INTERVIEW2021.09.21

アートプロデュース

「発明」と呼べるものをつくりたい ― クリエイティブ ディレクター・富永省吾さん:卒業生からのメッセージ

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  • 京都芸術大学 広報課

「アイデアとビジュアル。」をキーワードに国内外で目覚ましく活躍するクリエイティブ・ディレクター、富永省吾さんへのインタビューをお届けします。2013年に京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)情報デザイン学科を卒業した翌年、日本最年少で「CANNES LIONS Health銅賞」を受賞したほか、輝かしい受賞歴がプロフィールに並ぶ富永さん。最新作のミュージックビデオ『マヌルネコのうた』は、“一度観ると頭から離れない”と注目を浴び、約300万回再生を達成するなど、映像を軸にした話題作を多数手がけています。そんな雲の上の存在のようなトップ・クリエイターに在学中のエピソードや、日々の製作で大切にしていることを伺いました。

富永省吾 Shogo Tominaga

1991年生まれ。京都芸術大学卒業。在学時に複数企業と共作した異例の卒業制作が話題となり、浅田彰氏、後藤繁雄氏ら著名評論家から突出した高い評価を得る。翌年、クリエイティブディレクターとして日本最年少でCANNES LIONS Health銅賞受賞。その後、TOKYO MIDTOWN AWARDをはじめ国内外の広告賞、デザイン賞を多数受賞。映像を軸にプロダクトデザインから空間演出まで、表現媒体を越え話題作を手掛ける。ブランディング/プロモーション/コンテンツを総合的な視点で捉えた「チャンネルのデザイン」を得意とする。
近年の仕事に、東京国立博物館ビジュアル群、六本木アートナイト映像、ゲタサンダル等。ブレーン「いま一緒に仕事をしたいU35クリエイター」選出。カンヌライオンズ主催 YOUNG LIONS COMPETITION (通称ヤングカンヌ)映像部門で金賞を獲得し日本一となる。最新作は「マヌルネコのうた」企画/監督/作詞。
https://shogotominaga.com/
https://twitter.com/shogo_tominaga

最古の猫・マヌルネコを守るために「聴く保全」

「マヌりたい、マヌられたい。マヌルネコ、守りたい―」。各メディアで話題となったミュージックビデオ(以下、MV)『マヌルネコのうた』は、絶滅の恐れがある希少動物・マヌルネコにスポットを当てた那須どうぶつ王国(栃木県)の公式テーマソングです。最古の猫とも呼ばれるこのマヌルネコに魅了され、MVの発案から企画に携わったのが、今回お話を伺ったクリエイティブ・ディレクターの富永省吾さん。なぜ、マヌルネコだったのでしょうか?

『マヌルネコのうた』 

 

ほのぼの系の動物紹介動画ではなく、重低音がくせになるテクノミュージックにあわせてマヌルネコの生態を解説するという、とにかく意外性のある『マヌルネコのうた』。マヌルネコの動画、と聞くだけでも「一体どんな生きものだろう?」と興味を惹かれますが、富永さんは「このMVでやりたかったのは“聴く保全”なんです」と語ります。

「目的はマヌルネコを、まず知ってもらうこと。最古の猫ともいわれるマヌルネコですが、その生態や魅力はあまり知られていません。絶滅の恐れのある希少動物について、MVを通して、見て聴いて知ってもらうことが保全になる。聴く側もその存在を知って癒やされたり、元気をもらったりする。――そんな人間と希少動物の架け橋となる “聴く保全”を新しく発明したいという思いで取り組みました」。

富永さんの企画発案で製作プロジェクトがスタートしたという点もおもしろく、
「MVでは那須どうぶつ王国で暮らすマヌルネコを撮影していますが、企画のスタートは、那須どうぶつ王国からの依頼ではなく、僕からのラブレターです。企画から全体のディレクション、映像の監督、撮影、そして歌詞の作詞など僕がトータルで手がけつつ、那須どうぶつ王国やスタッフを巻き込みながら作っていく、という流れでプロジェクトを進めました。

