イベントから見据える「芸術」のカタチ 〜 芸大生主催のイベント「大人のための絵本時間」〜――文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信
- 京都芸術大学 広報課
京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会3B」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。
本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。
はじめに
皆さんは、「芸大生が主催するイベント」と聞いて、どのような印象を持たれますか?
楽しそう、おもしろそうの他に、自分と芸術は縁遠いものなのかもしれないと感じた人がいるかもしれません。
今回、授業で、「リーチ(仮)」という5人組のチームを結成し、「喫茶店」と「絵本」といった私たちに近しいものから、芸術を身近に感じてもらうためのイベントを企画することになりました。のびのびとイベントを開催した私たちの活動を知って、「芸大生」や「芸術」に少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。
京都芸術大学の近くには、学生がイベントを主催することができる「喫茶フィガロ」というカフェがあります。店内はゆったりと落ち着いており、コーヒーをはじめ、クリームソーダやチーズケーキが美味しいお店です。

イベントができるということで、店内に入ってすぐの場所には、スクリーンがありました。今回は、店長さんの協力のもと、私たち文芸表現学科の学生も、芸術のおもしろさをより多くの大人の方に知ってもらうため、絵本作家の谷口智則さんをお招きして「大人のための絵本時間」というイベントを開催しました。

芸術は身近なもの
「芸術」という言葉を聞いた時、あなたはどんなことを思い浮かべますでしょうか。おそらく多くの人は「なんか、難しそう」という思いを持たれたのではないでしょうか。私たち文芸表現学科の学生は、「芸術」と聞かれたら「本」と答えます。意外だったでしょうか。小説、ノンフィクション、脚本、詩、短歌、俳句、様々な書籍も立派な作品という芸術なんです。様々な書籍の形がある中で、私たちが生まれてすぐに触れた作品は「絵本」ではないでしょうか。絵本は、幼い私たちを想像豊かな世界に連れ出してくれます。それは、きっと大人になった今もなお。
「子どもだけでなく、大人にこそ絵本を読んでほしい」
谷口さんはそう言います。

絵本作家の谷口智則さんは、金沢美術工芸大学日本画専攻を卒業し、『サルくんとお月さま』でデビュー後、フランスをはじめ、海外でも数々の絵本を出版し、世界的に活動されています。
谷口さんの作品は、黒一色から始まり、最終的には動物たちのどこか落ち着いた深みのある絵柄にキャンバスが姿を変えます。

物語は子ども向けのはずなのに、どこか考えさせられるリアルと想像の展開が自然な作品ばかりで、私たちはあっという間に谷口さんの絵本の虜になりました。
子どもの時には絵本に触れていたのに、大人になると馴染みがなくなっていく人は多いのではないでしょうか。当時の子ども心やわくわく感をまた体感してもらい、芸術は「身近なもの」であることを認識してもらいたい、そんな思いから私たち「リーチ(仮)」のイベント企画がスタートしました。
企画実現に向けて
大まかな企画内容が決まると、いよいよ当日のための準備が始まります。宣伝用のフライヤーをデザインし、学内にあるウルトラファクトリーのライセンス資格を取りました。

ウルトラファクトリーというのは、学内にあるものづくりに特化した作業室です。メンバー全員がウルトラファクトリーの利用経験がなかったため、基礎ライセンス資格取得後、部屋にあった大きな複合機に驚き、感動しました。
基礎ライセンスを取得するために、ウルトラファクトリーで必須とされている動画を視聴し、テストに回答しました。質問に回答後は、合格か不合格がわかるまで、不安と緊張に飲まれそうでした。その後、結果通知が届き、全員が合格だと分かったったので、すぐさまウルトラファクトリーに向かいました。
イベントのフライヤーを印刷するために専用のライセンスを取得しましたが、この資格は作品の制作に多様な形で活かすことができます。例えば、他のイベントのフライヤーを作る時はもちろん、学内で展示を行う際や、2月に行われる卒業制作展で作品を作る際など、使う場面が広くある分、利用しやすいです。また、「印刷」という目的でウルトラファクトリーを利用しましたが、デジタル加工・シルクスクリーン・金属や木材の加工・縫製・撮影といった利用方法もあり、今後の制作の幅が広がることを感じました。

