REPORT2020.05.14

京都歴史

日本にいるからこそ母国の文化を表現したいーチマチョゴリ製作者・黄優鮮

edited by
  • 保田 蒼大
  • 一丸 野々花
  • 滝田 由凪

(取材・文:文芸表現学科4年生 保田蒼大、3年生 一丸野々香、滝田由凪 )

京都芸術大学 文芸表現学科・中村純ゼミ(編集・取材執筆)では「ことばと芸術で社会を変革する-SDGs(※)の実践」をテーマに取材執筆をして発信する活動を行っています。今回はそのグループの一つをご紹介します。朝鮮半島の民族衣装「チマチョゴリ」を製作する方にお話しを伺い、文化の表現方法について考えます。

※SDGs(Sustainable Development Goals):

2015年9月の国連サミットで採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」において記載されている2016年から2030年までの国際目標。地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットからその目標は構成されています。
◼︎SDGs推進室:https://www.kyoto-art.ac.jp/info/research/sdgs/

 

文芸表現学科の中村ゼミでは2019年後期から2020年前期の授業テーマに「芸術を通して多文化共生を学ぶ」を掲げ活動しています。昨年10月25日には、在日朝鮮人としてヘイトスピーチと戦う一人の女性、李信恵(リ シネ)さんに特別講演をしていただきました。李さんはチマチョゴリを着てお越し下さり、私たちに在日朝鮮人の方が抱える問題についておしえてくださいました。

■李信恵さんの特別講演:https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/635

日本の社会では未だ民族差別が根深く続いています。「チマチョゴリという民族衣装は、当人たちの中でどれほど大きな意味を持つのだろうか」そんな疑問を抱きました。そこで李さんが以前チマチョゴリ製作を依頼されたという、チマチョゴリ製作者の黄優鮮(ファン ウソン)さんが経営するお店「Fang-style」へ取材に伺うことにしました。

黄優鮮(ファン・ウソン)さん

チマチョゴリを通して

 黄優鮮さんは広島県で生まれ育った在日朝鮮人の方です。現在は兵庫県でチマチョゴリを専門にデザイン・製作するお店を一人で経営しています。幼少期より朝鮮学校に通っていた彼女は、大学まで舞踊部に所属していました。初級部(小学校)の時、舞踊部の先生が舞台衣装のチマチョゴリをデザインし、それを舞踊部生徒の保護者が総動員で手作りするということがあったそうです。毎年作られる衣装を着ることが楽しみだったと楽しそうに語っておられました。

 大学卒業後も広島朝鮮歌舞団に舞踊手として所属されます。彼女はミシンを扱えたので衣装制作にも携わっていました。少しずつチマチョゴリの作り方を学んだことが、現在のお店「Fang-style」の開業へとつながります。小さい頃から手芸が好きで、たびたび本を買っては独学で制作に取り組んでいた黄さんは、何らかの形で作品づくりに携わっていたかったと話します。
 自らチマチョゴリ作りを始めた時は、韓国からいくつかもの本を取り寄せて知識を深めていったそう。さらに現地に赴き見聞を広め、そこで出会った先生方にアドバイスを貰いながらより深く学んでいきました。現在も舞踊の衣装を依頼されることがあり、これらも大切な経験になっているようです。

 黄さんのお店は開業から8年が経ちます。受注生産を基本とし、舞台衣装だけではなく成人式や結婚式などの晴れ着をチマチョゴリでデザインすることもあります。時には「ペギル」や「トル」(※)といった伝統的な行事に着用する、子ども用のチョゴリを依頼されることもあります。しかしチョゴリはカサカサとした素材でつくられるため、小さな子どもたちにとって快適なものではありません。我慢できず脱ぎたくなってしまう子が多いのだといいます。黄さんご自身もお子さんがいらっしゃるので、その経験も活かしながら「対象者(依頼者)の心に残り、着やすく管理がしやすいもの」を軸に製作をされています。子どもが着脱しやすいようにリメイクをしたり、素材を工夫しながら作ったりすることを心掛けていらっしゃいます。

※「ペギル」とは朝鮮や韓国で子供が生まれて100日目にお祝いをする行事のことで、「トル」とは1歳のお祝いのこと。今ほど医療が発展していなかった時代は乳児の死亡率も高く、100日目(あるいは1歳)を迎えられることがとても喜ばしいことでした。これからも元気に育つようにと思いを込めてお祝いをしたそうです。

 

「Fang-style」のオーダーメイド


 黄さんのチマチョゴリ製作は、依頼者に会って要望を聞きながら一緒にイメージを深めるところから始まります。イメージを絵に描き、デザインを型に起こして縫製していくというのが大まかな工程です。その中で用途に合わせて形や刺繍などの装飾を決めていきます。「こんな風に着たい」という依頼者の要望に合わせて、一つ一つデザインしオーダーメイドしていきます。

 日本在住の黄さんが作るチマチョゴリは、本場・韓国で作られるものとは少し違います。例えば、大学で特別講義をしていただいた李信恵さんのチマチョゴリを製作した時は、素材に西陣織の着物が使われました。これは思い出深い品を使って作りたいという依頼者の李さんの要望を実現したもので、製作者の黄さんにとっても新しい試みでした。軽い生地を使うと立体的でふんわり広がるように仕上がりますが、着物のように生地に重みがあると縦に落ちるので仕上がりのラインが変わり、立体感を出すには新たな工夫が必要になってきます。それぞれの国に伝統的な衣装があることは知っていましたが、それに使われる生地もそれぞれの国に合わせて発展していったのだなと、黄さんのお話を聞いて学びました。

