REPORT2026.05.22

アートデザイン

芸術という魔法の力で世界を変える「ウルトラプロジェクト説明会2026」

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

人生を変えるプロジェクト説明会

京都芸術大学の個性あるプログラムのうちもっとも異彩を放つ「ウルトラプロジェクト」の説明会が今年も開催された。今年は翌日に入学式を控え、連日入学前のガイダンスを受ける学生たちが、こぞって山の斜面に建設されている京都芸術大学校舎の中で高い位置にそびえる大講義室、直心館J41教室に集った。

ウルトラプロジェクトは、「想像しうるものはすべて実現できる」ことをコンセプトにした、京都芸術大学の全学年・全学科が使用できる共通工房、ウルトラファクトリーが実施する社会実装プロジェクトである。ウルトラファクトリーは、2008年に設立され、金属加工、木材加工、樹脂加工から始まり、近年はシルクスクリーン、デジタル造形など平面や立体、アナログからデジタルまで制作する設備を擁し、それらを教えるテクニカルスタッフが常駐している。それだけではなく、社会に展開するためのプロジェクトとして翌年の2009には、ウルトラプロジェクトを開始した。近年、芸術分野においても「社会実装」や「実践型教育」という言葉は盛んに言われるようになったが、日本の美術・芸術大学の中では先駆的で歴史が長い。

もともとウルトラファクトリーのディレクターであるヤノベケンジ(美術工芸学科 教授、ウルトラファクトリーディレクター)が、大学時代に先輩の展覧会などの実践的な場をサポートしたことが、もっとも実力がついたという経験から立ち上げたもので、最初は自身のプロジェクトに学生が参加するところから始め、徐々に学内外のアーティストやクリエイターを招いていった。しかし、そこには身内的な妥協はなく、国際的な場で第一線で活躍している人々を招聘し、様々なタイプの実践の機会を提示し、そこに関心を持った学生が応募して参加するという方法論を組み上げていった。

もう一つヤノベが意識したこととして、学生が先生を選べない教育のあり方への疑問があった。人生を変えるような師は自身の目で見て選んだ方が当然よい。それを実現するためヤノベだけではなく、多くのクリエイターを集め、それぞれのプレゼンテーションを見た上で、学生自身が参加するかどうかを判断する。だからヤノベは、自分たちが学生に選ばれる機会なのだと言う。しかし実践の場なので、ディレクターたちも命がけで取り組んでいるし、学生もそれに応えなければならない。プロジェクトには人数制限があるため、どちらにとっても競争になるというわけである。

会場に集まった学生たち

それだけに毎年、ディレクターたちのプレゼンテーションは熱を帯びる。学生に対してどれだけ魅力的なプロジェクトなのかをアピールする場というだけではなく、ジャンルは重ならなくとも同じクリエイターとして、それぞれの創造性や活躍を目の当たりにするわけなので触発され合うのである。集まった学生たちは、クリエイターの創造性が衝突するライブを目撃することにもなる。

例年、ヤノベケンジの司会で始まるウルトラプロジェクト説明会であるが、今年はヤノベの姿がなく、会場前方にある巨大なスクリーンには2人のVTuberキャラクターが会話している。「宙来なぎさ」と「きゃぷしーちゃん」と呼ばれるキャラクターは、ヤノベケンジのパブリックアート《サン・シスター(愛称:なぎさ)》(2015)と《SHIP'S CAT(Muse)》(2021)をキャラクター化したものである。大阪・北加賀屋にある大型アート収蔵庫のイベント「Open Storage 2025 LUCA:THE LANDING」のプロモーションのためにキャラクターデザイン学科の大塚撫子野口つかさが制作し、トークイベントでもリアルタイムで実演されたものだ。今回は、通常ヤノベが行っている会場の学生やディレクターたちとのコール&レスポンスを二人のキャラクターが担い、場を温めた。

VTuberキャラクター「宙来なぎさ」と「きゃぷしーちゃん」が会場を盛り上げる

しかし肝心のヤノベが登場しない。なぎさちゃんときゃぷしーちゃんによると、ヤノベは大学の場所を間違えて、バスに乗り遅れた上、花見客のために渋滞し、さらに会場への順路を間違えて遅くなっているという。そしてようやくついたと思ったら、入口を間違えて、大講義室の一番上から降りて登場してきた。学生たちには後で明かされたが、「きゃぷしーちゃん」を演じていたのがヤノベだった。毎度、時代に合わせた趣向で盛り上げるのもウルトラプロジェクト説明会の楽しみの一つである。

