
通信教育課程では全国津々浦々に在学生や卒業生がいることを生かして、2000年度より在学生・卒業生・教員の交流と学びを目的とした「秋の収穫祭」という催しを開いています。その名のとおり、2018年度までは実りの秋に各地より厳選した4会場において実施されてきましたが、2019年度からは秋だけでなく1年を通して8会場で開催しています。
なぜ上勝町?
8月19日の収穫祭は、徳島県勝浦郡上勝町を訪れました。上勝町は2023年に日本の自治体では初めてゼロ・ウェイスト宣言*を行った町で、そこでの特徴的な活動を背景に新しい時代の建築が生まれている場所でもあります。そんな現地の様子を見に行ってみたいという私の興味を皆さんと共有できればという今回の収穫祭です。
当日は徳島駅に集合、バスで上勝町に向かいます。今回は写真コースの勝又 公仁彦先生、入学課の綿野香織さんと、私・殿井 環の3名でご一緒させていただきました。22名のみなさんとバスに乗り合わせてということにポストコロナを実感します。
*ゼロ・ウェイスト宣言:ごみを行政で収集、焼却、埋め立てをせず、地元で発生するごみの徹底的な分別、回収によってゴミの発生率を抑制し、回収率を最大にできる上勝町にあった教育システム、分別回収システムの構築を目指すことが、平成15年9月19日に上勝町から宣言された。
引用元:http://www.kamikatsu.jp/zerowaste/sengen.html
RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store
徳島駅から南西の方向に向かい50分ほど揺られてトンネルを抜けると、藤川谷川の流れる谷から見上げた方向にRISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store(以下、RISE & WIN Co.)の赤い外壁と古建具で埋め尽くされたファサードが現れます。町に入ってすぐの位置にある建築として建ち方が考えられていることがすぐにわかります。
RISE & WIN Co.はブルワリーとバーベキューレストラン、雑貨店ですが、お店に着いて案内いただいた店内はレクチャー仕様に。スタッフの池添亜希さんに、お店のメニューでもあるLEARN KAMIKAZと題したレクチャーを聴かせていただきました。
思想を語るブルワリー
RISE & WIN Brewing Co. の母体は株式会社スペックという徳島を拠点に食品に関する検査や水質の検査などを行うバイオサイエンスの会社だと聞いて意外に感じましたが、バイオサイエンスでの知見を活かしてビールの研究もされるに至ったと聞いて納得しました。
「reRise(リライズ)」と呼ばれるRISE & WIN Co.の資源循環システムでは、ビール製造時に出るモルトカスや高濃度の廃液を微生物分解で液体肥料に変え、それを自社農場で使用したり、地域の農家に配ったりしてまた作物となって還ってくるという循環農業にも取り組まれています。一飲食店、ブルワリーの枠を超えた未来像を描いて実践されていることに感嘆せざるを得ません。そうした取り組みをグラフィックとしてデザインされて発信されていることも素晴らしく、これはまさにデザイン科みなさんの役割ですね。
池添さん自身は三重から移住されてきたとのこと。建築の卒業制作のテーマを聞いているようだと感じたのですが、「0〜100歳までが集う空間をつくりたい!」と介護やスポーツインストラクターをされていたところから現在はお店を任され、結果的にはお店を拠点とした活動でそれが実現できていると非常に生き生きと語られていました。
レクチャーの後は、お待ちかねのビール!!この日、提供していただいたビールはこちらです。
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藍が入って深い藍色をしたもの、柚香の柑橘味が効いたものなど、何種類も飲んでみたいようなラインナップでした。私自身は翌日再訪してお土産でたくさん持ち帰っていただいたのですが、それぞれに個性があって非常に楽しめました。
ビールをいただきながら、質問をしたり学生同士で親睦を深めたりと、非常に贅沢な時間となりました。再びバスに乗り込んで次の目的地に向かいます。

上勝町ゼロ・ウェイストセンター
「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(通称WHY)」(以下、WHY)は上勝町の住人がごみを持ち込むごみ収集場であり、上勝町が培ってきたゴミに対する知恵やアイデアを発信する場所であり、ゼロ・ウェイストを体験するための宿泊施設「HOTEL WHY」でもあります。
現地のツアーを先導してくださったのは大塚桃奈さん。以前にメディアで大塚さんの記事を拝見したことがあるのですが、服飾系の勉強をする中で大量生産、消費、廃棄のスパイラルに疑問を感じていたことに始まって、WHYやRISE & WIN Brewing Co.を設計した建築家の中村拓志さんとの出会いをきっかけに上勝町に辿り着かれたとのこと。
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上勝町ゼロ・ウェイストセンターができた背景
1975年前後から1997年まではWHYの隣地でゴミの野焼きが公然と行われていました。社会的な情勢によって野焼き場を閉鎖して小型焼却炉を2基導入+22分別(持ち込み方式)と合わせて新たなスタートを切ったものの、2000年12月に「ダイオキシン類対策特別措置法」が交付されると、焼却炉の1基が基準を満たさなかったことで導入からわずか3年で2基とも使用を停止し、上勝町はゴミ削減へと舵を切り2001年1月から35分別がスタートしたとのこと。常に必要に迫られて生まれた施策だとのことでしたが、それを推進してきた行政と、それに主体的に協力してきた住人との関係は素晴らしいですね。
45分別の実践 リサイクル
ごみ収集場を案内してもらいながら、ゴミの分別方法についてレクチャーを受けました。上勝町ではゴミの収集がありません。生ゴミは各家庭のコンポストで処理されています。それ以外のゴミはWHYで45分別にされています。例えば、紙だけでも9種類!せいぜいダンボールと雑紙、スーパーでの牛乳パック回収の3種類くらいが一般的だと思うと、その緻密さは容易に想像できるでしょう。


