ローマ帝国皇帝クラウディウス2世が、故郷に愛する人がいると兵士の士気が下がるというので、兵士たちの婚姻を禁止した。司祭ウァレンティヌス(バレンタイン)は、兵士たちのために内緒で結婚式を行い、その噂が皇帝の怒りを買い、ついに処刑されたという。その日、2月14日が祭日となり、恋人たちの日となったという。
ヨーロッパなどでは、男性も女性も、花やケーキ、カードなど様々な贈り物を、恋人や親しい人に贈る日である。イギリスではカードに、From Your Valentineとか、Be My Valentine.などと書く。欧米では、日本のホワイトデーに当たる日の習慣は存在しない。
日本ではバレンタインデーが独自の発展を遂げた。1970年代から、女性が男性にチョコレートを贈るという習慣が生まれた。神戸が日本のバレンタインデー発祥の地という説など、発祥には諸説がある。ホワイトデーの起源についても諸説がある。日本のチョコレートの年間消費量の2割が、2月14日に消費される。上司や同僚、友人などに贈る「義理チョコ」の習慣は1990年代後半から衰退傾向にある。マシュマロデーというものあった。全国飴菓子工業協同組合は1978年総会で、ホワイトデーキャンペーンの実施を決めた。私はチョコレートが好きであるが、いただいても「お返しはしないよ」と宣言する。
バレンタインデー心に鍵の穴ひとつ 上田日差子
話は変わって、2月16日は、韓国の詩人、ユンドンチュ(尹東柱)の命日であり、毎年、瓜生山学園では、彼が住んでいた下宿の跡にある高原校舎に建立した詩碑の前で、供養の献花式を行うのだが、今年はその日が日曜日になるので、繰り上げて14日に行うことになった。
尹東柱(1917-1945)は、1941年4月渡日、立教大学に留学した。その年の秋、彼は同志社大学文化学科英語英文学専攻選科に転入した。翌1943年7月14日、彼は下宿で下鴨警察署員に逮捕された。治安維持法違反、日本国家を転覆する意図をもって活動したという理由であった。朝鮮語で日記や詩を書くこと自体が罪に問われた。彼は京都地方裁判所で懲役2年の判決を受け、福岡刑務所に収監され、1945年2月16日、拷問、虐待の果てに衰弱、獄死した。享年27であった。
2017年10月28日、宇治川辺で「詩人尹東柱、記憶と和解の碑」除幕式が行われた。尹東柱生誕100年を迎え、日本国内では3番目の詩碑である。翌年、ようやく私もその詩碑を訪れた。
尹東柱の新しき詩碑春浅し 和夫
(文:尾池和夫、撮影:高橋保世)
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尾池 和夫Kazuo Oike
1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。