大学院を含め、通学課程の全学生から選抜された作家による企画展 KUA ANNUAL 2021 「irregular reports いびつな報告群と希望の兆し」。そのプレビュー展が、2020年12月に本学ギャルリ・オーブにて開催されました。
キュレーターに服部浩之(インディペンデント・キュレーター、秋田公立美術大学准教授)を迎え、150名を超える応募の中から幅広く服部が注目したプランをピックアップし、合計16名と1つのプロジェクト、17組28名が採用されました。
プレビュー展を終え、2021年2月に開催予定の「KUA ANNUAL 2021(東京展)」に向けて、4組のアーティストに話を伺いました。
今回は、柯琳琳(お・らむらむ)さんを紹介します。
柯琳琳さん
美術工芸学科 日本画コース 1年
柯琳琳が生まれ育った香港には、葬儀文化において紙人形に霊が憑依するという考えがある。本作品において彼女はこうした考えに従い、自らの魂の一部を憑依させた紙人形をメディア=媒体・依代として他者と関わろうとする。コロナ渦において「握手、ハグ、キス」といった身体接触が憚られるようになったし、彼女自身、渡航制限によって来日が困難な状況に置かれた。こうした状況が人間関係の構築にどのような影響を与えるのか。香港から日本への旅と日常のレポートによって構成された本作が取り組むのは、こうした問いである。
[文、楊昕鑫(アシスタント・キュレーター)]
http://kuaannual.com/2021/
人と人との間を補完するためのテクノロジーの不自由さ
今回の展示は、人と人との間を補完するための「テクノロジーの不自由さ」を痛感したことがきっかけです。自分の魂を憑依させた分身としての模型人形を竹と紙で作り、その人形を通じてさまざまな人とコミュニケーションする様子を撮影し、上映しました。
私の出身の香港では、このような人形は呪いのイメージがあって、縁起の悪いものとして、なかなか作品として作る機会がありませんが、日本に来て、逆にこのような人形を使いたいなと思ったんです。
講評会のレポート記事で「日本というある種の別世界 “あの世” に自分の分身と自分自身が共存していることが面白い」と書いていただいたのですが、私と人形のこちらの世界(日本)でのつながりですね。文化が異なる日本に来たからこそ、作ることができた作品だと思います。
今年入学して、10月までは来日できず、ずっとオンラインの授業でした。そんな状況やコロナで他人との身体的なコミュニケーションが難しかったことが作品に結びついたのだと思います。
ソーシャリー・エンゲイジド・アート
香港で唯一のアート系の高校に通っていました。そこで、ソーシャリー・エンゲイジド・アートについても学びました。アートが社会へどのように介入するのか。作品や映像、音楽などのアートが、どのように社会とつながるのか、その関係性を考えるというものです。なにか社会を大きく変えていこうというような大それたことではなくって、アートが社会にじんわりと浸透していくようなニュアンスです。
日本に来るのは、旅行を除いては初めてだったのですが、私が制作した人形を連れて撮影にでかけたところ、「縁起が悪い」と思っている人はいなくて、日本社会や文化の違いを感じました。人形を怖いと感じる子どもがいる一方で、すごく好きだという子どもも多くいましたし、おもしろいと思ってくれる親御さんも。もし香港だったら「縁起が悪いからダメ!」となりますね。実は、このような作品を制作したことは私の両親には伝えていないのですが、めちゃくちゃ言われると思います。そのような社会、文化の違いも作品に大きな影響を与えていると思います。
みんなが見ているもの、見えていないもの。
作品の強度を高めていく。
プレビュー展では、「いいね」と比較的あっさり褒められることが多くて、実は逆に落ち込んでしまったんです。特に講評会のときは、先生方から自分がめちゃくちゃ言われる準備をしていたので、逆にそれがなくって「なんでだー」ってなりました…
いまも自分の中でグルグルした状態です。ここまでで良いのかな?人に見せたいものはいったい何なのか?人を喜ばせることを求めているのか?こういう形態で本当に良いのか?など、いろいろな方向から引っ張られているという感じですね。
みんなが見ているもの、見ることができているものは、私が見てほしい、感じてほしいと思っているものの半分だけにすぎないと感じています。自分も力不足ですし、作品としてわかりやすく表に出ている部分が強いこともあって、作品の内面のことをもっと深く考えることができていなかったからかもしれません。
映像や人形に加え、香港時代の自分の記録や、親に渡された防護服、飛行機で持ってきた荷物などのドキュメントは、後から展示することに決めたのですが、特にそれらドキュメントとメインの映像との関係がそんなに深くまで考えることができていなかったと思います。東京展にむけては、それを考えるつもりです。
自分から自分へ問題を投げるかのように検討しています。そもそもなぜ人形を作りたいのか?なぜ紙を使うのか?その何もかもを問題として自分に投げ、再構築する。そんな日々を過ごしています。
(撮影:顧剣亨)
KUA ANNUAL 2021「irregular reports いびつな報告群と希望の兆し」プレビュー展
会期 | 2020年12月3日(木)~18日(金) 10:00~18:00 |
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場所 | 京都芸術大学 ギャルリ・オーブ |
KUA ANNUAL 2021「irregular reports いびつな報告群と希望の兆し」本展
会期 | 2021年2月23日(火)~26日(金)※予定 9:30~17:30 |
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場所 | 東京都美術館 |
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