INTERVIEW2021.02.18

アート

新開日向子 ― KUA ANNUAL 2021「irregular reports:いびつな報告群と希望の兆し」

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  • 京都芸術大学 広報課

大学院を含め、通学課程の全学生から選抜された作家による企画展 KUA ANNUAL 2021 「irregular reports いびつな報告群と希望の兆し」。そのプレビュー展が、2020年12月に本学ギャルリ・オーブにて開催されました。
キュレーターに服部浩之(インディペンデント・キュレーター、秋田公立美術大学准教授)を迎え、150名を超える応募の中から幅広く服部が注目したプランをピックアップし、合計16名と1つのプロジェクト、17組28名が採用されました。
プレビュー展を終え、2021年2月に開催予定の「KUA ANNUAL 2021(東京展)」に向けて、4組のアーティストに話を伺いました。
今回は、新開日向子さんを紹介します。

新開日向子さん

美術工芸学科 写真・映像コース 4年

高校時代から主にインスタレーション作品を制作をしてきた新開日向子。今回は新たにLEDディスプレイを用いてインスタレーションを構成する。様々な要素が散見されるこの作品は、蓄積された日々の記録をスキャンを用いたドローイングとして編集し、それらを元とした複数のレイヤーを展示空間に落とし込んだものである。以前から虫に関心を持ち、灯火採集なども行った経験を持つ彼女は、今年5月にこの作品のモチーフの1つとなっている蜘蛛と出会った。その蜘蛛と共に生活をしていく中で抱いた愛憎相半ばする感情と共に、このイレギュラーな日常を作品として展開する。
[文、原田桃望(アシスタント・キュレーター)]
http://kuaannual.com/2021/

蜘蛛をテーマにしたインスタレーション

《反復する森》 ミクストメディア
協力:○△□(まるさんかくしかく)、助成:小笠原敏晶記念財団


インスタレーション作品を作ったきっかけは、散策中に公園で蜘蛛をみつけて、家に持ち帰り、記録を取り始めたことです。
虫かごに張られた蜘蛛の巣の形がすごく魅力的で、平面のイラストで書かれるような整ったきれいな巣ではなく、立体的で複雑なもので、巣の形態や蜘蛛の生態を記録に取り始めました。

蜘蛛の記録として写真に撮っていたものと、春から一人暮らしを始めたこともあって、今日食べたものなど日常生活の写真を撮っていて、毎日溜まっていくその記録をどうしようかと思っていました。記録って、後から見返さなければ「ただ撮るだけ」で過ぎ去っていく。

そこで、撮り溜めた写真を印刷して、写真を破ったりちぎったりし、部屋にある日用品とか、マスクとか手紙とか部屋にあるものとその写真をスキャナーでスキャンして一枚の写真にするという「スキャン・ドローイング」を始めました。

強い光

作品には灯火採集を模し、強い光を放つ「LEDディスプレイ」を使っていますが、夜の灯台などを見に行くのがすごい好きで。例えば、高知県に室戸岬灯台という灯台があるんですけど、灯台の近くに行くには、高台から少し海側に降りる形で灯台があるんです。その高台から降りる途中、ちょうど灯台の光が自分に当たる場所があって、その灯台の強い光が自分の身体に当たっている、あの体験が忘れられず、強い印象として残っています。

 

計算された「即興感」

さきほどお話した立体的で複雑な蜘蛛の巣を意識しています。わざと乱雑にモチーフを配置して、「渦」を作るような空間に仕上げました。まるで強い光に人が集まってくるような。光に向かって来る人を捕まえるような、そんな巣のような空間にしました。

高校生のころからインスタレーションはしていたのですが、今までで一番規模が大きく、事前に展示できるようなスペースがなかったので、photoshop上でイメージをある程度立ち上げてから制作しました。体育館で作品を広げて、それを上から撮影して、photoshopで加工や合成をしながら、だいたいのイメージを作ったんです。

講評会では、やなぎみわ先生から「演奏の上手い即興ミュージシャンのよう」とご指摘いただいたのですが、即興的でもあるんですけど、わりとphotoshop上で作っていたイメージと近い形になりました。

体育館で作品を広げた様子。
photoshopで作ったイメージ。

 

わかりやすい作品は作れない

昨年の講評会を見学していたとき、自分が出展していないのにすごい冷や汗を書くような思いをしていたので、いっぱい痛いところをつかれるだろうと思っていました。また、私は言葉で表現することが苦手なので、身構えていたんですけど、「わからないけど、面白いね」と言ってくださる方が多くて、安堵しました。

ただ「わからないけど、面白い」という、「わからなさ」を自覚した上で、次の展示に向かわないと失敗する可能性があると感じています。私は、わかりやすい作品は作れないというか、蜘蛛や光などの要素が印象的に残る作品になればいいなと思っています。

学園には、こども芸術大学があるので、お子さんと親御さんもたくさん見に来てくださっていて、お子さんが作品の前でぼーとしている姿、強い光を浴びて止まってしまっているのかもしれないけれど、その姿が印象的でした。その子が、家や日常でふと「あれは何だったんだろう」と思い返してくれるときがあれば、すごく「よっしゃ」というか、嬉しいですね。

 

本展にむけて

空間的な、もっと複雑な「迷路」のような感じで作りたいと思っています。
今回のプレビュー展では、L字型の壁を使った展示で、インスタレーション作品を撮影するために映えることを意識していました。東京展では広い空間を与えてくださったので、どのくらいの壁を使えるのかまだわからないのですが、もらえる壁をすべて活用した空間にしたいです。まるで鑑賞者が渦に入っていくような、より「巣」のような作品にしたいと思います。

 

(撮影:顧剣亨、広報課)

KUA ANNUAL 2021「irregular reports いびつな報告群と希望の兆し」本展

 

会期 2021年2月23日(火)~26日(金)※予定
9:30~17:30
場所 東京都美術館

https://www.kyoto-art.ac.jp/kuaannual2021/

 

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    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

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