SPECIAL TOPIC2025.05.01

創造性によって人生と世界を変える「ウルトラプロジェクト説明会2025」

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

人生が変わるプロジェクト説明会

京都芸術大学の春の名物企画ともいえる「ウルトラプロジェクト説明会」が今年も開催された。ウルトラプロジェクトは、京都芸術大学の共通工房ウルトラファクトリーが主催する「社会実装プロジェクト」で、第一線で活躍するアーティストやクリエイターがディレクターとなって実際に社会で実現するプロジェクトにメンバーとして参画することができるというものだ。
 

社会実装や実践型教育プログラムは、近年さまざまな教育機関で実施されているが、ウルトラプロジェクトは2009年から開催されており、すでに16年目を迎えようとしている。これだけバラエティに富んだディレクターが集うことも異例であるが、ここまで長く続いているということも瞠目に値する。それを牽引するのが、ウルトラファクトリーのディレクターであるヤノベケンジ〈美術工芸学科 教授)である。


ヤノベは2008年に設立された共通工房ウルトラファクトリーのディレクターに就任し、「想像しうるものはすべて実現できる」ことを理念に掲げた工房を運営してきた。金属加工、木材加工、樹脂加工から始まり、近年はシルクスクリーン、デジタル造形など平面や立体、アナログからデジタルまで制作する設備を擁し、それらを教えるテクニカルスタッフが常駐している。驚くべきことは、工房設立翌年からウルトラプロジェクトを実施してきたことだ。もともとヤノベ自身が、大学で先輩のアーティストの制作の手伝いをしたことが、もっとも実践的で学びの場となったという経験であったことと、単なる道具の使い方ではなく、社会や表現に向き合う姿勢を教える機会が重要だと考えたからだ。
 

2010年代は、日本各地で開催された芸術祭や地域アートプロジェクトに参加するディレクターも多く、ある意味でその屋台骨となっていた。そして、2020年から始まるコロナ禍においても、いち早くオンラインを使った説明会を実施、動画配信を含めた新しいメディア表現も、プロジェクトとして貪欲に取り組んでいった。新型コロナウイルスが5類感染症になって以降、新たな対面でのニーズが増加すると同時に、一過性のイベントではなく、社会との関係性を問い直す、築き直そうとする動きが強くなってきているように思える。それは社会と向き合っているウルトラプロジェクトだから感じられることである。ウルトラプロジェクトは、アーティストの活動から、これからの社会の行方を占うことができる貴重な場にもなっているのだ。


ウルトラプロジェクトに関心があって入学した学生も多く、入学式前にも関わらず321名の学生が直心館J41教室に集まった。例年ディレクターによる「プレゼン合戦」ともいえる白熱した説明会が行われるため、緊張と興奮が入り混じる熱気が伝わってくる。今年は8組のディレクターがプロジェクトを発表したが、それぞれ募集人数は多くはないので、希望者全員が参加できるわけではない。その意味でディレクターも学生も真剣勝負なのだ。

 

ディレクターのヤノベは、「参加することで『偉大な魔術師』『人生の師』ともいえる人に会って、人生が変わるかもしれない。そのつもりで聞いてほしい」と述べた。実際、今まで人生の転機となった学生を多くみてきたからだ。

ウルトラプロジェクトと成長を共にするアーティスト

ウルトラプロジェクトの立ち上げ時から、現在も続いているプロジェクトもある。その一つが彫刻家、名和晃平(大学院 芸術研究科教授)が牽引する「Sandwich」のプロジェクトである。2008年に設立されたウルトラファクトリーの翌年、名和は伏見のサンドイッチ工場をリノベーションし、スタジオかつ素材実験の場、クリエイティブ・プラットフォームとして「Sandwich」をスタートした。そのスタジオの立ち上げから本プロジェクトの学生メンバーが関わり、代表作である「PixCell」シリーズをはじめ多くの作品の制作にも参加してきた。ウルトラプロジェクトは、名和のその後の国際的な活躍に伴走してきたともいえる。


