SPECIAL TOPIC2020.03.27

アート教育

15の視点が伝える、この「世界」。―「KUAD ANNUAL2020」が東京都美術館で開催 #1

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  • 京都芸術大学 広報課
  • 顧 剣亨

 2月23日から26日までの4日間、東京・上野の東京都美術館で京都造形芸術大学の選抜展「KUAD ANNUAL2020」が開催された。初年度の「シュレディンガーの猫」、2019年度の「宇宙船地球号」に続き、今年で3回目を迎える。2020年度のテーマには「フィールドワーク:世界の教科書としての現代アート」が掲げられた。また、過去2回のKUAD ANNUALは卒業・修了制作のみを対象としていたが、今年度からは学部3年次以上、大学院修士1年次以上と募集範囲が拡大された。

 指揮を務めるのは京都造形芸術大学大学院教授で森美術館館長の片岡真実。今年は、各作家に広めのスペースを与えたいという目的から、例年より数を絞った15組の作家が選出された。昨年12月末には、本学の京都・瓜生山キャンパスにてプレビュー展と講評会が行われ、そこでのブラッシュアップを経て本展へと挑む。

広いスペースをどう活用するか、作品をどう見せるのか。各作家は与えられた環境で最善を尽くした。
高田美乃莉≪装置No.5≫≪装置No.6~No.36≫

 展覧会初日を前に、東京都美術館では内覧会とオープニングレセプションを開催。京都から作家勢も一堂に会し、ギャラリストや企業をはじめとした美術関係者で会場は大いに賑わいを見せた。内覧会では、片岡教授自らによる展覧会ツアーも実施。本展の主旨説明とともに、各ブース前に立つ参加作家の紹介を織り交ぜながらツアーは進んだ。その中で今回のテーマ「フィールドワーク」について、片岡教授はこう述べている。「現代アートという枠組みを通して、いかに世界が構築されているか、多様な価値観がある現代においてどう地球の中に存在しているか、またそれを自分がどう理解していくのか。現代アートがそういった出会いの場であることを自らの調査を通して知ってもらいたい」。また、制作のプロセスをあきらかにするリサーチテーブルを設置する作家もおり、作品をつくるだけでなく見せる所までを考える姿勢が常に意識されている。

 日本から遠く離れた太平洋に浮かぶヤップ島を訪れ、「価値」という不確定な概念を主題にリサーチを重ねた石黒健一の《石貨の島と我が彫刻》から展覧会はスタートする。オーストリア・ウィーンからチェコ・プラハまで約17時間を自転車で走りながら演奏し、音楽と時間そして距離の関係を探るパフォーマンスを行った梶原瑞生の《罰せられた放蕩者または》など、フィールドワークは日本の範疇に留まらない。 

石黒健一《石貨の島と我が彫刻》
梶原瑞生《罰せられた放蕩者または》

 吉田彩華《大麻布―真実と混沌の狭間で―》、人見詩央里《ある風景》、川上春奈《浸食の山》はそれぞれ大麻、野焼き、白川砂をキーに作品を制作。時代の変化によって法的に禁止されるようになったものに焦点をあて、もう一度オリジナルに立ち戻って考えるという作業を行った。白川砂と産業廃棄物の作品を制作した川上は、プレビュー展から大きく作品の様相を変えている。砂を敷き詰めた作品の展示が美術館では難しかったためだ。今年1月頭から急きょ作品の再構築に取り組んだ川上は、東福寺にある重森三玲の庭園から着想を得て格子上の作庭を思い付く。「シフトチェンジしたことで結果的に、枯山水のイメージにより近付けたように思う」と川上は前向きに語った。自ら掘削機の免許を取り、山で穴を掘るなどフィールドワークを通してたくましく成長した様子がうかがえる。規定の中で自分の表現したいものを突き詰めるという経験もまた大きな自信に繋がったようだ。

川上春奈《浸食の山》

 近年増加傾向にある、地球を襲う災害をテーマにした作品も並んだ。福島出身の本田莉子は現在は使われていない大漁旗を用い、鎮魂の祈りを込めたストゥーパ《儀式のように織る―大漁旗3.11》をつくり上げた。また山本友梨香は、地元・大分も被害にあったという水害をキーに魚の形をした大作《はこぶね》を制作。「使い古された廃棄物が再構成されて新しい巨大生物に生まれ変わっていく。そして新たな生物となって大海原に立ち向かっていくというようなイメージを持たせて制作をした」と山本は語り、実際に作品をトレーラーで運び、琵琶湖に浮かべた映像作品も展示している。

本田莉子《儀式のように織る―大漁旗3.11》
山本友梨香《はこぶね》

 その他にも、作家それぞれの視点で表現される作品群の最後は、「New Villagescape」の共同研究による《生きる建築》で展覧会は締めくくられている。これからの時代をどう生きていくか、社会の新しいインフラや共同生活のかたちを研究した作品で、単にプリミティブな昔の生活に戻るということではなく、様々な最新技術や素材を使いながら、未来の暮らし方の提案がなされていた。

New Villagescape《生きる建築》

第一線で活躍するキュレーターによる指導の下、約半年から一年という長い時間をかけて制作に取り組むという贅沢な機会が与えられる。その期待とチャンスに十二分に応えたかたちで、15の新たな視点が未来への活力と希望を持って示されていたように思う。

(文:ヤマザキムツミ、撮影:顧剣亨)

 

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    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

  • 顧 剣亨Kenryou GU

    1994年京都生まれ、上海育ち。京都造形芸術大学現代美術・写真コース卒業。大学在学中フランスアルルの国立高等写真学校へ留学。都市空間における自身の身体感覚を基軸にしながら、そこで蓄積された情報を圧縮・変換する装置として写真を拡張的に用いている。

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