朝鮮高等学校の学生と共同制作したチマチョゴリ作品。在日の歴史や平和を題材にしている

 

チマチョゴリを、日本で着るということ

1910年に日本が朝鮮を植民地とした後、さまざまな理由で多くの朝鮮人が日本へ渡りました。その方たちの子孫で、日本で生まれ育った在日2世・3世と呼ばれる在日コリアンの方が現在も多くいらっしゃいます。しかし彼らのルーツは朝鮮や韓国などの別の国にあります。彼らが今もなお韓国の伝統衣装であるチョゴリを着るのは、日本にいながら母国の衣文化を忘れずに何十年も継承しているということであり、それはとても素晴らしいことだと思います。チョゴリの普及も、自身のルーツを意識し繋いできたたくさんの方がいたからであり、彼らの守ってきた文化です。

 黄さんは「私たちの世代や、さらに次の世代に楽しんで着てもらうためにはどうすればいいのか。洋服みたいに日常的に着れるものでもないので、今の時代に合うように多くの人に、着てもらえるようになるチマチョゴリを目指していきたいです。」と話してくれました。在日コリアンとしてのアイデンティティをしっかり持ち、一歩前に踏み出したいという方が大勢いらっしゃって、黄さんはその方たちに合わせたものを作りたいと日々模索しているそうです。

 製作する上で大切にしているのは、綺麗にデザインや縫製することはもちろんのこと、それを身に着けることによってその人に勇気や力が湧いてきたり、自分を表現するための手段となってほしいということ。「身につけた人が『これが自分なんだ』と思えるものを作り上げられるよう、これからも微力ながら日々挑戦し研究したい」と話されました。

 

オーラが花開く時

 黄さんが手がけるチマチョゴリは、依頼者のイメージや要望に合わせて一から作られるため、毎回オリジナル作品です。舞台衣装では着る人はもちろん、舞台作品のイメージにも合うようにと意識するため、リハーサルやテストで違和感があると手直しすることも度々あるそう。イメージに合うまで何度も手を加えます。「衣装を着用する相手のためにできる100%のことを考えたい。衣装を身につけた時に、その人のオーラが一気に華やぐ瞬間が一番うれしい」と語ってくれました。一から自分が手掛けた衣装で、それを身につけた人を輝かせることができるというのは、大きなやりがいになるのではないでしょうか。そこに大企業か個人経営かなどは関係が無いように思いました。

 

繋がり、広がる役目

 「日本の方にチマチョゴリを見てもらえる機会がたくさんあれば嬉しい」と黄さんは話します。二年前にとあるモデルスクールのファッションショーでチマチョゴリを出されたことがあったそうで、その時のように、日本の方たちにも衣装も含めたパフォーマンスを間近で見て、実際に体感できる機会があればいいなと思います。

 これまでは在日コリアンの方に向けて製作することがほとんどだったようで、日本の方はチマチョゴリにどのように反応するのか試してみたいと新たな試みを模索されています。

 チマチョゴリという民族衣装で、朝鮮半島の北と南を行き来できたり、日本で暮らす在日の方や日本の方たちが伝統衣装によって繋がったりできないだろうかと考えていらっしゃいます。黄さんが生まれる前から朝鮮半島は北と南に分かれていました。最終的には北朝鮮と韓国そして日本でファッションショーができたらと思っていらっしゃるそうです。

 黄さんは生まれた時から日本に住んでいるので日本の感覚をお持ちです。彼女が製作する衣装のデザインや色合いは日本的な印象があります。韓国でつくられる衣装はとても華やかですが、日本で着るには派手すぎる。もう少し和らいだほうが、在日の方にはしっくりきてかっこよく着れるのではないかなどと思いを巡らせながら製作をされるそうです

 これと同じように、朝鮮半島でも地域間で文化的な感覚の差があって当然です。それぞれの地域で文化や風土によって美的感覚が違うように、そこで作られる衣装にも違いがあります。黄さんは「人と人を繋ぎ、お互いに認め合ったり、研究し合ったりできたらいいな」と語り、「果てしなく漠然とした夢ですが『みんなで平和に仲良くする』という役目が自分にあると思うんです」と話されます。

 「製作した衣装そのものは依頼者のためにありますが、製作に関わった人たちにも何かを感じてもらったり、チマチョゴリを通して共有できる繋がりが徐々にできてきています。そういった繋がりを今後も大切にし、固定観念に縛られず自由に広げていきたい。だからチマチョゴリを作るんです。これからも自分のこだわりを大事にし、色んな人と繋がっていきたいです」と、このように語っていただきました。これこそが黄さんの表現方法なのだと思います。

ロゴマークには「永遠な繋がり」という意味が込められている

「Fang-style」

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  • 保田 蒼大Sota Yasuda

    1998年京都府生まれ。文芸表現学科2017年度入学。文章を書くことと編集を学んでいる。本とファッション、音楽が好き。

  • 一丸 野々花Nonoka Ichimaru

    1999年大阪府生まれ。文芸表現学科2018年度入学。顔写真を探したら一枚も無かった。最近は春菊と筍が好き。

  • 滝田 由凪Yuna Takita

    2000年東京生まれ。文芸表現学科2018年度入学。
    自分の中の引き出しを増やすべく、さまざまな事に興味関心をもつ。
    現在は、大阪の某テーマパークでバイト中。

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