登壇したヤノベは、「この説明会で人生が変わる。それくらい貴重な出会いだから、真剣にきいてほしい」と語った。今年は7組のプロジェクトが一人8分という短い枠でプレゼンテーションを行った。そして「まばたきしている間に終わってしまう」とヤノベが言うほど濃密な内容が続いた。

米山舞&ヤノベケンジ—平面と立体を融合させる異色な二人のコラボレーション

特に今年の注目は、アニメーター・イラストレーターの米山舞(通信教育部文化コンテンツ創造学科 イラストレーションコース講師)の登壇だろう。米山は昨年もヤノベと共同でプロジェクトを行っている。X(旧・Twitter)では140万人を超えるフォロワーを集め、学生の中にも多くのファンがいる。米山のことを知っているかヤノベが問いかけると、ほぼ全員の手があがった。

プレゼンテーションをするヤノベケンジ
ヤノベに引き続き、米山舞によるプレゼンテーション

ヤノベと米山は今年も共同で「PROJECT ULTRA-W」を行う。二人のディレクターが合わさった一つのプロジェクトとして機能するため、参加者は双方の制作に関わることが条件となる。どちらか一方の作業だけを希望するメンバーは選考対象外となる、という条件の厳しさが、このプロジェクトの本気度を示していた。

ヤノベは昨年度の活動を振り返りながら、《SHIP'S CAT》シリーズの巨大立体造形、MASKでのイベントにおけるグッズ制作と販売の実践など、多岐にわたる成果を紹介した。VTuberや会場に登場した《SHIP'S CAT》の着ぐるみ、さらに学生たちが手がけたグッズは会場で長蛇の列を生むほどの人気を博し、その売上によって米山舞の東京・銀座蔦屋書店での個展を全員で見に行くという、このプロジェクトならではの成果を生み出した。

MASKでヤノベと学生の記念撮影
MASKでのイベント店舗の様子

さらに、今年は4月25日から大阪・中之島美術館で、森村泰昌、やなぎみわとの3人展「驚異の部屋の私たち、消滅せよ。——森村泰昌・ヤノベケンジ・やなぎみわ——」が開催される。目下その制作の追い込み中である。会期中には美術館の芝生広場に、ハイパーミュージアム飯能で宮沢湖の浮島に置いた作品を移設して「猫之島美術館」を作る予定もある。ここでは、映画『国宝』で俳優の吉沢亮や横浜流星の特殊メイクを担当したAmazing JIRO(アメージング・ジロー)氏と協業した「100歳のヤノベケンジ」や、キャラクターデザイン学科との協働によるシューティングゲームも発表される予定である。今回募集するプロジェクトメンバーも、この展覧会に関わることができる。

さらに、以前、学生たちと組んだ「もふもふ」する素材を使った作品を制作する集団「モフモフ・コレクティブ」の再結成や、今年、成層圏まで打ち上げた「宇宙猫」の行方を追うプロジェクトなど多彩なプログラムが紹介された、バルーンで打ち上げた「宇宙猫」が成層圏でアクリル板との接着が外れ、空に飛んでいく映像は会場の笑いを誘った。

成層圏まで打ち上げた「宇宙猫」 詳細はこちらでもレポートしている→宇宙時代の扉を開く、ヤノベケンジの「宇宙猫」を宇宙に還す「RE:VERSE」プロジェクト

最後に、「100歳のヤノベケンジ」から、「アーティストは芸術という魔法で未来を変えることができる大魔術師である。プロジェクトに参加して、大魔術師と一緒に世の中を変えていってほしい。今日はあなたの人生が変わる日になる」というビデオメッセージが贈られた。

100歳のヤノベケンジ。大画面から学生に語りかける様子

米山舞は、通信教育課程のイラストレーションコースのメインビジュアルを担当した経緯で、ウルトラファクトリーを訪れ、この場所では、何でもつくれることに感動してヤノベと共同制作を開始した経緯を語った。というのも、現在、米山はアニメーションを立体にする試みを行っているからだ。

米山は動画であるアニメーターからキャリアをスタートして、イラストレーターとしても地位を確立してきた。そして、空間を媒体とした個展においても、偏光板やアクリル板などを加工して、2次元には収まらない表現を模索してきた。それはもともと静止画の連続によって、アニメーションという動きを表現するノウハウがあるからこそできることである。空間におけるアニメーション的な表現を追い求める中で、ウルトラファクトリーとヤノベと出会うことになる。