Sandwichは、今では美術だけではなく建築も手掛けるようになり、世界各国でパブリックアートや建築の設計や施工管理も行う世界的にもあまり例のない組織となっている。近年は世界的な振付家・ダンサーであるダミアン・ジャレとのコラボレーションの舞台公演を行っており、舞台表現、身体表現と素材研究をつなげ、新たな彫刻の地平を切り開いている。ダミアン・ジャレとの新作パフォーマンスアート《Mirage》のスイス・ジュネーヴでの公演、さらに名和の久しぶりの東京での個展を開催、まさに世界的な表現に接することができるチャンスが広がる。

そして今回、新しく加わるのが「intoART」である。これは株式会社Gotoschoolが進める、実践的な子どもたちの創造教育支援であり、名和はアドバイザーとして参加している。昨年度は、国際的アートフェア「東京現代」において、アーティストたちが自身の体験にもとづいた子どもたち向けのワークショップを行い、その後、創造の「余白」として子どもたちが自らのモチベーションでつくりたいものを支援するプログラムをおこなったほか、アート教室「intoART SHIROKANE」も開校された。今年度は、これらの試みをさらに展開していく予定だという。ある意味で人間よりも上手く早く絵画やイラスト、さらには3次元造形物もつくってしまうAIが登場しており、人間の創造性をどのように引き出し、活かしていくかという今日的な問題を考える機会にもなっている。これらに参画することは、学生自身の創造性に向き合うことにもなるだろう。

同じく世界的なアーティスト、演出家のやなぎみわ。やなぎの舞台作品も、ウルトラプロジェクトと共に成長してきたといってもよい。やなぎは、キャリアの初期においていち早くデジタル加工した大型写真の作品《エレベーター・ガール》のシリーズを発表し注目を浴びた。その後の《マイ・グランドマザーズ》、《フェアリー・テール》などの代表的なシリーズを次々と発表し、2009年にはヴェネツィア・ビエンナーレの日本館で展示を行った。そして、2011年より突如、演劇の世界にも進出し、日本初の近代劇場、築地小劇場をテーマにした作品『1924 海戦』の原案・演出・美術を手掛け、美術が大きな役割を果たすかつてない演劇を生み出した。その原動力となったのが、ウルトラプロジェクトである。そこにおいてプロジェクトメンバーが、舞台美術やメイク、衣裳などのさまざまな役割を果たした。

第2部『1924 海戦』 2011やなぎみわ


その後、台湾の舞台トレーラーを使用し、中上健次の『日輪の翼』を原作にした野外演劇をつくり上げ、日本各地を巡回する。コロナ禍では、台湾の衛武営国家芸術文化センターで 南台湾の3大劇団と一緒に、台湾オペラと称される伝統芸能「歌仔戯」の新作『アフロディーテ 〜阿婆蘭(アポーラン)〜』を公演する。やなぎは脚本・演出・美術を手掛け、そのために京都府立植物園で胡蝶蘭の調査から衣装、舞台美術の制作など、プロジェクトメンバーとともに実施している。また、阪神・淡路大震災30年の節目となった今年、兵庫県立美術館で開催された「1995 ⇄ 2025 30年目のわたしたち」展に参加し、『古事記』の黄泉平坂をテーマにした新作能『排斥と遊戯 ~黄泉平坂(よもつひらさか)~』を、映像作品として上映した。そして、次作では「踊り念仏」で知られる一遍上人をテーマにするという。やなぎの「綜合芸術」への意志と、空間と時間とメディアを横断する表現力は、他のアーティストの追随を許さない。技能もさることながら、その壮大な世界観にふれることは、これから創作をする上で大きな糧になるだろう。

『日輪の翼』2016年8月6日 新宮港緑地 photo::OMOTE Nobutada 撮影:表恒匡
提供:財團法人文化臺灣基金會 撮影:黃宏錡、林政億、尹雯慧 

京都で育まれた伝統を現代に活かす

細尾真孝の率いる「MILESTONES」もウルトラプロジェクトの歴史が長い。細尾は、音楽活動などを経て2008年に元禄年間(1688年)から続く老舗の西陣織工房、株式会社細尾の12代目として跡を継いだ。細尾の工房は、皇族や公家、武家、神社仏閣に最高級の西陣織を提供してきた。その工程は20以上にもなり、一工程ごとにマイスターがいる。それは一つの工房で制作しているわけではなく、「西陣」と言われるわずか1キロ四方の織物産業が集積しているエリアで分業して行われている。しかし、明治以降と戦後の西洋化や階級の解体によって衰退していっていた。細尾は、そこで日本の最高級ラインともいえる西陣織を、クリスチャン・ディオール、ルイ・ヴィトン、シャネル、カルティエ、グッチ、ライカ、レクサス、FURLAなどの世界に名だたるハイブランドとコレボレーションすることで、その価値を継承し、国際的に通じるように生まれ変わらせた。