コンセプトはおとな版の『みんなのうた』です。製作中は、作詞と作曲、映像を同時進行で行うめずらしい作り方をしましたが、それぞれの分野のプロが僕のゴールイメージを信じてくれて、純度の高いものを一緒に作り上げることができました。
クオリティの高いMVを作り上げることはもちろん、大切なのはリリース後のリアクション。企画段階で、YouTubeの再生回数を100万回以上に、という一定のリアクションを目標数値にかかげてコンテンツ設計に取り組みました。再生回数というのはわかりやすい指標ですが、一方で、僕は『再生時間数』という指標も大事にしています。『マヌルネコのうた』は中毒性があると話題になりましたが、再生時間数を分析すると、9割のユーザーが最後までMVを視聴してくれています。それはとても嬉しいことです」。
 

創造の根っこは「発明したい」という想い

現在は東京を中心に活動する富永さんですが、手がける分野は映像を中心にデザイン、プロダクト、広告、空間デザイン、そして「マヌルネコのうた」では作詞もされるなど、かなり幅広い仕事ぶり。そもそも「クリエイティブ・ディレクター」ってどんなお仕事なのでしょうか? そう聞くと、富永さんは笑いながら「何をする人なの? あやしい!って思いますよね(笑)」と前置きをはさんで、ご自身のお仕事について教えてくれました。

「アイデアとビジュアルを核に、表現媒体を限定せずに幅広いクリエイションを展開するのが僕の仕事です。実際の製作ではアイデア出しだけでなく、デザインや撮影のほか、仕上げまで一貫して行うこともあります。また、依頼を受けて進める仕事だけでなく自主制作も多いですし、クリエイターの中では多作な方だと思います」。

ゲタサンダル
QRこいのぼり


「日々のクリエイションの根底にあるのは、『発明をしたい』という強い気持ちです。さまざまな課題に接するたび、僕のアイデアで新しいものを作りたいと考えていますし、“発明”と呼べるまでのアイデアを出したいですね。
観る人が新しさやおもしろさを感じるものって、やっぱり常識を超えてきたり、裏切られたりするような意外性があると思うんです。ベタなものを作るとスルーされてしまいますが、僕は“スルーできないもの”をつくりたい。その気持ちは、大学で学んでいるときからずっと持ち続けています。アイデアの落とし込み方も、実は、学生時代からほとんど変わっていません」。

京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の情報デザイン学科で学んだ富永さんですが、中学生の頃から漠然と「CMを作りたい」という夢を持っていたそうです。

「広告を作る人になりたいと思ったきっかけは、家のテレビで流れていたCMです。中学生の頃から、『CMって、完成するまでに莫大なお金がかかっていて、数え切れないくらい多くの人が観るものなのに、なんでこんなにおもしろくないんだろう?』って思っていたんですよね。そこで考えたのは、僕だったらどんなCMにするか?ということ。テレビのCMはそのほとんどが15秒ですが、そのときやっていたのは、初めて観るCMの商材を3秒で把握して、そのCMが終わるまでの15秒間に、自分の脳内で新しいCMの企画を完成させる――。遊びのような感じで、習慣的にそんなことを繰り返していました。
高校に入ってからは、さらにCMの世界にのめり込み、学校をサボって『ACC CM FESTIVAL』に足を運んだり、インターネットでCM動画を見続けたりする日々を送っていました。ちょうどニコニコ動画や動画系のSNSが流行りはじめたタイミングで、それまではクローズドだったカンヌの受賞CMなどすぐれた作品を自宅で観ることができてしまう時代でした。

そもそもなぜ、そこまでCMに夢中になったのか?という点については、僕の家族が転勤族だったことが関係していると思います。4年おきぐらいのペースで西日本の各地を転々としていたので、引っ越しした新しい場所でその地域の風習や人間関係になじむ能力が必要でした。そのような宿命的な経験をする中で役に立ったのはCMだった、と後から気づきました。CMへの没頭は僕にとって、ある意味、人間の“共通言語”を学ぶ行為だったんです」。
 

心が折れかけていた劣等生の大学時代

「CMを作りたい」という漠然とした思いを持って、情報デザイン学科に進学した富永さん。入学してからは「劣等感と疎外感を感じていた」と当時を振り返ります。

「最初の2年間は、完全に劣等生でした。同じ学科の周りの人は、芸術系高校の出身だったり、入学時から一眼レフカメラをもっていたり、みんな意識が高かったのでビビっていました。そして、ほとんどがデザイン好きな人でしたし、映像が好きという人がいても、くわしく聞くと好きなのは映画だったりして…。CMが作りたくて広告屋になりたい人や、広告に興味のある人は少なく、疎外感がありました。入試のときも、僕自身は実技試験では合格できず、国語枠で入ったくらいでしたから(笑)

