SPECIAL TOPIC2025.11.07

アートデザイン教育

銀座から大阪・北加賀屋に移送された猫大爆発。《宇宙船LUCA号》が大阪の地に降り立つ! ヤノベケンジ 「Open Storage 2025LUCA:THE LANDING」

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  • 京都芸術大学 広報課

ヤノベケンジの巨大彫刻と大型アート収蔵庫MASKの歴史

大阪市住之江区北加賀屋の大型アート収蔵庫MASK [MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA]は、通常は公開されていないが、1年に1回、魅せる収蔵庫「Open Storage」と銘打ち、公開イベントを開催している。2015年からは毎年メインアーティストを迎えて、展覧会を開催している。

今年は満を持してヤノベケンジがメインアーティストに選ばれ、床面積約 1,030 ㎡、高さ9.25 mに及ぶ元鉄工所の巨大な倉庫の全空間を使ったインスタレーションを展開していた。満を持して、というのは、元々MASK自体の創設に、ヤノベケンジが大きく関わっているからだ。
北加賀屋はかつて名村造船などの造船会社が立ち並び、造船産業で栄えた街だが、現在では「アートの街」と称されている。北加賀屋が「アートの街」と言われるようになったのも、産業構造の変化により北加賀屋から造船所や関連工場が移転し、産業が空洞化したという点が大きい。その空いた工場や店舗をアーティストやクリエイターに安価で貸し出し始めたことがきっかけとなっている。

木津川河口域沿岸にドッグを併設している名村造船所大阪工場跡地は、2005年にクリエイティブセンター大阪(CCO)として生まれ変わり、「DESIGNEAST」をはじめとした様々なアートやデザインのイベントが開催されている。その起点となったのは2004年に開催された「NAMURA ART MEETING '04-'34(NAM)」で、30年間に及ぶ芸術創造の実験的プログラムを、土地の所有者である千島土地株式会社が後押しした。

2009年の「NAMURA ART MEETING」では、「起程 Il ~海路へ臨む祭礼」と際し、「水都大阪2009」と連携して、「第五福竜丸」をテーマに遊覧船を改造し、炎や水を噴く龍と一体化した作品《ラッキードラゴン》と並走するクルージングを実施した。《ラッキードラゴン》は、「ウルトラプロジェクト」として、ウルトラファクトリーでドラゴンの意匠部分が制作され、名村造船所大阪工場跡地で昇降する首の機能や船体との取り付けをわずか1か月の間に行った。また、内部にプラズマを発生する共振変圧器「テスラコイル」を入れた《ウルトラ―黒い太陽》を名村造船所大阪工場跡地内の倉庫に展示した。

2012年に開催された「NAMURA ART MEETING」の「臨界の創造論/Critical Creationism」では、ミラーボール型の巨大彫刻の上に咆哮する龍を乗せた《スター・アンガー》が制作され、クラブイベントを含めて、夜通し開催され、イベントの象徴となった。その際、その後MASKとして使用される以前の鉄工所跡地において、《スター・アンガー》の「収蔵の儀」が行なわれた。《スター・アンガー》は翌年の2013年、「瀬戸内国際芸術祭2013」において小豆島の坂手港の灯台跡に展示され、閉幕後も小豆島のパブリックアートとして恒久設置された。

しかし、2010年代の地方芸術祭ブームの中、ヤノベを中心とした巨大化する作品群を収蔵する場所はほとんどなかった。北加賀屋の鉄工所跡は、2014年、それらの大型アートの収蔵庫MASKに生まれ変わることになり、千島土地もおおさか創造千島財団を設立して運営を担っている。現在、MASKでは、やなぎみわ、名和晃平、金氏徹平、宇治野宗輝、持田敦子などの大型作品を収蔵したり、新作発表の場として機能し、1年に1回の「Open Storage」は、「アートの街」と化した北加賀屋の恒例のイベントになっている。