約2年前に、PARCO MUSEUM TOKYOで開催した個展「YONEYAMA MAI EXHIBITION "EYE"」の制作にあたり、初めてウルトラプロジェクトに参加し、大型のレリーフ作品やアクリル板を組み合わせた半立体の作品、さらに、シルクスクリーン作品を展示した。

(リンク https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1103

昨年開催された銀座・蔦屋書店での個展では、ウルトラプロジェクトのメンバーとともにシルクスクリーン作品や平面作品の支持体の制作に取り組み、3月にグランフロント大阪に設置された約4メートルの彫刻へのペインティング作業も学生たちとともに行った。米山は、1週間程度、京都に泊り込み、ウルトラファクトリーと山中に在する制作スタジオにて寒い中、学生と共に作業を行ったことで結束力を高めたことを語った。そのような共同制作が可能なのも、アニメーションの制作現場において作画監督などを行い、チームを牽引してきた経験も大きい。

ウルトラファクトリーにて、シルクスクリーン作品のマテリアル・テストの様子
支持体の制作に学生たちが関わり東京・銀座蔦屋書店に展示された米山の作品
グランフロント大阪に展示する作品を学生と制作する米山舞
ART SCRAMBLE グランフロント大阪 うめきた広場に展示されている

今年度は、銀座で開催した個展の京都巡回展(7月末予定)に向けた新作キャンバスおよびシルクスクリーンを用いた作品の制作を進めていく予定だという。「ここで培った技術とコミュニケーション力が自身の制作にも反映している」と語る米山の言葉は、このプロジェクトが一方向的な指導関係ではなく、互いに影響を与え合う共同制作であることを示していた。

名和晃平とSandwich—世界のアートシーンに立ち会う刺激的な現場

Kohei Nawa, “PixCell-Elk#3,” 2026, mixed media, 2273 × 2680 × 1260 mm, photo: Nobutada OMOTE

彫刻家・名和晃平(大学院 芸術研究科 教授)は、「ULTRA_Sandwich」を牽引する。

「Sandwich」は名和が主宰する京都のクリエイティブ・プラットフォームで、現代美術や建築、舞台芸術の実験と制作が日々行われている。ウルトラファクトリーの設立と近い2009年に、京都・伏見区の旧サンドイッチ工場をリノベーションしてスタートし、今年で17年を迎える。ウルトラプロジェクトにもっとも早い段階で参画し、今回で22期生となるという。

名和は今年のプレゼンテーションで、大学院在学中の経験を語った。インターネットの黎明期に初めてオンラインで注文したものを彫刻にしようと思い立ち、「PixCell」シリーズを生み出した経緯である。「PixCell」は、動物の剥製などに透明の球体を張り付けることで、表面の質感が拡大されたり、歪んだりする特徴を持ち、情報化時代を象徴する彫刻として位置付けられている。

「PixCell」およびそこから派生した「Prism」シリーズは、誕生から25年近くを迎え、今年4月にはロサンゼルスのPace Galleryでの個展で最新作が発表される。例えば、ヴィンテージのブラウン管テレビやエンゼル、カラスといったモチーフが組み合わされ、今日のメディアの在り方を問う。モチーフ全体を貫く「漂流物」というキーワードは、「加速する情報化や繰り返す災害の中で、世の中にあるものすべてが漂流物のように見えてくる」という問いを内包していた。また名和は、泡や霧、シリコーンオイルなどの流体素材そのものに着目した作品シリーズにも取り組んでいる。こうした展開は彫刻という概念を拡張し、今日の流動的で不安定な社会状況を写し出している。

さらに、彫刻にとどまらず、建築設計、舞台芸術へと表現領域を拡張し続けている。世界的振付家・ダミアン・ジャレとの共同制作による最新のパフォーマンス作品《MIRAGE》は1月にフランス、オーストリア、スイスでの公演を終え、6月にはベルギーおよびオランダでの公演が控える。それと並行して、様々な建築プロジェクトが進行している。世界を飛び回りながら同時並行で進むプロジェクトの密度は圧倒的であった。グローバルな創造の現場に立ち会えるということを体験したいのであれば、「ULTRA_Sandwich」ほど刺激的なプロジェクトはないだろう。