「MILESTONES」プロジェクトでは、その初期から長年の知的財産の結晶ともいえる図案を、デジタルアーカイブ化することに力を入れている。江戸時代から蓄積された2万点に及ぶ図案は、12年の活動の結果、1万4千点以上はデジタル化され、さまざまなクライアントとのコラボレーションに活かされている。それはまさに、京都の伝統的工芸の技術とセンスを、現代の技術と若者のセンスによって継承し、再生させる好事例といえるだろう。

 

現在では、下地だけで色がついていない図柄を、小林弘和と山田春奈によるクリエイティブユニット「SPREAD」とのコラボレーションによって、新たな色で蘇らせたり、AIによって新たな図柄の生成などさらに、最新の技術とセンスによる創造を行っている。

そして、2025年はそれまでの集大成ともいえる巨大な西陣織の作品がお披露目される。2025年大阪・関西万博で、飯田ホールディングスと大阪公立大学が共同出展するパビリオンの表面積約3500㎡に及ぶ外装を、すべて西陣織で覆う。国際的建築家、高松伸による設計の前代未聞のプランを、細尾は開発していた世界標準の150㎝幅の織機(通常は32㎝)によって対応。耐久性に対する処理も含めて見事にその要求に応えた。細尾のプロジェクトに参加することで、真の伝統は、現在においても新たな価値を生成できるものであることを体験できるだろう。


実は、このような伝統的な技術のアーカイブは、京都芸術大学にも残っている。それは現在のウルトラファクトリーのプリントラボの前身、印刷工房時代に講師を務めていた谷中和生氏が残したプリントである。それは作品ではなくP.P.(Printer's Proof)と称される、刷り師・工房が手元に残すために刷ったプリントであり、「谷中コレクション」と言われている。谷中は、1972年にタニナカシルクエディションを設立して以来、シルクスクリーンの刷り師として長年に渡り多くのアーティストと協働し版画作品を制作した。そこには横尾忠則の版画集《龍の器》の P.P. を含めた貴重な資料も含まれている。

そこでウルトラファクトリーのテクニカルスタッフであった京都孔版の鳥居本顕史は、資料の保管・活用するための整理とアーカイブ化のためのプロジェクト「フクセイクラブ」を発足した。「フクセイクラブ」では「谷中コレクション」のデジタル化や色再現のためのインクの調合などを行い、貴重な版画の整理と再現性を試みると同時に、かつての谷中和生氏と同様に、現役で活躍するアーティストとのさまざまな版画のコラボレーションを試みる。鳥居本は、京都孔版で中野裕介(パラモデル)や鬣恒太郎といったアーティストのシルクスクリーンを制作し、ウルトラファクトリーのプリントラボでは、ウルトラプロジェクトの一環としてイラストレーター・アニメーターの米山舞(通信教育部デザイン科 イラストレーションコース講師)のシルクスクリーンを制作している。今年は髙橋耕平(美術工芸学科 准教授)との実験的な版画作品の制作も試みる予定だ。これもまた、過去と現在を行き来して、新たな創作をするプロジェクトになるだろう。

素材と人を活かす

文化的遺産ではなく、一見無価値なものを再生させるのは、矢津吉隆(美術工芸学科 専任講師)らが率いる「BUYBYPRODUCTS PROJECT」である。矢津と山田毅は、副産物産店というユニットを組んでおり、アーティストが創作時に捨てた廃材を“副産物=バイプロダクト”として再利用するプロジェクトを進めている。さらに、副産物産店に加え、建築家の中村紀章松本尚子(環境デザイン学科 准教授)、デザイナーの水迫涼汰も参画し、京都芸術大学内で排出された「副産物」を回収し、プロダクトに生まれ変わらせている。
 