なかでもヤノベケンジの作品の収蔵が一番多く、《ラッキードラゴン》(2009)、2004年-5年に、金沢21世紀美術館の開館時に滞在制作でつくれた《ジャイアント・トらやん》(2005)、《ウルトラ-黒い太陽》(2008)、2011年の震災・福島第一原発事故後に3体制作された《サン・チャイルド》の2体目など、MASKの目玉作品となってきた。特に、現在でもヤノベの巨大彫刻の中でも最大級の7.2mとなる《ジャイアント・トらやん》は、2022年に開館した大阪中之島美術館に収蔵され、その際は首や腰を回し、手を振って踊りながら口から炎を噴く、最後のファイアーパフォーマンスが行われ、《ジャイアント・トらやん》を美術館に送り出す盛大なイベントが開催されている。

 

《SHIP’S CAT》から《BIG CAT BANG》へ

創設から11年目を迎える今年、MASKの象徴的作家であるヤノベがメインアーティストに選ばれ、MASK全体を使用して巨大インスタレーションを展示した。「LUCA:THE LANDING」と銘打たれたこの展覧会の起源は、2017年から開始した《SHIP’S CAT》シリーズにある。

展覧会フライヤー

《SHIP’S CAT》は、福を運ぶ「旅の守り神」をテーマに、古代エジプト時代から人間と共に船に乗り、大航海時代以降は世界中を旅した「船乗り猫」をモチーフにしている。2017年に博多に出来た若者向けのホステル「WeBase博多」に設置されたパブリックアートとして制作され、世界各国、日本各地で展示されたり、恒久設置されてきたりした。2021年には大阪中之島美術館の開館に合わせて、北側エントランス方向の芝生広場の前に《SHIP‘S CAT(Muse)》が恒久設置され、大阪の街のシンボルとしても認知されるようになった。

そして2024年、《SHIP’S CAT》シリーズの新たな展開として、GINZA SIXの中央吹き抜けに展示されたのが《BIG CAT BANG》だ。GINZA SIXでは、オープン以来、文化複合商業施設の象徴として、草間彌生を皮切りに、塩田千春や名和晃平といった国際的に活躍するアーティストのインスタレーションを中央吹き抜け空間に展示をしてきた。

ヤノベケンジ《BIG CAT BANG》2024 GINZA SIX(東京)撮影:Yasuyuki Takaki

2024年から2025年は、GINZA SIXの7周年と、大阪・関西万博の開催に合わせて、万博と縁の深いヤノベケンジを選んだのだ。その際、ヤノベも大きく影響を受けた1970年の大阪万博でテーマ展示のプロデューサーとなった岡本太郎の《太陽の塔》との何等かのコラボレーションが期待された。そこで、ヤノベは《太陽の塔》の内部に、科学万能主義的な万博とは逆に、生命の起源からクロマニョン人に至る進化の系統樹である「生命の樹」を内包していることに着目し、宇宙の起源にまで遡ることを試みる。

そして、約137億年前の宇宙誕生の「ビッグバン」から、約39億年の生命誕生の間に、「BIG CAT BANG」が起り、猫耳を持つ《太陽の塔》のような宇宙船《LUCA号》から、無数の「宇宙猫」が地球上に飛翔して、地球に「生命の種」を植え、ビッグファイブという大量絶滅の危機を乗り越え、人類誕生まで見守ったというストーリーを考案し、まさに飛翔する瞬間を吹き抜け空間に表現したのだった。

展示では、約9メートルに及ぶ巨大バルーン、約400体に及ぶフィギュアが使用され、まさに「猫大爆発」と形容するにふさわしいインスタレーションとなり大きな評判となる。それは「芸術は爆発だ!」という岡本太郎の著名な言葉の再解釈にもなっていた。そして、千里丘陵に立つ《太陽の塔》は、《LUCA号》と名付けられた宇宙船の猫耳が取れた姿であり、人々の周りにいる猫は、「宇宙猫」の子孫かもしれない、として現実と結び付けた。

それから1年半の間、GIZA SIXの展示は、現代アートファンだけではなく、猫好きの多くの人々も巻き込み、「宇宙猫」に自身の飼い猫を投影し、ヤノベの巨大な妄想に人々を巻き込んだ想像の宇宙が膨れ上がっていったのだ。
 

