私人が守った遺跡と出土物が研究の礎となり、人々の絆を育む「八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館」ー収穫祭in青森県八戸市
- 京都芸術大学 広報課
北の地とはいえ、まだ夏の気配と暑さの残る2024年9月28日の土曜日、通信教育部主催の学外授業である「収穫祭」が世界遺産、是川石器時代遺跡の「八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館」で開催されました。私の記憶では、青森県の縄文遺跡での収穫祭は青森市で行われた2018年の三内丸山遺跡での開催以来になります。
是川縄文館は八戸駅から8kmほど離れた内陸部にあります。司馬遼太郎や東山魁夷、吉田初三郎などを魅了した有名な種差海岸からは真西にあたります。参加者たちは八戸駅に集合。バスで15分ほどの館に向かいます。
プログラムはまず「琥珀の勾玉作り体験」から。ボランティアの加藤恵美さんが代表して作り方を教えてくれました。
体験ワークショップの後は、学習の時間です。是川石器時代遺跡と八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館について是川縄文館の副参事で学芸員の小久保拓也さんからレクチャーを受けます。
八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館は史跡是川石器時代遺跡に隣接し、八戸市内の埋蔵文化財を調査・収蔵・展示しています。八戸市は、太平洋を望む青森県南東部に位置し、その中心部を流れる馬淵川(まべちがわ)と新井田川(にいだがわ)沿いなどに多くの遺跡が分布しています。これまでの発掘調査によって、旧石器時代から江戸時代までの各時代の遺跡がみつかっており、中でも縄文時代の「長七谷地貝塚」「是川遺跡」、古代の「丹後平古墳群」、中世の「根城跡」の4遺跡は、国史跡に指定されています。
八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館は、隣接する是川遺跡や風張1遺跡などを通して東北地方の優れた縄文文化を発信し、埋蔵文化財の積極的な公開活用と適切な保存管理を図る施設として建設されました。展示の目玉は、平成元年(1989)7月に風張1遺跡から出土し、平成21年(2009)7月に国宝に指定された「合掌土偶」です。また、是川石器時代遺跡から出土し、重要文化財に指定されている縄文時代の漆器や木製品など、当時の工芸技術の高さを物語る出土品も多数見られます。毎週日曜日には、火起こしや縄文土器づくりなど様々な縄文体験ができるコーナーも開催しています。
是川石器時代遺跡は八戸の素封家である泉山家の敷地周辺から出土する土器や石器の発見を契機に、入婿の泉山岩次郎と義弟の泉山斐次郎によって大正9(1920)年に発掘が開始されました。東北帝国大学や大山史前学研究所による発掘調査も行われ、出土遺物は6000点を超え、長年に渡り泉山家に保管されていましたが、第二次世界大戦後に八戸市へ寄贈されました。他の遺跡と異なり、散逸を免れたのは泉山家という篤志家によるものだという特徴があります。
是川縄文館は、以下の3つの大きな目的をもって運営されています。
・是川遺跡や風張遺跡などの調査・研究・保存・活用を通して、東北地方の優れた縄文文化を発信する。
・遺跡の調査研究、整理収蔵とともに公開活用と保存活用を図る。
・世界遺産、史跡、国宝、重要文化財それぞれの恒久的な保存と価値の伝達を図る。
それらを実現するために、常勤職員15人のうち、学芸員は12人、八戸市全体の全分野のでも学芸員は31人と手厚い体制を整えています。
共同研究では、出土品の科学的な成分調査や、構造分析、職人による復元などさまざまな角度からの研究がなされています。また、地元の高校などとのコラボレーションによるファッションショーやキャラクターグッズの開発などデザインや工芸を含めた協働を行っています。
講義の後は、二組に分かれて、ボランティア解説員による展示室のレクチャーツアーです。
