冬の服装を指す季語は多い。歳時記には寒さに向かう昔からの智恵が集積されている。今ではあまり見られないと思っていても、マントやインバネスのように、明治の服装が復活したりすることもある。歳時記にはそれらが出ている。
普通に見られる冬の季語は、襟巻、外套、コート、ショール、セーター、手袋、冬帽、マスク、耳袋などである。総称して、冬シャツ、冬着、冬服も季語である。教室に入ると、膝掛が登場し、温石、懐炉も登場しているかも知れない。今では使い捨ての懐炉が普通であるが、懐炉という仕組みは元禄期の発明である。温石(おんじゃく)というのは、もっと昔、石を火で暖めておいて布で包んで体に当てた。
通信教育部には和服の学生も多い。足袋、冬羽織なども冬の季語である。冬の生活のスタイルとして、重ね着、毛糸編むなどの季語がある。また、瓜生山キャンパスにはあまり見られないかもしれないが、毛皮、毛衣、頭巾、ちゃんちゃんこなどの服装もある。
瓜生山は雪国ではないので、雪合羽、雪沓、雪帽子、綿帽子などが見られることはめったにない。姉妹関係で交流している山形の東北芸術工科大学の冬は、これらの季語がキャンパスに溢れる。
美しき人美しくマスクとる 京極杞陽
瓜生山のキャンパスには、芸術のあらゆる分野に関連する学生が常にあふれる。大学附属の高等学校には制服があるが、さまざまな組み合わせが可能なデザインで、それを生徒が楽しんでいる。
京都芸術デザイン専門学校の学生は、冬の季語のあらゆる分野で、服装そのものを自分がデザインすることを仕事にする。その作品もキャンパスや京都の街中を飾る。京都文化日本語学校には各国から日本の文化を学ぶためにやってきた学生たちが、ときに民族衣装を見せてくれることもある。認可保育園子ども芸術大学では、子どもたちが寒さをものともせず、大きな声をはずませて活動している。
キャンパスにある専門分野の中には、空間デザイン、環境デザインなどがある。舞台芸術学科や映画学科では、時と所を越えてさまざまな服装が活躍する。歴史遺産学科では、文化財の保存修復で昔の衣装のことを詳しく分析することも多い。キャラクターデザインや漫画学科では、想像の世界にまで服装が拡がる。文芸表現学科では文章の力で、暮らしや服装を描きながら人のこころを描く。それらを展示して見せる仕組みをアートプロデュース学科で学ぶ。冬の季語を身につけた学生たちがキャンパスを闊歩する季節である。
手袋を落として厄を落としけり 和夫
(文:尾池和夫、撮影:高橋保世)
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尾池 和夫Kazuo Oike
1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。