「宇宙猫」を乗せた《LUCA号》を大阪に着陸させるプロジェクト「LUCA:THE LANDING」

しかし展示にも期限はある。その間、岡本太郎記念館で、《BIG CAT BANG》のバックストーリーを描いた展覧会「太郎と猫と太陽と」が開催されたり、埼玉県飯能市にできたハイパーミュージアム飯能では、「宇宙猫の秘密の島」というタイトルで展覧会が開催されたりして、《BIG CAT BANG》の世界観をGINZA SIXの外部まで拡張していった。

ハイパーミュージアム飯能に隣接する宮沢湖には、人工の浮島に、巨大な眠り猫のバルーンがつくられ、そこにボートで上陸して鑑賞する特別展示が行われた。それは《BIG CAT BANG》のサイドストーリーでもある。地球に飛来し「宇宙猫」が乗り込んだ偵察船の一機が不時着する。そこに乗っていた一匹は特に創造性が溢れており、古代から現代アートまでのあらゆる作風の美術を制作する。その遺跡を見た人類が後、ラスコーやアルタミラと言った洞窟壁画を描き、美術の歴史が始まるというストーリーだ。その偵察船が飯能で発見され、それを基にグランピング施設がつくられたという設定の浮島が《宇宙猫の秘密の島》というわけである。

宇宙猫の秘密の島

さらに、地球に降り立ち力尽きた「宇宙猫」を宇宙に還そうというプロジェクトも立ち上がり、成層圏にまで気球を打ち上げ、真空空間で「宇宙猫」を撮影するために、クラウドファンディング「RE: VERSE PROJECT NFT」も行われている。

そして、いよいよ《BIG CAT BANG》が閉幕に近づくなか、展示されていた《太陽の塔》に似た《LUCA号》を《太陽の塔》のある大阪に移送して、着陸させることで現実の《太陽の塔》に接続させようというプロジェクト「LUCA:THE LANDING」が立ち上がる。

インスタレーションの中心にある《LUCA号》の大型バルーンは約9mに及ぶ。これを吊るだけでも大変な苦労であるが、展示が終了すると廃棄される予定だった。しかし、これだけ人々に愛された作品をそのまま廃棄するのは名残惜しい。しかし、それを大阪に運ぶだけでも数百万円かかってしまう。そこで最終的に廃棄するにせよ、《太陽の塔》のある大阪に運んで再び展示して大阪の人々にも見てもらい、パーツを切り取って、返礼品とクラウドファンディングを実施することで、人々と《BIG CAT BANG》のストーリーを現実のものとして共有しようとしたのだ。

クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」で、クラウドファンディングプロジェクト「LUCA:THE LANDING」が開始された直後、わずか3時間ほどで目標金額800万円を達成。ネクストゴールも次々達成、ついにはファイナルゴールの1,300万円も達成し、すべてのバルーンやフィギュアも輸送し展示することになった。それが今回のMASKの「Open Storage」の展示である。

 

《LUCA号》の展示と、MASKに溢れる猫大爆発

今回の展示に際し、ヤノベは《BIG CAT BANG》で展示された《LUCA号》やその他の宇宙猫を、MASKの会場中に展示した。中央に吊り下げられた全長9mに及ぶ《LUCA号》は、巨大倉庫にも関わらず、とてつもない存在感を表している。逆に言えば、GINZA SIXの吹き抜け空間がいかに大きかったかということだろう。

おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい

さらに、《宇宙猫の秘密の島》も運搬され、MASKの奥に置かれた。こちらも人間が入れるだけあってさらに大きい。もともと屋外の湖の浮島に展示されていただけあって、その巨大さを間近で体験できる。

おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい

そこからがヤノベの真骨頂といえるが、収蔵されている他のアーティストの作品に、ヤノベの作品を浸食させていく。例えば、宇治野宗輝の改造車《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD(Car Section)》(2010-2013)の上には、《LUCA号》の上に載っていた巨大バルーン作品《SHIP’S CAT》を吊り下げ、名和晃平の《N響スペクタクル・コンサート「Tale of the Phoenix」舞台セット》の上には、《LUCA号》から飛び出している巨大バルーン作品《SHIP’S CAT(Flying)》を吊り下げた。さらに、やなぎみわの《ステージトレーラー「花鳥紅」》(2014)の上には、彫刻作品である《SHIP‘S CAT(Flying)》にGINZA SIXでも大量に吊られた《SHIP‘S CAT(Flying mini)》を展示し、ポールダンサーが躍るポールには、《宇宙猫の秘密の島》に入っていた「宇宙猫」が踊って手を振っているという具合だ。

おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい
おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい

久保田弘成の船が回転する作品《大阪廻船》(2013)の下には、第五福竜丸をモチーフにした《ラッキードラゴン》の構想段階の作品、《ラッキードラゴン構想模型》を今回向けにアレンジし、船上の置く作品を《SHIP’S CAT》シリーズに乗せ換えたりするなど、他の作家の作品に介入しつつ、親和性をもつような工夫が随所になされており一つの世界観を築いている。

おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい

その他に《SHIP‘S CAT》シリーズの大型作品を大集結させているのが圧巻である。まずは、MASKの屋上に《SHIP‘S CAT(Hope)》を置いて、MASKだけではなく北加賀屋のシンボルとした。北加賀屋は工場街のため建築のファサードがどれも同じようにできており、街路の個性が見えにくい。しかし、屋上に置かれた《SHIP‘S CAT(Hope)》は、通りに入ると鮮やかなオレンジがすぐ目に入り、ランドマークの役割を果たしている。

エントランスに入ると、巨大な《LUCA号》が着陸するように「低空飛行」をしている。左手には、 GINZA SIXのフィナーレの際にエントランスに置かれた《SHIP’S CAT(Cosmo Red)》、中央には「世界最速」を目指した自動車型の彫刻《SHIP’S CAT(Speeder)》、宇治野宗輝の家型の作品《THE BALLAD OF EXTNEDED BACKYARD,THE HOUSE》の上には、眠り猫型の彫刻《SHIP’S CAT(Mofumofu22)》、その反対側の金氏徹平の作品の前には、《LUCA号》の彫刻作品《Spaceship “LUCA“》が展示された。久保田弘成の奥には、岡本太郎記念館の庭、GINXA SIXの屋上、ハイパーミュージアム飯能にも展示されてきた、羽をつけた《SHIP‘S CAT(Ultra Muse / Red)》など、《SHIP‘S CAT》シリーズが一堂で見られるようになっている。また、一番奥には《サン・チャイルド》や《ラッキードラゴン》など、以前から収蔵されていているヤノベ作品が鎮座している。
 

「ウルトラプロジェクト」による制作や新たなグッズ展開とVTuberの試み

実は、「ウルトラプロジェクト」で学生が参加した作品も多い。《サン・チャイルド》や《ラッキードラゴン》といった歴代の巨大作品もそうであるが、今年のプロジェクトメンバーの学生でも、《SHIP’S CAT(Cosmo Red)》のステンレスの貼り付けなどに参加している。
プロジェクトメンバーには、美術工芸学科だけではなく、キャラクターデザイン学科や情報デザイン学科を中心とした30名もの学生が参加しており、会期中には、それぞれの得意分野で制作したグッズを販売した。業者が制作したグッズに加えて、ポストカードや缶バッチ、ストラップ、キーホルダー、コースター、お面、サポート代付きのフィギュアなど、学生たちは、《SHIP’S CAT》などのヤノベ作品をモチーフに、様々な意匠デザインをしている。これらはヤノベが「2次創作」を許可して実現したものだ。今年の「ウルトラプロジェクト」は、ヤノベとイラストレーター・アニメーターの米山舞との共同で実施する「PROJECT ULTRA-W(ウルトラ・ダブル)」であるため、銀座で開催される米山の展覧会を見る研修旅行が予定されているのだ。そこで自分たちが制作したグッズの収益によって、その際の旅費や宿泊費を捻出しようというわけである。

ヤノベが「ウルトラプロジェクト」を実施する狙いは、世界の第一線で活躍するアーティストやクリエイターの実践の場に参加することにより、単なる制作だけではない、空間における工夫やクライアントの意向、観客との対話など総合的にレベルが向上することになる。なかでもグッズは、近年の美術館の展覧会でも重視されており、自身の評価がお金としてすぐ換算されるため、もっとも緊張感のある実践となる。最初の3日間の売上は、業者のグッズを含めて約500万円になったという。

