昨年6月には瓜生山の梅雨茸を紹介した。梅雨の季節には梅雨と付く季語がたくさんある。梅雨入り(ついり)は、太陽の黄経が80度に達したときで、6月11日ごろである。実際は地域によって異なる。梅雨寒は季節外れの寒さ、梅雨明けは梅雨入りから30日後とされているが、地域によって7月下旬まで続く。雷が鳴ると梅雨が明けるという言い伝えもある。
「梅雨」と付く季語を列挙すると、梅雨湿り、梅雨の月、梅雨の星、梅雨雲、梅雨の雷、梅雨曇り、梅雨夕焼とあり、後ろに「梅雨」と付く季語は、荒梅雨、男梅雨、長梅雨、走り梅雨、迎へ梅雨、送り梅雨、戻り梅雨、青梅雨とたくさんある。このように言葉がたくさんあるということが、その国の自然の特徴を現しているのである。
空梅雨(からつゆ)は、旱梅雨(ひでりづゆ)とも詠まれ、年によって雨がほとんど降らないことである。水不足になって、梅雨を前提とする農作に大被害をもたらすことになる。梅雨晴あるいは、五月晴(さつきばれ)、梅雨晴間は、梅雨の最中にも晴れ上がることで、五月晴という季語を西暦の5月の晴天のことと誤用しないことが大切である。
「出水」という季語も梅雨の季節で、梅雨出水、夏出水、出水川などの傍題を持っている。梅雨の、特に末期に集中豪雨が多い。梅雨に備えてあらかじめダムを放流したりしているが、それでも足りずに河川が氾濫(はんらん)することがある。台風の季節の出水は「秋出水」という季語で詠まれる。
わが庭に椎の闇あり梅雨の月 山口青邨
京都の梅雨の季節には京都盆地特有の蒸し暑さを味わう。じっとりとまつわりつく暑さが、地下の堆積層の豊富な水の存在を思わせるのである。この湿気のおかげで、楓などの樹木にたっぷりの水が供給され、それが晩秋の冷え込みによって真っ赤な紅葉となる。それが京都盆地にもたらされる自然の恩恵の一つである。
瓜生山学園では、認定保育園こども芸術大学の園児たちも、大学附属通信制高等学校の生徒も、京都文化日本語学校の外国人留学生たちも、京都芸術デザイン専門学校や京都造形芸術大学に通学する学生たちも、また大学通信教育部のスクーリングに全国から参加する生涯学習の学生たちも、それぞれに、蒸し暑い京都盆地の梅雨の経験を記憶する。
現れし竜の化石や梅雨出水 和夫
◎メインビジュアル:瓜生山キャンパス高原校舎にて撮影
(文:尾池和夫、写真:高橋保世)
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尾池 和夫Kazuo Oike
1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から2018年3月まで日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。2020年4月大学の名称変更により京都芸術大学学長。著書に、新版活動期に入った地震列島(岩波科学ライブラリー)、日本列島の巨大地震(岩波科学ライブラリー)、変動帯の文化(京都大学学術出版会)、日本のジオパーク(ナカニシヤ出版)、四季の地球科学(岩波新書)、句集に、大地(角川)、瓢鮎図(角川)などがある。
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。