REPORT2019.10.21

京都文芸舞台

「風姿和伝」現代ニッポンの古典芸能と諧謔(かいぎゃく)を語る- 茂山逸平×山本太郎

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  • 朝倉 みなみ

(文:文芸表現学科2年生 朝倉 みなみ)

2019年6月に春陽堂書店より刊行された『茂山逸平 風姿和伝』(監修:茂山逸平 構成・文:中村純 写真:上杉遥)の出版記念イベントが、8月20日から9月27日まで京都岡崎蔦屋書店にて開催された。

本イベントは、京都から新しい和の文化を革新しながら発信していくというコンセプトをもとに、トークイベント、能楽写真家の上杉遥さんの写真展、能・狂言の本のフェアなどにより構成されている。

8月21日は大蔵流能楽師狂言方の茂山逸平さんと、ニッポン画家であり京都造形芸術大学 美術工芸学科准教授の山本太郎先生によるトークイベント『風姿和伝 現代ニッポンの古典芸能と諧謔を語る』が開催された。イベントの進行は書籍の企画・構成執筆・編集を担当された京都造形芸術大学 文芸表現学科専任講師の中村純先生。主催は京都岡崎蔦屋書店の書店員であり、京都造形芸術大学文芸表現学科講師の鵜飼慶樹さん。

茂山逸平さんをはじめ、茂山千五郎家の狂言師の方たちと山本太郎先生のお付き合いは長く、イベントはお二人の息の合った掛け合いによって、和やかな雰囲気でスタートした。

左から山本太郎先生、茂山逸平さん、進行の中村純先生

お二人の出会いの話から、山本太郎先生が狂言の演目『花子』のために茂山家に依頼されて描いた扇絵の話に移り変わる。扇絵の柄は、演目『花子』に出てくる手紙による男女のやりとりを現代に置き換えて、SNSのトーク画面が描かれている。現代のモチーフと、和柄の融合という山本先生の画風が生かされた作品だ。

実際に使った感想を、逸平さんはこのように語った。
「びっくりしたのが重さですね。普段は一般的な顔料で描いていただいたり、版で刷っていただいたりするんですけども、これはほんとに日本画の顔料で描いていただいて。」

この言葉に対し山本先生は、
「岩絵の具で仕上げる扇子は、手書きでも今はほとんどないんですよね。僕は扇屋さんの描き方ではなくて、普通に日本画の描き方で描いてしまったから、今現代の扇としてはすごく重たい。でもこれは扇を普段から使う人じゃないと分からないですよね?」

岩絵の具とはその名の如く、岩を砕いて作られる日本画材料のことだ。扇に使われる紙は同じでも、使う顔料によって、普通の扇に比べて厚さが三割増しぐらいになるそうだ。伝統的な技法を使いながら、現代の日本らしさを描く山本先生のこだわりと、貴重な狂言の現場での扇使いの様子が垣間見えた瞬間だった。

「こんなに重い扇子を持ったことがないっていうくらい重い。びっくりしました。」と逸平さん
「LINEの扇も意外と客席から気付かれない。」と山本先生

山本先生の手掛けられた扇は、演目『花子』で逸平さんが使用した。この扇は『茂山逸平 風姿和伝』の表紙にも載っている。『茂山逸平 風姿和伝』は昨年、中村先生が春陽堂書店のオウンドメディアのwebサイトで連載したものを新たに編集し、出版したものだ。能楽写真家の上杉遥さんによる、写真がふんだんに使われており、文章と共にこの演目はどういう内容なのか、わかりやすく解説されている。また逸平さんの息子の慶和くんが、演じることによって成長していく姿、写真も見所だ。

書籍の話題に移った時に逸平さんは、狂言に対する思いを話してくれた。
「この業界はお決まりごとが多くて気を使うことが多いんですけども、折角個人名で本を出すなら責任は僕が取るので、好きなことを言いました。もちろん僕たちは伝統を知らなければならないんですけど、お客さんは色々な楽しみ方があります。伝統芸能である能楽というものを楽しみに見に来られる方もあれば、エンターテインメントとして芸能を見に来られる方もいる。僕らが伝統伝統というものを押し出してしまうと、しゃちほこばる感じになるのかなあという気がするので、なるべく普段はエンターテインメントに特化するようにしています。」

逸平さんが主張する「伝統芸能は博物館にあるものではなく、現代に生きるエンターテインメントだ」という考え方が集積されている言葉だった。

茂山千五郎家には『お豆腐主義』という家訓がある。お声がかかれば、能舞台でも劇場でも結婚式場でも伺う、お家の晩御飯や高級な料理屋さんにも出てくるお豆腐のようにあれ、ということだ。

「お稽古をうちの子供にするときは、まず型通りのことを教えます。おやじとおじいさんから習った狂言を子供には教えて、伝統を伝えていきます。ただ公演としては伝統を押し出して古典芸能ですからね、っていうのはあまり茂山千五郎家ではしないですね。」

伝統を継いだうえで、お客様の笑いに寄り添い、新しいものを生み出していくのが茂山千五郎家流なのかもしれない。

話は移り、今回のイベント名にも使われている『諧謔(かいぎゃく)』という言葉の話題に。『諧謔』とは、とある物事、言動の中に笑いを誘うようなユーモラスな部分があることを意味するが、山本先生の掲げる『諧謔』とは一体どういったものなのか。

「三つ、自分で絵描くときにルールを決めています。日本画の伝統的な技法で描くということと、伝統的な技法で描くけれど現代の日本の姿を描くということ。そして三つ目のルールというのが、お笑いみたいな絵を描くというか、皆さんがほっこりするような絵を描きたいなっていう思いがずっと若いころからありました。その三本柱をニッポン画というふうに言っています。」

「諧謔って画数多いですよね。」と山本先生。

山本先生の制作をする時のルールは、茂山千五郎家にも通じるところがある。茂山千五郎家では、お客様に和やかな笑いを提供するという意味を込めて、笑いの『わ』は『茂山逸平 風姿和伝』でも使われた『和』の字が使われている。こういった、笑いに対する二人の志によって先程のような扇が生まれているのだろう。

あっという間に時間は過ぎ、最後は客席からの質問コーナーに。逸平さんと山本先生のユーモアあふれるトークに触発され、客席からは様々な質問が飛び出した。

客席との対話

現代日本に生きる私たちは『古典芸能』と聞くと、どのようなイメージを浮かべるだろう。格式が高く、難しい、手の届かないものというような印象を抱いている人は、少なからずいるのではないだろうか。

しかし逸平さんは、古典芸能の一つである狂言についてこう語る。
「狂言はジャンル的に、お笑いのエンターテインメントでありたいというのがある。」

伝統を継ぎ、新しいものを生み出すことで、古典を現代に生きるエンターテインメントにしていく。この志が今回のイベントの軸となっていたように思う。終始、笑いを絶やさなかったお二人のトークは、お客様に寄り添った優しい”和らい”に包まれていた。
狂言というお笑いのエンターテインメントが気になった方は、ぜひ『茂山逸平 風姿和伝』を手に取り、伝統芸能の世界を覗いてみてほしい。

(写真:上杉遥)

茂山逸平 風姿和伝 ぺぺの狂言はじめの一歩

 

著者 中村 純
出版社 春陽堂書店
価格 2,200 円(税込)
本のサイズ A5判
発行日 2019/6/25
ISBN 978-4-394-90354-3

https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000662/

 

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  • 朝倉 みなみMinami Asakura

    1999年滋賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科2018年度入学。書くことと描くことを学んでいる。行ってみたい国はオランダ。

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