やなぎみわ—美術と舞台、室内と野外を物語に変容させる

スタジオにて春の展示に向けた写真作品をするやなぎみわ

演出家・美術家のやなぎみわのプロジェクトも、ウルトラプロジェクトの中で最も歴史の長い部類に入る。今年で15〜16年目になるという。なお、やなぎは今年の三人展でヤノベ、森村泰昌とも共演が予定されている。説明会の場はその直前という緊張感にも満ちていた。
やなぎは、美術家としてキャリアをスタートし、2009年には第53回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展に日本館の作家として選出されるなど、国際的に活躍してきた。いっぽうで2011年からは原案・演出・舞台美術まで包括した、総合的な舞台芸術を手掛けるようになり、2014年からはステージトレーラーを用いた野外劇も開始する。

昨年は、六甲山を舞台とした「六甲ミーツ・アート」に参加し、世界的アーティスト、川俣正が制作した《六甲の浮き橋とテラス Extend 沈下橋2025》(2025)の水上舞台とコラボレーションした野外水上劇『大姥百合(オオウバユリ)』を制作した。舞台では、東北・北海道に生息し、10年以上かけて開花し、一度の開花で枯れてしまうとされる、巨大なオオウバユリの精霊が登場する。

学生が作成したオブジェが舞台に設置される

能楽の形式を取り入れた幻想的なものであり、舞台装置はウルトラファクトリーで学生とともに制作し、国宝『一遍聖絵』のように、時宗の僧侶たちも出演するという重層的な構成をもっていた。オオウバユリを模した鋳造による金属作品も並走して制作され、再演に向けて磨き続けているという。また、台湾での舞台公演『アフロディーテ 〜阿婆蘭(アポーラン)〜』、「古事記」の黄泉平坂をテーマにした新作能『排斥と遊戯 ~黄泉平坂(よもつひらさか)~』の映像作品を制作。黄泉平坂とも関係のある、10年以上続けている桃の写真作品などが紹介された。

今年は5月末の公演が目前に迫っており、プロジェクトに参加した学生はすぐに現場に入ることになる。舞台は大阪中之島美術館の大ホールである。『排斥と遊戯 ~黄泉平坂(よもつひらさか)~』の舞台作品で、能楽師を交えたスタイリングや舞台美術の制作補助が、参加者に求められる役割となる。ヤノベも指摘していたが、いきなり放り込まれてドラマチックな展開に巻き込まれるという、まるで『千と千尋の神隠し』の湯婆婆と千尋の関係のようになるかもしれない。学生自身がドラマの主人公になるような体験を経て、飛躍的な成長が期待できるだろう。

 

細尾真孝—伝統と知的財産を、現代の力で更新し続ける

2024年度から継続のメンバー5名の完成した掛け軸

細尾真孝が率いる「MILESTONES」は、元禄元年(1688年)創業の西陣織工房・株式会社細尾の歴史的遺産と現場を舞台にしたプロジェクトである。ウルトラプロジェクトとの関わりは2014年、すでに12年を超え、細尾自身もウルトラファクトリーのディレクターに誘われたことをきっかけに、このプロジェクトが始まったという。

西陣織は約50平方キロメートルという限られた地域に20以上もの工程の職人が集積する分業体制によって成り立っており、一つの帯を完成させるまでに20名ものスペシャリストの手が加わる。細尾はその卓越した技術を世界に向けて開き直すため、150センチ幅の織機(従来は32センチ)を独自に開発し、クリスチャン・ディオール、グッチ、フルラなど国際的なハイブランドとのコラボレーションを実現してきた。昨年の「大阪・関西万博」では、飯田ホールディングスのパビリオン外壁約1万平方メートルを西陣織で覆うという、前代未聞のスケールに挑んだ。

MILESTONESプロジェクトの中核となってきたのは、江戸時代から蓄積された約2万点の帯図案のデジタルアーカイブ化である。開始から12年を経て、現在は1万4千点以上がデジタル化されており、今年度も残る約6千点のアーカイブ作業を継続しつつ、その先のステップへと進む。例年、デジタルアーカイブ化するだけではなく、参加した学生自身が図案を利用した新たな提案を行い、企業とのコラボレーションを行っている。