美術大学では日々さまざまな素材が使用されており、その過程で多くの端材や廃材が生まれている。特に建築やデザイン、工芸、美術など多数の学科やメディアがある京都芸術大学ではその種類も多い。それらは用済みの「ゴミ」として捨てられるわけだが、学生の中には「ゴミ」を探して、自身の作品の材料にするということは、どこの美術大学でも行われていることだろう。食品ロスの削減やゴミのリサイクルが叫ばれている昨今、アートにおいてもそのことに無自覚でいるわけにはいかない。「フードロス」ならぬ「アートロス」の解消というわけである。
 

「BUYBYPRODUCTS PROJECT」では、「買う前に探そう」というキャッチコピーのもと、創作時に発生する廃棄物、余剰資材を学内各所に「みどりの箱」を設置して回収し、それらを仕分けしたりして、作家が新たな創作の材料にできるエコシステムを構築している。「副産物」を持ち帰れる「みどり市」を定期的に開催し、ある程度分量のある素材を用いてスツールなどの使用できる道具も制作している。統一的で洗練されたデザインによって、みどり箱やチラシ、ウェブなどがつくられ、全体としてある種のアクティヴィスムやコレクティヴィスムともいえるし、この活動自体がアートといってもよい。まさに時代精神を体現したプロジェクトであり、総合的な技能と視野が開けるだろう。

別の意味で素材を活かすプロジェクトとして、多田智美竹内厚による編集者のユニット、「BYEDIT」がある。こちらもウルトラプロジェクト発足時から、定期刊行物『THE ULTRA』の編集を中心に活動しているが、ユニークなのは集まってきたメンバーの関心をもとに、出力を考えていることである。プレゼンテーションでは、「それぞれの“編集の力”を生かし、新たなメディアを立ち上げる」とうたっている。

編集といえば、写真やイラスト、テキストを組み合わせて、冊子やサイトをつくるような固定的なイメージがあるが、コンテンツだけではなく、出力も含めて新たな形態を考えるのだ。それはよほどディレクターの発想が柔軟でないと成果を出すのは難しい。しかし、多田と竹内はこれまで集まって来たメンバーと対話しながら、新しいメディアを生み出してきた。例えば、ラッパーのワークショップを開き、ウルトラファクトリーの機材説明をラップ化して、最後にMVにしたり、簡単なルールを決めて、「ひとりしゃべり」のラジオをつくったりするなど、パフォーマンス、動画、音声などの複数のメディアを横断する編集を試みている。しかし、今や1人ラジオも、動画配信も当たり前になり、新しいメディア環境で育まれ、内在しているそれぞれの「編集力」を引き出すことが重要になっているといえる。

それは同時に編集者にとって、いかに人に関心を持つかが重要であるかを示唆している。多田が自身の編集例として紹介した、共同キュレーターとなったヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展や、竹内の名古屋の港まちで発行している『ポットラック新聞』も、そのような人への関心をもとに編集されたものだといってよいだろう。今年は、5月に開催される、名物編集者、伊藤ガビンが刊行した『はじめての老い』のトークイベントをいかにおもしろくできるか考えることからスタートするという。これもまた他者への関心をいかにつなげて、読者や観客に伝えていくか実践的な場となるだろう。

旅するアート 越境するアート

今年は、久しぶりに「オタマトーン」で知られる明和電機土佐信道のプロジェクトも開催される。明和電機は、2014年にヤノベと映像作家の石橋義正と一緒に「激突プロジェクト」として、「京都国際映画祭2014」での京都市役所前でのパフォーマンスを実施したことがある。その際、マネジメントを担当した学生は、その後、明和電機のマネージャーとなった経緯がある。まさにウルトラプロジェクトによって人生が変わったのだ。

その後、コロナ禍の2021年には、渡航禁止のなか、北京での大規模個展をリモートで設営、実施するための「リモート・コントロール・エキシビジション計画」を行った。4年ぶりのウルトラプロジェクトでは、コロナ禍とは真逆で、全国ツアーを自身の車を運転して、1人で開催するという。

 

