2024年8月3日、今年度3回目の「収穫祭」が滋賀の観峰館で開催されました。
収穫祭とは、全国にいる在校生・卒業生と教職員との交流・学修を目的としたものです。2018年からスタートして、年々、規模が大きくなり、現在では全国8会場で開催しています。
全国様々な地域の特色ある芸術文化をワークショップや特別講義を通して紹介することや、公立私設を問わず美術館や博物館の社会への取り組みや発信、また開催中の展覧会を鑑賞することなどを行っています。
それでは、今回の収穫祭を担当した日本画コース教員の山本雄教より、現地報告をご紹介します。
観峰館のある滋賀県東近江市の五箇荘地区は、近代日本経済の基礎を築いた近江商人の発祥地として知られています。近江商人の象徴である天秤棒(てんびんぼう)になぞらえ、近江商人のふるさとの愛称として「てんびんの里」とも称されています。
その中でも五個荘金堂地区は、現在も商人たちの本宅と伝統的な農家住宅が調和のとれた美しい町並みをつくり出しており、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。
金堂地区の街並みは、歴史的景観と共に現在の暮らしとも自然の交わるような、そんな風情が魅力的でした。
お堀に立派な鯉がいるポイントも!
また、街の中に度々飛び出し坊やが登場したりもするのですが、
実は飛び出し坊や発祥の地が東近江市だったりするのです。
金堂地区にはいくつもの近江商人屋敷が残されており、有料で中を見学することができます。こちらはその中のひとつの「外村繁邸」。小説家の外村繁の生家でもあります。
さすがのお屋敷でした!
そして日本画コース教員としては見逃せないのが「中路融人記念館」。
東近江市にゆかりのある日本画家・中路融人氏が、滋賀の風景を描いた作品や写生を見ることができます。
今回の収穫祭は夏の特に暑い時期の開催だったこともあり、皆さんと街歩きをご一緒することは残念ながら断念したのですが、瓜生通信では五箇荘の様子も少し紹介させていただきました。
ちなみに、当日収穫祭に参加された方の中には、猛暑の中を街中も事前に回って下さった方も何人もおられ、皆さんの熱心な姿勢に改めて感服した次第でした!
さて、それではそろそろ観峰館へ。
観峰館は「書の文化にふれる博物館」として、公益財団法人日本習字教育財団が平成7年10月に開館しました。
主な収蔵品は、日本習字創立者の原田観峰が情熱を傾けて収集した2万5千点におよぶ中国近現代書画や碑版法帖のほか、日本の書画や和本類など、書の文化を理解する上で非常に貴重なものです。
写真左下が日本習字創立者の原田観峰氏。
観峰館では、そんな観峰氏の書も見ることができます。
原田観峰氏については、日本習字のウェブサイトに漫画でもその生涯が紹介されておりますので、ご興味のある方はぜひご覧になられてはいかがでしょうか。
https://www.nihon-shuji.or.jp/70th/comics.html
今回の収穫祭では、約50名の方が全国各地から集まってくださいました。応募もそれ以上の倍近くあり、応募いただいたけれども参加できなかった方も沢山おられたと思います。そういった方も、よろしければぜひ収穫祭以外でも観峰館に足を運んでいただければと思います。
(台に登って話しているのが、すでに暑さでバテ気味の山本)
今回の収穫祭では、少しでも多くの方にご参加いただくため、二つのグループに分かれて鑑賞・ワークショップ体験を行いました。
それぞれのグループに観峰館の学芸員の方に解説をお願いし、約1時間半ほどしっかりと館内を見ていただきました。
お二人の知識と熱意、そしてユーモアも交えながらの解説に、皆さん楽しみながらも真剣な鑑賞の時間でした。
そして圧倒されるようなスケールの大きな展示物も!
こちらは清朝皇帝の離宮内部を精巧に復元した大迫力の「避暑山荘 澹泊敬誠殿」。
こちらは「紀泰山銘」の大型拓本。
正直、鑑賞時間が1時間半では足りなかったかもしれない…という充実度でした。
そして展示鑑賞と共にお楽しみの石碑拓本体験へ!
観峰館では、中国・西安碑林博物館の全面的な協力のもと、原寸大で復元した書道史上重要な石碑8基(曹全碑、真草千字文、皇甫誕碑、孔子廟堂碑、集王聖教序、九成宮醴泉銘、玄秘塔碑、顔氏家廟碑)が展示されています。
学芸員の寺前さんと比較すると、復元石碑の大きさが良く分かります。
以下、拓本の取り方の手順を簡単ではありますが紹介させていただきます。
まずは薄いノリを混ぜた水で、紙を石碑に貼り付けていきます。
シワが入らないように、空気を抜いていくように刷毛で紙を伸ばしていきます。
全体が貼れたら、次は四辺に紙を固定するための切れ端を、同じくノリで貼り付けていきます。
紙を固定できたら、タオルを巻いたブラシで叩いていきます。
しっかりと叩いてあげると、このように文字の凹凸の部分に紙が入り込んでいるのがお分かりいただけますでしょうか。
叩き終わると一旦紙を乾かして、いよいよ墨で拓本を取っていく工程になります。
墨と、拓本用のタンポを準備します。
墨を付けたタンポで、ポンポン…と叩いていきます。いきなり濃くし過ぎないことがポイントです。
繰り返し墨を打って、段々と濃度を自分の仕上げのイメージに近づけていきます。
自分の納得できる濃さになったら、石碑から紙を剥がしていきます。
薄いノリで付いているので、綺麗に剥がれていきます。
完成です!
ちなみに学芸員の寺前さんは、観峰館に勤めるようになったから拓本にハマり、今では拓本の研究会に参加されているそうです。拓本の魅力恐るべし。
さて、それでは参加者の皆さんの作業の様子を見ていきましょう。
場所が決まったら紙の貼り付けです。
一人ではやりづらい作業は、お互いに協力もしながら進めていただきます。
自然とコミュニケーションも生まれていきます。
貼り付けが終わったら、ブラシで叩いていく作業です。
タンタンタン…という乾いた音が各所で響きます。
紙の乾きまちの間に休憩と水分補給も挟みつつ。
紙が乾くと、皆さん綺麗に文字の凹凸が出てきています◎
墨を打っていく作業です。
これが実はなかなか腕がしんどくなっていく作業でもあります…
しかし皆さん妥協されることなく取り組まれていました!
快晴具合を見ていただければ分かるとおり、当日は本当に暑い日でした…
その中での拓本作業ですので、皆さん果たして大丈夫だろうか。途中で嫌になられないだろうかと、正直心配しておりました。
そんな中で、もちろん皆さん暑さが大変だったと思いますが、それ以上に楽しく真剣にエンジョイして下さっている姿が印象的でした。
本学の通信教育を通して、学びを続ける皆さんの意思と力強さを、教員として改めて心強く感じる時間でもありました。
そして皆さん完成! お疲れ様でした◎
完成した拓本は、皆さん封筒に入れてお持ち帰りです。
書の文化に触れ、拓本体験では額に汗をかきながら実際に文字とも触れ合っていただいた時間は、青春も感じるような夏の思い出の一ページにご一緒させていただいたような、そんな収穫祭の時間でした。
年代や学部、在学生、卒業生の垣根を超え、そんな時間を共有できるのがこの収穫祭の魅力だなぁと改めて実感しました。
ご参加いただいた皆さま、ご対応いただいた観峰館の皆さま、そしてこのレポートを最後まで読んで下さった皆さま、誠にありがとうございました!
(文=日本画コース 教員 山本雄教)
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