実際にお茶室にかけられた作品を解説する学生

残っている帯図版は色がついていない。そのため近年、東京のクリエイティブユニット「SPREAD」との協働による「色の再付与」のプロセスを行っており、それらをプロジェクトメンバー全員が学ぶ「SPREAD道場」が今年度も開かれる。そこでは伝統的なモチーフを抽象化・ビット変換した作品を、茶会の場で発表していく予定だという。細尾の京都本社5階に設けられた織屋の茶室がその舞台となる。京都の長年の文化的蓄積が、現代の技術と感性で、世界に通用するという事例をここまで鮮やかに示したプロジェクトは他にないだろう。そこに参加することは、将来にわたって大きな財産になるはずだ。

それだけではなく、学内のネットワークやソリューションを利用したプロジェクトもある。

 

BUY BY PRODUCTS PROJECT——創作の廃材を再利用した「副産物」を循環させる

矢津吉隆(美術工芸学科 専任講師)を中心とする5名のディレクターによる「BUYBYPRODUCTS PROJECT」である。アーティスト・ユニットの副産物産店(矢津吉隆+山田毅)建築家の中村紀章(環境デザイン学科 講師)、松本尚子(環境デザイン学科准教授)、グラフィックデザイナーの水迫涼汰という布陣は、ウルトラプロジェクトの中でも最も多様な専門性を擁するチームといえる。

「廃材×アイデア=副産物」というコンセプトのもと、学内の各工房から排出される使用済みの素材や端材を「副産物」として回収し、再利用するエコシステムを構築してきた。アイデア次第で、作品の際に生まれる廃材は、副産物になりうる、ということである。

ワークショップで作成された作品

「By-products」とは、主産物の製造過程で必然的に派生する物品、副産物のことなので、BUY、つまり副産物を買う、あるいは売るプロジェクトという意味になる。美術・芸術大学の卒業生ならば、自身の作品を制作する際に、学内の廃棄物で素材になるものがないか探した人は多いはずだ。「BUY BY PRODUCTS PROJECT」はそれを循環システム化したものだといえる。

「買う前に探そう」というキャッチコピーとともに設置された「みどりの箱」は、今や大学内の各所に広がりを見せる。定期的に開催される「みどり市」では、回収した副産物をふたたび使える人へと手渡す場となっている。そして、スツールなどのプロダクト開発、廃材を原料にした新素材の研究、広報デザインの制作など、活動の幅は広い。

今年度はさらに踏み込み、副産物を活用した「場づくり」へと重心を移す予定だという。複数の京都市内スペースを、それぞれのディレクターがディレクションして立ち上げていく計画が明かされた。「仕組みのデザインに興味がある人、アートとデザインどちらも興味がある人、ものを観察して収集する癖がある人などに来てほしい」という呼びかけは、このプロジェクトが技術の習得以上に、世界の見方そのものを養う場であることを示唆していた。そして、エネルギーや原料をめぐって世界が混乱するなか、アートや建築、デザインをつくる際に、どうしても出てしまう廃材やエネルギーの循環利用まで含めた、創造システムの実践的で、持続可能な提案になっているのだ。


BYEDIT——編集という力で、新しいメディアを生み出す

「BYEDIT」は、多田智美と竹内厚という二人の編集者がディレクターを務めるプロジェクトである。「BYEDIT」も実は、ウルトラファクトリーの設立当初から活動している。

ウルトラファクトリー設立と同時に、機関紙として『THE ULTRA』を発刊し、学生とともに、ウルトラファクトリーのメディア発信を担ってきた。それを拡張し、ウルトラプロジェクトとして、例年、集まったメンバーそれぞれの「編集の力」を活かして新たなメディアを立ち上げることを目的としている。

実際に制作された『THE ULTRA』説明会で2026年度プロジェクト説明会に参加した学生に配布された

「編集とは、夜空の星を結んで星座を名付けるような行為だ」と多田は語る。観察し、じっくり見ることから始まる編集の実践は、紙媒体にとどまらず、ラップとMVの制作、一人しゃべりラジオ、パフォーマンスなど多様な形態をこれまで生み出してきた。多田が共同キュレーターを務めたヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展や、竹内が名古屋の港まちで発行する『ポットラック新聞』など、二人の実践はそれぞれ「人への関心」を起点にしている。つまり、編集における「夜空の星」とは地上の人のことであり、人それぞれの中にある関心を結び付けることといってもよいだろう。