ターニングポイントは3年生になってから。心が折れかけていたんですが、『自分がやりたいこと、好きなものに正直になり、目を向けていこう』と気持ちを切り替えることができたのが転機となって、ようやく広告や映像に真剣に取り組めるようになりました。
学外のCMコンテストや広告コンテストに応募し始めたのもその頃で、コンテスト・公募・コンペの情報が集まる『登竜門』というサイトなどを見て積極的に応募していました。いま振り返ると、学外からの評価を得ていくのに必死な時期でした」。

春秋座でのポートフォリオプレゼン。


「さきほど、依頼を受けて進める仕事のほかに自主制作も多い、とお話ししましたが、僕自身の学生時代の経験から、課題以外の自主制作って、とても大切だと考えています。いまクリエイティブを学ぶ学生さんには、失敗してもいいからどんどん自主制作をしてほしいと思いますね。
学外での評価は、自分自身のプロモーションになりますし、学校という枠から飛び出した、世間一般での価値を測れます。世間一般の中で話題を得ることができたら、少なからず誰かにインパクトを与えていると言えます。学内でも『自分のフィールドで成果を残している』と気づいてもらうことができて、評価も少しずつ変わってきますから」。

大学で学ぶ中で印象的だったことを伺うと、「広告制作に関する授業での評価は、自分の自信につながりました」といいます。
「1つはCMを作る授業。1〜2年生の頃だと思うんですが、専攻するコースを超えていろんなことをやってみよう、ということで外部の先生が授業をしてくださいました。CM狂としては、ようやく自分が得意なことをできる!と、気合いを入れて課題に取り組んだところ、先生から一言、『君に教えることは何もない』と。その言葉をいただけて、自分のセンスは間違ってなかったと自信をもつことができました。
もう1つは、3年生のときに受けた新聞広告を作る授業です。ほかの授業と同じように制作物についてのプレゼンと合評があるという内容で、僕はそのとき、自分のプレゼンのターンで『説明が必要な時点で広告の役割を果たしていないので、プレゼンテーションをしない』と発言したんです。すると、クラスで最高得点をとることができました。この2つの授業が自分の自信にもつながったので思い出深いです」。

そして集大成となった卒業制作は、複数企業と共作した『COOL JAPAN PUREBLOOD』という作品。8Kサイズのスクリーンに映されたアニメーションが、来場者の影と呼応する300㎥の巨大なインスタレーションです。富永さんは、「『卒業制作』というものをも、裏切りたかった」と語ります。

卒業制作展でのインスタレーション「COOL JAPAN PUREBLOOD」(2013年)


「学生でありながら複数企業と共作するという内容も異例でしたし、話題になりました。自己満足な作品ではなく、インパクトがあって一般市場的にも価値のあるものを生み出すことができてよかった、と振り返ってみて感じます。また、展示場所には人間館で一番広く、目立つ場所を贅沢に使わせていただくことができたのですが、4年生のころには学外での評価もついてきていたこともあって、あの大きな展示空間をほかのコースの方が譲ってくださったのもありがたかったです。結果、僕の卒業制作は、浅田彰先生や後藤繁雄先生をはじめ、著名評論家の方々からも高い評価を得ることができました」。
 

世界への挑戦―CANNES LIONS日本代表

卒業後は、在学中から業務委託の一環で関係のあったデジタル系エージェンシーに入社し、東京へ。広告クリエイティブ事業に携わり、富永さんは輝かしいキャリアを積んでいくこととなります。
「卒業制作の反響もあって、入社1年目からクリエイティブ・ディレクターとして製薬会社から指名をいただくことができ、さらに、そのときに携わった仕事で『CANNES LIONS Health銅賞』を日本最年少で受賞しました」。

CANNES LIONS Health銅賞を受賞した「Invisible Things」(2014年)
同上。


「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」は、世界にある数々の広告・コミュニケーション関連のアワードやフェスティバルの中でもエントリー数・来場者数ともに最大規模を誇る、世界中のクリエイターの注目を集めるフェスティバルです。その中での日本最年少の受賞という実績とともに、以後、TOKYO MIDTOWN AWARDをはじめ国内外の広告賞、デザイン賞を多数受賞するという快進撃が始まります。

そして、2019年には、カンヌライオンズ主催「YOUNG LIONS COMPETITION (通称ヤングカンヌ)」映像部門で金賞を獲得して日本一となり、富永さんと同僚の綿野賢さんのチームはヤングカンヌの日本代表に!

