REPORT2020.05.27

歴史映像

映画が照らし出す朝鮮学校の歴史 ― 映画『ニジノキセキ』

edited by
  • 大西 将揮

(取材・文:文芸表現学科3年生 大西将揮)

 京都芸術大学 文芸表現学科 中村純ゼミ(編集・取材執筆)では、「ことばと芸術で社会を変革する-SDGs(※)の実践」をテーマに取材執筆をして、発信する活動を行っています。


※SDGs(Sustainable Development Goals)

 2015年9月の国連サミットで採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」において記載されている2016年から2030年までの国際目標。地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットからその目標は構成されています。
※京都芸術大学SDGs推進室:https://www.kyoto-art.ac.jp/info/research/sdgs/

 2019年度後期は、多文化共生に美術・文芸の力でアプローチしています。今回は、朝鮮学校の「過去・現在・未来」を描いたドキュメンタリー『ニジノキセキ』を取材しました。

 

京都朝鮮中高級学校 学園祭にて

 2019年11月30日、京都朝鮮中高級学校では学園祭が行なわれていた。
 学園祭で自主上映された映画『ニジノキセキ』は、兵庫県青商会が企画・制作したドキュメンタリー映画である。在日朝鮮人たちの戦後から現在に至るまでの朝鮮学校を守るための闘いの記録である。
 この作品のメガホンを取った朴英二(パク・ヨンイ)監督は、「朝鮮学校に一度訪れてみてほしい」と語る。

「朝鮮学校の卒業生たちは、社会発展のために様々なことに貢献しています。(在日朝鮮人に偏見を持つ人は多いけれど)単純化された言葉やイメージというのは非常に危険です。自分の目、耳、肌で感じること、直接出会い、会話をするだけでも偏見は大きく払拭されます」

 実際この日訪れた京都朝鮮中高級学校でも、多くの学生がすれ違いざまに挨拶をしてくれ、私が下駄箱で靴のしまう場所が分からずにいると、丁寧に教えてくれる生徒もいた。

京都朝鮮中高級学校内の様子。
学園祭の様子。

 映画の話に戻ると、この映画を観て感じるのは、在日朝鮮人の人々の朝鮮学校存続への強い意思である。今の日本に教育にかけるこれだけの熱量はないだろう。彼らは学校のことを「ウリハッキョ(私たちの学校)」と呼ぶ。
 子どもたち、オモニ(母親)、アボジ(父親)、そして同胞たちの支えを得て、「ウリハッキョ」を大切に守り抜いてきた。その繋がりの深さは、観ているこちらが羨ましく思うほどだ。


日本で「朝鮮人」として生きていく

 この映画を語るうえで避けては通れないのが「4・24阪神教育闘争」だ。
 1948年1月、GHQからの命令で日本政府は「朝鮮人学校閉鎖令」を発令する。その背景には当時姿を露にし始めた東西冷戦があった。資本主義陣営にあるアメリカや日本にとって、共産主義を主張する朝鮮民主主義人民共和国は都合が悪い存在だったのである。
 半ば強制的な学校閉鎖令に対して、在日朝鮮人の同胞は黙ってはいなかった。大阪・兵庫では激しい反対運動が発生し、同年4月24日には「非常事態宣言」が発令される大きな事件へと発展する。

 神戸の朝鮮学校が強行閉鎖されたことに抗議した同胞は、兵庫県庁に押しかけ猛抗議を行った。その結果、知事から「学校閉鎖令の撤回」を勝ち取ったのだ。これが「4・24阪神教育闘争」だ。このとき県庁に訪れた数は1万5000人にも及ぶという。
 その後、「学校閉鎖令の撤回」は無効とされるが、当時の文部大臣との交渉の中で、「朝鮮人学校を私立学校として認可する」との覚書が交わされ、朝鮮学校の存続と民族教育権を勝ち取った。
 多くの同胞が手と手を取り合って団結した1948年4月24日は、語り継がれる歴史的な一日となったのである。


映画『ニジノキセキ』

 その日から70年の月日が経過した2018年に制作されたのが、映画『ニジノキセキ』である。
「日本で暮らしているのになぜ日本の学校に通わず、厳しい状況に立たされる朝鮮学校に通うのだろうか」
 映画を観る前に、私が抱いていたそんな思いは、在日朝鮮人の人々が、命がけで学校を残そうとした歴史、そして何より朝鮮学校へ通う子どもたちの笑顔を見ていると、消えていった。朝鮮学校は、日本で朝鮮人として生きていくために、彼らにとって必要な場所なのである。自らのルーツや民族の歴史を同胞と学べるのはウリハッキョだけなのである。

 朝鮮学校へ通う高校生、朝鮮学校で働く教師、実際に4・24阪神教育闘争を経験した方など、作品中多くの人に焦点が当たることで、70年前の出来事も、現在進行形で起こっている「高校無償化」からの除外や、補助金の減額といった問題も、よりリアリティを持って訴えかけてくる。
 映画終盤、70年前に同胞たちが結束した兵庫県庁前で神戸の朝鮮学校に通う一人の男子生徒が、右翼の罵声飛び交う中叫ぶ。
「私たちは決して負けません。決して逃げません。先代たちが守り抜いた朝鮮学校を、次は僕たちが必ず守り抜きます」
 彼らは自らの祖先、そしてウリハッキョのために今日も闘い続けている。しかし、それは本来あるべき姿なのだろうか。十代の多感な時期に多くのエネルギーを捧げて、日本の政府や右翼に声を上げざるを得ない現状を、私は普通と思いたくない。

 この映画は朝鮮学校の歴史や在日同胞の存在を知らない人ほど観てほしい。
 彼らの声に耳を傾けてほしい。

『ニジノキセキ』2019年

主演 金紗梨(キム・サリ)、張鐵柱(チャン・チョルチュ)
監督 金功哲(キム・コンチョル)、朴英二(パク・ヨンイ)
プロデューサー 趙寿來(チョウ・スレ)

 

https://www.nijinokiseki424.com/

 

 

 

 

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  • 大西 将揮Masaki Onishi

    大阪府出身。21歳。2018年京都芸術大学入学。趣味は音楽鑑賞とバスケ観戦。最近サボテンを育て始めた。

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