そして、実際に私たちが作ったフライヤーがこちらです。全体のデザインは谷口さんのカラフルで素敵な絵本の表紙を使いました。デザインができた後、谷口さんに「いいね」をもらうことができて安心と嬉しい気持ちになりました。これを100枚程度印刷して、大学の研究室や喫茶フィガロ、谷口さんが運営している「zoologique」というカフェにそれぞれ置いていただきました。フライヤーには、谷口さんの絵本作品をベースに「大人のための絵本時間」と題し、谷口さんの紹介と、イベント参加予約用のQRコードをデザインに入れ込みました。今回のイベントは、喫茶フィガロでワンドリンク制として、30人以上の来場を想定した企画です。
着々と準備が進み、メンバー内でのミーティングも充実し、意見交換を行いながら進めます。本番を全員が安心して迎えられるように週1回は必ずミーティングをしました。ミーティングでは、次回までに終えなければならないことを議題にして意見を出し合い、メンバー一人ひとりの考えを共有し、
イベントに向けて何をしなくてはならないのかが明確にできたので、イベントの方向性を定めることができました。
『大人のための絵本時間』本番当日
8月12日。私たちは15時に会場で、最後のミーティングをしました。開場は18時半。受付・司会・カメラ・誘導係と役割を設けて、それぞれが数時間後の本番に備えた準備を進めます。
谷口さんが途中でお見えになり、どういった形で講演されるか、話し合いました。今回は、絵本の読み聞かせをベースに、事前に頂いた質問への回答や、絵本販売など行いました。
スクリーンやマイク、カメラの準備をして、いよいよ開場。来場されたお客さんの名前を確認し、カウンターでドリンクを頼んでもらい、空いている席にご案内。
19時の開始まで、お客さんを案内していると、私たちの緊張や不安も飛んでいきました。店内に来られたお客さんは、ほとんどが大人の方で、ちらほら学生や子どもの姿も見受けられました。
誘導係のメンバーがカフェの前でお客さんを待ち、しばらくして開始の時間になった頃、司会の挨拶と温かい拍手で、イベントがはじまりました。
学生の挨拶の後、谷口さんにマイクのバトンを渡し、九つの絵本作品が会場を和ませました。
メンバーのうち、2名が谷口さんの絵本の読み聞かせに参加しました。

写真には、谷口さんの作品『つきをなくしたクマくん』を読んでいる学生と谷口さんが写っています。講演で絵本を読むことで、私たちもが谷口さんの作品の一部になっている心地がして、とてもやりがいを感じました。
そして、私たち文芸表現学科の仙田先生とそのお子さんたちも来てくださいました。仙田先生は「イベント、お疲れさまでした。谷口さんとの読み聞かせ上手だったね」と言ってくださり、私たちを労ってくれました。

絵本作品の朗読が全て終わると、質問タイム。会場では、手をあげて質問してくださいました。
また、質問だけでなく、感想も。マイクを手に取ったお客さんの中には、これから谷口さんのように絵本作家を目指されている方や、自分の「芸術性」について思考している最中の方など、作家に関心を抱いている方ばかりで、文芸という方法で日頃から芸術性を磨いている私たちにとって、とても素敵な時間でした。
講演の最後にチームメンバー全員がお客さんの前で話し、イベントを振り返ります。
お客さん、谷口さん、仙田先生とそのお子さん、メンバー。イベント中に来ていただいた方々の表情から、前に立って話す緊張を肌で感じ、本番ギリギリまで、うまくいくか不安でした。それでも、こうしてイベントを開催することができて、マイクを握って思いを言葉にしたとき、絵本という「芸術」から喫茶店でイベントをすることで、私自身も改めて芸術が身近にあることを改めて感じることができました。
大学生になって絵本を読んだ時、子どもの頃とはまた違った見方ができて、ストーリーや絵から何を伝えたいのかが、より伝わってくるように感じました。
講演の後は、谷口さんの作品の物販やサイン会の時間になりました。サインを求めたお客さんに、谷口さんは好きな動物とお名前を添えて描いてくださいました。お客さんの笑顔や満足そうな顔を見て、私たちもやって良かったと心から思いました。

イベントを終えて
私たちのイベントが開始と同じ温かい拍手で無事に幕を閉じました。イベントをする上で、私自身、企画段階から終わりまで、「芸術」って何なのだろうと考える機会がたくさんありました。
『大人のための絵本時間』。きっと、「芸術」は自分だけでなく、誰かのために身体を張って、思考して、時間とお金を費やし、見る人に何かしら影響を与える作品をつくるものなのだなと認識することができました。人によって、価値観も考え方も違う。だからこそ、自分にしかない色で絵本というキャンバスを彩っていく谷口さんの姿は、本当に眩しかったように思います。
改めて仙田先生、喫茶フィガロの店長さん、谷口さん、このイベントに携わって頂き本当に感謝しています。そして、リーチ(仮)のみんな、ありがとう。企画段階からイベント準備、イベントの後に行った打ち上げ、全部が楽しい思い出となりました。また、来場者の皆さんやこの記事を読んでくださっている一人ひとりが、少しでも芸術を身近に感じてもらえたら嬉しいです。
この記事を読んで少しでも芸術に興味を持ち、芸術を身近に感じてもらうきっかけになっていれば幸いです。ぜひ、芸術に自分から歩み寄ってみてください。きっとそれが、あなたの心を動かす、新たな自分の一面に出会える良い機会となることでしょう。
(構成・執筆:文芸表現学科 2年生 巖千明希)
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