「ヤングカンヌは、18歳から30歳までのプロフェッショナルが2名1組でエントリーできるコンペです。日本代表に選出されるためには、国内選考会の一次選考と二次選考を勝ち抜く必要があります。全6部門ある中で、僕たちはフィルム(映像)部門で金賞を受賞して、日本代表に選出されました」。

YOUNG LIONS COMPETITION日本選考(フィルム部門)金賞作品 2020-2021「Situation」


2021年度のヤングカンヌは、新型コロナウイルス感染症の影響で日本代表選考会が実施されず、2020年度の代表チームが出場することとなったそうで、今年6月、富永さん・綿野さんチームは再び世界戦に挑むこととなりました。

「世界戦は、オリエンテーションから作品提出まで実質5日間で作り上げるという、スポーツのようなコンペです。制作時間は48時間。フランス時間で始まり、オリエンテーションや課題の説明などはすべて英語で行われます。今年の課題は若者のリーダーシップがテーマで、残念ながら今回は受賞に至ることができませんでした。僕自身、今年で30歳なので、ヤングカンヌ日本代表は引退となるのですが、全力を出し切れました」。
 

日々のインプットは24時間「YouTube」

インタビューの最後に、富永さん自身が日々、どのようなインプットとアウトプットを心がけているかを伺ってみました。まず、インプットの習慣について聞くと、「ひたすらYouTubeを観ています」という意外な答え。

「インプットしようと意識してインプットする時間は、特に設けていないんです。雑誌やテレビは一切見ないですし、2〜3年前から、自然と自分に入ってくる情報だけを追いかけるようにしています。仕事の中で調べざるを得なくなったら、その過程でリサーチします。無理して情報収集することがなくなって以降は、作るものも調子が良いですね。おそらく、若い頃にCMを一生分見てしまったのかもしれません。

いまはYouTubeが生活の中心で、自分の好きなものやおすすめ動画をひたすら観ています。音楽もラジオもすべてYouTubeです。仕事中はiMacで、ソファではiPadProで、お風呂や外出中はiPhoneでと、起きている時間はあらゆるデバイスでずっとYouTubeをつけているので、世間で流行っているものがわからない。ただ、ひたすらYouTubeを観ながらも、職業病のようにコンセプトとアイデアを分析して、「なぜこれがおもしろいのか」ということは常に考えています。だから、人間が興味を抱く仕組みはわかります」。

SARA Google Earth Studio


アウトプットについてこれから目指すことを聞くと、「ハッピーないたずらをしていきたい」とのこと。
「雑誌『ブレーン』の60周年記念号で先日インタビューを受けたのですが、60歳になったときに何を作っていたいか?との問いに対しての、僕の答えは『刺激物』。根底にあるのは過激派としての自分でいながら、やさしくて話がわかる過激派でいたいと思っています。ただキレイなもの、ステキなものじゃなく、基本的には他者が嫉妬しちゃうような刺激物を作りたい。自主制作をする頻度も高いですし、激しめの自主制作をすごく大事にしています。こういうのがおもしろい!と考えていることを提案したいです」。

最近は、ヤングカンヌ日本代表チームでYouTubeチャンネルを始めました。クリエイティブを目指す若い世代に向けて、コンペの勝ち方などを解説するコンテンツなのですが、こういうコンテンツって自分が学生だった時にはなかったんですよね。当時あったらよかったなと思う内容を目指しています。学生に向けて伝えたいことも出てきたので、僕よりも若い世代の刺激になるようなコンテンツを提供していきたいです。ただ毎回の収録が大変なので、パタっと終わるかもしれません」。

今後の野望は「深淵を覗くようなコンテンツを作り、人間の中に存在する宇宙(ユニバース)を解放すること」と締めくくりに話してくださった富永さん。これからの活躍や新しい展開にも要注目です!

YouTubeチャンネル「ヤングカンヌ日本代表の密談」

(取材・文:杉谷紗香)

 

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