REPORT2023.10.20

1400年続く手仕事に触れ、笹巻きに舌鼓をうつ[収穫祭 in 山形]

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  • 京都芸術大学 広報課

通信教育課程では全国津々浦々に在学生や卒業生がいることを生かして、2000年度より在学生・卒業生・教員の交流と学びを目的とした「秋の収穫祭」という催しを開いています。その名のとおり、2018年度までは実りの秋に各地より厳選した4会場において実施されてきましたが、2019年度からは秋だけでなく1年を通して8会場で開催しています。

収穫祭では、全国様々な地域の特色ある芸術文化をワークショップや特別講義を通して紹介することや、公立私設を問わず美術館や博物館の社会への取り組みや発信、また開催中の展覧会を鑑賞することなどを行っています。

今回、9月16日に山形県で行われた収穫祭について、日本画コース・山本雄教教員からの現地報告をご紹介します。

「日本三大古代布」のひとつ「しな布」

皆さん「しな布」をご存知でしょうか? シナノキの樹皮から靱皮を剥ぎ取り、その繊維を糸にして布状に織り上げたもので、沖縄の芭蕉布、静岡の葛布と共に「日本三大古代布」のひとつとされています。1400年もの歴史を持つといわれるしな布は、昔は衣類や穀物を入れる袋、酒・豆腐等の漉し袋、蒸籠の敷布など、主に生活用品として幅広く使われていましたが、現在はその特性を生かした帯、暖簾、バック、帽子など、生活に彩を与える趣味の工芸品として生産されています。

かつては北越の各地にしな織りが見られたともいわれていますが、現在では、山熊田、雷、鶴岡市関川と、南北に連なる三集落だけで織り継がれています。

9月16日、2023年度5回目の収穫祭が、山形県鶴岡市で開催されました。会場となった「関川しな織センター」は、しな織の体験もできる施設で、過去には本学の通信染織コースの「山形産地研究」という科目で「しな織センター」を会場とするスクーリング授業を開講していたこともあるゆかりの地です。

20数名の参加者が全国各地からJRあつみ温泉駅に集合。そこからマイクロバスで会場まで向かいました。車内からの眺めは山や田んぼの緑に溢れていて、気分はまさに遠足。

関川しな織センター

車内では参加者同士の会話も弾み、30分程の乗車時間もあっという間で関川しな織センターに到着。関川しな織協同組合長の五十嵐茂久さんをはじめ、スタッフの皆さんが快く迎え入れてくださいました。

センターに入るとしな織で作られた素敵な品物の数々! いずれも手仕事による手間暇と素朴な暖かみが感じられるものばかりです。

その奥のスペースには、体験用の織り機がたくさん! 今回の収穫祭に合わせ、数多くの織り機をご準備下さいました。

まずは出欠確認と、今回の収穫祭を企画・担当された久田先生からご挨拶。今回は織りにまつわる内容ということもあり、染織コースの在学生の方や卒業生で参加される方が比較的多かった印象ですが、それ以外にも様々なコースの方が参加されていました。

希望する参加者の方は、早速織り機での作業体験。はじめて織り機を使うこという方も「実際にやって見ないと分からないもんだね!」と楽しそうに作業されていたのが印象的でした。

室内には織り機の力強い音が響き、それぞれのしな布が出来上がっていきました。ちなみに織った布はコースターとしてそれぞれご自身でお持ち帰り。

しな織ができるまで

会場ではしな織が出来上がっていく過程を収めた記録映像も上映していただきました。シナノキの樹皮を剥がすところから、どのような工程でしな織となっていくのか見ることができました。
以下しな織ができるまでの流れを、今回の報告でも参考として記載させていただきます。

