COLUMN2019.11.25

学食名物のおでんー 瓜生山歳時記#39

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  • 尾池 和夫
  • 高橋 保世

 豆腐を串に刺して味噌をつける味噌田楽の田に「お」をつけたのが名称の由来である。その変形が煮込田楽で、これを今「おでん」という。江戸で始まり関西で「関東煮」と呼んだ。

 江戸時代初期、江戸の市場の醤油の多くは上方からのもので、享保期の資料で70%以上が上方のものであった。19世紀になると江戸周辺から供給される醤油の比率が高まる。幕末には上方醤油は5.6%となった。銚子で始まった醸造が、江戸経済圏の発展とともに、醤油を盛んに供給するようになった。削り節に醤油、砂糖、みりんで煮込んだ「おでん」が盛んとなった。

 おでんの具は地域によるが、里芋、蒟蒻、大根、はんぺん、竹輪などは定番と言える。時間のかかる具材から準備する。大根は下茹ですると味がしみ込みやすくなる。皮ごと3㎝の厚さの輪切りにし、皮も捨てずに厚めに剥いて酢漬けにしておでんに添える。片面に深さ1cmくらいの十字の切り込みを入れる。大根を大きな鍋に移して米のとぎ汁を加えて火にかけ、沸いたら火を弱めて竹串がすっと通るまで茹でる。水を差して冷めたらそっと手で取り出す。芋類も同じだが、煮崩れしやすいので固めに茹でる。蒟蒻は塩をまぶして5分おいて茹でる。揚げ物は熱湯で油抜きをする。

 おでんの具の好き嫌いでは議論が尽きない。ゆで卵を入れるのを邪道という人がいるが、私はかならず入れる。馬鈴薯とロールキャベツと春菊と葱と蛸も入れる。それぞれの入れ方は重要だがここでは省略する。

 出汁が重要であるが、私の場合は高知市の門田鰹節店で買う「おだしさん」を使う。これは一番出汁をスープとし、二番出汁をおでんに使い、最後は煎ってふりかけにすると美味い。

 

おでんの灯文学祭は夜となりぬ        山口青邨

 

 瓜生山の中腹にある学生食堂でも冬のおでんは人気である。毎週金曜日の名物となっている。また、学内外でパーティーをやるときにも、前もってお願いしておくと美味しいおでんを冷めないように届けてくれる。それを食べながら一段と会話が弾む。

 新年会を叡山電鉄の車両を借り切って企画してくれた職員がいた。出町柳から学食のおでんを積み込んで乗り、八瀬の駅に停めておいて新年を祝った。私も早速真似をして、氷室俳句会の秋の大会の時にそれをやった。八瀬の河原の石ころを観察した後、八瀬駅まで熱々のおでんを運んでもらって俳句を詠みながらの昼食会とした。

 

ハングルを「おでん」(오뎅)と読んで入りけり   和夫

 

人間館でのおでん販売は毎週金曜日
お昼時には学生がずらりと並ぶ

11月22日(金)、学生たちと尾池学長が一緒におでんを楽しんだ

(文:尾池和夫、撮影:高橋保世)

 

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  • 尾池 和夫Kazuo Oike

    1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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