SPECIAL TOPIC2020.02.05

アート

「巨大な魚」アートの大航海!-琵琶湖で揺れる「はこぶね」

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  • 京都芸術大学 広報課

ぎらついた銀色のボディーに鋭さ感じる背びれ。誰もが思わず「二度見」するこの大作は、マグロをモチーフにしたアート作品「はこぶね」です。トレーラー(台車)に載り、自動車にけん引されて向かった先はなんと琵琶湖。湖面に解き放たれた作品は果たして「水を得た魚」になれたのか。期待と不安が交錯した“大航海”の挑戦やいかに・・・。

制作したのは京都造形芸術大学美術工芸学科総合造形コース3年生の山本友梨香さん。出身地・大分県津久見市の公園にある、名産のマグロを模した遊具をモチーフとしました。津久見市は2017年9月に台風による大規模な浸水被害を受け、街並みは一変。泥にまみれた街を見たときに感じた「ずっと続くと思っていた日常は突然なくなってしまう」という強烈な思いが、この作品の根底にあります。題材となったマグロの遊具も焼失してしまったといい、全国各地にこの「はこぶね」を出現させることで災害碑のような存在となり、自分自身や見た人同士が対話し、考えるきっかけとなったり何かしらの化学反応が起きたりすることを願っているのです。

土台となる廃舟を譲り受け、キャンパス内で見つけた廃パソコンなどを分解した基盤を溶接し、魚型フレームにして付け合わせています。横面にはブラウン管テレビを配置し、災害を報じるニュース映像が流されます。

廃舟を土台に電子機器のスクラップ材やブラウン管テレビなどのパーツを組み合わせ、大きな魚に仕上げた

パソコンの基盤などのスクラップを素材に使用した理由について、山本さんは「文明の象徴である電子機器でも、役目を終えたら捨てられる運命にある。それを再構成して新たな物を作ることで、大きな脅威となり得る自然に対して新しい力となり、大海原に立ち向かう存在になってほしいという思いを込めた」と話します。

制作は2019年7月に始まり、京都造形芸術大学が誇る共通工房・ウルトラファクトリーがその現場となりました。同工房ディレクターのヤノベケンジ教授が指導を務めました。

誕生から半年で、体長5m、高さ1.5mにまで“成長”したマグロ。2020年2月3日、いよいよキャンパスの外に出て、人々の前に姿を現すときを迎えました。

京都造形芸術大学を出発する「はこぶね」。初めて外の世界に踏み出した

自動車にけん引され、白川通りに入ります。

「魚が道路を走っている!」

南下して三条通りを琵琶湖方面に東走していく「はこぶね」は、圧巻の存在感を放っていました。通行人は釘付けになり、あっけにとられポカンとした表情を浮かべる人も。トンネル内ではまばゆい光を全身で反射し、神々しく輝きます。

京都市蹴上周辺の三条付近を走り抜ける
道路を颯爽と走り抜ける姿は多くの通行人を引き付けた
各パーツは頑丈に取り付けられ、順調に移動した
トンネルのライトを浴びると、全身で輝きを放つ

多くの注目を浴びながら疾走すること約1時間、大津市下阪本の新唐崎公園近くのマリーナに到着しました。

「本当に浮かぶのか、浸水しないのか、ドキドキで昨晩は全然寝付けなかった」と話す山本さん。ずっと地面の上で生活し、本来の活動場所であるはずの水場でも、その雄姿を見せられるのか。「この1年の集大成」と山本さんは大いなる期待を注ぐ一方、一抹の不安を今なお、ぬぐいきれていません。尾びれと胸びれを取り付け、いよいよ入水です。

マリーナに到着し、尾びれや胸びれを取り付けて完成させる
「あとは無事に浮かんでくれるのを祈るだけ」。明るい表情の裏にも一抹の不安がよぎる

ゆっくりと尾びれから水に漬かっていく「はこぶね」と、その様子を固唾をのんで見守る山本さん。「・・・」。一帯は静まり返り、1秒1秒がゆっくりと流れます。

ゆっくりと入水していく「はこぶね」
土台部分が水に漬かり、運命のときを迎える

「浮いた!」

山本さんの不安は杞憂に終わりました。プカプカと浮かぶ「はこぶね」。命が吹き込まれたかのように、作品の表情は生き生きしたものに変わったかのようにも感じられます。張り詰めていた緊張感は一気に吹っ飛び、山本さんにも満面の笑みがこぼれています。

湖面に浮かぶ「はこぶね」
自信が手掛けた作品が無事に浮かび、安堵の表情を見せる山本さん

この日は快晴とはいかないものの、風は比較的穏やかで「初遊泳」には絶好のコンディション。別のボートに引っ張られて沖合約50mに移動すると、優しい風を浴びながら波にゆらりゆらりと身を委ねていました。

ボートにけん引され、沖合へと進む
水面を穏やかに“泳ぐ”
体長5m。沖合でも存在感が際立つ
ヤノベ教授とともに「はこぶね」の雄姿を見届ける
「災害碑のように感じてほしい」。山本さんの思いが伝わってくる

時折、近隣住民の方々がお越しになり、驚いた表情で「あれは何?」「誰が作ったの?」と興味津々の様子。約2時間の遊泳が終わり、ホッとした表情を浮かべる山本さんは「ウルトラファクトリーではとても大きい作品だと思っていたのに、琵琶湖に浮かぶととても小さく感じた」と率直な感想を明かすとともに「移動中を含めて多くの人の目に留まり、作品に込めたメッセージを受け取ってくれれば」と話していました。

 

無事に「水を得た魚」となった「はこぶね」と写真に納まる山本さん

そして、大航海を果たした「はこぶね」を実際に見られる機会が間もなくやってきます。東京・上野の東京都美術館で2月23日~26日に開催する京都造形芸術大学の学生選抜展「KUAD ANNUAL 2020」(通称:東京展)です。今回で3年目を迎え、森美術館館長の片岡真実・大学院教授が学生を選抜、指導、キュレーションするという類を見ない展覧会です。山本さんは出展作家15組の1人に選ばれ、他の秀作とともに展示室で見ることができます。

「はこぶね」だけでなく、東京展では注目を集めること必至の作品が目白押しです。「フィールドワーク:世界の教科書としての現代アート」をテーマに、各自の関心からリサーチを重ね、時代や地域を取り巻く課題についてどう芸術作品に転換したのか。ぜひ、東京都美術館でお確かめください。

KUAD ANNUAL 2020 フィールドワーク:世界の教科書としての現代アート

森美術館館長の片岡真実教授がキュレーションする京都造形芸術大学の学生選抜展。15組の学生作家がフィールドワークを重ね、そこから見えてきて世界を芸術作品に転換。

会期 2020年2月23日(日)~2月26日(水)※会期中無休
会場 東京都美術館1階 第2・第3展示室
開館時間 9:30〜17:30(最終入場時間17:00)
料金 無料

https://www.kyoto-art.ac.jp/kuadannual2020/

 

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