「UMEツアー」と題されたプロジェクトの意味は、自作の楽器によるバンド編成の中で8人程度が「松」、3人程度が「竹」、土佐1人によるものが「梅」だからである。「ナンセンスマシーン」と称する個性的な複数の楽器は、2つほどのオリジナルの楽器ケースの中にコンパクトに収まるようになっており、演奏する際には演台としても使用できるようになっている。これはコンパクトに収納して運べるように、北京での個展をきっかけに改良されたものでもある。

ツアーは京都芸術大学の春秋座でも7月20日(日)に開催され、その前にウルトラファクトリーで滞在制作して、新たな楽器も取り入れたパフォーマンスを行う予定だ。今回は、舞台制作班と物販なども行うマジメント班が募集されるが、この体験を経て新たな人生を歩む人も生まれるのではないか。

 

ウルトラファクトリーのディレクターであるディレクターであるヤノベケンジは、毎年、さまざまなプログラムを用意しているが、今年はアニメーター・イラストレーターの米山舞とタッグを組んだプロジェクト「PROJECT ULTRA-W」を発表した。ヤノベもさることながら、学内には、通信教育部 イラストレーションコースのメインビジュアルを手掛ける米山のポスターが掲示されており、米山が自身が手掛けたアニメーションなどを知っている人がいるかと会場に質問したら多くの人の手があがった。

 

近年、ヤノベは福を運ぶ旅の守り神「SHIP’S CAT」のシリーズをさまざまな形で展開している。昨年度はGINZA SIXの中央吹き抜けで展示されている「BIG CAT BANG」、埼玉のハイパーミュージアム飯能で開催されている「宇宙猫の秘密の島」展、「瀬戸内国際芸術祭2025」でお披露目され、神戸と小豆島との連絡船ジャンボフェリー「あおい」甲板の上に乗る《SHIP’S CAT(Boarding)》と小豆島坂手ポートターミナル「さかてらす」屋上に恒久設置された《SHIP’S CAT(Jumping)》など、爆発的に展開されているといってよい。今年もGINZA SIX前の「SHIP’S CAT」の展示やバンコクの商業施設、2026年3月には、大阪中之島美術館でやなぎみわ、森村泰昌との3人展と続いていく。

米山舞とは、「SHIP’S CAT」のシリーズの一つとして、米山が手掛けたアニメーションが流れる円形のモニターを乗せた《SHIP’S CAT(Sun Carrier)》や少女が希望を見つけて動き出す様子をセル画のように描いた複数のアクリル板を乗せた《SUN SEEKER》でコラボレーションした経緯がある。

いっぽう米山も、1人のアーティストとして美術作品の制作に取り組んでおり、2023年には渋谷PARCOで個展「EYE」開催し、その際、ウルトラファクトリーに滞在して、プリントラボで鳥居本の協力を得てシルクスクリーン作品を制作、さらにデジタル造形工房では複数のメディウムを使用した平面作品とアクリル板を組み合わせたレリーフの作品の合計3点を制作した。

今回、米山が取り組むのは彫刻作品である。屋内と屋外用の2つの彫刻作品をつくる予定であり、参加学生は前半にヤノベ作品で立体造形のスキルを学び、後半に米山の彫刻作品の制作を一緒に制作する予定だ。

 

会場では、熱を帯びるディレクターのプレゼンテーションも相まって、集まった学生は熱気にあふれていた。しかし、ここ数年の間に、文章だけではなく、画像生成や動画生成のAI(人工知能)も飛躍的に向上しており、人間的な情熱といったものから対極の創造が社会にあふれるようになった。その中で、改めて人間はどのようなものを創造すべきなのか問われているといえるだろう。


戦争や紛争は続き、感染症の恐怖も記憶に新しい。今まで災害も各地で続き、貿易戦争が激化しつつある。まさに先行きが見えない現在、確かなものは何なのか。コミュニケーションや身体性を含めた創造性こそが人間にとって残された大切な価値といっても過言ではない。そして、未来に希望がない限り、創造し続けることは難しい。その意味で、ウルトラプロジェクトでアーティストやクリエイターと対話したり協働することは、未来を占い、人生や世界を変える一つの試金石となるといってよいだろう。そしてそこに参加することは、次の世代に創造性をつないでいく大きなきっかけになるのではないか。

(文=三木 学)

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?