常設展示室は、是川中居・風張1遺跡の発掘成果及び重要文化財となっている出土品を中心に展示されています。コーナごとにテーマが分かれており、来館者が直感的に縄文人の芸術性に触れることができる「縄文の美」、是川遺跡の調査研究成果を通して学習する「縄文の謎」、国宝の合掌土偶を展示する「国宝展示室」などで構成されています。企画展示室では、是川遺跡や縄文に関わる多様なテーマ、埋蔵文化財に関わるテーマの特別展・企画展を実施しています。
展示解説ツアーの後は、再び学芸員さんへの質疑応答です。
泉山兄弟の発掘に始まる八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館では、今も地元の人々が様々に運営に関わり、専門家との協働を行なっていました。縄文の文化を伝える八戸の人々は物静かな中にも強い意志をもち、地域の遺産を守り発信していくことで生じる絆と誇りを感じた訪問でした。
参加学生の感想
縄文の美に圧倒された是川縄文館
籃胎漆器に遺された、鮮烈な朱色を放つ縄文人の指紋。1万年の時の隔たりを超えて目の前に現れた確かな先人の気配。それを目にした時の高揚は今も忘れることができない。
太平洋に面した北東北最大の港町、八戸。人口22万人が暮らす街の南、緑豊かな丘陵地帯の中に八戸市埋蔵文化財センター・是川縄文館はあった。2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界遺産に指定されたことで、改めて大きな注目を集めるようになった東北の縄文文化。中でもこの是川縄文館で展示されている国宝「合掌土偶」はそのシンボルとしてさまざまなメディアで紹介され、私もこの土偶の展示を目的にこの収穫祭への参加を申し込んだ。
しかし実際に現地を訪れると、5000年もの長きにわたって続いた同地の縄文文化の深さと豊かさは想像を絶するものだった。発掘品においてはのみ土偶のみならず、低湿地ゆえに良好な保存状態に守られてきた縄文漆器の数々も並べられていた。それら精巧な技と色を遺す遺物は、まさにこれこそがこの国の「美」の原点であることを静かに示していた。
そしてこの「美」が是川遺跡においては行政ではなく、この土地を有していた泉山家が明治期にその個人資産を投じて発掘し、昭和まで守り継いできたことも特筆すべき事績だろう。民間の志で紡がれた遠き先人の至宝は、今では是川縄文館の事業を通じ八戸市民の共有財産として活かされている。「過去を知らないと未来はわからない」と語った学芸員の小久保氏の言葉は、私たちの創作という行為に通じる、考古学からのメッセージであった。
(工藤寛之 美術科写真コース2020年度卒業生)
『はじめまして国宝合掌土偶 是川縄文館in八戸』
JR八戸駅集合の是川縄文館へ向かうバスが走り出し10分くらい経った頃だったろうか、そこには黄金の稲穂畑が広がっていた。東北地方の優れた縄文文化の普及活動を発信する是川縄文館への道中に胸が高まる中、今から1万5,000年前の縄文人たちもこの同じ風景を見たのだろうかと想像を膨らませ、さらに走るバスの車窓を眺めた。
山中に佇む是川縄文館の竪穴住居や漆の黒と赤をイメージした魅惑の外観を見上げながら館内へ入り、まず1階の体験交流室にてグループごとに丹精に琥珀を磨いて勾玉作りを制作した。思いのほか力仕事で一汗かいた後、学芸員の方からレクチャーを拝聴し、是川縄文館では「調査」、「収蔵」、「活用」、「教育」を軸に、埋蔵文化財の公開と適切な保存管理や縄文文化の研究と伝承を行っていることを伺った。
その後、縄文文化を鑑賞する2階の展示会場にて国宝合掌土偶をはじめとする遺跡出土の様々な土偶、土器や石器、土製品、石製品の美に触れた。会場全体は、展示品が漆で塗装されていることから、保護の観点で照明は暗めに設定され、会場の薄暗い雰囲気は縄文の謎のイメージを醸し出す個性的なミュージアムであった。
狩猟・漁労・採集を生業とし自然と共生した縄文文化は、1万年以上も持続した稀な先史時代の文化である。土器の文様はまさしく神秘の力を放っていて、その時代の人々の創作への想いが遠い次元を超えて心に伝わってきた貴重な体験をさせて頂いた。
(青野昭子 大学院芸術環境専攻環境デザイン領域建築デザイン分野 2011年度修了生)
(文:写真コース 教員 勝又公仁彦)
(写真:LAC教員 しばたみづき、事務局 福田彩乃、写真コース 教員 勝又公仁彦)
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