風の舞台から京都盆地の野分雲を見る ― 瓜生山歳時記#49

edited by
  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 野分は仲秋の季語である。野わけ、野分だつ、野分波、野分雲、野分跡、野分晴などという季語を詠む。関連季語として、台風、初嵐、やまじ、おしあななど、日本にはこの季節の暴風雨に関連する季語が多い。

 野分とは、野の草を吹き分けて通る、秋の強い風のことである。平安時代からよく使われた言葉であるが、今で言う台風のもたらす風を指した言葉であろう。地方には独特の呼び方がある。「やまじ」は、愛媛県東部の四国中央市、新居浜市、西条市などで、南よりの強風のことを指す。春や秋に多く、日本三大局地風の一つである。豊受山にある風穴神社の風穴から吹き出す。「おしあな」は、南東から吹く強風を長崎で呼ぶ。「あなじ」という北西からの強風を押し返す意味だという。風向きが西寄りに変わっておさまる。悪風として漁民、農民に恐れられている。

 『枕草子』(百八十八段)では「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ」とあり、野分の翌日はしみじみとした趣があるとされている。


鳥羽殿へ五六騎急ぐ野分かな     蕪村


 昔は、観天望気で予想した。経験からさまざまな諺が生まれた。吹きだした暖風は暴風の兆し、白雲糸引けば暴風、風無きに雲行き急なるは大風、雲の行き違いは暴風雨、山に黒雲かかれば暴風雨、秋の台風は韋駄天で風が強い、などなど。

 今では、気象庁から、台風の実況では、台風の中心位置、進行方向、速度、中心気圧、最大風速(10分間平均)、最大瞬間風速、暴風域、強風域が広報される。台風の中心位置を示す×印を中心とした赤色の実線の円は暴風域で、風速(10分間平均)が25m/s以上の暴風が吹いているか、地形の影響などがない場合に吹く可能性のある範囲を示している。

 予報の内容は、3日先までの各予報時刻の台風の中心位置、中心気圧、最大風速、最大瞬間風速、暴風警戒域である。破線の円は予報円で、台風の中心が到達すると予想される範囲を示す。予報した時刻にこの円内に台風の中心が入る確率は70%である。2020年4月からは、さらに予報期間を延長して、5日先までの予報が表示されるようになった。暴風警戒域は、従来通り3日先まである。

 瓜生山学園の大階段の上には風の舞台がある。京都盆地の空を眺め、風の向きを確かめ、明日の天気を予測して見るのも、おもしろいかもしれない。


溪深し宿の下なる野分雲     和夫
 

台風10号が接近した9/7午後、髙原校舎より西方を望む。北向きに比較的速く雲が流れていく。
翌9/8、台風が過ぎ去り、晴天が広がった。写真は、瓜生山キャンパス「風の舞台」。
夕方には、東山に虹がかかった。
まるで印象派絵画のような夕焼け。


(文:尾池和夫、撮影:高橋保世)

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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