18歳-96歳。日本全国+海外で学ぶ社会人学生。
日本全国そして海外在住の18歳から96歳の方々が集う通信教育課程。大学では約7,500名、大学院では約220名の方々が、仕事や家事といった日々の暮らしと両立しながら、学んでいらっしゃいます(2020年5月現在)。
今回ご紹介するのは、美術科染織コースに在学中の髙橋知可さん。
芸術学科 歴史遺産コース卒業後、通信制大学院へ進学し、芸術環境研究領域 文化遺産・伝統芸術分野を修了、そして現在は文具メーカーで商品開発の仕事をしながら、染織コースで学ばれているという、まさに「最新学習歴」を更新中の髙橋さん。学生生活の様子や学び続ける理由、これからの目標などをお聞きしました。
"仕事以外の人生" を見つけるために、
せっかくなら本格的に学んでみよう。
― 歴史遺産コースに入学したきっかけは?
きっかけは「そういえば、今の人生って仕事と休みの繰り返しだな」と、ふと思ったこと。仕事以外に何かを始めてもいいんじゃないかと思ったんです。そして、せっかくなら本格的に学んでみたい。幼い頃から見に行くのが好きだったお寺や仏像について学べ、フルタイムの仕事とも両立できそうな歴史遺産コースへの入学を決めました。
― 実際に入学した直後の感想は?
もともと美大を卒業していたので、基本的な芸術の知識はあると思っていたのですが、想像以上に奥深くてびっくり。歴史遺産コースでは、生まれて初めて貴重な文化財にふれたり、社寺や博物館の裏側を見学したりすることで、ものに向き合う心が磨かれていきました。
授業以外でも、先生方は私たち学生の興味が湧くイベントを定期的に設けていただき、歴史遺産の世界にいざなってくれました。気軽な気持ちで入学しましたが、知らないことを学ぶことで興味がどんどん深まり、これほどハマるとは思いませんでした。
― 特に印象に残った授業は?
文化財の保存や修復について学ぶスクーリングです。
古文書の虫喰いの補修をする実習では、実際の史料を使って、補修用の紙を貼る糊を炊く作業から体験しました。昔ながらの方法でつくられた糊は、再びはがすときにも素材を傷めない。100年後の再補修まで見据えた方法に、伝承することの重みを感じました。
「卒業研究」のテーマに選んだのは、京都にある浄瑠璃寺の「九体阿弥陀如来坐像」。商品開発を行う仕事でのモットー、“現場百回” を大学の学びでも実践し、何度もお堂に足を運んでは像に見入りました。平日は、夜中まで書いていた原稿を翌朝の通勤電車で読み返す日々。毎日が本当に大忙しでした。ですが、研究をさらに一歩掘り下げたくて、気がついたら大学院へ進学していました。
「学生」ではなく「研究者」の一人として。
教員から熱い指導を受けた大学院時代。
大学院に進学して一番印象的だったのは、先生方の妥協を許さない熱心な指導。研究内容はもちろん、論述のルールや文章構成、誰かに伝えるための言葉遣いまで、時には厳しく指導していただきました。その厳しさは、研究に対する情熱と私たちを想う気持ちがあるからこそ。先生が取り次いでくださり、専門家から論文にアドバイスをいただくという貴重な経験をしたことも。一人で学んでいたら、決してできなかった経験で、研究を続ける原動力となりました。今でも、先生から「今、日本中で髙橋さん以上にそのことを考えている人はいないんだから。もっと追究して!」と言われたことをよく覚えています。先生方は大学院で学ぶ「学生」の私たちに、もはや「研究者」の一人として接しているのだと思いました。
大学院修了後、「何もなくなって不安」。
学びが生活の一部になっていた。
― 大学院修了後、なぜ、染織コースに入学されたのですか?
大学院を修了した後、春頃に一般公開講座「藝術学舎」で浴衣の仕立てをする講座を受け、
一緒に受講した染織コースの在学生が染織の奥深さを語っていたことに刺激を受けました。
また、忙しい大学院生活を終え、仕事が中心の生活に戻ったのですが、半年後には「何もなくなって不安」という気持ちが芽生え始めていました。学びが生活の一部になっていたんですね。数カ月後には染織コースへの入学を決めました。
仕事で紙や布に触れていて、もともと染織には興味があったんですよね。織物は経糸と緯糸の関係性で表現できることとできないことがある。制限された中でものを作り出す難しさと面白さに魅力を感じていました。
― 染織コースでの学びはいかがですか?
どの授業も内容が濃く、充実しています。スクーリングでは、知らないことばかりで先生の話を聞き逃さないようにしながら手を動かすことで毎回必死です。
2021年度は卒業制作で織作品に着手予定。染織コースに入って、織りの多様性を知るとともに、根源的な仕組みは昔から何も変わっていないことに面白さを感じています。また、身近に機をおくことで触れる機会が増え、織物の構造をさらに理解し、日々新たな気づきが生まれています。授業で聞くだけではなく、実際に自分で作ってみることの大切さを、学ぶにつれて実感します。
「天然染料」について学んでからは、植物を見ると「これは染まるかな?」と思ってしまいます。染織の世界を知ったことで、ものの見方が変わっていく。夢中になれるものがあると、興味の幅がどんどん広がって楽しみが増えますね。
本学への入学が大きな転機に。
これからも学び続けたい。
― これからの目標はありますか?
大きく3つあるのですが、まず一つ目は、卒業制作が始まるので、まずはシンプルに糸を染めて、織って、自分の目指す布を作り上げること。二つ目は、大学院での研究論文がまだまだ途中なので、中断を再開すること。そして、三つ目は、染織と仏像の双方を結びつけた新たな研究テーマを見出すこと。これまで研究対象にしていた浄瑠璃寺の仏像群には、今も鮮やかな着彩が残っている仏像があります。そういった仏像の服制や荘厳について、たとえば「今の技法で当時の布が再現できるのか」「なぜその文様の布をまとっているのか」ということを研究したいと思っています。
仕事と大学の両立は大変ですが、8年前に歴史遺産コースに入学したことが人生の大きな転機になったと嬉しく感じています。まだまだ未熟でやることがたくさんありそうなので、これからも学び続けたいです。
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