日増しに寒さが増してくる11月の小春日和、京都芸術大学の学園祭「大瓜生山祭」が開催されました。11月1日(土)、2日(日)の2日間に渡って開催され、1万人以上が訪れた学園祭の様子をレポートしていきます!
本年度の大瓜生山祭のテーマは「わ」。大瓜生山祭の運営を担う学生会の学生たちの「学科やコースの垣根を超え、学生同士が繋がるきっかけとなる、人と人を繋ぐ「輪」を作り出す学園祭にしたい」という想いが込められています。さらに「わ」には、学生同士の繋がりにとどまらず、学生と作品、学生と先生、学生と学生会など、さまざまな関係の広がりを想像させる意味も含まれています。


今年度から始まったプログラムのオープニングセレモニーも、サークルと学生会の「わ」を広げようと、学生会のメンバーが和太鼓サークル「和太鼓悳(しん)」と「瓜生山吹奏楽部」に依頼し実現したものです。



「和太鼓悳」は、学園祭の開始に合わせて、望天館屋上で「燦(さん)」など3曲を演奏し、「瓜生山吹奏楽部」は昨年のヒットソングを披露し、会場を沸かせました。学生たちの堂々とした演奏に、集まった学生や学外の方々も聞き惚れ、華々しい学園祭のスタートとなりました。


昨年に引き続き、学生が学科の授業で制作した作品を展示する「学生作品展」、有志の学生による「物販企画」、学科対抗の露店企画「フードコロシアム」、サークルや有志の学生が演奏やダンスなどを披露する「ステージ企画」など、多彩なプログラムが学内の各所で開催されていました。2日間では回りきれないほど……! 今回の記事では、フードコロシアムが行われていた望天館と学生作品展や物販で盛り上がった直心館、人間館を中心に、その魅力をたっぷりお伝えしていきます。
学生作品展・学科紹介ブース

まずは学科作品展から見ていきましょう。以前は各学科の3年生が展示を行っていましたが、昨年度からは出展が任意になり、従来通りの学生作品展としてだけでなく学科紹介ブースとしての出展もあり、さまざまな学年の学生作品がキャンパス全体に展示されました。展示方法も学生自らが考案。2月に開催される「卒業展」に次ぐ大規模な作品展となっています。
まず向かったのは空間演出デザイン学科。学科の3年生が取り組んだNO(W)DESIGN AWARDというコンペ形式の課題の成果作品を展示しました。今年のテーマは「LIFE→SUSTAINABLE」です。海洋プラスティックごみ問題やモノの大量消費と廃棄によって引き起こされる地球環境問題や気候変動の課題に向き合い、サスティナビリティ(持続可能性)を持った暮らしや社会の在り方を提案しました。



学科内でFirst prizeを受賞した尾畑瑞希さんの「赤の根(aka no ne)」は、2000年前から日本に根づく植物「日本茜(にほんあかね)」で染めた素材と、シルバーを組み合わせたジュエリーブランドです。茜色は古来より、人の想いや願いを映す色として愛され、武士の鎧、冠位十二階で位の高い者の衣や日の丸の赤にも使われてきました。しかし現在では、生産者が減少し、染めるという文化そのものが失われつつあります。尾畑さんは、日本茜を現代にもう一度根づかせ、茜色を多くの人に好きになってほしいという思いを込めてブランドを立ち上げました。


こちらはサスティナブル賞を受賞した西野瑞穂さんの「土クレヨン」です。デジタルデバイスの発達などにより、近年の子どもが土に触れる機会が減少しているという課題を解決するため、材料には身近にある公園の土を使用しています。紙に土クレヨンで絵を描くことで、描く人同士が自然を介して繋がるきっかけになり、土という素材が持つ可能性を感じることができます。

当日は、2〜3年生が取り組んだ授業やプロジェクトの成果展示も行われていました。京都ブランド「SOU・SOU」とのコラボ授業や、京都の百貨店「藤井大丸」との産学連携プロジェクト、2年生が取り組んだ地域の課題解決のデザインを提案・実践する「わがまちおみやげプロジェクト」についてのパネルや、実際に授業で制作した作品を展示しました。
次に向かったプロダクトデザイン学科では、産学連携授業などのプロダクトデザイン演習をはじめ、照明器具や家具などの分野別のデザイン演習授業など、3年生(一部2年生)前期の8つの専門授業の成果が展示されていました。100円ショップで有名なダイソー(株式会社大創産業)との商品開発プロジェクトで発案され、SNSで話題になったプロダクトの制作過程を垣間見ることのできる、ワクワクする展示も盛りだくさん!