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見逃せないのはそれぞれのゴミのカゴとともにある表。なんだか分かりますか?それぞれのゴミがどこに運ばれて、処理にいくらかかるのか、あるいはリサイクルされて何に生まれ変わり、いくらの収入になるのか、そうした情報が全てオープンにされています。例えば、「アルミ缶」は徳島市に行ってアルミ製品に変わり、160円/kgの収入になりますが、「どうしても燃やさなければならないもの」は徳島市で焼却埋め立て処理され、61円/kgの出費になります。先に訪れたRISE & WINの池添さんによると、移住して数ヶ月はゴミが何に分類されるのかを考え、尋ねる日々と言われていましたが、そうした経験を経て、日常からゴミを出さないためにはどう工夫すればいいか、買い物すればよいかと想像力を働かせる人間になるための工夫がありました。
リユース
分別するばかりではなく、リユースできるものはくるくるショップに集まります。食器や衣類、おもちゃなどその種類も多岐に渡りますが、持ち帰る際にはルールがあります。
・自分がどこから来たか。(他府県から来ても持ち帰りOK)
・なぜ持ち帰るのか。
・持ち帰るものの重さ。
以上をノートに書き込みます。8月の持ち帰り総量は540kg!!ほどと、リサイクルの循環が重量で実感することができます。
アップサイクル
またWHYの隣にはアップサイクルの工房とお店があり、作家さんによるさまざまなアップサイクル作品が販売されています。私も9ヶ月の二男のために食事エプロンとよだれかけを購入。鯉のぼりをアップサイクルしたもので洒落ています。
リデュース
ゴミを捨てることと、ゴミについて学ぶことが対になった取り組みの結果、1日の1人あたりのゴミの排出量が920gといわれる現在、上勝町では500gちょっと、ゴミを減らすことにつながっているそうです。
WHYの建築
WHYの建築は上空から見ているとはてなマークをしています。建築の設計はかたちのない条件などを具体的なかたちに翻訳(デザイン)する仕事だと言えますが、一般的には直喩的なデザインはモニュメントやアイコン的になりがちで避けられるものです。しかしここでは、はてなマークのかたちが建築のつくられ方や使われ方、体験まで昇華されていました。
はてなマークの平面形に沿ってゴミの分別ステーションが配列された視認性が高く、柱梁でできた特徴的な架構の反復に沿ってつい歩きたくなります。柱梁は上勝町の山から切り出された木材が丸太状のまま使用され、それによって木の歩留まりが高まります。歩留まりとは、森から切り出した木材のどれくらいが建材として使われたかを示すものですが、丸太状のまま使うと廃棄される木材量を減らすことができます。丸太を使うとプレカット工場では架構が難しく、それを手で刻む大工の技術も必要になりますが、結果として大工の技術も継承されるきっかけとなります。
壁面に窓に降る建具が再利用されているのはRISE & WINに同じですが、ランダムに配置された古建具による外観のデザインは上勝町を象徴するものとなっています。
くるくるショップの床は洗い出し床というのですが、本来はモルタルを施工した後に水で表面のセメントを洗い出して玉砂利などを浮かせる工法です。床をよく見ると玉砂利の替わりに茶碗やガラスなどの破片が!よく見ないと気づかないほどに馴染んでしまっていました。お隣のサロンの床もいくつかの種類のタイルが敷かれていました。
最後に質疑の時間をいただいてから大塚さんに記念撮影をしていただきました。「スーダーチー(酢橘)」とカメラの合言葉も徳島固有でしたね。


切実なゴミ問題をリサイクル、リユース、アップサイクルといったポジティブな実践に変えてゴミを減らしてきた上勝町のアイデアとエネルギーを受け止め、住人同士の助け合いが循環する場として2つの建築が役割を果たしていることをうれしく感じ、そうした場所づくりに関わりたいというモチベーションも新たにしました。上勝町のみなさん、ご参加いただいてみなさん、よい機会をありがとうございました。
写真・文:殿井 環/京都芸術大学 建築デザインコース准教授
参加学生の感想-ごみゼロ活動から生まれる創造的な時間
台風一過で夏空が戻った日、徳島県の中部にある上勝町を訪れた。上勝町は水源林を有する山岳地帯で、人口1400人程度の四国で最も小さな町である。今も過疎化が進む中、その対策として町が掲げた「ゴミ・ウェイスト宣言」。その活動を見学した。
最初に訪れたのは「RISE & WIN Brewing Co.」。醸造過程から出る廃棄物を液肥にして麦の栽培に役立てているビール醸造所だ。柚香の搾った後の果皮や藍も使い地域性を出しつつ、町の「リデュース」に役立てている。テーブルや椅子には修復された廃棄対象物が、店の外壁には端材が、窓には民家の建具が「リユース」されている。何より働いている方々の笑顔が眩しい。試飲した藍のビールは柑橘の香りがする爽やかな味で、本当に美味しかった。
次に訪れたのは「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」。住民自らごみを持ち込み、45品目に分別する。リサイクルできる品目にはkgあたりの資源としての買取金額、廃棄処理される品目には処理金額が各回収箱に書かれている。持ち込めない高齢者には回収サービスもある。セカンドショップの「くるくるショップ」は地元小学生の発案で創設され、誰でも無料で持ち帰れるそうだ。
ごみという資源の価値を見直す中で、周りのもの(他人や自然を含む)関係を築き直す活動は、人の営みの根本を考え直させる創造的な時間だと思う。そういった時間こそが長期的には社会変革の源泉になるだろう。
(稲垣直美 芸術学科アートライティングコース 2023年度生)
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