INTERVIEW2021.05.07

マンガ・アニメ映像

YOASOBI「怪物」ミュージックビデオが話題! ― 映像ディレクター・三皷梨菜さん:卒業生からのメッセージ

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  • 京都芸術大学 広報課

小説を音楽にするユニット、YOASOBIの新曲「怪物」の Official Music Video のディレクションを担当した、本学キャラクターデザイン学科卒業生の三皷梨菜(みつづみ・りな)さん。

「怪物」は、TVアニメ『BEASTARS』第2期のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲で、2021年4月26日発表の最新「オリコン週間ストリーミングランキング」では4位にランクインしており、ストリーミング累積再生数は1億回を突破。そのミュージックビデオも6,500万再生されるなど(4月27日現在)、話題の作品です。

これまで『ゴールデンカムイ』や『BORUTO』『SHAMAN KING』『BEASTARS』『東京リベンジャーズ』など、さまざまなTVアニメ、映画、MV(ミュージックビデオ)などの映像制作を手掛け、特にOP/ED(オープニングやエンディング映像)で注目を集める三皷さんに、在学中のエピソードや映像作家として作品にかける想いなどをインタビューしました。

三皷梨菜(みつづみ・りな)さん

1989年9月生まれ、大阪府東大阪市出身。2011年 京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)卒業後、作家活動と雇われギャラリー店長になるが、「このままじゃダメだ!」と感じ上京を決意。
アニメのオープニングに携わる仕事をしたいと思う中ラッキーにも山下敏幸に弟子入り出来てしまいアニメを学ぶ。
現在ハイパーボールの、ボール担当。
大変ネガティブではありますが、ラッキーと嗅覚で生きてます⚡︎

株式会社ハイパーボール / Hyperbole Inc.
http://www.8180.co.jp/

担当した YOASOBI「怪物」ミュージックビデオが話題に

TVアニメ『BEASTARS』第2期のオープニングテーマとして、YOASOBIが書き下ろした楽曲「怪物」。三皷さんが監督を務めたMVは、『BEASTARS』の主人公・レゴシの葛藤と決意が描かれ、その世界観が存分に表現されているとして話題を集め、再生数6,500万回を超えるなど、今もっとも注目されているMVの一つです。

これまでの仕事では、アニメのOP/EDを手掛けることの多かった三皷さんですが、YOASOBIのMVが公開されると、「家族がすごく喜んでくれました(笑)」と言います。


「あの今をときめくYOASOBIさんのMVなので反響がとてもありました。基本、深夜アニメが多かったので家族や親せきが知らないタイトルが多かったのですが、今回は音楽番組でMVが流れたりもするので、母からは『親戚や職場に自慢してるねん!MVが流れたら嬉しいから音楽番組も録画してるねん♡』って言われました。これがYOASOBIさんの力か!って思いましたね。

楽曲、アニメ、原作、小説それぞれ最高水準の素材で、お料理させていただけたうえ、話題にもなって大変ありがたかったです」。

 

 

アニメ本編とOP/EDとは、制作の手法が大きく異なると言います。その難しさややりがいについて三皷さんは、
「ベースとして楽曲がありますし、制作する上では “物語と楽曲の寄り添い” を意識しています。OP/EDを制作するにあたって、本編がまだ制作途中のことも多いので、楽曲を何度も聞いたり、原作がある場合は何度も読むことから始めます。それと並行して本編の監督に『このキャラクターを出したい』とか、『この場面はまだ見せたくない』とか、どんな方向性のものにしたいかをヒアリングします。

やりがいはある反面、作品の顔にもなるのでプレッシャーがとてもありますね。また、一年前にできあがった楽曲でじっくり作るわけではなくて、楽曲も同時並行で作られているので、方向性が分かる楽曲をもらった時点ですぐにスタートしなければ、最後に首が絞まるのは自分たち。そしてテレビなので納品に間に合わなければ、取り返しのつかないことになってしまう...といった納期的なプレッシャーもありますね」。

 

人に感動してもらう喜びと自身への癒し。

幼いころから「アニメ」や「音楽」が好きだった三皷さん。高校生になると自作の物語をインターネットで公開していたそうで、「物語をつくって、それを形にして、人に感動してもらう」ことに喜びを感じるとともに、“自身への癒し” にもなっていたのだと言います。


「小・中学校とアニメオタクだったのですが、高校生の頃、ちょっと精神的に落ち込んでしまった時期があったんです。そんなとき、何か違うキャラクターや言葉、物語に置きかえて伝えることですごく精神的に救われたことがありました。それを形にしたいと思い、ネットで物語を作り始めました。するとそれが結構反響があって、嬉しかったんですね。

人に言いたいけど言えない、慰めてもらいたいわけではないけど知ってもらいたい、ということを自分が物語に置き換えたときに『感動しました』『泣きました』『面白かったです』って言ってもらえることがすごくうれしくて。