※ダイソーとの産学連携プロジェクトで最優秀賞を受賞したのは小堀周汰さんの「首から下げることが出来るリングノートホルダー」です。小堀さんは、メモを取る際にカバンやポケットからノートを出さなければならず、咄嗟の記録がスムーズにできないという日常の不便に着目。名札や社員証とともにノートを首から下げられる「首から下げるリングノートホルダー」を提案しました。

小堀さんは「ぼく自身、リングノートは持ち運びに便利なものが少なく、スマホでメモを取ることは失礼に見える場合もあるという悩みを持っていました。そこで、首から下げる方法でノートを常備するプロダクトを考えました。リングノートのリング部分に合わせたネックホルダーの形状を何パターンか試作して、この形になりました」とプロダクトについて説明します。たくさんの試作を重ねて、ノートが落ちにくい現在の形状が見つかったんですね。
隣の講義室で展示されていたのはSONY(ソニーグループ株式会社)との産学連携プロジェクトの成果物です。こちらのプロジェクトでは「クラウド時代の窓」をテーマに3年生・2年生合同でプロダクト、アプリケーション、サービスなど幅広いアウトプットを制作しました。ソニーのデザイナーの方々からいただいた多様なアドバイスを活かした、豊かな発想の作品が多数展示されました。

他にも、「機能認知から情動を導く造形」の家電をデザインする授業や、「大学生の食の“楽しい”」をUI・UXを通じてデザインする授業などの成果物を見て回ることができ、見ていると「これ、家にほしい!」「使ってみたい!」とだれかに話したくなるような、プロダクトを通して利用者の生活を変化させるアイデアが詰まった展示でした。
人間館C棟では、美術工芸学科の学生が日々制作する実習室や工房をギャラリー空間として、油画、日本画、立体造形、陶芸、染織、写真、映像など多様な技術や素材による作品を展示していました。授業の成果物だけでなく、自主制作による作品も多く、中には絵画作品と映像作品を組み合わせたインスタレーションも。伝統的な日本画の技法を使った作品から、現代的な漫画やグラフィックの表現を取り入れたインスタレーションまで、学生たち一人ひとりの個性が光る展示でした。






日本画コースでは、同コースの有志が運営・開催する「0号展」という企画も行われていました。同コースの1〜2年生が学園祭で展示するきっかけ作りや、だれもが簡単に作品を発表できる場を作ることを目的として、S0号(18cm✕18cm)の作品を募集。壁一面に個性豊かな学生たちの作品が展示されました。同じS0号のフォーマットでも、学生によってまったく異なる表現が見られ、来場者にとってはお気に入りの作家を見つける機会になりました。
学生有志企画

続いて、学生有志企画を見ていきましょう。
人間館1階ではサークルや有志による物販、カフェメニューの販売、公開ラジオやそれぞれの学生が制作した手のひらサイズの作品をカプセルトイとして販売する「芸大生ガチャ」など、バラエティ豊かな企画を楽しむことができました。


ギャルリ・オーブエリアでは「隠岐島・海士町物産展」が開催されていました。本学の創設者・徳山詳直前理事長の出身地である島根県隠岐郡海士町の特産品をはじめとする隠岐諸島及び美保関、境港の特産品を販売し、その魅力を発信する物産展です。昨年発足した「島根プロジェクト」のメンバーが企画・運営を担当しました。

メンバーたちが隠岐島を実際に訪れ、巡った各地について解説する「隠岐クエスト」冊子の配布や、松江(島根半島東部)、境港、隠岐の特産品などを紹介するマップパネルの掲示など、展示内容は昨年よりパワーアップ。物産展に並んだのは、しゃもじの形をした海士のサブレー「あましゃもじ」や炙り鯖ジャーキーなど、つい食べたくなるものばかり。プロジェクトメンバーにおすすめの商品を聞いてみると、「『どじょう掬いまんじゅう』がおすすめです! 山陰銘菓で、白餡、こし餡、抹茶、いちご、梨などいろんな種類があるんですよ」と教えてくれました。みなさんもぜひ、島根県を訪れた際は探してみてください!
ギャルリ・オーブ入り口に掲示されていたのは「わ」みくじ。今年の大瓜生山祭のテーマである「わ」から生まれた言葉が書かれたおみくじです。

ジーンと沁みる格言からクスッと笑える一言まで、様々な種類があるとのこと……さっそく引いてみると、ジャン!