そして、10月4日(土)には、オープニングイベントとして「オープニング・トーク&ライブパフォーマンス」が開催され、250名もの人々が詰めかけた。ライブは、ヤノベと《SHIP‘S CAT》をモチーフにした絵本を共作したDOZAN11 aka三木道三、《SHIP‘S CAT》のミュージックビデオの音楽を担当しているBL4CK PEARLである。 オープニングイベントの前座は、今回、宙来なぎさときゃぷしーちゃんという、2人のVTuberが参加した。今回の「LUCA:THE LANDING」の少し前からYouTubeで活動をはじめ、今回はライブで二人で登場した。

画面左から 宙来なぎさ、きゃぷしーちゃん YouTubeリンク

実はこの二人のキャラクターはキャラクターデザイン学科の一年生が制作した。宙来なぎさは大塚撫子さん、きゃぷしーちゃんは野口つかささんである。二人がVTuberをやりたいと提案し、ヤノベが許可して始まった。なんとVTuberをつくるのは初めてであるという。しかしイラストのクオリティも高く、映像もしっかり編集されている。それらはプロ用のソフトとフリーソフトをうまく組み合わせてつくったという。「ウルトラファクトリーの妖精」という設定のきゃぷしーちゃんの声はわかる人にはわかると思うが、ヤノベ本人である。宙来なぎさの声は制作した大塚撫子さんが担当している。

当日はライブで実施する必要があるため、MASKの受付と2階の二手に分かれて、見事オープニングアクトをつとめた。250名もの人数が詰めかけるなか、顔は見えないものの、ほとんど台本のない即興のやりとりをしなければならなかったので、非常に緊張したと思うが見事やり切った。

左から 野口つかささん、大塚撫子さん

大塚撫子さんと野口つかささんは、同じキャラクターデザインで、プロジェクトに参加する中で仲良くなり、同志であり、ライバルでもある関係というが、1年生で今までの人生の中でも得がたい体験をすることができたと語った。プロジェクトに参加することで、ウルトラファクトリーの機材を使うためのライセンスをすべて取得した。そして今まで使用したことがなかったソフトや機材をふんだんに使い、2次元の中では体験できない物質的な素材を扱ったり、映像を扱ったり、表現の幅や可能性が広がったという。

その後のトークでは、「LUCA:THE LANDING」や気球を打ち上げて宇宙猫を宇宙に還す「RE: VERSE PROJECT NFT」のクラウドファンディングをしてくれた支援者も多く集まっていたため、ヤノベはそれらのことについて改めて感謝を述べた。ただ、気球の打ち上げが、8月から延期が続いていることもあり、今回、NFTの実施企業である株式会社ゆめみと、打ち上げの実施企業であるスペース・バルーン株式会社の担当者が会場に来て、経緯を説明した。担当者によると、スペース・バルーン社では、茨城県大洗町のビーチから打ち上げるが、気候変動によって偏西風が蛇行し、その影響によって風が強いため、なかなか打ち上げられる状況になかったという。バルーンは最終的に空気が抜けて、海に落ちるが、偏西風に吹かれ沿岸から遠くなりすぎると、漁船で取りに行くことを海上保安庁から警告されているという。ただし、偏西風が収まる10月末までには打ち上げられそうとのことだ。

ここでも、地球温暖化の影響によって我々の住んでいる地球が危機的な状況であることが実感できる。「宇宙猫」には、6度目の大量絶滅にならないよう見守ってもらう必要があるのだ。

 

会場に木霊する音楽の力

さて、そこからライブが始まり、BL4CK PEARLの都会的でお洒落な曲が披露される。BL4CK PEARLは、ボーカルのVelaと作曲のSOZEN OTSUBOからなるユニットだ。 1曲目の『Dawn』は、2022年に大阪中之島美術館が開館し、《SHIP’S CAT(Muse)》がお披露目された際、今までの《SHIP’S CAT》シリーズの旅の記録も含めた映像と合わせて制作されたものだ。ヤノベはこの曲が気に入っており、spotfyでもヘビーローテーションにしているという。2曲目は、当日の昼までトラックをつくっていたという新曲で、《BIG CAT BANG》をモチーフにした新曲で、こちらはややアップテンポでノリのいい曲で、新たな旅を予感させるものになった。
とりは、DOZAN11 aka 三木道三である。DOZAN11 aka 三木道三は、三木道三としてデビューし、2001年に『Lifetime Respect』でレゲエ歌手として初めてオリコン1位を記録し90万枚以上売り上げた。その後、プロデューサーに転向DOZAN11として活動していたが、2014年には歌手活動も再開している。