また、当時 BUMP OF CHICKEN が好きだったんですけど、自分は歌は歌えないし曲は作れないけど、自分の思いをなにかに置き換えて伝えることで、バンプみたいなことができたらいいなって思いました」。

高校時代に描いた作品。

 

 

新入生代表として入学するも、涙を流すほど苦手な授業も。

アニメーションを学ぶべく、本学のキャラクターデザイン学科に入学した三皷さん。入学式では新入生代表として挨拶をするなど、担当教員曰く「学力もクリエイティブもダントツ上位をキープしていた超優等生でした」とのこと。ところが本人によれば「3DCGが難しくてわからなさすぎて、授業中に何度も泣いていました(笑)」と言います。


「高校生の頃からオリジナルの絵やストーリーを自分で作り始めたのですが、『デジタル系って人に教えてもらわないとダメだな』と考え、キャラクターデザイン学科への進学を決めました。パソコンは本当に苦手で、Yahoo!の検索しかできないくらいでした(笑)。

入学して早々、3DCGの授業があったのですが、全然わからずですごく恥ずかしい思いをしました。めっちゃ真面目に聞いているのに原理がわからなくて『先生、ちゃんと真面目にやってるんですけど、できないんです!』って泣いていたほどでした」。

在学中に描いた作品。
在学中に制作した3DCG作品。

 

苦手意識がありつつも、諦めずにやり遂げることを意識したという三皷さん。例えば、当時キャラクターデザイン学科が学科を挙げて取り組んでいた産学連携のテレビアニメ制作プロジェクト『キャラディのジョークな毎日』では、一年間の長期に渡るもので、脱落者が相次ぐ中、途中で投げ出さず、最後までやり遂げることができたそうです。

「『キャラディのジョークな毎日』という、アニメを一年間毎日テレビ放映する鬼のようなプロジェクトに参加したんですが、なんとか最後まで生き残ることができたことは、自信につながりました。365日毎日放送するって本当に大変で、その当時、学科の在籍が140人ほどだったのですが、最後まで作り続ることができたのは、たったの15人ほど。やり切った感もあったし、何より自分の制作したアニメがテレビに流れるというのはうれしかったですね」。

キャラクターデザイン学科の産学連携プロジェクトで、2009年4月1日から2010年3月31日まで放送されたテレビアニメ。世界中のジョークを、毎日一作ずつキャラディが読んでいくという内容で、一年間で全365話、放送された。キャラディの声を担当したのは、安田美沙子さん。

 

三皷さんが入学した頃は、マンデイプロジェクトが導入されて2年目の年でしたが、いまでもクラスの友人たちとは交流があるのだと懐かしそうに語ります。

「マンデイプロジェクトで出会ったさまざまな学科コースの友だちとは、今でも会うほど絆が強いですね。先日もオンライン飲みをしたほどです。当時の担当の箭内先生とも卒業後に会いましたし、20人以上参加するLINEグループもあるほど、同級生たちとのつながりは今でもあります」。

2008年のねぶた制作は「メタボリック」がテーマ。三皷さんのクラスはセミが孵化したような造形作品を制作し「学長賞」を受賞。

 

 

「自分が好きなもの」を見つめ直して気がついたこと― OP/EDの魅力。

4年生になると「自分が不器用だった」と語る三皷さんは、就職活動と卒業制作との両立ができず、まずは卒業制作に集中することにしたのだと言います。

「“なりたいもの” とか “やりたいこと” は決まっているけれど、それを実現できる職種が見つからず中途半端になってしまっていたので『4年生は卒制に集中しよう!考えるのはそのあとにしよう!』と、卒業制作に集中することにしたんです」。


とはいえ、卒業制作やその後の制作活動のことも踏まえ「アンテナもはっておかないと!」と考えた三皷さんは、音楽ライブやアート系のイベントスペースでアルバイトを始め、卒業後も大阪のギャラリーで働きながら作家活動を続けました。MV制作の手伝い等をしながら、自身でもMVを作ったり、絵の展示を重ねていったものの、徐々に 需要と供給が合わない” と感じるようになったそうです。


「自分がやりたいことはできてるんだけど、まるで亀みたいなペースでしか前に進めていないなと、『このままだったらどうなるんやろう』という漠然とした不安を感じるようになりました。とても忙しいのに、あくまで 展示” のために作っているような変な感覚があって、必要とされていないものを作っているのではないか。“需要と供給” が合っていないんじゃないかと感じるようになったんです。1年後食べていけても、10年後は?というモヤモヤがずっと募っていきました」。


そのモヤモヤした思いを明らかにするべく、改めて “自分が好きなもの” を見つめ直した三皷さんは、ひとつの答えにたどり着きます。


「アニメのオープニングとかエンディングって、アニメーション以外にもモーショングラフィックスやデザインなど様々な要素が入ってるし、作家性もあるし、TVで放送されていて、これが自分のやりたいことだ!と気づきました。