① 皮はぎ(6月中旬、下旬・1日間)
シナノキを切り倒し、枝を落とします。樹皮を剥いで、つぎに表皮を剥ぎます。
② 乾燥(7月中旬・7日間)
日光で充分に乾燥させ、「しな煮」まで屋根裏部屋などにしまっておきます。
③ 水つけ
「しな煮」の2日くらい前に、家の前の池の水につけておきます。
④ 巻く
水に浸しておいた皮を取り出し、窯に入れる大きさにぐるぐる巻いて十文字にゆわえます。
⑤ しな煮(8月上旬・4日間)
赤土で作ったかまどに大釜をのせ、巻いた皮と、木灰、ソーダ、水を入れて約10〜12時間煮ます。
⑥ へぐれたて(8月中旬・2日間)
釜から出してサッと水洗いし、両手でもみほぐし、1枚1枚層ごとにはがしていきます。
⑦ しなこき(8月下旬)
川に持っていき、流れの方向に何回となく、こいていきます。右手に石を持つ人や、竹棒を持つ人がいます。こくことにより、繊維だけが残り幅広い1枚もので柔らかいものになります。
⑧ しな漬け(9月上旬・2日間)
「しな」を大きな桶にいれ、こぬかと水で2昼夜漬け込み、川できれいに水洗いします。
⑨ 洗う
川できれいに洗う。
⑩ しなほし(9月中旬・2日間)
「しなさき」まで保存しておくために、軒先などに吊るして完全に乾燥させます。
⑪ しなさき(11月上旬・10日間)
「しな」を水でサッとぬらして、指をたくみに操って、幅広いしなを細かく裂き、糸のようにします。裂き終わると、一束ずつに束ねて、また乾燥させておきます。
⑫ しなうみ
しな糸をつないでいくのに、糸のつなぎ目に爪で穴をあけ、小さい輪を作り、次のしな糸をさしいれ、よりこんで長い糸にかえていきます。
⑬ へそかき(11月上旬・10日間)
「しなより」を容易にするために、うみ終わったしな糸は「おほけ」にたまったものをそのままひっくり返し、「へそかき」をします。中に親指を入れながら巻いていきます。
⑭ しなより(11月末〜12月初旬・3日間)
乾燥すると、ささくれるので、「へそ」を充分に濡らして「糸より」をします。
⑮ 枠移し(12月中旬)
「うったて」という台に木枠を乗せ、手回しで「つむだま」から糸をうつしていく。
⑯ 整経(12月下旬・1日間)
「へぼ」(整経台)に糸を引っ掛けて行くのに、歩く回数を少なくするため木枠を10個以上常備し、穴のあいた板に糸を通し、上下往復して一つ幾分の縦糸をかけていきます。
⑰ ちきり巻き
間に「はたくさ」をはさみながら、はた織りの心棒「ちきり」に巻いていきます。
⑱ 綜光通し ⑲おさ通し ⑳おりつけ布に結ぶ ㉑くだ巻き
㉒織る(はたおり)(3月中旬〜下旬・10日間)
昔から織られている「いざり機」や、改良された「高はた」で織られています。こうして「しな布」が出来ます。

出来上がるまでのとても長い道のり…! このように、最終的な織りに至るまで1年近くの長い工程を経て、しな織は出来上がるのです。

その後、しな織協同組合長の五十嵐茂久さんに、しな織について、関川しな織センターについて、直接様々なお話もお聞きできました。

山形の郷土料理「笹巻き」

昼食はしな織センターから徒歩数分の「古民家ギャラリー&カフェ けーらぎ」さんでいただきました。土地で取れるお野菜など、こちらだからこそいただけるものがズラリ!
それぞれのテーブルごとに会話も広がり、コース、在学生、卒業生といった枠を超えた交流の場となりました。

いただいた食事の中で特に注目したいのが山形の郷土料理である「笹巻き」。餅米を笹で巻き、結びひもをかけた後、熱湯でゆで上げたものになります。こういった料理は米どころでは珍しいものではなく、場所によっては「ちまき」などとも呼ばれますが、この地方の「笹巻き」ならではの特徴が「灰汁」で煮るという点です。

灰汁で煮た餅米は、黄色く色づき独特の風味を醸し出し、また保存食として日持ちもします。けーらぎさんでは、餅米を笹で巻いていく実演も拝見させていただけました。

日本人の生活と「灰」

今回の収穫祭のメインテーマは「しな織」ですが、その中でのもうひとつ大きなキーワードが「灰」でした。

しな織の工程では、剥いだ皮を木灰で煮る「しな煮」がありますが、この工程を経ると皮はやわらかくなり繊維がほぐれます。これには木灰のアルカリ性が作用しており、例えば日本画で使われるような和紙が作られる工程でも、楮などの原木を灰汁で煮るという工程が昔はありました。