「W(笑) 笑顔が世界を救う!」の文字とともにイラストが描かれていました。ヤノベケンジ先生の「わ」みくじだったようです。こちらの「わ」みくじは装飾の一部として、参加者がみくじを引くことでイラストが少しずつ公開されていく仕組みになっていました。

甘い匂いにつられて人間館のカフェに行ってみると、「学生生活委員会」の教職員が出しているレモネードのお店が見えてきました。なぜレモネードなのかと聞くと、防犯意識を啓蒙する標語の頭文字をとった「MAMOLEMON」にちなんでいるそう。店頭で流れている「防犯」をコンセプトにした映像は刺激的で、食い入るように見ているお客さんの姿もありました。

同じくカフェブースでは、デジタル地球儀「触れる地球」/SPHERE開発者の竹村眞一さんと本学の佐藤卓学長の特別トークセッションも開催されていました。「地球のデザインとは?」をテーマに、これまで佐藤学長が行ってきた展覧会やデザインした商品などの具体例も交えながら、自然と人間の関係性を考えるトークとなりました。


そして、こちらは湯道部のブースです。

湯道部は小山薫堂副学長を顧問に2023年2月から活動を開始した、現在減少傾向にある銭湯業界を盛り上げるために活動するサークルです。ブースでは湯道部についての紹介パンフレットの配布や湯道部タオルの販売、様々な種類のハーブを組み合わせることでオリジナルの入浴剤を作るワークショップを開催していました。

物販・ウルトラファクトリー・フードコロシアム
物販ブースでは、学生たちが作ったオリジナルの作品やグッズが販売されました。なんと100組を超える有志の学生たちが出展した今回の物販。アクセサリーやステッカー、イラスト、Tシャツなどさまざまな趣向を凝らしたオリジナルグッズが並びました。
「いろは彩市」と題された今回の物販では、系列校である京都芸術デザイン専門学校とコラボしたスタンプラリーも開催。店舗で買い物をするともらえるスタンプを3つ集めると、景品がもらえました。


ここでヤノベケンジ先生の「SHIP'S CAT(シップス・キャット)」のキャラクターに案内され、人間館を離れて至誠館へ。ULTRA-Wプロジェクト特別企画として、ウルトラファクトリーの金属加工などを行う工房を見学できるほか、「ULTRA POP UP!」ではプロジェクトメンバーによって制作された種類豊富なグッズが販売されていました。ウルトラファクトリーのポストカードやキーホルダー、『ヤノベケンジ LUCA:THE LANDING』で大人気のSHIP'S CATのお面まで! 子どもから大人まで気軽に楽しみながらものづくりに触れることのできる、貴重な機会となりました。



大階段を登ったピロティから、さらに階段を登った先にある望天館屋上では、一昨年度から復活したフードコロシアムが行われていました。各学科が屋台を出店し、売上や店舗デザイン、ポスターデザインで競い合う学園祭の目玉企画です。

出店した学生に話を聞いてみると、前期から話し合いを重ね、メニュー開発を行なったのだそう。今年度のフードコロシアムのテーマは「話食」。食を通じて、人と人とが会話し、繋がることのできるメニューを目指して、どの学科も個性あふれる商品を提供していました。
人気で長蛇の列ができていたプロダクトデザイン学科の「しらたま」は、きなこ、あんこ、醤油、チョコなどの味付けを2種類選ぶことができ、寒い初冬の季節にぴったりな暖かく柔らかい白玉に心癒される一品でした。



環境デザイン学科の「トッポギ」を食べていた学生たちに話を聞いてみると「辛いけど美味しいです!」と笑顔で答えてくれました。

2日目には、至誠館5階(学生食堂)にて、フードコロシアム授賞式が行われました。最も多く売り上げたのは、情報デザイン学科! 全世代の人に愛される屋台メニュー「唐揚げ」を903食提供しました。2位は環境デザイン学科(658食)、3位にプロダクトデザイン学科(529食)と続きました。




さて、大瓜生山祭の様子について、大ボリュームでお届けしました。大瓜生山祭は学生会役員の学生が中心となって、当日ボランティア含めると100名以上の学生が広報や運営を行いました。




はじめにご紹介した今年度のテーマ「わ」。各学科の展示や有志企画、フードコロシアム、物販などを通じて、新しい繋がりやアイデアを生み出す学園祭だったのではないでしょうか。学生たちと作品の「わ」が広がる、有意義な2日間でした。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。来年の「大瓜生山祭」もお楽しみに!
文=上村裕香
撮影=吉見 崚
○印写真=京都芸術大学 写真サークル_フォトモラ!!
※印写真=広報課撮影
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。