そこで『これってどうやって作ってるんやろ?』『誰が作ってるんやろ?』と思って好きなOPを作っているタイトルのエンドロールからクレジットを探し出すんですよ。そして一つの会社に行きつくんです。ここになんとかしてどんな形でも入れへんかな?と思いました」。

 

日本一のエンディング職人になるという夢

「この会社になんとかして入りたい!」と、すぐさま転職活動を始めたそう。しかしその会社は、即戦力の経験者の募集をしているということで本来なら入社できませんが、ダメ元で応募。するとラッキーなことに手が足りずアシスタントがほしいタイミングだったようで、三皷さんの “熱意とやる気” に押され、入社することができたと言います。


「面接では『ぼろ雑巾のように使ってください!』『馬車馬のように働きます!』『お金なんてなんでもいいです!』『とりあえず入れてください!』と訴えたところ、即戦力にはならないかもしれないけど、この子はやる気もあるし、なんかめっちゃ山下のファンだって言ってるし、アシスタントとしてつけてあげるのはどうだろう、という話が社内会議であったらしいです(現社長の山下敏幸氏、後日談)。それでうまいこと入社できることになりました(笑)。

いまも一緒に仕事している社長の山下敏幸さんは、アニメーター以外のグラフィックデザイナーという立場としてOP/EDを作り出した第一人者なんです。うちの会社はそのこともあってOP/EDの仕事がほとんどです。昔は本編の監督さんや演出さんがOP/EDも担当するものだったのですが、最近は外注することも多くなってきています。でも日本でそういう仕事を専門にしている会社は、恐らく指で数えるくらいだと思います」。


そんな社長の夢は “日本一のオープニング職人” になることだそう。三皷さんもその夢をともに “日本一のエンディング職人” の夢を追いかけています。


「社長がオープニングなら私はエンディングの日本一をとりたいなと思っています。日本一の意味は、周りからの評価ですかね。やっぱり『この人のエンディングが好き』とかアニメを見ていれば、視聴者側でもその作風がわかってくるんですよ。『誰々さんのエンディングや!』っていうのが認知されて名前がSNSにどんどん流れるようになったら、日本一かなと思います」。

『ゴールデンカムイ』
『BORUTO』
『東京リベンジャーズ』
林原めぐみ「Soul salvation」

 

「やり続けたもん勝ち」― 業界を目指す方へのアドバイス

就職後、『ゴールデンカムイ』や『BORUTO』『SHAMAN KING』『BEASTARS』『東京リベンジャーズ』など、さまざまなTVアニメ、映画、MVなどの映像制作を手掛けていった三皷さん。順風満帆に見えるようで、実はさまざまな失敗を経験し、本人曰く「落とし穴という落とし穴にはすべて落ちた」と言います。

「何でもスムーズにうまくできたわけではなくって、ぜんぶの落とし穴にぜんぶ落ちています(笑)。ただ、だからこそ正解が分かって成長できたのだと思っています。夢を諦めなかったこととか、具体的にこうなりたいという人がいて、自分から近づいたことで、ゴールが見えたんですね。私自身、大学のときはまだ漠然としていたのですが、なりたいことやなりたい人を具体的に探してみるのもアドバイスとしては良いかもしれません」。


落とし穴に落ちることを恐れず、チャレンジすることを大切にした三皷さん。先天的な才能やセンスというよりも、“努力や執着” が大切だと言います。


「他より何倍も努力している自負はあります。知識もなければ、かっこいい人間でも天才的な人間でもないから、がんばるしかないじゃないですか。だから皆さんに伝えたいのは『がんばればなんとかなるよ!がんばり続けていれば誰かが助けてくれるよ!』って感じですかね(笑)。

才能というよりも “執着したおかげ” っていうのが、今思えば大きいかもしれません。
私は子供の頃から運動神経が悪かったので、劣等感を抱いていました。そんな自分のできることが “音楽と絵” で、それに執着することで、自分の中の人間ランクみたいなものが、ちょっと上がるんですよね。やりたいって気持ちだけじゃなく、できないことを補うために、っていう感覚です。

この業界は “やり続けたもん勝ち” なところがかなり大きいと感じます。才能があるのだろうかと今でも自問自答はしますが、自分が自分たる “音楽と絵” という執着でなんとかやり続け、今こうして作り続けることができているのだと思います」。



三皷さんには、YOASOBI「怪物」MVが話題になったこともあり、インタビュー取材をお願いしたのですが、お忙しいところを「卒業して10年経った今、まさか母校から連絡があるとは思いませんでした。ありがとうございます!」と快くお引き受けいただきました。

取材後、「特に知識も才能も要領の良さもコミュニケーション能力も高くない自分の素のままをお話しさせていただきました」と謙遜していらっしゃいました。そんな三皷さんの人柄がにじみ出た記事になっていれば幸いです。

 

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