ヤノベとはDOZAN11が企画したライム(韻)を踏んで歌うように、ラップするように読むことができる絵本の2作目で共作した。文章をDOZAN11が担当し、絵をヤノベが担当したが、『SPACE SHIP'S CAT Zitto & Gatito』とタイトルにあるように、《SHIP’S CAT》をモチーフに猫と少年が宇宙を旅するという内容で、スピンオフ企画であるが、「宇宙猫」の登場を予感したものになxっている。絵本をもとにミュージックビデオも制作しており、その映像に合わせてDOZAN11が歌い上げる。会場にも絵本を持っている観客もいて、会場も一段と熱気を帯びてくる。

最後はおなじみの『Lifetime Respect』である。DOZAN11はこの曲をよく聞いた35から55歳くらいの人達を自身の曲の「世代」としており、会場にも熱心に聞いていたり、カラオケで歌っていた人たちもいたことだろう。会場にも「一生一緒にいてくれや」というおなじみの歌を呼びかけ、声が小さいということで一度止めて、再度会場の参加を盛り上げて、大団円となった。DOZAN11は、想像していたよりもすごい展示で驚いたと語り、これだけの創造的な作品があふれる中、音楽の力で言霊がそこに宿ってさらに盛り上がると思うと述べた。
 

北加賀屋に広がる《BIG CAT BANG》世界

また、沿岸部にある名村造船所大阪工場跡地のクリエイティブセンター大阪(CCO)では、サウナイベント「北加賀屋MURTI BARTHE」が同時開催されていた。ヤノベは、エアストリーム製のキャンピングトレーラー(トラベルトレーラー)を改装し、内部で温めた体を冷やして、心身を整える《SHIP'S CAT SAUNA》を設置した。

おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい

航空機の設計者であったウィリアム・ホーリー・ボウラスが1930年代に生み出したアルミ製の特徴的な柔らかなラインのトレーラーの上には、《SHIP’S CAT (Figurehead)》を設置。宇宙船のように白く発光し冷やされた内部には、猫の頭部の彫刻から流れる水が風呂に貯められて循環し、両端には成層圏に打ち上げられる《SHIP'S CAT》のフィギュア作品の映像が上映され、帰還した作品を納める《SHIP’S CAT(Cosmo Pod)》が設置されている。身体の深部に沈み込む内宇宙の旅と、外宇宙の旅を同時に楽しみ心身を整えることができるのだ。

おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい
おおさか創造千島財団 提供 撮影:仲川あい

屋外のサウナ会場の前には、京都芸術大学出身の建築家・屋台研究家の下寺孝典による船型の屋台にサウナに入れる各種のハーブが植えられ、同じく京都芸術大学出身の彫刻家の米村優人がタイで作られた船を再利用した水風呂とその上に群像と吐水口型の彫刻作品を設置している。頭に血が上ると些細な事で争い起きたり、船酔いすると道に迷ったりすることから、暑くなった心と体を冷やして整える場所を提供している。

さらに、MASKを含めた北加賀屋の至るところに、《SHIP‘S CAT》をモチーフにしてサウナ会場に誘うために、ホーローで出来た昭和風のレトロ看板が掲示されている。それもまたヤノベがAIを駆使し、タカラスタンダード社と組んで制作したものだ。

まさに、《SHIP’S CAT》と《BIG CAT BANG》の展開にふさわしく、海と空、内宇宙と外宇宙の両方にまたがって、想像と創造の旅を続けていることを力強く示したといえるだろう。それは現実と空想が融合した「妄想」として新たな叙事詩を紡いでいくだろう。

 

(文=三木学)(記事冒頭写真 撮影=仲川あい)

 

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