また前述の木灰の灰汁で煮る「笹巻き」をはじめ、アヒルの卵を灰や水や土などをこねたものに漬け込んだ皮蛋や、お酒造りにおいても殺菌や抗菌などの重要な役割を果たすなど、灰は人々の暮らしにおいて様々に活用されてきたのです。

灰を使う生活の技術は、かつての日本人には当たり前のことでした。日々の煮炊きや風呂、暖房の熱源が薪であれば灰はいつでも身近にあります。しかし、熱源がガスや電気に変わり、灰は私たちの生活からは消えてしまいました。そんな灰についても見て、触れて、食べて体感することのできる今回の機会となりました。

糸作り体験

けーらぎさんでの楽しい昼食の後は、再びセンターに戻って今度は糸作り体験。前述のしな織の工程の「⑫しなうみ」にあたるもので、糸のつなぎ目に爪で穴をあけ、小さい輪を作り、次のしな糸をさしいれ、よりこんで長い糸にかえていく作業です。

作業自体はシンプルですが、これがやってみるとなかなかに難しく、でも、楽しい。うまく糸を繋がないと、引っ張るとすぐに解けてしまったりしてしまうのですが、慣れてくるとどんどんと糸が長く連なっていってくれます。

センターの方々に優しく丁寧に教えていただきながら、時に楽しく会話もしつつ集中の作業で、気づくとあっという間に会場をお暇する時間に。

各々お土産なども見繕い、センターの方々に見送っていただきながら、行きと同じくマイクロバスであつみ温泉駅へ。
関川しな織センターの皆さま、ありがとうございました!

最後は「まだ来てくれの〜」という看板に見送られながら、駅にて解散となりました。

素朴な味わいの中に詰まった様々な知恵と工夫。そんなしな織や灰の魅力とともに、それらを受け継ぎ、これからも繋げていこうとされている方々の意志や想いを感じられる収穫祭のひとときでした。以上が今回の報告となります。

(文:日本画コース 教員 山本雄教)

参加学生の感想

「山形県鶴岡市しな織センター」

戊辰戦争の激戦区であったという。あつみ温泉駅から車で30分程。簡素な農村。朱色の旗が風に吹かれしな織センターが佇んでいた。山形県出身の両親を持つがこの年になる迄「しな織」を知らなかった。1400年前からあった技だと。木を切り皮を厚めに剥いでから皮の内側をまた剥いで灰汁で煮る。皮を灰汁で煮る時からは女が担当。「その皮の重さは?」と訊くと「30キロ位かしら?」との返答に絶句。お米の10キロ入が3つ???しな織を作る行程は男女共に重労働だ。雪の降る季節には男衆は都会へ出稼ぎに行き残った女衆がしな織を織る。現在37戸の家が居住。20代夫婦は1戸。集落高齢化で木を切る仕事は役場に頼む事もよく有ると。2005年伝統工芸と指定受けこの技術を後世に伝えるためしな織センターは機能している。まずは「織り機」で小さな10センチ角のコースターを有料で希望者のみ織り体験。15分程で出来る。織り機は体験用に作ってある物。これももう入手し難い。しな糸を撚ってながーく繋げる作業は23名全員がやってみた。昼食を頂いた「けーらぎ」のご飯(山形県のこの集落の産物がふんだんに使われた山菜のおかずの種類が盛り沢山の、例えるならば「田舎の松華堂弁当」の様な!)に、しな織と同様に灰汁を利用して作る「笹巻き」(ミニサイズ!可愛い!)が出て制作者のおばーさんから作り方を学んだ。しなは花が咲くので、しな蜂蜜も現在は収穫して販売。あっという間の半日だった。駅解散後に徒歩4分の海岸で列車の時刻まで夕陽を眺めて今日の出来事を反芻した。日本海の夕陽。再び私は此処へ来るだろう。

(齋藤幸子 芸術学科アートライティングコース 2023度生)

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