取材に向け、打合せを行う様子

今年度は、多田が主宰する出版社「どく社」との協働によるZINE制作、ライブイベントの企画、バンド結成、ラジオ制作など、可能性はいまだ開かれたまま示された。「来てくれた人と一緒に考えたい」という姿勢は、他のプロジェクトとは異なるBYEDITの本質を示している。トップクリエイターとの制作に緊張を感じる学生に対しては「まずここから始めるという選択肢もある」とヤノベは補足した。しかし、多田がヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の共同キュレーターを務めたように、「BYEDIT」の試みも世界に開かれている。様々な創造の形が示されていることも、ウルトラプロジェクトの特徴といえるだろう。

 

明和電機——AI時代におけるプリミティブな創造の面白さを感じる

最後に登場したのは、オンラインで参加した「明和電機」の社長・土佐信道である。
「オタマトーン」の爆発的なヒットにより、若い学生にも知られている。

みずから3Dプリンターで制作したロボット人形を腹話術人形のように操作して登場するというパフォーマンスは、すでにプレゼンテーション自体が明和電機の世界であった。途中、古いパワーポイントと差し替えるという作業でトラブルがあったが、機械を使ったパフォーマンスでトラブルも含めて演出を行う土佐にとって、要素の一つに過ぎない。

明和電機はウルトラプロジェクトとのかかわりも深い。2014年にヤノベと映像作家の石橋義正と一緒に「激突プロジェクト」を行い、その時マネージメントを担当していた学生は、長年、明和電機のマネージャーとして勤務していた。コロナ禍の2021年には、渡航禁止のなか、北京での大規模個展をリモートで設営するためのプロジェクトを実施した。

昨年は全自動演奏の自作楽器一式を一台の車に積み込み、土佐が一人で全国を巡演する形式のライブツアー「明和電機★UMEツアー」を実施し、春秋座での公演に向けて、学生たちは制作の補助やマネージメント、パフォーマンスなどに参加した。

明和電機★UMEツアーが本学 春秋座で公演された

今年度の計画は大きく二つ。「明和電機★UMEツアー2026」の実施である。京都会場はウルトラファクトリーの工房内となる。今年のテーマは「原始人」である。「AIが急速に進化するいま、ホモ・サピエンスの出発点に立ち戻ろう」という逆張りのコンセプトのもと、骨を振り回す「ホネホネ隊」なるパフォーマンスが学生たちによって披露される予定だ。もう一つは、土佐本人をはじめ明和電機のスタッフをすべてロボット人形化したロボット人形劇団の公演制作である。

参加者が担う役割は、新型舞台装置の開発、パフォーマンスへの参加、広報・物販などのマネジメント業務と多岐にわたる。さらにヤノベは、後半にはウルトラファクトリーならではのスケールでモニュメント作品の制作も計画していることを明かした。完成は来年春の予定とされており、1年を通じて明和電機の世界にどっぷりと関わり続けることができるプロジェクトとなっている。

人との出会いとAI時代における手の創造性

約100分にわたる説明会を締めくくったヤノベは、過去にプロジェクトに参加した多くの学生が、多くの出会いと学びを経て、経験とキャリアを積んできたことを語った。ヤノベが「人生が変わる」というのは、比喩ではなく今まで見てきた事実である。プロジェクトを終了した学生が、米山舞のマネジメント会社にスタッフとして就職したり、明和電機のマネージャーになったりと、この場での出会いが本当に人生の転換点となったこと一例に挙げたが、多くの学生が直接的、間接的にアート・クリエイティブ業界で活躍している。

しかしそのためには本気の姿を見せる必要がある。アーティストやクリエイターが本気でつくっている作品世界に関わらせるということは、それだけ真剣な関係をつくることでもある。だから覚悟して応募してほしいという、国際的な場で活躍するクリエイターの現場に参加することの重みを強調した。

AIによる画像・映像生成が急速に広まり、人間の創造性の位置が問い直されている今日、ウルトラプロジェクトに集うアーティスト、クリエイターたちが示すのは、テクノロジーを恐れず、しかし身体と素材と人間関係に根ざした制作を手放さないという姿勢である。その現場に立ち会い、ともに手を動かすことが、次の世代の創造性をつないでいくのではないか。そしてそれはそれぞれの人生を変えるだけではなく、社会をよいりよく変えていく動力になっていくに違いない。


(文=三木 学)

(説明会撮影:プロダクトデザイン学科 3年生 濱埜 結)

(各プロジェクト写真、資料:ウルトラファクトリーより提供)

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が「今、気になっている」アート・デザインの話題と、週に一度のコラムをお届けします。メールアドレスだけで登録完了、来週から届きます。

お申し込みはこちらから

 

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?